第三十七話 夏休み
夏休みになる初日の午前。僕は家のリビングでゴロゴロしている。ちなみに中間試験の悪かった者は補習の連絡が今日くるわけだが、何故か信三は補習に引っ掛かったらしい。それは勿論、美羽姉による陰謀だがな。
「結局、信三は補習か……」
「だって信三邪魔なんだもん♪」
ソファーに座ってゆったりとしている僕に美羽姉が話しかけてきた。あれから美羽姉との問題は解決していない。今は向こうからも特に行動してくる事はないのでこうしてゆっくり出来ているのだが、それよりも……。
「邪魔なんだもん……って美羽姉。信三も誘って良いって言ったじゃん」
「えー、でも夏休み中まであいつを視界に入れるなんて目が腐っちゃうもん♪ だから当分補習で顔を見れないようにしたってわけ」
「流石にそれは酷いんじゃ……」
「酷くないもん♪ 汚い物を見たくないのは普通の事だもん♪」
どうしても信三は除外したいらしく、頑なに信三を連れて行くのを拒む。まあ、それならそれでいいんだけどね。
「美羽姉、明日の旅行についてなんだけど……」
ドスンと僕の横に腰掛ける美羽姉。その瞳はいつにもまして輝いていた。『旅行』という単語がどうやら引き金になってしまったようだ。
「そうそうっ!! 旅行! なんだけど、海に行くから! 定番で良いでしょ~♪ 青い空、白い雲、照り輝く太陽……あぁ、凄く楽しみ♪」
一体どこの海を想像しているのだろう? ハワイか? しかし美羽姉ならありえない事はない。
「ああ、カズ君……ダメ~、そんなとこまで開拓されたら……私、でもカズ君がしたいならーー」
妄想に入っている今なら離れるチャンス。あんな想像している人の近くに居たら、何されるか分かったもんじゃない。僕は立ち上がり、明日の旅行の準備でもすることにした。
*****
「このくらいでいいかな? 後は明日の服と持ち歩く荷物と……」
キャリーバッグに荷物を詰め込み、残るは手荷物のみ。これはすぐにでも終わるだろう。けれど、キャリーバッグに時間をかけすぎたせいで、もうすぐ夕方になる。美羽姉も妄想から戻ってきているはずなのでリビングに戻る事にした。
昼頃もご飯を食べにリビングに来たが、その時も座りながら何やらブツブツ言っていたので無視して腹を満たした。さっさと戻っている事を期待しながらリビングを覗くと……。
「カズ君~、お姉ちゃんを置いてどこに行ってたの~? 一人にしないでよ~」
扉を開けると同時に僕の胸に飛び込んでくる姉。よく長時間も妄想できるなと感心してしまいそうになる。美羽姉を引き離し、明日の旅行を確認する。
「美羽姉、それで明日の旅行は何泊くらいするの? それと出発時刻は? どこに行くの? 僕それが分からないと残りの準備が出来ないんだけど……」
「? 旅行、旅行……あっ! そうだね。教えておかないとね♪ 場所はハワイ。出発時刻は夕方。これはもう杏ちゃんに連絡してるから大丈夫。これで安心だね!」
やはり場所はハワイだったか。僕はそこで疑問に思った。先生は美羽姉が連絡すればいいけど、千景の事は一切話に出てきていなかった。嫌な予感が当たらないように美羽姉に質問してみた。
「そういえば、千景は? 一緒に行くよね?」
「チカゲ? ナンノコト? ソンナヒトシラナイ……」
「目線を反らしながら言う台詞じゃないし、片言でバレバレ。千景に話してないでしょ?」
「……あっ! あれは! なんだ!」
窓の方を指差し、僕の視線を逸らそうとするが、所詮子供騙し。
「…………そんなのにも引っ掛からないよ」
「……ごめん。でも、本当にチカちゃんも連れて行くの?」
「そんな涙目にならなくても……」
「だって~……チカちゃんだよ? あの痴女だよ? そんな子とカズ君を旅行に連れていくなんてーー」
「聞き捨てならないっ!! なんであたしが痴女扱いされてるの!? どう考えても美羽さんの方が痴女でしょ!」
「千景、今日は見なかったけど? 何処に行ってたの?」
リビングに突入してきた千景は僕の方に来て、首根っこを掴みにかかる
「それになんでっ!(ガシガシッ) あたしだけ! (ガシガシッ) お留守番なの! (ガシガシッ)」
そのまま前後に揺らすせいで首が締まり、息が出来なくなってきた。
「ち、千景。タンマ、この手離して……死ぬ」
「はっ! ご、ごめん」
パッとすぐさま手が離れたおかげで僕も窒息死せずにすんだ。三途の川ってあんな感じだったんだな……。
「ゴホゴホッ……。それで、今まで何処いたの?」
「美羽さんがあたしを部屋に縛って閉じ込めてたの! そのせいで旅行の準備出来なかった……」
美羽姉……本当に千景と一緒に行きたくないんだね。
久しぶりの更新で文章が前より変になっているかもしれませんので、そこのところはご承知の上だと思います。しかし、ついに夏休みに入りました! (世間の季節はどうだか知らないけど)
一体どんな形でこの物語を締められるか楽しみになってきました。次回もお楽しみに!!!




