光明
中学校を卒業した敬斗は、高校に進学することを許される。しかし、入学して間もなく、両親に東京にある精神病院へ連れていかれる。
そこで敬斗は、阿川久人と名乗る精神科医に出会う。阿川は、彼に精神状態がとても不安定で、危険な状態にあると告げた。それを聞いても、彼は何も感じなかった。感じられなかった。
診察が終わり、敬斗は待合室を見た。やはり、両親はすでに帰っていた。すると、背後から阿川が彼に、「かわいそうに、今日から私が君の親となろう。」といった。その言葉の通り、阿川は彼に病院の一室を無償で与え、高校にも転向させ、通えるようにした。
しかし、転校先の高校でも地元と変わらず、いじめられるようになった。動きが鈍く、考える能力も著しく低い敬斗は、周囲から蔑まれやすく、いじめられても皆見て見ぬふりをしていた。
そんなある日、敬斗は唯一好んでいた読書をするため、市の図書館へ行った。その帰り、同じ高校に通う女子生徒と出会う。彼女のことは、視界の端で見ていた彼は、いじめっ子たちとはかけ離れた存在であることを認知していた。しかし、他に干渉することを恐れている彼は、彼女にかかわろうとせず、通り過ぎようとした。すると、彼女は「あ…あなたは。」と彼を呼び止めた。今まで一度も、そんなことがなかった彼は、思わず足を止め振り返った。
敬斗の身なりを見た彼女は、一瞬おびえたようなそぶりを見せたものの、「大丈夫?」と優しく声をかけた。人のやさしさに触れたことが少なかった彼は、自らを心配する彼女を不思議に思った。なぜ、自分のような人間にそのような言葉を投げかけるのか、理解するに及ばなかった。しかし、彼女はそんなこともつゆ知らず、「あなた、同じ高校に通う人だよね?本好きなんだ。」と言葉を続けた。自分が好きなことに、興味を持たれたことで少し心が揺らぎ、彼女を知りたいと思った。
そんな折、敬斗の腹の虫が鳴った。彼女はそれを聞いて、少しいたずらっぽく微笑んだ。




