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神代先生のお世話日誌  作者: 志に異議アリ


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13/21

第13話 終わったはずの教室


休日だった。


山口と飲んだ。


久しぶりだった。


仕事の話。


恋愛の話。


どうでもいい話。


大人になると昔より話題は増える。


なのに最後は学生時代の話になる。


不思議なものだった。


「覚えてるか」


山口が言う。


「何を」


「木村」


俺は少し考えた。


「あー」


思い出した。


「いたな」


「嫌いやったな」


山口が笑う。


俺も笑った。


確かに嫌いだった。


理由はよく覚えていない。


だが嫌いだったことだけは覚えている。


「今何してるんやろな」


山口が言う。


「知らん」


「俺も」


そこで話は終わった。


──────


翌朝。


神代先生の家だった。


珈琲の匂いがする。


最近はこれが当たり前になってきた。


少し悔しい。


「先生」


「はい」


神代先生は新聞を読んでいた。


「昔嫌いだった奴とか覚えてます?」


神代先生が顔を上げる。


「いますね」


「今思うと」


少し考える。


「なんで嫌いだったか分からない奴とか」


神代先生は珈琲を飲む。


「あります」


「ありますよね」


「ええ……

好きより嫌いの方が感染しますからね」


その言葉が少し気になった。


聞き返そうとした時だった。


電話が鳴る。


──────


数日後。


俺たちは中学校にいた。


校長室。


校長の高橋誠一は疲れた顔をしていた。


「お忙しいところありがとうございます」

神代先生は軽く会釈する。


「ご相談内容を」

高橋校長は頷いた。


「いじめです」

俺は少し身構えた。


校長は続ける。


「被害者は小林遥さん」


「現在は不登校です」


「主犯は佐久間美優さん」


「すでに認めています」


神代先生は黙って聞いている。


「保護者面談も終わりました」


「謝罪も済みました」


「学校としての対応も終わっています」


そこまで聞いて俺は首を傾げた。


「じゃあ何が問題なんですか」

校長は少し俯いた。


「終わらないんです」


──────


教室を見た。


昼休みだった。


静かだった。


騒がしくない。


問題もない。


だが何かがおかしい。


誰も遥の話をしない。


誰も美優の話をしない。


何もなかったみたいだった。


それが逆に不自然だった。


──────


神代先生は生徒たちと話を始めた。


まず佐久間美優。


主犯だった少女。


目は赤かった。


「私が悪いんです」


美優は言った。


「全部私です」


泣きながら頭を下げる。


神代先生は何も言わない。


ただ聞いていた。


──────

次は学級委員。


伊藤蓮。


「止めました」


蓮は言う。


「一回だけですけど」


話を聞く。


確かに注意はした。


だがそれだけだった。


それ以上は何もしなかった。



──────

吉岡菜月。


「私は関係ありません」


そう言った。


事実だった。


悪口も言っていない。


からかってもいない。


だが。


遥が一人だったことは知っていた。


──────

中島翔太。


「男子だからよく分からなかったです」


そう言う。


だが。


遥が泣いていた日も。


教室の空気も。


全部知っていた。


話を聞けば聞くほど分からなくなった。


全員同じだった。


「私はいじめてません」


そして。


全員本当のことを言っていた。


──────


帰り道。


俺は言った。


「みんな嘘ついてないですよ」


神代先生は頷く。


「ええ」


「でも変なんです」


「そうですね」


それだけだった。


──────


翌週。


再び校長室だった。


高橋校長もいた。


俺もいた。


神代先生は静かに言う。


「校長先生」


「はい」


「この問題には犯人がいます」

高橋校長が頷く。


「佐久間さんですね」


「違います」

校長が固まった。


俺も固まった。


「ですが」


神代先生は続ける。


「佐久間さんは加害者です」


校長は混乱している。


「どういうことですか」


神代先生は窓の外を見る。


校庭では生徒たちが走っていた。


「佐久間さんはいじめを始めました」


「はい」


「ですが」




「教室が完成させました」


沈黙が落ちる。


神代先生は続ける。


「伊藤くんは止めました」


「ですが一度だけです」


「吉岡さんは見ていました」


「中島くんも知っていました」


「他の生徒も同じです」


校長は何も言えない。


「誰も嘘をついていません」


神代先生は言う。


「私はいじめてない」


それは事実だった。


「ですが……」


少し間。


「「私は助けた」と、

言った生徒は一人もいませんでした。」


高橋校長は俯いた。


長い沈黙だった。


やがて小さく言う。


「私も同じかもしれません」


神代先生は何も答えなかった。


──────


帰り道。


夕日が長い影を作っていた。


「先生」


「はい」


「みんな悪人だったんですか」

神代先生は首を横に振る。


「違います」


「じゃあ何なんです」


神代先生は少し考えた。


そして言う。


「ただの子供たちです」

俺は黙る。


校庭から笑い声が聞こえた。


どこにでもいる子供たちだった。


「だからこそ」

神代先生が言う。


「大人が教えなければなりません」


少しの間。


「嫌いも感染します」


俺は足を止めた。


昨日の山口との話を思い出す。


木村。


あいつは本当に嫌な奴だっただろうか。


それとも。


皆が嫌っていたから嫌っていただけだったのだろうか。


今となっては分からない。


好きより嫌いの方が感染する。


神代先生のこの言葉だけが。


妙に胸に残った。



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