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コカトリスとベニテングタケのダブルスープ鍋

「ねー、もっと違うものも食べたいナー」


 俺の袖を引っ張りつつレアはそんなことを言った。食ったばかりだってのに。


「材料があればな」

「獲りに行こうよ」

「パンピーの俺に森まで二往復はキツイわ。悪いな」

「ブー」

「元気があるなら獲ってきてよ。なんでもいいからさ」

「わかった! 行ってくる!」


 レアは元気よく立ち上がって羽根を出した。


「あーっと、鶏ガラちょうだい。下ごしらえしとくから」




 レアが飛んで行ったのを見送って、俺はまな板の上の巨大なコカトリスガラに取り組んだ。

 さて、どうするんだったっけな? 学生時代にラーメン屋でバイトした時のことを思い出す。えーっと、確か鶏ガラはまず湯通しするんだったな。


 鍋に湯を沸かして、コカトリスのガラを突っ込んでジャブジャブゆすぐ。それで余分な脂を流したら、今度は流水で洗う。俺はガラに水を掛けながらブラシで血合いを掃除した。

 次に水から炊く。さっきの鍋にガラを入れて水を張って、毒ニンニクを丸ごとブチ込んだ。そしてアクを取りながら三時間かけてグツグツ煮込んだ。


 ガラを炊いている間、時々様子を見ながら俺はシロを洗ってやった。かなり抵抗されたけど俺がボスだ。ここでは俺のやり方に従ってもらう。


「ただいまー」


 スープが出来上がったちょうどその頃空の上から声がした。レアが帰ってきた。


「おかえり。何かあった?」

「こんなの。どう?」


 レアがストレージから出したのは二種類のキノコだった。

 一つは傘の部分が赤くて、タマゴみたいに丸くて、表面に白いイボイボがついている。漫画に出てきそうなキノコだ。……どう見ても毒だよな、これ。

 鑑定してみたら見事に赤い。毒キノコだ。

 もう一つは柄がすっと長くて傘が大きくて肉厚で、やっぱり赤い。指で輪を作って覗いたらこっちも真っ赤っ赤のかーだ。やっぱり毒キノコだ。


「こんなのもあったよ」


 と言ってもう一つ取り出したのはニンジンぽい根野菜だ。葉っぱはカブの方が似てるかな? 根っこの見た目は大きなニンジンと言えなくもないけど……ほら、よくあるじゃん。ニンジンや大根の先が股になって足が生えてるみたいに見えるやつ。あれをもっとリアルにした感じだ。手足と頭に見える部分に分かれてて、苦悶する人間みたいにねじれてる。


「これ、なに?」

「マンドラゴラ。薬になるやつだし、食べられるはず!」

「ホントかぁ?」


 俺は指で輪を作ってそいつを見た。……おお、赤紫に光っている。薬にはなるけど処理しないと毒のやつだ。まあ俺たちには関係ない。


「よし、食ってみるか」

「わーい。楽しみー」


 さて、まずは肉を煮るか。俺はモモ肉の残りをざく切りにしてスープに入れた。羽根はコウモリみたいなんだけど、手羽元と手羽先は食えなくもないか……。これも食えそうなところを取って入れた。


 キノコは表面の汚れを濡れた布で拭きとる。水で洗うと香りが落ちる──というのはマツタケだけの話じゃないかと思うんだけど、人に食べさせるものだから一応安全策を取った。で、石突きを切り落として手で裂いた。下のところに切れ目を入れると綺麗に裂ける。

 毒はともかくとして味はどうなんだろな? 切れっぱしを試食してみた。……特に変な味はしないし臭くもない。まあ、食えなくはないか。


 マンドラゴラは皮を剥いたら赤かった。ニンジンの色じゃない、血のような赤だ。うう、気持ち悪いなあ。こいつはささがきにした。あと葉っぱも食えそうだったので切った。セロリっぽい匂いがするな。やっぱニンジンの仲間なのか?


 肉を三十分ほど煮たところでキノコとマンドラゴラを投入してさらに十分。塩で味を調えて、最後に葉っぱを入れて五分煮たら出来上がり!


 ……毒のあるものばっか入れちゃったけど、これだけ重ねたらどうなっちゃうんだろう? 気になったので鑑定してみた。

 うわ、ピッカピカに光ってるよ、パトカーの警告灯のように赤々と! 食ったら死ぬな、これは。食うけど。


「よしできたぞ、コカトリス鍋だ!」

「うわーいい匂い! おいしそう!」

「では実際に食べてみよう──いただきます!」


 じゃあまずは肉から行ってみよっかな。俺たちは手羽先を食べた。


 ……おっほ!


「うんまーいっ! 肉が、肉が口の中でホロホロにほどけるッ!」

「すっ、すごい! これだけ煮込んでも旨味がまるで消えてない!」


 俺はもう夢中で食べた。コカトリスだけじゃない、マンドラゴラ、これが旨い。ただの根菜かと思ったらすっごい味が出てる。ニンジンどころじゃなかった。ささがきにしてもしっかりした歯ごたえが残る奥から旨味と甘みが染み出てくる。葉っぱはセリ? 高菜? とにかくピリッとスパイシーで、口の中をリセットしてくれる。

 それに毒キノコ。試食した時にはむしろ味気ないようだったキノコが、他の食材と出会ったら化けた。とにかく旨味が強い。それ自身も旨味が強いんだけど、元々持ってた旨味をスープの中に放出した分だけコカトリスとマンドラゴラの旨味を吸って凄いことになってる。また卵型の方は煮溶けたように柔らかく、傘が広い方はエリンギのような食感で、コントラストが効いてて食べ飽きない。

 肉→マンドラゴラ→キノコ→葉っぱのコンビネーションが描く正方形で箸が止まらん。ここが味覚のパンテオンだ!


 そしてトドメはスープだ。


「ギエエエエ! 叫ぶほどうーまーいーぞ──!」

「うままままま……」


 レアははしたなくも器に直接口をつけてスープを飲んだ。言語能力が崩壊して音声に意味が伴ってないぞ?


 何だこのスープは……鶏の旨味、野菜の旨味、キノコの旨味が混然となって一体となっている。これはもはや三味一体の小宇宙!

 考えてみたらコカトリスだけでもガラから出汁取った上に肉を煮込んでるんだもんな。コカトリスのダブルスープにキノコとマンドラゴラのダブルスープでクアドラプルが決まってる。金メダル級の旨さだ。


 もう口に出して説明する余裕がなくて、俺たちは無言でむさぼり食った。




 翌朝、鍋の中を見たら食べ残しのスープはすっかり固まっていた。


「うわすっげ、ゼラチン出まくってる」


 プルプルのコラーゲンゼリーだ。せっかくなので全部食べよう。


 コメ、って言っても日本の米と違って粒の長いやつだけど、昨日店に行ったら売ってたので買っていた。こいつを軽く茹でて、温め直したスープに入れて再び炊く。雑炊だ。

 ──そろそろいいかな? 蓋を取ったら煮詰まった匂いがフワッと顔に掛かって立ち眩みがした。水分はすっかり飛んでスープの高さまでコメが膨れ上がっていた。

 俺は雑炊をお椀に取った。


「ではいただきます。──ヘアッ!」


 いかん、今頭蓋骨の中で脳がグルンと一回転したぞ? 食材の旨味が全てスープの中に溶けだして、それがさらに凝縮されて、その旨味を米が全て吸ってる。こ、この世にこんなに美味いものがあるとは……。

 後でやってきたレアは米は食べたことがなかったみたいで、一口食べて「へー、穀物も食べたらおいしいんだね」とか言ってた。




 ところで、ギルドに行ったら依頼の中に『マンドラゴラを取ってきてほしい』というのがあった。何でもいろんな薬に使えるらしい。


「食べちゃったんだけど……」

「採ってこようか?」

「お願い」


 まあ、小銭稼ぎにはなった。

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