暗闇
どこにでもいるような少年。
しかし、どこにもいない少年。名前は佐藤敬斗、徳島県生まれ。親は、市議会議員であり、厳しい家庭である。代々、世襲で栄えてきたため、勉学ができなければ、恥とされ一族から見放される。そんな家柄に生まれた敬斗は、要領が悪く、物覚えも悪かった。そのため、親から見放され、小学校に入学した時から、家に入れてもらえなくなり、食事が給食だけの生活になった。
年齢が上がるにつれ、同級生たちは、敬斗を「市議会議員のぼんぼんだ」と、罵り虐めるようになった。彼は、抵抗することもできず、ただ貶され続けた。高学年になっても、虐めは続いていた。
そんなある日、いつものように、数人に殴り蹴られていた。すると、敬斗が倒れん込んだ時、そのうちの一人が、頭を強く踏みつけた。彼の頭の中で、何かが破裂する音と、何かが千切れるような感覚があり、顔の右側から音と光が消えた。
その日の下校中、通学路にある川に敬斗は、顔をつけた。川上から流れる赤い水が、左目に見えた。しかし、右目は暗いままだった。
中学校に入っても、状況は同じだった。いつもと変わらない日々。そんなある日、敬斗は、家の近所に牧場を見つけた。山の麓にあるその牧場で、彼は牛たちを眺め、そこを拠り所にした。
ある時、牧場の持ち主のおじさんに出会った。おじさんは、牛に餌を与えながら、敬斗に話しかけた。しかし、彼は、黙って牛たちを眺めていた。おじさんは、彼の顔を見ると、痩せこけているのに気がついた。そんな様子を見た、おじさんは、彼を食事に誘った。
その日から、敬斗は、おじさんと一緒に夕飯を食べるようになった。学校帰りに牧場により、おじさんと一緒に食事をして、帰る。そんな日々が続いた。
ある日、おじさんは、死んだ。牧場の中にある木の下で、亡くなっていた。敬斗は、気づいていた。誰が、おじさんを殺したかを。しかし、何もできなかった。彼が、中学三年生の十一月の出来事だった。




