愛理
気の赴くまま、敬斗は彼女についていくことにした。彼女は、彼に気さくに話しかけながら、どこかに足を運んでいく。その中で分かったことは、彼女の名前は鈴宮愛理であり、彼に話しかけたのは、ただならぬ空気を感じたからだということだった。
どこに向かっているのかもわからない。それでも、敬斗は足を止めるのやめず、愛理についていった。彼女もまた、そんな彼を放っておかずに、楽しそうに話しかけ続けた。彼から帰ってくる言葉は、多くはない。それでも、彼女は話すことをやめず、彼を安心させようとしていた。
そんな時間が、あっという間に過ぎたかと思えば、愛理はある場所で足を止めた。そこは、ぼろびたアパートで、とても人が住んでいそうな外観はしていなかった。しかし、敬斗はそんなことも気にせず、彼女の後についていった。2階に上がって、奥の端にある部屋の前に行くと、彼女はおもむろに、カバンからさび付いた鍵を取り出し、扉の鍵穴に差し込んだ。ギィと音を立てながら、扉はゆっくりと開き、彼女は中に入っていった。彼は、入っていいのか迷っていると、「入っておいで。」と彼女は優しく声をかけた。
中に入ると、お世辞にもきれいとはいいがたい状態であったが、外観に比べれば良く見えた。愛理は、「座って、座って。」と急かすように、敬斗に椅子に座るように言い、彼が座るの見ると、冷蔵庫を開け、特売のシールが張られたパック詰めの豚肉を取り出し、料理を始めた。困惑している彼を余所目に、淡々と料理を進め、窓から見える日の光が落ち始めたころ、「できたよ!」と、まるで子供に言うように、彼に声をかけた。いきなり声をかけられたことに驚くも、目の前に置かれたものに、彼は目を丸くした。よくある豚肉の炒め物だが、彼にとって、それは数か月に見る、誰かの手によって作られた料理だった。その隣に置かれた白米に、味噌汁も見ると、彼には何とも言えない感情が込み上げてきた。しかし、それ以上に驚いたのは、彼女の前に置かれた料理の量だった。自分に出されたものよりも、半分以上少ない量に、彼は困惑を隠しきれなかった。「大丈夫だよ。いつもこれくらいしか食べないから。」と、彼女は安心させるような笑顔を振りまいた。




