第二十話 勝負その二
時刻はまだ、学園が授業の真っ最中。なので、学園内は静まり返っていたが、生徒会室だけは全くもって違っていた。
「ーーつまりだよ? カズ君と勉強したい人はこの勝負に勝たなくちゃいけないの。分かった?」
美羽姉が全体に確認をとる。すると、千景がやる気満々で応えた。
「いえいえ、美羽さん。あたしは別に勝負をしたくないとは言ってないですから、勝負は絶対しますよ!」
千景のやる気宣言が他の人に刺激を与えたのか、各人もそれに応える。
「私も和馬君に色々お世話になってるし、ここで恩を返したいです。ですから、生徒会長。……ここは手を退いてください」
天峰さんも僕に恩とか言ったが、そんな事しなくてもいいのにと思う。だが、天峰さんはそんな事じゃやめてくれない人だからな……。すると、美羽姉が天峰さんの呼び方に不満があったようで変更を求めた。
「杏ちゃん。生徒会長って呼ぶのは堅苦しいから、二人きりの時みたいに『美羽』って呼んでいいよー♪」
「それじゃあ……ごほんっ! 美羽。私は親友としてここは一旦手を退いた方がいいと思います」
美羽姉の性格を知っての事なのか僕の勉強は見ない方がいいと助言する。だが、そんなもんで退くような姉ではない。
「えぇ~、それだと私の弟愛のプライドが傷つくなー」
弟愛とはなんなのかは知らないが、姉には姉のプライドがあるようだ。僕のそばにいた護衛の原野先生が意見を述べる。
「私は護衛としてそばにいた方がいいと思いますので、優先的に私が勝ちで終わらせてもいいのではないですか?」
それはそれで僕も一安心だ。先生も護衛だからといって勉強を見れないわけではない。それに同調するように岡野先輩が発言する。
「それいいな! 原野先生! 私は生徒会長と勉強したいから、協力してくれよ」
岡野先輩は美羽姉とどうしても勉強したいようで、先生を利用するつもりのようだ。しかし先生も甘くない。
「それは……お断りさせていただきます」
岡野先輩の提案を即断即決で断った。
「何で!? いいじゃん別にー」
頬を膨らませ、ブーブー文句を言う。
全員に勝負内容を説明しても尚、五人の話し合いが終わらない……。
*****
結局のところ勝負内容は一体何なのか。それは美羽姉が考えた物と思うと納得がいくかも……。
勝負は頭が良い人が僕の勉強を見てあげられ、遅くまで勉強している僕に夜食が作れる人……『料理』。これが勝負ないようだそうだ。
美羽姉にとって『料理』とは常日頃から行っている家事の一つなので苦手な分野ではない。しかし、千景や天峰さん、先生、岡野先輩は一体どのくらい『料理』が出来るのだろう? 出来ない人にとって、この勝負は負け勝負になる。だが、残りの四人はこの勝負を二つ返事で参加した。
「それで、僕が味見して誰が一番か判断すればいいの? 美羽姉」
「いや、もしもゲテモノがあってカズ君に危険があっても困るから、毒見役も呼んだんだ……入って」
美羽姉の呼びかけで生徒会室の扉が開かれた。何だか毒見役の人が可哀そうになってくる。そんな事を思って見ていたら、それはそれは見知った顔の男だった。
「姉御、俺がここに呼ばれた理由がまだ話されて無いんですが……」
扉を開けて入って来たのは、信三だった。しかも、美羽姉からの事情も聴いてない様子。美羽姉、酷いな……。
「さて、役者はそろったので、家庭科室に移動ー!」
美羽姉の指示で皆、調理器具がそろっている家庭科室に移動することになった。
*****
家庭科室に着くと、美羽姉が信三に勝負の説明をする。
「ーーそのね、かくかく……しかじか……という事。分かった? ……カス」
「分かったけど……姉御、流石に俺への態度を変えてもらえないすかね……」
「それは……無理ね。さぁ、料理勝負始めましょう!」
美羽姉とその他四人は美羽姉と同じように調理台に立つ。僕はようやく縄から解放され、大人しく座って見学することに。
「はい、準備はいいか……それじゃ、制限時間は一時間。よーい、スタート!」
信三の掛け声で勝負は始まった。僕は皆の調理を順番に眺めることにした。
*****
まず始めは、美羽姉。家でもご飯を作っているので何にも心配はしていないのだが、何もなさそうなのが逆に恐ろしい。
「美羽姉は……何を作るつもりなの?」
恐る恐る美羽姉に尋ねてみる。美羽姉は言いよどむことなく、さらっと答える。
「カズ君の好きなカレーだよ♪ ほんとはもっと手間をかけたいんだけど……時間がないからね、簡単な物にしてるけど、不満?」
「そ、そんなことないよ。美羽姉のカレーはすっごく美味しいから、不満なんてないから」
「そう? それならこのまま進めるね♪ ルンルン~♪」
美羽姉は野菜を色鮮やかに切り、調理していく。僕はその姿が何だか怪しくて、美羽姉のご飯を最初に信三に食わせることにしようと決意した。
*****
次に様子を見に行ったのは千景の所。僕は彼女に近づき、話しかけた。
「千景はどんな料理を作ってるの?」
「……ひっ!?」
いきなり声をかけたからかビックリして悲鳴を上げた。怒った表情をこちらに向ける。
「い、いきなり何? ビックリするから話しかけないでよ」
「あぁ、ごめん。皆がどんな料理してるか見て回ってるんだけど……」
僕は千景の作っているものを覗き見てみた……クッキーだった。何にも入っていないプレーンなクッキーだ。確かに『料理』と言ったが、菓子類を作るとは思わなかった。作った理由を知りたくなった僕は疑問を投げかける。
「……何でクッキーなの? それ完全に菓ーー」
その瞬間、僕の口は塞がれ、千景が黙れと目で訴えてくる。
「……いいから黙ってて和馬! それと何でクッキーかというと。……実はあたし、クッキーしか作れない……の……」
声は弱々しくなり、最後の方なんて聞き取るので精一杯だったが、ちゃんと聞こえた。どうやら千景はこれしか作れないらしい。死ぬほど恥ずかしかったのか、その場で座り込み、うずくまってしまった。僕はすかさずフォローを入れた。
「千景、大丈夫だって。それにルールは『料理をする』としか言ってないから、クッキーもちゃんと含まれるよ。……だから、頑張って」
そう言って千景に元気になってもらおうと頭を軽くポンポンとしたら、瞬きをする間もなく立ち上がった。後ろから見た彼女の耳は赤くなっていた。
「……和馬、ほんとに応援してる? あたしのクッキー、食べたい?」
千景がそう聞いてきたので僕は素直に言った。
「そりゃ、千景の作ったクッキーだからね。食べてみたいな」
「……分かった、頑張る。……邪魔だからあっち行ってて!」
どうやら元気になった様だ。言われた通り僕は千景から離れて他の子の料理を見に行った。
*****
さて、料理をよくする僕も大抵見ればどんな料理をしているかは分かるが、全く分からないものは基本的に不味いものなんじゃないかと感じてしまう。そして今まさにそれが僕の間の前で起こっている。
「あ、あの……先生? これは、一体?」
「ん? 何って……蛙ですが? 和馬様、どうかしましたか?」
どうやらその蛙が先生の料理のメインディッシュのようで綺麗に内蔵を取りだし、中にご飯等を詰めている。さらに普通のサイズの蛙ではなく、一回りも二回りも大きい蛙だった。先生の料理が危うく感じた僕は普段の食事を聞いてみることにした。
「……先生は普段、どんなご飯を食べていますか?」
「和馬様達と同じものを……」
「いえ! 独りでのご飯の時です」
「そこら辺の昆虫やら爬虫類、蛙等の肉になりそうなものを絞めて食べますが……」
「そう……ですか……。それは……お、美味しそうですね……」
昆虫という単語が出た瞬間に脳が判断した。先生の料理は絶対に食べてはいけない。食べれば、死ぬ! 僕は先生にどんな料理を作っているのかは聞かずにその場を後にした。
さあ、年も明けました。読者様、これからもどうぞよろしくお願いします。今回は短めに終わらせます……。
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