表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神代先生のお世話日誌  作者: 志に異議アリ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/21

第9話 嫌われる男



休日だった。


特に予定はなかった。


だからと言って家にいる気にもなれない。


気づけば駅前のショッピングモールを歩いていた。


そしてなぜか。


珈琲豆を売っている店の前で立ち止まっていた。


最近よくあることだった。


認めたくはないが。


神代先生の影響である。


────────


「よー田中!」


後ろから声がした。


振り返る。


山口だった。


思わず二度見した。


隣に女性がいたからだ。


山口は俺の顔を見るなり笑った。


「安心しろ」


「何がだよ」


「今回は本当に彼女だから」


言われる前に言われた。


俺は思わず吹き出した。


女性も苦笑している。


どうやら事情は聞いているらしい。


────────


近くの喫茶店に入った。


久しぶりに話す山口は少し変わっていた。


以前より落ち着いている。


人の話を聞くようになった。


そんな気がした。


「先生元気か?」


「相変わらずだよ」


「そうか」


山口は笑う。


そして少し真面目な顔になった。


「実はさ」


来た。


嫌な予感しかしない。


「友達が困ってるんだ」


やっぱり来た。


────────


数日後。


俺は神代先生の家にいた。


そして向かいには山口の友人が座っていた。


藤井直人。


三十二歳。


営業職。


第一印象は悪くなかった。


むしろ好印象だった。


清潔感がある。


話し方も丁寧だ。


礼儀正しい。


「で、相談内容は?」


俺が聞く。


藤井は困ったように笑った。


「嫌われるんです」


意味が分からなかった。


────────


話を聞く。


職場。


友人関係。


恋人。


趣味の集まり。


どこへ行っても最初はうまくいく。


だが長続きしない。


気づけば人が離れていく。


「悪口は言いません」


「遅刻もしません」


「頼まれごとも断りません」


確かに問題なさそうだった。


俺には何が悪いのか分からなかった。


神代先生も黙って聞いている。


────────


藤井は話し続ける。


「後輩が仕事で悩んでいたので助言しました」


「友人が失恋した時も相談に乗りました」


「彼女が将来を不安がっていたので解決策を考えました」


話を聞きながら。


少しだけ違和感があった。


「それで僕は」


「だから僕は」


「そこで僕が」


何度も出てくる。


全部。


自分の話だった。


────────


神代先生が初めて口を開く。


「藤井さん」


「はい」


「最後に誰かの話を聞いていて」


少し間。


「何も言わなかったのはいつですか」


藤井が固まった。


「え?」


「助言も」


「分析も」


「励ましもせず」


神代先生は静かに続ける。


「ただ聞いたのはいつですか」


藤井は答えられなかった。


────────


帰り際。


藤井は少し沈んでいた。


「良かれと思ってたんです」


神代先生は頷く。


「そうでしょうね」


「力になりたかったんです」


「それも本当でしょう」


藤井は俯く。


「じゃあ何が悪かったんですか」


神代先生は少し考えた。


そして言った。


「理解より解決を急いだのかもしれません」


────────


それから二週間後。


藤井から連絡が来た。


友人と会ったらしい。


いつもなら助言していた。


分析していた。


解決策を並べていた。


だが今回は違った。


話を聞いた。


ただ聞いた。


それだけだった。


すると友人が言ったらしい。


「今日はちゃんと聞いてくれるんだな」


初めて言われた言葉だったそうだ。


────────


その日の帰り道。


俺は神代先生と駅へ向かっていた。


「先生」


「はい」


「聞くと理解するって違うんですか」


神代先生は少し考えた。


「かなり違います」


「どう違うんです」


しばらく沈黙が続く。


やがて神代先生が言った。


「聞くは行為です」


俺は黙る。


「理解しようとするのは姿勢です」


風が吹いた。


駅の灯りが見える。


「人は案外」


神代先生が続ける。


「話を聞いてくれる人より」


少し間。


「分かろうとしてくれる人を覚えています」


俺は何も言えなかった。


その言葉がいつものように、

妙に胸に残った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ