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異世界に来て十日目。
『女神の果実』のおかげで昨日の疲れが嘘のように取れ、せめて昨日の3倍は進むぞ、と意気込んで歩いていた時。
突然、背後からドドドドド……という、ものすごい音と勢いで森の住人たちが私の横を通り過ぎて行った。
「え?!なに?なに?なに?!」
脇目も振らず走り去るその様子に、気づけば、先導してくれていた森の住人も姿を消している。
――…ものすごく、イヤな予感がする。
耳を澄ましてみると――
ズゥ……ン……ズゥ……ン……
という、腹の底に響く重低音とともに、大地を揺るがす「何か」が近づいてくる。
「――違う。揺れてる」
姿はまだ見えない。
けれど、音だけで確実にヤバいモノだと分かる。
――…イヤな予感しかない!
急いでこの場を離れよう。
そう思うのに、恐怖で足が強張る。
背中がぞわりと震える。
身体が思うように動かない。
それでも、鉛みたいに重くなった足を、身体を、無理やり動かす。
これは――アレだ。
たぶん、竜賢さんが言っていた『魔物』だ。
初めての魔物を見てみたい気もする。
けど、さすがに好奇心で身を滅ぼすには早すぎる。
だから、前だけを見て走った。
走って、走って、――走った結果。
「ぎゃふん!」
盛大にコケた。
それも、顔面から。
「い……ったぁ……」
やだ、めっちゃハズカシイ……
鼻とおでこをさすりながら、誰にも見られてないよね?!と、思わず周囲を見回す。
――…そうだ。
私一人だったわ。
いや、そんな事よりも早く逃げないと!
と、立ち上がろうとした時――
「ひっ……!」
目の前に、不自然な色をした巨大な『何か』が飛び込んで来た。
驚きすぎて今度は尻もちをついてしまう。
「び……っくりしたぁ、もぅっ!」
よく見るとそれは、鮮やかなピンク色をした、人の頭ほどもある楕円形の……いわゆる卵のようなもので。
しかもそれが、木の根元にできた空洞の中に3個(!)も置かれてあった。
鮮やか、というか、むしろ毒々しく見えるピンク色の卵は、田舎でよく見るジャンボタニシの卵を連想させる。
妙にリアルで不気味なんだが……
「――って、言ってる場合じゃない!」
徐々に大きくなる足音と腹に響く振動に急かされ、慌てて立ち上がる。
本当に、すぐそばまで来ている!
けれど――…
「……」
このままだと、この卵たちは魔物に踏みつぶされるかもしれない。
あるいは魔物に倒された木々に押しつぶされるかもしれない。
それが自然の理と言われれば、それは確かにそうなんだろうけど。
――…なんだろう。
それでも、ものすごく……後味が悪い。
そう思った瞬間。
羽織っていたマントを脱ぎ、急いで卵3個を包んで抱きかかえ、迫りくる恐怖から逃げるように全力で駆け出した。
何度も転びかけたけど、それでも振り返らず、走って走って走りまくって――…
気がつけば――
いつの間にか『ジクスの森』を抜け出していた。




