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第二十六話 試験勉強その三

 

 試験勉強を始めてから数分でだらけ始めるものも現れると思ったが、皆それなりに勉強に励んでいた。僕は苦手な英語の英文問題を辞書を引きながら解いていた。


「……んー、はぁー疲れた……」


 数時間座って固まってしまった身体をほぐすために軽く伸びをする。だが、ノートに書く音、教科書をめくる音、ほぼ無音に近いこの部屋の中では僕のそんな一言が響いたようで周りの皆はペンを置いた。


「カズ君も疲れてきたみたいだし、そろそろ休憩しましょうか。私お茶菓子取ってくるから少し待ってて」


 そう言い残し台所に行った美羽姉。家にはいつでも友人や親戚が来ていいようにお菓子のストックが沢山ある。多分それを取りに行ったのであろう。美羽姉が少し休憩と言ったので千景達はそれぞれだらけ始める。しかし、一人だけまだペンを動かし勉強する者がいた。


「………………」


 僕は邪魔にならない程度に声をかけることにした。席を立ち、その人の横から話しかける。


「天峰さんは休憩しないんですか?」


 声が聞こえないのか黙々とペンを走らせる。仕方ないからもう一度声をかける。


「あの、天峰さん?」


 すると、ようやく気が付いたのかペンを置き、先程の勉強していた時の気難しい顔はせずに軽く笑みを浮かべながらこちらを見た。


「どうしました? 和馬君」


「い、いえ。特に用という訳ではないんですが……」


 何か用事でもある? という顔をしながら聞いてくるので僕はとっさに否定してしまった。天峰さんはそれが可笑しかったのか口を手で押さえ笑いをこらえているようだ。


「そんなに否定することはありませんよ。それでどうしました?」


「あの、休憩なのに何をしているんですか?」


 天峰さんの手元を覗くと、手で覆うように遮られた。


「これは勉強ではなくて生徒会の書類や事務関係の資料を整理してまして、他の生徒方に見せてはいけない物なんですよ」


 ここで僕はふと疑問に思う。天峰さんに聞くつもりはなかったけど、ついつい質問みたいになってしまった。


「そうなんですか? でも、そんな他人に見せられないような書類、今やらなくてもいいような気がするんですが……」


 僕が気になったのは『他人に見せられない』というもの。天峰さんは僕なら大丈夫だろうという事で書類の束を手渡され、中身を確認する。基本的な学園の運営費、事務費等だった。だが、この程度の物なら誰が見ても不思議には思わないはずだが……。一つ一つ注意深く見ていく、すると、普通サイズの文字とは違いそれよりも小さな文字で米印でマークされた所があった。


 ーー理事長権限、カズ君の為の学園改造費ーー。


 ん? 僕の見間違いか書類から一旦目をそらし、目頭を押さえる。見間違いであって欲しい。もう一度見てみる。


 ーー理事長権限、カズ君のーー。


 駄目だ、勉強のしすぎでどうにかなってしまったようだ。今度は頭を小突いてからもう一度、もう一度だけ確認する。


 ーー理事長権げーー。


 諦めた。事実のようだ。そんな様子を特等席から観ていた天峰さんは僕が質問するよりも早く話してくれた。


「それはね、生徒会長……美羽が理事長になってから始めた政策なの。勿論学園の先生方には内緒にしてるけどね。それで学園のパンフレットにある建物とは別に知らない土地があるのは知ってる?」


 そういえば、ここに入学式で来たときに学園のホームページで見た時とは別に土地があったのを覚えている。僕はただ新しい建物が建つんだろうなと思っていたが……。嫌な予感をした顔がわかりやすかったのだろう。天峰さんは頷き、肯定した。


「その通り、和馬君の思っている通りの事。美羽は自分と和馬君が楽しく過ごせる学園の作るために権力を行使して学園を改造しているの」


 未だに信じられない……とは決して思わない。何故なら自分の姉の事なのだからある程度は理解できてしまう。頭を抱え、隣の椅子に腰をかける。天峰さんはそのまま話を続ける。


「まあ、和馬君が頭を抱えたくなるのは痛いほど分かる。一年以上仮にも友達やってきたわけだし、それともしも止めて欲しいなら私に言って。その時は何とかしてあげるから」


 微笑みながらもしもの時は助けてあげるとか、この人天使か何か!? 僕は顔を上げ、天峰さんを見る。本当に困ったときはこの人に頼ることにしよう。


「はい! ありがとうございます」


 話も一段落したところでちょうど美羽姉がお茶菓子の準備が出来たみたいで台所から帰ってきた。お盆の上には予想してた物とは違う物だった。気になったため美羽姉に近づき周りには聞こえないように耳打ちする。


「美羽姉、これどうしたの?」


「前もって作っておいたケーキよ。本当はカズ君の入学祝いに作ってあげたかったんだけど時間が無くて、この日になっちゃったけど……食べてくれる?」


 上目遣いで見つめてくる美羽姉は普段よりも可愛らしくとても魅力的だ。しかし! 恋愛感情は一切無い。勿論姉だからである。ともかく美羽姉が折角作ってくれたので頂くとしよう。


「勿論、頂くよ美羽姉」


 テーブルまで運ぶとだらだらとしていた千景や信三が目をキラキラとさせながらムクッと起き上がった。


「美味しそう♪ あたしも食べて良いの?」


 千景がケーキを見ながら言った。だが、僕は気づいてしまった。僕を含めて七人いるから必然的にケーキは七つ必要なのだが、お盆の上には六つしか無い。この後の展開が読めてしまう。千景の方を向いて美羽姉は千景を見下すように言う。


「何言ってるの? チカちゃんの分なんてあるわけ無いでしょ。チカちゃんはこの湿気た煎餅でも食べてなさい」


 千景の前に置かれたのは湿気て不味くなったであろう煎餅が置かれた。その事を予想していたのか、ドヤ顔で美羽姉に言い放つ。


「ふっ! 美羽さん。毎回そんな嫌がらせに引っ掛かると思っているんですか?」


 千景は湿気た煎餅を手に取り、台所に向かう。コンロの火をつけ、金網の上に煎餅を置いて焼いていく。


「ちっ! 煎餅じゃなくてもっと別の物にすれば良かった!」


 美羽姉が千景のいる台所に行く。どうせこの後は美羽姉と千景の言い争いがあるだろうから、関わるのは止めておこう。僕は美羽姉が持ってきてくれたケーキを信三や天峰さん、先生等に配っていく。


「サンキュー、和馬。それで、あれは放っておいて大丈夫なのか?」


「ん? あぁ……しばらくすれば大人しくなるよ」


 信三に指摘され、ケーキを食べながら美羽姉達を眺める。全く、いつになったら仲良くなるのか。二人が終わるまで休憩するとした。


 *****


 休憩も終わり、再び試験勉強を開始する。先ほどは苦手な科目をやったので得意な科目をやることにする。美羽姉と千景も落ち着いたようで、あの後すぐにリビングに戻ってきた。そうは言っても三十分も喧嘩をするなんて疲れたりしないのだろうか?


「それで、二人は何で僕の隣にいるのかな? 最初にも言ったと思うんだけど、狭くてやりづらいのですが……」


「そんな事いいじゃん! それよりもカズ君はちゃんと勉強して」


「う、うん。言われなくてもするけど、二人が邪魔で……」


「だって! チカちゃん向こう側に移ってもらえないかな?」


「な、何でですか!? あたしは和馬に教えてもらいたいんです!」


「それじゃカズ君の邪魔になっちゃうでしょ? ほら、そこから退いて!」


 美羽姉が千景を無理矢理立たせようとするが、千景は一向に動こうとしない。それどころか机が揺れて文字が書けない……。


「……はぁ~、もう分かった。美羽姉は自室に行ってて、千景は先生に教えてもらって……先生、お願いできますか?」


 休憩後、ソファーに戻った先生に千景の勉強を見てもらうようにお願いをする。


「はい。それくらい構いませんよ」


 快く受けてくれた先生は信三が勉強している横に座り、千景にこちらに来るように手招きをする。


「ほら、千景。さっさと行って来い。美羽姉も自分の部屋で待機」


「えぇ~ヤダヤダ! カズ君と一緒がいいー!」


「……分かった。一つだけ言うこと聞いてあげるから、今は退いて」


「ほんと!? なら、勉強見させて!!」


「………………却下」


 とぼとぼリビングを退室していく背中は非常に哀しげであったがそんな事はどうでもいい。僕は今は勉強が出来ればいいのだ。


「和馬君、迷惑でなければ私に勉強を教えさせても構わないですか?」


 その様子を見ていた天峰さんは僕に提案してきた。


「本当ですか? それならお言葉に甘えさせて頂きます」


 その後は千景と先生、僕と天峰さんのマンツーマン。岡野先輩と信三の一人で勉強するグループ。それと五月蠅くて邪魔だった美羽姉は自室に籠もらせた。

 この状態のまま夕方頃まで勉強することが出来た。実に有意義な休日だった。それと今日はみんな泊まっていくことになり、晩ご飯を作ることになった。なので美羽姉を呼んでくることにした。







一ヶ月ぶりの更新で読者様はこの作品を忘れてしまっているかもしれません。ですが、小説と言うものは完成させてこその物だと私は思いますので、途中で投げ出すことはありませんのでご安心を……。

さて、試験勉強のその三ということで続きからです。

登録してくれている読者様には本当に感謝感謝です! これからもよろしくお願い致します。m(_ _)m

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