第三十話 遭遇
美羽姉から連絡をもらってから十数分。自分の家まで残り五分も満たない距離まで近づいていた。僕はここまで走ってきたが、スタミナが保たなかったらしい。残り僅かなのに少しばかりの休憩を取っていた。
「はぁー……はぁー……。スタミナなさ過ぎ……」
一応は体育もあるが、短い時間しか保たない。でも、そこまで運動音痴というわけではない。と、まあそんな事は今はどうでも良い。早く家に帰らなくてはならない。僕は僅かな休憩を終えて、また走り出した。
次の角を曲がれば後は真っ直ぐというところにさしかかった瞬間。後ろから肩を掴まれた。声を一瞬上げようとするが口を塞がれ、そのまま路地に連れ込まれる。
しばらく大人しくしていると、僕を捕まえた人物が声を出した。
「…………すみません、和馬様。無理矢理このような事をしてしまいまして」
手や口を解放され後ろを向くと、声の主である原野先生がいた。
「えっ!? 何で先生がーー」
「先生ではなく、名前で呼んで下さい和馬様」
「あ、はい。美夜さん。それで一体どうしたんですか? 僕ちょっと急いでるんですが」
「それは分かっておりますが、その事と関係ない事はないですよ」
美夜さんはここまでの経緯を話してくれた。ようは家に泥棒が入ったから家に帰るのはもう少し後にするためにメールを送ったという事らしいが、だったら何で警察に連絡しないんだ? その方が安心だろうに。それに美夜さんは僕をここに置いて様子を見に行くだろう。だがそれよりも美羽姉に僕に関係ないと言われたのが少し頭にきた。
「なので和馬様はここでお待ち下さい。私が見て参りますので」
「……つれ……て……」
「……はい? すみません。良く聞こえませんでした」
「……連れてってとお願いしてるんだけど?」
「…………分かりました。私から離れないで下さいね」
僕と美夜さんは警戒しつつ家に向かった。
*****
玄関前まで来ると、いつもの家とは雰囲気が違っていた。綺麗な玄関は扉をぶち壊され外され、さらには中を土足で入り込んだぞ強調するように靴の跡がしっかり残っていた。その他には様々な引き出しが出されていて何かを探していたように思える。
「これは……どういう荒らし方ですか? 泥棒なら証拠が残るような事はしないはずなのに僕にはわざとやってますよって事を主張しているように見えます」
先行して進む僕は後ろ向きつつ歩きながらを話を続ける。美夜さんも受け答えをしながら家の中をゆっくり歩く。すると、リビングの入り口辺りに迫った時。
「確かにその通りですね。……ーーっ!?」
話していた美夜さんはとっさに僕に飛びかかりそのまま押し倒した後、僕を抱きしめながら床に転がった。一体何してんの? と思ったが、頭がすぐに状況を把握していた。
床に転がった後から頭上を長物らしい物体が通り過ぎていくのが分かった。
ーーガッ!ーー。
そんな鈍い音が家の中に響き渡り、柱に鉄の塊ーー日本刀ーーが食い込む。
「ちっ! 外したか! ……でも、まあいいか」
ドスの効いた低い声の人物がリビングから姿を現した。男性の身体はそれなりに鍛えられており、無精髭の生えた口元で僕達に話しかけた。
「坊ちゃん、それと、お嬢さん。ここの家の子か? それなら話が早いが、違うってんなら……今すぐたたっ切るぞ」
僕は予想出来なかったこの状況に怖じけついてしまった。美夜さんも怖かったのか、少し身体が震えていた。
「は、はい、確かに私達はここの住人です。ですからどうか殺さないで……」
泥棒の男は美夜さんを睨み付けるように凝視すると、刀の刃先を美夜さんの首元に持っていった。
「…………。お前、ここの住人じゃないな。そっちの坊ちゃんはそうかもしれんが、お前は違う。俺は目を見ればそいつがどんなの奴かは大体分かる。それにお前は怯えた目をしてねぇ、一体何もんだ!」
「………………」
僕もさっきから不思議に思っていた。美夜さんはここの住人だと言ったが、美夜さんは護衛であってここの住人じゃないからだ。それにさっきの身体の震えが全くと言って良いほどに無くなっていた。
美夜さんは刀を向けられたままその場で立ち上がる。庇っていた僕から離れ、泥棒であるだろう男に正面から対峙した。
「……私、ですか? 私は学園の先生をやらせてもらっている者ですが?」
「そんなわけねぇだろ!! 先生ごときがそんなに落ち着いていられるかよっ!」
男は首元に持っていった刃先を戻し、美夜さんに斬りかかろうとした。だが、刀は美夜さんの胴体ではなく、空を斬った。
その刹那、美夜さんは男の懐に潜り込んでいた。空を斬った刃先は下を向いていた。今から刀を戻しても懐の美夜さんに斬りかかる事は不可能である。美夜さんは手で拳を作り、男の溝うちにたたき込んだ。男は一瞬白目をむいてその場で硬直したが、そのまま前のめりで倒れてしまった。
「ふーっ! まあこんなもんですかね? ……大丈夫ですか? 和馬様」
「…………」
僕は美夜さんに手を差し出されても目の前の出来事が凄すぎて、掴む事が出来なかった。美羽姉が護衛として雇ったと言っていたが、今の今までここまで凄い人だなんてこれっぽっちも想像できなかった。
「和馬様? 本当に大丈夫ですか?」
美夜さんは再度僕に問いかける。ようやく頭が現実に戻ってきて、僕は美夜さんの手を掴もうとした。しかし、僕はその手を掴める事は無かった。
今回で三十話突破です。それにしても先生強っ!? 流石は護衛ですね笑。そしてまだまだここからですよね? 兎にも角にも頑張りましょう!
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