ロックバードの親子オムレツ
ようやく巣の下にたどり着いた。結局三時間もかかった。直線距離だと一キロもないんだが、何しろ岩だらけだし登ったり降りたりで時間を食った。
近づくと聳え立つ岩倉の下からブーンと不協和音が伝わってきた。虫の羽音だ。
「何だ?」
「……うわ、ハエだ! すげーいっぱいいる!」
すごい数のハエだ。動物の死骸がたくさん落ちててハエがたかりまくっている。白骨化してるのから腐って蛆が湧いてるのまでより取り見取りだ。
「これはシカか」
「こっちはウシだ。家畜だな」
「うん、これは確かに害鳥だ」
冒険者たちは骨を前に講評していた。
それはいいんだが……。俺はロック鳥の巣があるという岩山を見上げた。
この壁をロッククライミングか。ほとんど垂直に見えるんだけど……。
「ここ登るの? 無理じゃね? 少なくとも俺は無理」
「それはわしの魔術で何とかする」
「ちょっと待て。ロッテ、上を確認してくれ」
「了解」
タカが舞い上がって巣を確認した。
「一羽いる。こっちを見てるけど動こうとしない。……あれは多分、卵を抱えている?」
「お、ならみんなで囲めばボコれそうだな」
でもロッテは首を横に振った。
「無理。狭くて巣の周りに足場がない」
「いや狭いわけないだろ。あのデカいのが住めるんだぞ?」
「巣の枝でビッシリ。とても戦えない」
「そうか。……よし、作戦を練り直そう」
事前に組んでた計画はパーになっちまった。俺たちはマックの号令で新しいプランを相談した。
ロッテによれば巣に陣取ってるロック鳥は茶色いようだ。全体にこげ茶色だけど頭だけ白くて嘴は黄色い。ワシみたいなカラーリングだ。
オスメスで見た目が違うのかな? どっちがオスでどっちがメスかわからんけど。多分メスの方かな? それはわからんけど、とにかくさっきの青いのとは別の個体だ。
「卵が大事なら盗んでやれば追ってくるんじゃないか?」
モスはそう言ったんだけど周囲からボロクソに貶された。
「どうやるんだよ」
「それは、あいつをおびき出して、その隙に」
「どうやって?」
「何とか上に上がってだな……そうだ、卵を盗めば追ってくるんじゃないか?」
「だからどうやるんだよ!」
「堂々巡りじゃねーか!」
「す、すまん」
俺は下手なコントを見ながら思案を巡らせた。そうだよな、卵をこっちに持ってくることができればおびき寄せられるよな。そしたら地上戦だ。レアがいれば何とかなるだろ。いや、レアが戦いたがってるのはもう一匹の方だったか。待てよ、そいつを呼び戻すには……。
「──いや、捨てた案でもないんじゃないか?」
俺は議論を続けるマックたちに声を掛けた。
「ん? どういうことだ?」
「力技だけどな──」
俺が提案した作戦は若干の修正を経て採用された。
レアが飛び立って、それぞれが配置についた。
「ド────ン!」
ロック鳥が巣から蹴り出された。大回りして反対側に飛んだレアが加速をつけてドロップキックしたのだ。
うーん、凄い力だ。崖から空に投げ出されたロック鳥は慌てて態勢を立て直す。
その隙にがら空きの巣から卵を奪ったレアは俺たち目掛けて放り投げた。……あ、二個ある。これは計算外だ。
こちらではドムがロボットダンスを踊りながら口の中で何ごとかを呟いた。途端に地面に緑の光が走った。ドムを中心に複雑な模様が浮かび上がる。ドワーフの魔術か?
模様の中に落ちてきた卵は水の中に落とされたかのように急速にスピードを落とし、地表スレスレでプカプカ浮いた。デッカ。バランスボールくらいあるぞこれ。
同時に崖の上で火の手が上がった。レアが巣を燃やしたんだ。
これが俺たちの作戦だった。
レアがロック鳥を巣から追い出す。卵を奪ってこっちに投げる。卵が無事ならロック鳥はレアよりこちらを優先するだろう。そして俺たちがロック鳥と戦っている間にレアはもう一匹とやればいい。
「こっちは俺たちでやるからレアは青いのとやりなよ」
と俺は提案したのだった。「あのどこからでも見える崖の上で火事が起きたら、さすがに気づいて戻ってくるだろ」と言って。レアはそれに乗った。
そして空の果てに小さな点が見えた。一直線に近づいてくる。もう一匹だ。レアは迎撃に飛び立った。
俺とドムは卵を一個ずつ抱え上げた。
「ヒャーハハハハ!」
「ヒャーッハッハッハッハーッ!」
他のパーティーメンバーが俺たちを囲んで踊り狂う。
「ひゅーほほほほほほ! 巨鳥ーぉハンタ──っ!」
俺も一緒になって雄たけびを上げた。
空の上のロック鳥が眼光も鋭く卵と卵を抱える俺たちを睨みつける。──そして突撃!
急降下するロック鳥目掛けてマックたちはスキルの一斉攻撃を掛けた。射線が集中する──ところがロック鳥の眼前で風がねじれた。何かのスキルだ、攻撃がねじ曲がって逸れていく。
俺は足元に卵を置いて駆け足で逃げた。そして近くの岩に立てかけておいた武器を手に取った。
今回俺は新しい武器を用意していた。マンティコアの毒針だ。中でも一番長くて太い真ん中の針の付け根のところに布をグルグル巻いて持ち手にして、革のケースに納めて腰に提げていた。
そいつを杖の先に括りつけたんだ。
ロック鳥は俺じゃなく卵を掲げたままのドムへと向かっていた。レアを襲ったつがいのように、ロック鳥は直前で姿勢を変えて鋭い鉤爪を突き出した。
ドムは卵を放り出して横っ飛びに転げて回避した。卵は模様の上で浮かぶ。鉤爪は空を切る。
「おどりゃクソ鳥ィ! 死んだれやああああっ!」
そして槍を抱えて突撃した俺はその鉤爪に深々と針を突き刺した!
「ギャーッ!」
タンスの角に小指をぶつけた程度には痛かったんだろう。悲痛な叫びと共にロック鳥は飛び上がった。うおっ、体が持ってかれる。太い足首に刺さった針がボキンと折れて、俺は地面に転がった。
そうして飛び上がりかけたロック鳥だったけど、急に力を失って地上に落ちた。目に見えて動きがおかしくなっている。地面の上で酔っ払いの踊りみたいにバタンと倒れ、無理に起きてはドスンと転ぶ。
毒が効いてる!
「今だっ! やれッ!」
「ナイスタイチ!」
飛べなくなったロック鳥をマックたちが取り囲んだ。寄ってたかって切りつけて串刺しにする。辺り一面血まみれだ。
怪しかったロック鳥の動きがますます鈍り、やがて地面に倒れ伏して、まったく動かなくなった。
もう一羽の青いのも空の上でレアがリベンジに成功していた。
……勝った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
翌日、俺は朝から料理の支度をしていた。昼メシにロック鳥の卵を振舞うと約束していたのだ。
昨日町まで戻ったときマックたちは「おい、祝勝会やろうぜ!」と言ったんだが、俺はキャンセルさせてもらった。精魂尽き果てていた。
前日の山登りの疲れ、夜警の睡眠不足、移動、戦闘と来て山を下りたんだから仕方ないだろ。そこからまた町までも結構距離があったし。今日も体中が痛い。
俺だけじゃない。スキルを使いっぱなしだったロッテも魔力が尽きかけてフラフラしていた。
そこで祝勝会は今夜に繰り延べすることにして、昼は戦利品の卵を食べることにしたのだった。
さて、タマゴ料理と言えばなんと言ってもオムレツ──なんだが、俺オムレツ作るの苦手なんだよな。腕がなくて。
そこでちょっと考えて、スパニッシュオムレツを思いついた。あれなら誰でもできる。
まず具材としてジャガイモと玉ねぎを用意した。これさえあればあとは何を入れてもいいのがスパニッシュオムレツのいいところだ。
それからロック鳥のモモ肉。大体は売っちまったんだが一塊拝借していた。こいつは筋張って硬くて、そのままだと食えそうにないんでミンチにした。
あとはいつもの毒キノコ。せっかくなので毒ニンニクも入れよう。
また今回は工夫して毒バナナの葉っぱを乾燥させて粉にしたものを入れることにした。これがあるのとないのとじゃ全然違うからな。すり鉢で頑張ったぞ。
あればチーズを入れるとコクが出るんだが、モモ肉が多いんで今回は見送った。
じゃあ焼いていくか!
まずはフライパンに大量のオリーブオイルを投入。刻んだ毒ニンニクを常温から加熱する。
油が温まったらジャガイモと玉ねぎを加えて炒める。半分方火が通ったらモモ肉ミンチと毒キノコも入れる。
全体に八割方火が通ったら塩と毒バナナの粉をダバッと掛け回してよく混ぜ、溶き卵を入れる。
蓋をして弱火で加熱してしばらく放置する。
……そろそろどうかな?
蓋を開けたらほわっと湯気が立ち昇った。毒バナナの魅力的な香りも一緒に。
やって来ていたレアはクンクン匂いを嗅いだ。
「いい匂い。毒バナナみたいな匂いがしてる」
「毒バナナ入れたからな」
「なーんだ」
「ロック鳥って肉食だからな。これがないと多分臭くて食えん」
ひっくり返してもう一回加熱して出来上がりだ。
と言っても卵があんまりデカいのでフライパン一枚では焼き切れなかったんだけど。焼けた端からストレージに入れておいてもらって、俺は次から次へと同じものを作った。
「ようタイチ、おはよう!」
「調子はどうだ?」
「腹減ったー」
オムレツを焼いていたらマックたちがやってきた。
「今日の昼食はこれ、親子オムレツだ!」
リアルに親子だもんな。何だか残酷な気がしないでもないが気にするな。
「お、いい匂いしてんじゃん」
「まあこれしかないんだけど。でもこれ肉も野菜も炭水化物も全部入ってる完全食だからな! こいつで昨日の疲れを整えて夜に備えてくれ」
「よし、では食うぞ!」
「……うん、ウマイ」
「いやめっちゃウマイじゃん!」
「タマゴが濃厚! 肉も悪くないんだけど、それより謎の香りがすごいコクを与えてて……」
「何というか、妙に癖になる味だな」
「主食としてイケそう」
「うーん、おかわり!」
「いくらでもあるぞ、どんどん食え!」
オムレツは好評で全員腹いっぱい食ったんだが、卵の量があまりにも多くて残ってしまった。しばらくはこれを食べて凌ごう。
それとシロにはロック鳥の内臓をちょっとずつ切り取ったものを盛り合わせて食わせてやった。うーん、こんなものを食ったオオカミはこいつが史上初かもしれん。




