第二十一話 勝負その三
先生の料理は確実にヤバい見た目でおぞましい物に違いない。そもそもあんな物を人に食べさせるのがどうかしている。そんな事を考えながら、岡野先輩の料理を見に行く。
遠目で確認をする。岡野先輩は……どうやら普通に料理をしているようで安心した。近づくと怒ったり、睨まれたりしそうなので遠くから見るだけにすることにした。
手元で何かを切っているようだ。あれはジャガイモ? みたいだ。先輩は材料から見ると、肉じゃがを調理しているようだ。
他の材料も切り終わり、後は炒めて、アクをとって、煮詰めれば完成だが、岡野先輩が何やらブツブツと言いながら料理をしているようだ。聞こえづらいので、少し近づき耳を澄ませてみる。
「……あ…岩永……に…………毒……れば、始末……」
何だか聞こえてはいけないような単語が淡々と聞こえてくる。これ以上は聞いてはいけない気がしたので離れて、天峰さんの所に行く。
*****
天峰さんは料理は上手と美羽姉から聞かされていたのでホッとする。さっきから見て回ると、料理は出来るがクッキーだけの幼馴染とゲテモノ料理の先生、毒殺料理の岡野先輩。この人達完全にアウト。
誰一人まともな料理をしていないから勝負にならないと思ったが、天峰さんだけはちゃんとした物で安心した。
料理は……美羽姉を真似してかシチューだった。いや、美羽姉の方が真似をしているのかも……。今はそんな事を考えるのは無駄だと判断した僕は大人しく席について待つことにした。
約束の一時間が経った。信三からの終了の笛が鳴った。
「はいはーい。そこまで! そんじゃ、試食に入りまーす。んじゃまずは……姉御」
「はーい♪ カズ君の為に作ったから、召し上がれ♪」
目の前に出されるカレー。特に怪しいところは……無いようだ。スプーンを手に取ると、カレーのルーとご飯が均等になるようにのせ、口に入れた。
「もぐもぐ……」
場が静まり返る。何だか落ち着かないが、ひとまず感想を述べる。
「……いつもの感じで僕の好みの辛さに調整してあって、美味しいよ美羽姉」
「やっっったー♪ ……でしょでしょ? カズ君の勉強を見てあげる条件にふさわしいでしょ?」
「うん、まあね」
いつも通りの美羽姉の料理でとても美味しかった。評価するならこれは確実に一位を狙えるレベルだろう。僕が次の料理を食べようとすると、信三が美羽姉の料理を食べたそうに見ているので尋ねる。
「信三、食べかけだけど……味見したい?」
「えっ!? マジでいいの!? ラッキー! そんじゃーー」
信三が僕のスプーンを持ち、カレーを食べよとする瞬間。美羽姉が先生に合図を出し、信三を押さえつけさせた。
「イタッ! ……何すんだよ!」
「美羽様が『そこにいる汚物には私の料理に触れさせないで』と申されましたので、対処させていただきました」
「……何で駄目なんだよ、姉御」
信三は押さえつけられたまま美羽姉に問う。美羽姉はその質問を返す。
「何で……何ではこっちの台詞よ、カス。 そ・れ・は、カズ君の為に作った料理だからよ! だから他の人に食べさせるなんて……例え神が許そうとも、私が許さない!」
美羽姉が相当お怒りのようだ。それに今の美羽姉なら神様ですら殺りかねない。信三はポカンとしたが、すぐに目を覚まし、拘束を解くように先生に言う。拘束は緩み、信三はゆっくり立ち上がり肩をほぐす。
「……イテー。……分かったよ姉御、もう姉御の料理に手は出さねーよ」
「ん? 何を言ってるの? 私の料理だけの話よ。他のは勝手に味見すればいいじゃない」
「何だよ! それならそうと、最初から言ってくれよ! わざわざ俺が痛い思いしなくて済んだのに……」
「それは私が単に痛がる信三を見たかっただけだから」
美羽姉のいじめは相当酷い。これを毎日なんてやられたら、精神が参っちゃいそうだ。そんなこんなで次の料理の試食に移る。今度運ばれてきたのは可愛らしい動物の形をしたクッキーだったという事は料理を作ったのは千景だ。まあ、運んできたのが本人なのだから分かって当然だと思う。
「続きまして、チカの料理を……てか、それ料理っていうか?」
司会進行の信三が言ってはならない事を言いやがった。確かにクッキーは分類上お菓子になるが、一応お菓子も料理という事で含まれるに違いない、いや、きっとそうだ。
「な、何よ! 料理何だからお菓子も含まれるでしょ? ……ね! そうだよね? 和馬」
千景が不安なのか僕に同意を求めてきた。僕は可愛そうなのでこっちにも非がある事を含みつつ肯定した。
「確かに料理といってもこっちからはお題を何も出していないからな。それに料理であれば何でもいいし、お菓子も一応は料理だから大丈夫。……信三もそれでいいでしょ?」
「んー、まあ和馬が言うなら俺は構わないけど……」
信三も渋々承諾し、審査の続きをする。見た目は非常に美味しそうに見える。だが、問題は味だ。皆の調理風景を見たが、あれは食べられるかどうかも怪しい。なのでまずは信三に毒見役として味見してもらう。美羽姉からの説明もないままここに来たので本当は毒見役とも知らないんだろうな。
「信三。僕はさっきカレー食べたから、今度は先に食べてもいいよ」
「マジか! 流石和馬! そんじゃ、一つ貰うな。……いただきまーす」
クッキーを掴み、口の中にひょいと投げ込んでから咀嚼する。僕も信三の様子を見ていた。何かあれば直ぐに倒れると思ったが、何も心配はいらないようでホッとした。僕も千景のクッキーを頂くとっしよう。指先でつまんで口に入れる。程よい甘さが口の中に広がり、何だか癖になる味だ。
「……どう? あたしのクッキー、美味しい?」
自信がなかったのか、僕に不安そうに聞いてくる。僕は嘘偽りなく千景に本心で感想を言う。
「うん。すっごく美味しいよ千景。そこら辺の市販のクッキーより何倍も美味しいよ。この味なんか癖になりそう」
そう答えると、不安そうに陰っていた顔も明るくなり、声を上げて喜んだ。
「やったー! ほんと? ほんとに美味しいと思った?」
「うん。僕も信三も同じ感想を言うと思うよ。な! 信三」
「おう、和馬の言う通りだぞ。……でも確かにこのクッキーは美味いな。それにチカにしては上手くできてるよなー、このクッぐぱっ!」
肯定しとけばいいものを信三は余計な一言を言ったため千景に殴られた。
*****
さて、まだ前半戦も終わっていないこの状況。この後には先生、岡野先輩、天峰さんと続いている。何としても天峰さん以外の料理を信三に食べさせないと、僕が死ぬ。
運んできたのは、原野先生。つまり、ゲテモノ料理。僕は目の前から運んでくる先生が死神に見えて仕方がない。
「お待たせしました。私の料理ですよね? どうぞ、かずーー」
「ちょっと! お待ちを先生。信三こっち来い」
「何だよ和馬、急に……」
僕は信三の首根っこを引っ張り廊下に一回出た。廊下には誰もいない。落ち着いて話が出来そうだ。
「いいか、信三。先に先生の料理を食べさせてやる……」
「何だよ急に……。俺は食べられるなら、それでいいけど……」
何とか信三は話を理解してもらえたようだ。それじゃ、中に戻って審査の続きでもしようかな。僕は信三とともに中に戻ることにした。
作品も投稿し続ける事も慣れてきました。今回はついに美羽姉の料理からの試食となりました。さて、これからどんな展開になるか楽しみですね。
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