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コカトリスの竜田揚げと毒バナナの肉野菜炒め

 翌朝、俺はアパートの前でシロと一緒に背筋を伸ばしていた。


 あー、昨夜はよく飲んだなー。普通なら起き上がれないところだが【毒無効】スキルのおかげで二日酔いにならないのは本当に助かる。この世界も捨てたもんじゃないな。


「そうなんだ。良かったね」

「うん。おはよう、レア」

「おはよう。お金ちょうだい」


 目の前にレアがいた。宴会の後自分の家に帰ったはずだったのにまたやってきて、俺の前に手を突き出していた。


「今日はどうしたの?」

「遊びに来た。でも人間の町ってお金がないと何もできないんでしょ?」

「ここまで運んでもらったし、お礼の一つもあげたいのはやまやまなんだが……金がない」

「ブー。ケチ」

「ケチじゃなくて本当にないんだ」

「貧乏なの?」

「そう」

「それじゃご飯はどうしてるの?」

「森に入って食えるものを探そうかと思ってたんだが」

「うわあ……」


 昨夜はおごってもらったから良かったんだが今日のメシがない。探索の報酬をアテにしてたのにあの始末だったからな。


「でもあの森じゃろくなものないでしょ。毒がある生き物ばっかだし」

「いやそれが意外とイケるんだよ。コカトリスはマジで旨かった。ムカデはまずかったけど」

「は? ムカデ?」

「殻剥いたらエビっぽかったから一瞬行けるかと思ったんだけどな……あの気持ち悪さと来たら」

「待って、本当に食べたの?」

「エグいほど臭いし口の中でネッチャネチャしてもう」

「ヒィィやめてやめて、聞きたくない!」


 綺麗な手に鳥肌が立っていた。


「でも、コカトリスぅ? あんなもの食べられるの?」

「俺には【毒無効】スキルがあるからな。シロも食べたぞ。なー、旨かったよなー」


 頭をグリグリ撫でながら聞いたらシロは元気よく「ワン!」と答えた。


「俺とパーティー組んでたら毒無効の効果が適用されるから、シロも食えるんだ」

「へー。じゃあ私もパーティー組んだらやっぱり食べられるの?」

「冒険者じゃないと無理だよ」

「ふーん。冒険者になるのってどうしたらいいの?」




 俺は「面白そうだから私もやる」というレアを連れて冒険者ギルドに赴いた。そして受付カウンターで冒険者登録をさせた。

 何でも冒険者ギルドで登録すると『神の名簿』というのに記載されるんだそうだ。その名簿に名前が載ると身分が冒険者になる。各種商人ギルドや手工業ギルドなんかにも同じ仕組みがあって、この世界における身分証明になっている。


 ギルドに寄ったついでだ。レアが手続きしている間に、俺は依頼の貼ってある掲示板を眺めていた。


「ふんふん、『ボルカナ山』のロック鳥駆除か。俺には関係ないな。こっちは旅行者の護衛の依頼ね。いつかはこういうのを受けてハイラーナに行かないとな。今は無理だけど。──お」


 依頼の中に薬草を取ってくるというものがあった。心臓病に効く薬になる草で、ちょうど森に生えているようだ。このくらいなら何とかなるんじゃないかな? 俺は依頼の紙を剥いでポケットにしまい込んだ。


「お待たせー」


 レアが戻ってきた。


「冒険者になれた?」

「なれたなれた」

「じゃあパーティー組もうか」


 俺は右の拳を突き出した。


「ここに拳合わせて」

「こう?」

「そう。で、親指の先を合わせる。……お」


 パーティー登録の儀式をしたら俺たちの体はぼんやり光った。よし、パーティー成立だ。


「じゃ、行こっか」




 森に入った頃には俺の腹はギュウギュウ泣いていた。朝飯食ってないし。

 まずは食えるものを調達しよう。薬草はついでだな。


 俺は指で輪っかを作って覗き込んだ。【毒鑑定】スキルだ。青く光るものがあればそいつは食える。黄色く光って見えるものがあれば、そいつは手順を踏めば食える。やみくもに探すよりも効率的だろう。

 まあ、この毒の森の植物はどいつもこいつも赤く光って見えたけどね……。


 レアは面白くもなさそうにブラブラしてるしシロはフンフン臭いを嗅いで探っている。何を探しているのかは謎だ。


「おっ」


 あちこち見ていたら変な反応を見つけた。

 木陰に茎がスッと伸びていた。下の方にビロビロッと細長い葉っぱが生えていて、真ん中から上には薄いピンクのラッパみたいな形の花がたくさん、下を向いて咲いている。

 それはいいんだが、毒鑑定スキルの中でそいつは赤紫に光って見えた。

 脳裏にピコンとスキルの追加情報が浮かんだ。どうやら薬になるものは青紫、毒だけど使いようによっては薬になるものは赤紫に光って見えるようだ。


「もしかしてこいつかな?」


 ポケットから依頼書を引っ張り出して比べると案の定特徴が一致していた。おお、早速依頼達成だぜ。

 俺はその草を根っこから掘り返してバックパックに入れた。


 さて、これで気が楽になった。安心してメシを探そう。


 あちこち見て歩いていたら地面の下からぼんやり赤い光が漏れているの気づいた。何だろな?

 掘ってみたら球根が出てきた。ニンニクのような形をしている。毒なのはいいとして味はどうなんだろう。とりあえずこれもバックパックに入れておくことにした。


 さらに進んだら、例のバナナっぽい葉っぱが生えているのを見つけた──やったぜ! これはまた使おう。俺は葉っぱを切り取ってバックパックにしまい込んだ。

 それとこいつにはバナナっぽい実がなっていた。ずいぶんずんぐりむっくりしてるし青いけど、無理すればバナナに見えなくもない。鑑定したら実もまた赤く光った。よし、この木(草?)は毒バナナと呼ぶことにしよう。


 今日の朝飯はこいつだ。俺はたき木に火をつけて、火が大きくなるまでの間で毒バナナに取り掛かった。

 果実は実同士根元でくっついていて、逆さに生えていた。そいつをもぎ取って、まず普通に皮を剥こうとしたんだけど固くて剥けなかった。やっぱりバナナじゃないっぽいな……。それとももっと黄色くならないと駄目なんかな?

 しょうがないのでナイフで切った。果肉は白いな。バナナみたいだ。でも種がある。黒くて丸っぽい豆粒くらいの大きさの、不揃いな形の種がゴロゴロ入っている。

 スライスして味見してみた……うん、甘くないな。弾力はまったくない。スルッと歯が通る。でも割とねっとりしている。どっちかと言うとイモっぽい。いや、芋よりも歯ごたえが柔らかいな。サツマイモほどほっくりもしてないけどジャガイモみたいにしっかりもしてない。あえて言えばサトイモの煮たのが近いかもしれない。生でも食えなくはないけど火を通した方がうまいかもしれないな。


 今回はそのまま焚き火の中に放り込んで焼いてみることにした。シロには生のままでスライスして、葉っぱに乗せて食わせてやった。


「お、熱っつ! ほっほっ」


 火から取り出した毒バナナは簡単に皮が剥けた。お、芯まで火が通ってるぞ。俺は塩を振って食べた。

 ……うん、普通に旨い。毒だけど。葉っぱについてる香りをさらに濃くした感じの芳香がある。こいつは肉と一緒に料理したらかなり旨くなるんじゃないか?


「ねえ、そんなものよりコカトリス食べてみたいんだけど」


 毒バナナをどう料理してやろうかと思案していたら、横で見ていたレアはつまらなそうな声を上げた。

 俺は毒バナナをフーフー吹きながら答えた。


「この辺にはいないんじゃないかな。あれはもっと奥の方に行かないと」

「ブー」


 口をとんがらせたレアの背中に羽根が生えた。【飛行】スキルだ。レアは枝の隙間を縫って空の彼方に飛んで行った。

 この落ち着きのなさで三十三歳……。大体ローティーンくらいの精神年齢だろ、あいつ。人生を三分の一の密度で生きてんな。


 ……と思っていたら三十分もしないで帰ってきた。


「おかえり」

「ただいまー。獲ってきた」


 そう言うと同時にレアのお腹の前の何もないところにポータルみたいな印が出た。レアはそこに腕を突っ込んだ──あ、腕が消えたんだけど⁉ そしてその何もない中から何かを引っ張り出した。

 コカトリスだ。……えっ、マジで? 俺とシロが倒したのより少し大きい。首がないけど。


「え、どうしたの、それ」

「だから獲ってきた」

「なに、これ」

「【ストレージ】スキル」

「なに、それ」

「えーっと、カバンみたいに物を入れて持ち運べるスキル」

「へぇー! 便利なスキルがあるもんだな」


 コカトリスどこで獲ってきたのとかどうやって倒したの──については突っ込むのはやめておいた。




 俺たちは町に戻った。ギルドで依頼書と薬草を渡した俺は報酬で鍋を買い直した。あと食材もいくらか買ってきた。


 アパートの裏手の空き地に移動した俺たちはコカトリスの解体を始めた。ギルドに行ったついでに冒険者仲間に鳥の捌き方を教えてもらったのだ。


「えーっと、まず首と足を切り落として、と……」


 首はもうないけどね。こいつの場合は尻尾も切る。

 次に逆さに吊るして血を抜く。この血には毒があるのでその辺に捨てるわけにはいかない。森まで持っていくか、川に流して大量の水で薄めないと。俺は桶に受けた。

 それにしても、毒ってのは小さい生き物が食われないための工夫で体に溜め込むものじゃないのか? なんでこんな強力なモンスターが毒持ってるんだよ。……と思ったけど、考えてみたらコモドオオトカゲも毒持ってたな。


 俺たちは逆さに吊るしたコカトリスからダラダラと血が落ちるのをじーっと眺めていた。ちゃんと抜けてるのかよくわからんな……。


「ねえ、これ、スキルで何とかならない?」

「できそう」


 うわすげ。レアが何かのスキルを使ったら血がドバドバ出てきた。

 血が抜けきったら内臓を抜く。これはシロの分だ。

 それから大鍋にお湯をあっためて、脚を持ってジャブジャブ突っ込む。殺菌と同時に羽毛を抜きやすくするためだ。

 二人で羽を毟って、残った細かい毛はたき火で焼き切る。


 これで精肉になった。うーん、こうしてしまうとでっかい鶏だな、これ。


 さて、やってみるけど……あの母親の料理を食べて育ったなら相当口が奢っていることだろう。一応断っておいた。


「それじゃ料理するけどさ、しょせん男の料理だからな。そんなに期待するなよ」

「いいじゃない。私なんて全然できないし」




 俺が借りてる宿にはキッチンなんてないので、そのまま裏庭で火を焚いて料理した。


 まず森で採ったニンニクっぽい球根を切ってみた。匂いは……ニンニクじゃないな。いやニラや玉ねぎみたいな匂いもあるんだけど、独特の、何と言うかコクがあってそれでいて爽やかな芳香がある。これは肉の臭み消しに使えそうだ。毒ニンニクと呼ぶことにしよう。

 こいつをすりおろして、塩を加えて酒で溶いて、コカトリスのもも肉を乱切りにしたものを漬け込む。漬けてる間に鍋に油を沸かして、コカトリスの汁気を切って片栗粉をまぶして揚げる。塩竜田だ。


 それから毒バナナだ。こいつは輪切りにしてコカトリスの胸肉と一緒に炒めてみることにした。レアの母ちゃんの真似をして胸肉は細かく切って片栗粉をまぶした。彩りにピーマンとニンジンの細切りも入れた。毒ニンニクとトウガラシもおまけで。


 地面にシートを敷いて、木箱が食卓代わりだ。二つの皿に二つの料理を盛り付けて、俺は木箱にダダンと置いた。


「あいよ、お待ちィ!」

「朝から待ったんだけど。これでおいしくなかったら許さないからね」

「お気に召すといいんだが。ではいただきまーす!」


 俺はコカトリスの竜田揚げを食べた。カシュッと小気味よい音に続いてジュワァ……、衣が破れて油が弾けた。

 うわ、うんまっ。期待以上だ。レアも驚きで目をまんまるにしている。


「わ、おいしい! 本当だ!」

「うーん、このコカトリスの相変わらずの味の濃さ……いや、すっごい旨味だ」

「肉の弾力がすっごくて、噛めば噛むほど味が……お、おいし……」

「しっかり血抜きしたおかげか前に食べた時より臭みも少ないな。あの時は空腹と希望が調味料になってたから気にせず食べたけど、やっぱちゃんと処理した方が旨い!」

「なんだろ、漬けてた液のおかげかな? 癖があるんだけど臭いがちっとも気にならない。むしろ食欲をそそる感じ?」

「ニワトリと比べると脂っけが少なくて油と相性がいいな。食べたことないけど、多分キジの方が近いんじゃないかな」

「あー、言われてみればキジの方が色が似てるかも」

「よし、次はこっちの炒め物だ。……うん、バナナは味の絡みがいいな。コカトリスの皮から出た脂を吸っていい味が出てる」

「この木の実の香りがたまらないんだけど! 知らないハーブの香りがして……あー、本当に好き! 本能に訴えかける感じの匂いだ……」

「カレーの匂いに近いかな」

「カレーが何だかわからないけど、これ無限に食べられる」


 二つの皿があっという間に空になった。ふぅ、満足した。充分にモツを食べたシロも腹を見せてひっくり返っている。

 コカトリスとバナナは当分主食になりそうだな。


 レアはポンポンとお腹を叩いた。


「はー、食べた食べた! おいしかった!」

「満足いただけたようで何よりだ」

「コカトリスがこんなにおいしいなんてビックリ! ごちそうサマンサタバサ~」

「……お前いくつだよ」

「? 三十三歳だけど」


 絶対嘘だろ、三十三歳から繰り出されるフレーズじゃねーぞ今のは。

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