第十六話 お泊り
教室を出て、帰ろうとするところを美羽姉に止められた。どうやら、昼食の時に天峰さんが言ってた書類を持ち帰ってやりたいとの事で僕は先に校門の端っこで待つことにした。
「……」
待つことになって三十分。まだ美羽姉は現れない。何か問題でも起きたのかな? 心配だななどと考えていると、学園の方から原野先生、本名轟井美夜が歩いてきた。
「ん? 僕に何かご用ですか? それとも美羽姉にですか?」
僕が聞くと、首を左右に振り、美羽姉ではないという。それなら僕か。じゃあ何のためにここに来たのか、悩んでいると、そのまま先生は話し始めた。
「用というほどの事ではないのですが……美羽様が遅れそうなので、それをお伝えに来ました」
「あぁ、それはどうも。ありがとうございます先生。……それで遅れそうとはどういう意味でしょう?」
「それは……聞かないほうが身のためだと思われます」
「…………そ、そうですね。止めておきます……」
お互いのためだからと先生も僕も理解した。
仕方がないので、時間潰しとして先生と話でもしながら時間を潰す。僕は護衛の仕事はどんな感じなのか、先生の事とか僕の事とかをお互いに話していると、日も沈んできた。すると、ようやく美羽姉がこっちに向かって歩いて来るのが分かった。他にも後ろを歩いて来る千景も見えたが、お互いに目が死んでいる。
「ど、どうしたの? 二人とも」
「……あぁ、カズ君。何でもないのよ、ほんと、何でもないの……」
「……そうそう。ただ、和馬とこれから一緒にいる時は必ず美羽さんがそばにいるんだろうなって考えたら、絶望しちゃって……」
「そ、そうなんだ。……二人とも、信三から聞いたけど、仲が良くないってホント?」
「「うん。いっそこの場で殺してやりたいくらい嫌い」」
「……(息ピッタリだな)それじゃ、先生。また明日」
「はい、それでは失礼いたします。和馬様」
先生がこの場を去った後、僕も帰るとするかな。千景の家も同じ方向だったので、美羽姉に断わってから一緒に帰る。学園の長い長い坂を三人でゆっくり下り、家に向かう。千景の家と僕の家との分かれ道のところで僕は千景に「また明日」と言って、千景と別れた。千景は残念そうにしていたが、美羽姉はこの時、物凄く顔が喜んでいた。
そして僕が家の前まで着いたところで気が付いた。横に千景がいた事に。
「なっ! 何で千景がここにいるの!?」
「ん? 何でって? 今日からここに泊まるからだよ?」
「…………え?」
僕の脳内はフリーズした。だって、千景は自分の家があるじゃないか。僕は美羽姉に聞こうとしたが、千景の方を向き言った。
「何を考えているの? 私は絶対、家に入れないよ」
「まあまあ、美羽姉。話を聞こうよ、千景どういう事?」
僕は美羽姉を抑えながら、千景に質問する。千景は恥ずかしそうに話す。
「実は……早くこっちに来すぎて、あたしの家に入れないんだ。……はっははははー!」
「……カズ君、こんな馬鹿放っておいて早く家に入ろう」
「あ! 美羽さんちょっと待って。じゃない、待ってください」
「社会的速やかにここから消えて、私はこれからカズ君とあ~んな事やこ~んな事するんだから」
「いやっ! 何もしないから。それより、居れてあげようよ美羽姉」
「……(ここで許したら、カズ君の私に対する好感度上がるかな?)」
「美羽姉?」
「う~んう~ん」
「はぁー、まあいいか。……物置部屋になっちゃうけどいい? 千景」
「あたしは大丈夫だよ」
「じゃあ、中に入って」
「お邪魔しまーす」
美羽姉はあとで目が覚めるだろうし、問題ないだろう。僕と千景は先に家の中に入ることにした。
*****
「よし! 決めた。チカちゃん入れてあげて大丈夫よカズ君。……ってあれ? カズ君? どこ?」
考えていたら、いつの間にかいなくなっちゃった。けど、別にいいかな。これからカズ君につく悪い虫の邪魔ができるんだから、こんなに嬉しい事は無い。さてさて、これからどんな妨害をしちゃおうかな。
*****
千景の部屋は一階の誰も使っていない部屋にした。布団等を運び、ある程度必要なものを置いてあげた。
「他に必要なものある?」
僕は千景に聞いてみる。他にあれば買ってこなくてはいけなくなるから、こういうのは早めの方がいい。少し悩んで、もじもじしながら応えた。
「……下着が、欲しいな……」
「…………はい? し、下着?」
「うん。替えの下着とか持ってなくて、さ……。買ってきてーー」
「ーー何しとんじゃ! カズ君に! この淫乱女がっ!」
「ぐぱっ!」
目の前の千景が横にぶっ飛んだ。千景には悪いが、美羽姉のおかげで助かったようだ。
「いっつー。何するの! 美羽さん!」
「何するの……じゃないの! とんだ泥棒猫ね。カズ君に何させるつもりだったの?」
「あたしの下着を買ってきてもらおうかと……」
「ふっ! 甘い! そんなんじゃ駄目ね。私なら、服だけ買ってきてもらうわね」
僕を無視して美羽姉達は話を続ける。てか、美羽姉が何だか正当なことを言っているような気がする。確かに下着よりそっちの方が僕からしたら買いやすい。
「服を買ってきてもらって、あえて下着を着けないようにする。その後、カズ君に『この下、何も着けてないんだ』って言って誘惑するのよ! はぁ~♪ これだけでご飯何杯いけるかな? ……じゅるり」
「な、なるほど。メモメモっと」
「美羽姉! 何言ってるの!? 千景も素直にメモ何てしなくていいから!」
美羽姉一人いるときだけでも騒がしいのに、一人増えるだけでこんなにも面倒臭くなるなんて。
騒がしい二人はもう無視して、晩ご飯でも作ろうかな。今日は僕が作る番だし。適当な材料でパパっと作ってしまう。ちなみに二人の感想はーー。
「カズ君、流石だね♪ お嫁に来て♪」
「う、旨い。あたしなんて料理出来ないから、女性として負けた気がする……」
と、まあこんな感じの感想でした。こっちとしては毎回そんな感想をもらえると嬉しい。顔が緩んでくる。
風呂の準備をしていると、美羽姉が千景をロープで縛って押さえつけていた。
「カズ君! 安心して、覗き魔は私が押さえつけとくから!」
「は、放してって! 何もしないって。本当本当」
二人は仲が良いのか悪いのか、これじゃあわからない……。
結局、騒がしくも何とか布団に入ることができた。明日は平和に過ごせるといいな。
*****
夜中の零時。家の前では護衛である原野先生が到着していた。合鍵を使い、家に入る。一階には誰もいない。すると、二階で声がした。階段を上り、確認する。
和馬の部屋の前では二人の女性が争っていた。現在の主人と言うべきなのか、まあ、雇い主である美羽様、それと、その幼馴染である千景さんがいた。
二人に近づき、何をしているのですかと声をかけると。
「聞いてよ美夜、チカちゃんがカズ君に夜這いをかけるつもりなのよ! 止めてよ、護衛でしょ?」
美羽様は床の上に千景さんを拘束し、動けないようにしていた。
「はい、かしこまりました。……それではどのように排除しますか?」
「どのように!? 怖いよ! それにあたし何も悪いことしないって……そうだ! 寝顔、和馬の寝顔見せてくれたら、それで諦めるから! お願い!」
千景さんも諦めが悪いようでしつこく言ってくる。私は彼女の背中に回り、首をトンッとやって気絶させた。美羽様は押さえるのを止めて、立ち上がった。
「ふー、よくやってくれた。これで今日は安心して休めるわ。……それじゃ、私は部屋に戻るね♪ あ、チカちゃん一階の部屋に寝かせといてね、よろしく」
美羽様は自らの部屋に戻っていく。私も千景さんを担いで、部屋で寝かせてくる。こんなことが毎日続くと思うと護衛が面倒臭くなりそうです。
投稿が少し遅れて申し訳ありません。さてさて、和馬の家が騒がしくなってきました。これからどうなるのでしょう? 次回もお楽しみに。
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