↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/20

ドクヤマドリの炮烙焼き

「おうタイチ、お前うまいもの食わせてくれるらしいな」


 ギルドで依頼の掲示板を見ていたら後ろから声を掛けられた。

 見たら知ってる顔だ。マックとモス、前にパーティーを組んだことのある二人組だった。


「よう、久しぶり。どしたん急に」

「いやエルフの姉ちゃんがあれ食ったーこれ食ったーって自慢するもんだから」


 指さす先にはレアがいて得意げに「コカトリスおいしかったぁ……。アルミラージも毒キノコも!」などと言っていた。何やってんだこいつ。

 俺は軽く肩をすくめた。


「金がなくて背に腹は代えられないってんで食ったんだけどな……。食ってみたらこれが意外と癖になって」

「マジかよ。俺も食ってみてえなあ」

「なあなあ、俺たちにも食わせてくれよ」

「毒だぞ?」

「だから食ったことねえから食ってみたいんだよ」

「しゃーねーな」


 ちょうどマンティコア討伐の依頼が出ていたので俺たちは臨時にパーティーを組んでそれを受け、森に挑むこととなった。




「あ、キノコみーっけ!」


 高い声を上げて駆け寄ったレアは木陰に佇むキノコを採ってストレージに入れた。


 朝から出発してもう正午前だ。俺たちは森の奥へと踏み込んでいた。

 レアは依頼そっちのけでキノコ狩りに夢中だった。どうもエルフはキノコが好きらしい。


「あ、ここにも……あっちにもある!」


 キノコに気を取られていたのだろう。足元の毒キノコを採ったレアは次のキノコ目掛けて左右も見ないで飛び出した。


 突然横からイノシシが現れた。


 マジで車くらいある巨大なやつだ。ドドドドッと地響きを立てて走ってきたイノシシは俺たちの目の前でレアを跳ねた。


「ホゲェ──ッ⁉」


 出会い頭の事故だった。レアは派手に吹っ飛んだ。縦回転で跳ね上げられたレアは木の幹に当たってベシャッと落ちた。

 イノシシはそのまま足音も高く走り去っていった。


「レッ、レア──ッ!」


 今の飛び方ヤバかったぞ! 俺は慌てて駆け寄った──ところがレアは俺が到着する前に上体だけガバッと起こした。鼻血出てるぞ。


「ハ──ッ! 殺──す!」


 表情がキレてた。叫ぶと同時にレアは背中に羽根を生やした。

 ドン! 砲弾みたいな勢いで飛び出したレアはあっという間にイノシシに追いついた。掲げた両手の間にバチバチと稲妻が走っている。


「死ねぇ──っ!」


 ガラガラガッシャーン! 空気が割れた。電撃がレアとイノシシを繋いでいた。


 イノシシはよろめいた。たたらを踏んで立ち止まり──いや、上空からドロップキックを食らって地面に叩きつけられてた。

 電撃で痺れたイノシシをレアは一方的にぶん殴った。殴ったというか滅多打ちだ、四方八方から凄まじい連打だ。移動が速すぎてインパクトの瞬間しか見えないんだがそれが複数に見えるくらい速い。衝撃でイノシシの巨体が揺れる、というかちょっと浮いてた。


「……元気そうだな」

「頑丈人間かな?」

「あいつ変なクスリでもやってるのか」


 俺たちは何もできずにぼんやり見ていた。というか何が起こっているのかよく理解できてなかった。


「波ァ──ッ!」


 最後に真正面から何かをかましたらイノシシが爆散した。多分ゼロ距離魂魄波だな。イノシシの毛皮が破裂し肉が弾け飛んで骨盤から下の骨がむき出しになった。

 肉の一かけらがこっちまで飛んできて、俺たちの目の前に落ちた。


 怖……近距離パワー型エルフだ。こいつと肉弾戦するのはやめとこ……。


「オッ、ヤッベ……」

「シーイズソーテリブル……」

「クゥーン……」


 冒険者の二人もブルッていた。シロも尻尾を股の間に隠して怯えてた。




 気が抜けたので俺たちはその場でランチタイムに移行した。

 火を熾しながら聞いてみた。


「あの、メッチャ吹っ飛ばされてたけど、大丈夫?」

「ちょっと痛かった」

「ちょっとなんだ」


 エルフってギャグ漫画みたいな生き物だな。


 一方マックは俺が火を焚いているのを感心の目で眺めていた。


「……あー、なるほどなあ。お前がいるといいなあ」

「何のこと?」

「いやほら、この森の木って毒があるからうかつに燃やせねえんだよ。煙吸ったら中毒したりしてな」

「あー、なるほど」


 それは気がつかなかった。今まで普通に燃やしてたけど他の人には毒なのか。


 さて、何を作ろうかな……?

 目の前にレアが採ったキノコが山盛り三種類ある。それとレアのストレージに食材が入っているはずだ。

 腕を組んで思案していたら冒険者の二人が俺の肩をつかんで揺さぶった。


「おい待て、それ毒キノコだろ!」

「? これを食べにきたんだろ?」

「そ、そうか。そうだったな」

「なんか調子狂うな……」


 さてさて。そのうち一つは実食済みだ。鍋に入れたら旨かった赤い毒キノコがある。


 それから知らない毒キノコ。指で輪を作って覗いたら案の定赤かった。柄のところがぷっくり膨らんでて傘が分厚い。傘は色も形もどら焼きみたいだ。食ったら巨大化できるかもしれんな……あ、いや、毒だからちっちゃくなるのか。

 一応端っこを食ってみたけど何となく旨味がある。これも食べられそうだ。


 ただ、イノシシに跳ねられるほどレアが執着したもう一つのキノコは残念なことにとても食えたもんじゃなかった。試食してみたら舌がひん曲がるほど苦かった。


「苦っ。こりゃ無理だ、やめとけ」


 なのに俺の言うことを信じなかったレアは自分の舌で確かめようとした。


「そんなバカなことあるわけ……これ毒入ってりゅうううう!」

「そりゃ毒キノコだし」


 だからやめろって言ったのに。どうやら毒とは関係ないところで苦いようだ。


 うーん……残り二種のキノコはバターで焼いてみるか。キノコって言ったらやっぱりホイル焼きだもんな! と言ってもこの世界にはアルミホイルがないんだよな……。

 仕方ない、工夫しよう。


 フライパンに毒キノコとお好きな野菜、肉をぎゅうぎゅうに敷き詰めて軽く塩を振る。川魚か白身魚がお勧めだがなかったら鶏肉でもいい。淡白な肉の方が合う。今回はアルミラージの肉を使う。レアのストレージの中にたくさん入ってるからな。

 野菜はその辺にあった毒草を使った。毒バナナと毒ニンニク、マンドラゴラの葉っぱも入れた。全体の半分はキノコだけどな。

 バターをたっぷり乗せて、フライパンの幅より少し小さな皿を被せて具材を押さえる。焙烙に見立てたわけだ。これを火に掛けて、弱火でじっくり焼く。


 シロの分はアルミラージの胸肉と毒キノコを薄切りにして交互に重ねたものをぐるっと輪にしてエサ皿に盛ってやった。


 ひたすら弱火で加熱していると、フライパンと皿の隙間から漏れ出した蒸気が何とも言えない香りを漂わせた。おっ……なんだこの匂いは。かつてない感じの旨そうな匂いがするぞ?

 他の三人も鼻をヒクヒクさせている。


「お、なんだこれ……う、うまそうじゃねえか」

「タイチの作るものって食べたことないものばっかりなのにおいしいから好き」

「そりゃどうも」

「──おい、まだか」

「まだまだ」

「そろそろいいんじゃない?」

「もうちょっと待て」

「待ちきれねえ」

「待つ時間を楽しめ」

「焦らすなあ」

「その分ワクワクするだろ? 生きることってイコール食べることなんだからさ。食事をただの栄養補給にしちゃったら人生も味気ないってもんさ」

「いいこと言うじゃねえか」

「そういうセリフは私が言いたかった」

「何を言ってるんだお前は……」


 駄弁(だべ)ってる間にほどよく時間が経った。そろそろいいかな?


「──よし、できた! それじゃ人生を楽しもうぜ」


 俺は蓋にしていた皿を取った。

 閉じ込められていた芳香がフワッと立ち昇った。うう、この匂い……期待感が高まるな!


 そしてフライパンを覗き込めばバターの海にウサギが、しんなりした毒草が、そしてキノコが泳いでいた。

 黄金のバターを背景にアルミラージは白くて、マンドラゴラは緑で、キノコは赤くて、まるで丸いキャンバスの中にイタリアを閉じ込めたようだ。


「もういいか? いいか?」

「食べちゃうよ?」

「食おう!」

「では、いただきまーす!」


 俺たちは炮烙焼きを食べた。


 …………!


「……うんまっ!」

「えっ、待って、何これおいしい。おいしすぎるんだけど!」


 キノコを食ってビビった。これはヤバイ。


「赤いキノコは相変わらず旨いんだが、驚きはそれよりこっちのスーパーキノコだ! 何だこのしっかりとした旨味は……噛みしめるごとに未知の旨味が味蕾(みらい)をグングン押してくる!」

「鼻をくすぐるこの香りがたまらないわぁ……ナッツみたいでオイリーでクリーミー。食感もいいね、軸はシャッキリ歯ごたえよくて、なのに傘は肉厚でプルプルしてる! と、溶ける……」

「こっ、こりゃうまい! キノコの王様か⁉」

「毒だけどな」

「毒キノコってうめえんだな……」

「おいしい。一番好き」


 スーパーキノコの軸の食感は取れたてのプリップリのシイタケの傘に似ていた。いや、蒸したアワビか? 噛むとほんのわずかな弾力に続いてジュワッと旨味が染み出てくる。凄まじいまでの旨味だ。

 うん、この味はシイタケじゃないな。本当の本物の本シメジ? それともいっそ味の素? そうだ、キノコ味の味の素だよ。グルタミン酸ナトリウムじゃないキノコの旨味の味の素。

 そしてただでさえ旨いところにこのバターだ。バターがキノコにチーズのような濃厚さを加えている。

 バターが甘い、甘く感じる。いや、野菜の甘みも入ってるな。皿を被せたことで野菜から出た水分で蒸し焼きになり、かつ皿の隙間から余計な水分が飛んで味が凝縮されている。

 それぞれの具材がそれぞれの旨味を吸って……キノコ、バター、ウサギ、そして野草の旨味が混然となって一体となって……野趣溢れていながら洗練されたところもあって……。


 やべっ、これ毒料理ランキングでも相当上位に位置してるぞ。俺たちは夢中で食べた。




 食後、俺たちは地面の上にひっくり返っていた。食べ過ぎた。マックとモスなんか持参のパンでバターを拭って食い尽くしてたからな。

 この後探索なんてできるんだろうか……?


「あぁー……。堪能しちゃった。でももっと食べたい……」

「マジでうまかった……」

「いやさぁ、毒キノコなんて馬鹿にしてたさ。がねぇ、いやぁ、味わい深かったって感動したぁ」

「海に行くことがあったらエビや貝でやりたいな」

「うわ、想像しただけでおいしそう……」


 レアはうっとり目を閉じていた。口の端によだれが垂れてるぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。