第三十八話 出発
「カズ君のバカ……」
「馬鹿じゃないでしょ? 全く……これで全員揃いましたか? 天峰さん」
「はい、全員いるようですし、行きましょうか」
午後の駅前に集合した僕達は空港を目指して出発していた。勿論、全員と言っているのは千景もちゃんといる事を指している。昨日は美羽姉を説得するのに相当の時間を費やした。もしかしたら、朝になるんじゃないかってくらい。だが、それも何とかなり、無事に全員旅行に行けるわけだ。
「天峰さん。これからの予定を聞いても?」
僕は皆で電車に乗り込んでから少しして、天峰さんにこれからのスケジュールを聞いておくことにした。本来なら企画した張本人が指揮するのだが、それが出来るわけがないので天峰さんにお願いしているのだ。
手荷物の中から手帳を取り出し、目を通す天峰さん。やっぱりこっちの方が生徒会長っぽい。
「このまま行けば、空港には夜に到着、そのままハワイまで行けば……向こうの時間で早朝に着きますね」
「そうですか、やっぱり天峰さんは頼りになりますね」
「そんな事はないですよ、親友があんな感じなので自然と私がやる事が多くなっただけです」
乗車している美羽姉を見つめながら、呟く天峰さん。美羽姉ももっと見習えばいいのに。ちなみに旅行に参加しているのは僕を合わせて六人。僕と美羽姉、千景、先生、天峰さん、岡野先輩と行くわけだが、男子が僕一人というのも寂しい気がする。本来なら信三も来れただろうが、美羽姉がどうしても一緒は嫌らしく、やはり補習の毎日を送る事だろう。
「カズ君~♪ こっち来てお喋りしようよ」
「み、美羽姉引っ張らないで……。あ、天峰さんそれではまた」
「はい、美羽をよろしくお願いしますね」
美羽姉に引っ張られ、電車の連結部分に押し込まれた。連結部分は扉が付いていた為、ある意味電車内で唯一の個室となりえる場所だ。
「美羽姉……こんなとこに入って何する気?」
「それは勿論♪ 邪魔が入らないようにするためと……カズ君と一緒に居たいためだけど?」
「あ……そう」
直ぐに連結部分の扉を閉めたため千景が扉の前で物凄い形相で覗いてくる。ずっとこのままなのも嫌だけど、外に出たら出たで千景になにされることやら……。当分ここに居た方が安心かな? 美羽姉もただ一緒に居たいだけみたいだし。
「カ、カズ君……スーーーーーーッ。いい匂い♪」
「み、美羽姉!?」
僕の首元に鼻を近づけ、クンクン匂いを嗅いでくる。軽い鼻息で首がこそばゆく恥ずかしい。自分でも耳が赤くなっているんじゃないかと思うくらいだ。
「和馬~、今すぐに美羽さんから離れないッ!! さもないとここをぶち破るよ!」
扉をドンドン叩いてくる千景は今にもぶっ壊しにくる勢いだ。一応電車には他の乗客の人もいるわけで僕達は相当目立っていた。冷たい視線を向けてくる乗客の人達には本当に申し訳ないと心の中で謝りつつ、この場をどうするか考える。しかし、妙案は浮かばずに数秒過ぎ、千景がついに扉をこじ開けてきた。
「かーずーまー! 美羽さんと何してるの?」
「何もしてないって! 美羽姉がふざけているだけだって。でしょ? 美羽姉」
「カズ君暖かい~♪」
「み、美羽姉!?」
「和馬、これでもなにもしてないって言えるの?」
「……ご、ごめんなさい」
電車の中でも静かに出来ず、毎度の展開となってしまった。
*****
あれから数時間後。僕達は目的の地へ降り立っていた。
「ハワイだ~♪」
「美羽姉、まだ空港前だから静かにして。周りの人に迷惑でしょ?」
一旦荷物を置くために僕達はホテルの方に向かう。気温差もあって地元の気温より暑い。
「じゃあ荷物置いて三十分後くらいに集合ね!」
「じゃあ僕は先に部屋に行ってるよ」
美羽姉から預かった鍵を手にし僕は向かった。日本では旅館等に泊まって事はあったが、ここまで高価そうなところに泊まるのは初めてだ。
「お、ここかな?」
鍵についていた番号の扉を開け中に入る。広々とした空間に大きな窓。圧迫感を持たせない高い天井。一体どんなVIPが泊まる場所だか。
荷物をベットの脇に置きそのまま横になる。寝心地も最高だ。ゆっくり天井を眺めていると、ホテルの電話が鳴り響く。受話器を取り、耳元に当てる。
「はい。もしもし?」
『あー、繋がった繋がった和馬? そっちの部屋はどんな感じ?』
電話は千景からであった。おそらく部屋の番号を打てばそこに連絡出来るような仕組みなのだろう。
「うん。こっちはなかなか広い部屋だよ。一人で寝るには広すぎるくらいだよ」
『えー! いいな。あたし達なんて人数分一人部屋に五人だよ……って美羽さんは?』
千景が受話器から手離し先生や天峰さんに美羽姉が何処に行ったか聞いているようだ。
「(全く何処に行ったんだろう)」
海っていいですよねー。入るなら沖縄みたいに綺麗な海に入りたいです! 次回もお楽しみに!




