第三十九話 海
ホテルの長い廊下の隅から隅まで隠しカメラを設置する人物。
「うへぇへぇへぇっ。この位置ならカズくんがよく撮れる」
みんなが行方を知らない美羽姉本人だった。
「この旅行中に撮れたカズくんの写真や映像を加工してカズくんと私の結婚式に……キャーッ!」
「僕が……なんだって?」
「きゃあああぁぁぁぁーーー!!」
後ろから声をかけたのが悪かったのか美羽姉の声が廊下に響き渡る。
「カ、カズ君。どうしてここに?」
「美羽姉が居ないってみんなが言うから探しに来たんだよ。早くしないとみんなが先に海に行っちゃうよ」
座り込んでいる美羽姉に手を差しのべる。素直に手をとるかと思ったが、自ら立ち上がり僕に背を向けて歩き始めた。
「え? ちょっと! 美羽姉? どこ行くの?」
「決まってるでしょ? 海に行く準備してくるの。カズ君は私を気にせずに先に行ってていいから」
そう言い残し美羽姉は廊下の向こうに消えていった。僕は美羽姉の言う通り、みんなと先に海に行く事にした。
*****
「海だ~!」
「千景、騒ぎすぎ。少しは静かにしたら?」
「だって和馬、海だよ海。こんなに綺麗な場所に来てテンション上がらない方が可笑しいよ」
みんなと先にビーチに来た僕はパラソルの準備をする。天峰さんと岡野先輩はまだ着替えに手こずっているようで姿が見えない。
「和馬様、これはどこに置きますか?」
「あ、それならそこに置いていただければ」
「畏まりました」
ビニールシートの上に荷物を置いてくれる先生。大人の魅力というのか黒のビキニが白い肌に良く映えている。
「和馬……何処見てた?」
「い、いやっ! 何処見てないよ。そ、それより早くみんな来ないかなー」
美羽姉は後で来るとの事だったので先に来るのは岡野先輩か天峰さん辺りだと予想する。
「お待たせしました。準備のお手伝いが出来なくて、すみません」
「い、岩永和馬。美羽様はいずこにっ!」
遅れてやってきた二人も合流した。天峰さんはオフショルダータイプの水着でピンク花柄が可愛らしく、普段とは違うように見えた。岡野先輩はフィットネスタイプのスポーツ用水着だ。身体は鍛えているのか引き締まっており、スポーツ用水着と良く合う。
「美羽姉はまだ来ていなくて、もうそろそろだと思いますけど……」
「ねえねえ、和馬。あたしへの水着の感想は? ないの? ないのかなー」
「え、だって千景。そういうの苦手じゃないの?」
「に、苦手じゃない……と思う」
急にしおらしくすると、なんだかこっちが反応に困る。でも女性が感想を求めている時はしっかり答えるようにって美羽姉が言っていた気がする。ちなみに千景は青いフリルの水着を着用している。
「あー、うん。ちゃんと成長してるんだなって思うよ」
「それ水着の感想じゃないっ!」
その後千景に何回か叩かれたのは何でか分からなかったが、美羽姉以外はみんな揃ったので先に海を堪能する事にした。
「和馬! 早く泳ごうよ」
千景に手を引かれ、僕は砂浜を歩く。太陽によって焼かれた砂は素足では軽く火傷をしそうだ。波打ち際まで来たところで何とか足を海に浸す。ヒンヤリとしていて気持ちが良い。プールなどの感覚とはひと味違う気持ちよさだ。
「和馬! それっ!」
千景がはしゃいで僕に水をかけてくる。身体にかかる水は冷たかったが、そんなもの真夏の太陽のですぐに蒸発してしまう。
「なにするの! 千景」
「だって和馬。つまんなそうにしてるからさ、せめて遊ぶ時くらいはって思って。もしかして誰かさんの事でも考えてたり……」
「してないから! それより遊ぶんでしょ? ほらっ」
実際のところ考えていたのは事実だ。それを紛らわせるように千景に水をかける。今は美羽姉の事を考えても仕方ないか。
*****
美羽姉が来るまで遊んでいる僕達。先生はパラソルの下でのんびりしている。岡野先輩は写真を撮るのだろうか。三脚の準備をしている。天峰さんはまだ泳がないのかパーカーを羽織って砂でお城でも作っているようだ。僕と千景は泳ぎで競争したり、潜って海中を散策したり、海らしい遊びをして楽しんでいた。
「みんなごめんね。遅くなって」
ようやくご到着なされたようだ。大きな麦わら帽子を被り、パーカーを着用。先生とは正反対の白いビキニを着けている。長い黒髪に白いビキニは黒と白の洗練された美しさというのだろうか。一言で言うなら目を奪われる。
「カズ君? どうかしたの? 私なんか見ちゃって~」
「い、いや……何でもないよ」
慌てて顔を背けてしまったが、怪しまれてはいないだろうか? こんな事で美羽姉にいじられるのは勘弁して欲しい。
「そ、それより早く遊ぼうよ。みんなも待ってたんだよ」
「そう? 千景も私が来るのを頭を地に伏せながら待っていたなんて、滑稽滑稽♪」
「ちょっ! 誰もそんな事してない。美羽さんの事なんて待ってないんだからね」
「またまたー、そうやってツンデレしちゃって♪ そうやってカズ君にはツンデレしないでよね」
「だから、そんな事しませんって」
「よし! 言質取った~♪」
なんだかんだで仲良い二人だな。みんな揃ったし、軽く遊んでお昼にする事にした。海近くには観光客向けの様々なレストランなどがある。例えばエッグベネディクトを食べられる店だったり、ハンバーガーを頼めるお店だったり手軽に食べられるものから手間のかかった物まで何でもある。
今回は手軽に食べられるハンバーガーをみんなで頼んだ。肉が分厚くてアメリカンって感じのバーガーだった。
*****
午後からはそれぞれ思い思い過ごしたが、岡野先輩の視線が痛い。
「ジー~~」
「あの、岡野先輩。そんなにこっちを見なくてもいいんじゃないでしょうか?」
「いや、岩永和馬のことだ。美羽様にいやらしい事をするに決まっている」
「そんなことあるわけないでしょ? 姉弟なんですから」
しかし、そんな姉弟の美羽姉から告白を受けて僕はキッパリ断ったが、当の本人がまだ諦めていないので逆に何かされそうで怖い。
「それよりそんなに寝転がって大丈夫なんですか? 熱くありません?」
背中に迷彩色のシートをかけ、スナイパーライフルのスコープからこちらを観察している。
「ふっ、愚問だな。私はいついかなる状況でもこうやって相手を仕留めるまでじっと我慢できるようにアマゾンで訓練を受けた事がある」
「一体どんな訓練ですか」
僕は呆れつつこの人は何を言っても無駄なんだというのを改めて感じた。
最近他のことに時間を費やしすぎて、こちらの方に手をつけていない……。まあ、気長にやりましょう!




