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異世界転移というけれど…  作者: 橘吟香
第一章
29/32

2-4

 異世界に来て十日目。

『女神の果実』のおかげで昨日の疲れが嘘のように取れ、せめて昨日の3倍は進むぞ、と意気込んで歩いていた時。

 突然、背後からドドドドド……という、ものすごい音と勢いで森の住人たちが私の横を通り過ぎて行った。

「え?!なに?なに?なに?!」

 脇目も振らず走り去るその様子に、気づけば、先導してくれていた森の住人も姿を消している。


 ――…ものすごく、イヤな予感がする。


 耳を澄ましてみると――

 ズゥ……ン……ズゥ……ン……

 という、腹の底に響く重低音とともに、大地を揺るがす「何か」が近づいてくる。

「――違う。揺れてる」

 姿はまだ見えない。

 けれど、音だけで確実にヤバいモノだと分かる。


 ――…イヤな予感しかない!


 急いでこの場を離れよう。

 そう思うのに、恐怖で足が強張る。

 背中がぞわりと震える。

 身体が思うように動かない。

 それでも、鉛みたいに重くなった足を、身体を、無理やり動かす。

 これは――アレだ。

 たぶん、竜賢さんが言っていた『魔物』だ。

 初めての魔物を見てみたい気もする。

 けど、さすがに好奇心で身を滅ぼすには早すぎる。

 だから、前だけを見て走った。

 走って、走って、――走った結果。

「ぎゃふん!」

 盛大にコケた。

 それも、顔面から。

「い……ったぁ……」

 やだ、めっちゃハズカシイ……

 鼻とおでこをさすりながら、誰にも見られてないよね?!と、思わず周囲を見回す。

 ――…そうだ。

 私一人だったわ。

 いや、そんな事よりも早く逃げないと!

 と、立ち上がろうとした時――

「ひっ……!」

 目の前に、不自然な色をした巨大な『何か』が飛び込んで来た。

 驚きすぎて今度は尻もちをついてしまう。

「び……っくりしたぁ、もぅっ!」

 よく見るとそれは、鮮やかなピンク色をした、人の頭ほどもある楕円形の……いわゆる卵のようなもので。

 しかもそれが、木の根元にできた空洞の中に3個(!)も置かれてあった。

 鮮やか、というか、むしろ毒々しく見えるピンク色の卵は、田舎でよく見るジャンボタニシの卵を連想させる。

 妙にリアルで不気味なんだが……

「――って、言ってる場合じゃない!」

 徐々に大きくなる足音と腹に響く振動に急かされ、慌てて立ち上がる。

 本当に、すぐそばまで来ている!

 けれど――…

「……」

 このままだと、この卵たちは魔物に踏みつぶされるかもしれない。

 あるいは魔物に倒された木々に押しつぶされるかもしれない。

 それが自然の理と言われれば、それは確かにそうなんだろうけど。

 ――…なんだろう。

 それでも、ものすごく……後味が悪い。

 そう思った瞬間。

 羽織っていたマントを脱ぎ、急いで卵3個を包んで抱きかかえ、迫りくる恐怖から逃げるように全力で駆け出した。

 何度も転びかけたけど、それでも振り返らず、走って走って走りまくって――…


 気がつけば――

 いつの間にか『ジクスの森』を抜け出していた。




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