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キメラ(※)

 火口が青く燃えていた。

 青い炎が火口のあちらこちらに陽炎のように揺らめいている。それが時折りブワッと高く立ち昇ったかと思うと別の場所では溶けた炎が流れ出して滝のように落ちている。

 太陽が出てる時には気づかなかった。これがこの世の光景か? 幻想的ですらある。


 夜は順番で見張りをしていた。レアは野営を嫌がって家に帰ってしまったので、残りの六人で三交代でやった。

 俺はドワーフのドムと組んで真ん中の時間帯の担当だった。寝て、起きて、寝てで一番辛いやつなんだが、明日の戦闘では俺たちは多分役に立たない。主力となる連中に集中して睡眠をとってもらうことにしたのだった。


「綺麗だな……」

「硫黄が燃えておるのじゃな」

「いや、すげーな。こんなの見たことあるか?」

「わしらの祖先が住んでおったところにはあったという話じゃがな……。もはや遠い世界のことよ」

「そうかー。俺のところだと東南アジアにこんな感じのところがあったって聞いたことあるな」

「東南アジア……とは?」

「それはな──」


 俺たちは炎を眺めながらお互いの故郷の話をした。




「おーい、そろそろ起きろー」


 日が昇ると同時に揺り起こされた。

 俺は半分寝ぼけながら体を起こした。あー、眠……。半端に寝て体が重い。昨日は普段使わない筋肉使ったしな……。


 みんなで輪になって朝メシを食った。持参のパンはモソモソしていた。レアが帰ってしまったもんだからろくな食材がない。

 これだけは沸かした湯でパンを飲み込んでいたら空の端にレアの姿が見えた。気軽に飛ぶなあ。


「あんなに苦労して登ったのに」

「真面目に冒険者やっとるのがバカバカしくなってくるの」


 思わず愚痴ったら隣でドムが同意した。


 空からレアが手を振ったので振り返した。

 ……と、そのさらに上空から迫る影があった。すげえ高いところを飛んでたんだろう。小さな点のようだったそいつは近づくにつれてその威容をあらわにした。

 昨日見た時にはサイズ感がよくわからなかったが隣にレアを置いてみるとメチャデカかった。比較したら縦幅で五倍もある。翼を広げた長さはさらに倍だ。全身がメタリックな光沢のあるブルーで嘴と鉤爪だけ黄色い。

 あれがロック鳥か!


 こっちに気を取られてたんだろうな。レアは気づいていないようだった。


「レアー、うしろうしろー!」


 みんなで指さしながら大声で叫んだんだが、何を勘違いしたのかレアはその場でダンスを踊り始めた。キレッキレだけどそれどころじゃないって!


 ロック鳥はガツンとつかみかかった。


「ぁー……」


 踊ってたせいで狙いがブレたんだろう。つかみ損ねた。爪に弾かれてレアは落ちた。


「お、おい、エルフの姉ちゃんやられちまったぞ!」

「まあレアだし大丈夫だろ」


 あいつ頑丈さに自信がありすぎるせいかしょっちゅう油断してるんだよな。同時に二つのことを考えられないだけかもしれないけど。

 近くに落ちたので様子を見に行ったらレアはちょうど人型の穴から這い出て来るところだった。


「痛たたた……」

「よう、おはよー」

「おはよ……。それはともかく、今のなに?」

「ロック鳥。ほら」


 俺は上を指さした。輪を描いて飛んでいたロック鳥は小さな獲物にはこだわらないのかスィーと町の方目掛けて飛んで行った。


「殺じでやるー‼」

「まあ待て待て、俺たちも出発するから一緒に行こうぜ」

「うー……。あいつは絶対私が殺すから!」




 さあ、出発だ。

 今回挑戦するルートは一直線に火口を突っ切る。あらかじめロッテのタカで確認した最短ルートだ。

 山の外側を回っていくルートだと距離は長いし、モンスターはいるわロック鳥に見つかるわでたどり着けたパーティーはいないらしい。この毒ガスの中ならモンスターとも遭遇しないだろう。

 しかし火口の中は岩だらけだった。ここと比べたら昨日の山登りはまだ道だった。毒は平気だけど転んだだけで大怪我しそうだ。俺はまたも杖を頼りにひいひい言いながらついて行った。


 今日もロッテのタカは空から警戒していて俺たちの行く手にモンスターを発見した。


「えっ、こんなところにモンスターがいるの?」

「キメラ。あいつは毒が平気だからここをねぐらにしてるんだと思う」


 ビックリして尋ねたら解説してくれた。

 マックたちはひそひそ声で相談を始めた。


「どうする? 迂回するか?」

「うーん……。しかしなぁ、足元が悪くて思ったより時間食ってんだよな。この上回り道したらどんだけかかるかわからん」

「いいよ、じゃあ私がやってあげる」


 そしたら横からレアが手を挙げた。


「いいのか?」

「タイチは私のことちょーっと舐めてるみたいだから。私の力の一端をほんの少しだけ垣間見せてあげる」


 俺たちはそのまま真っ直ぐ進んだ。……うわあ、本当にいたよ。

 そいつの頭は三つあった。ライオンとドラゴンとヤギで、どれもデカい。体はサイくらいの大きさで、前足はライオンだけど後ろ足はヤギだ。コカトリス同様尻尾は蛇。


「気をつけろ、そいつ火を吐くぞ!」

「もっと早く言ってくれよ!」


 マックの警告に俺はビビった。今さら言われてももう間合いのうちなんだが。困る。

 その時、レアの背中に真っ白な羽根が生えた。


「エルフの伝統武術、精霊闘技(エレメンタル・アーツ)──しっかり目に焼き付けなさい!」


 そう言うなりレアはいつもの調子で飛び出した。高速で突っ込むレアを前に、キメラは──いきなり炎を吐いた! 火炎放射器みたいな大火炎が火口を突き抜け俺たちを巻き込んだ。


「ヒエッ!」


 炎はドムの前で壁にぶち当たったように広がって散った。シールド系のスキルだろう。余熱でチリチリ肌が焦げる。


 そんな感じで空間を満たした炎だったけどレアには当たっていない。ヒラリと身をよじってかわしてすれ違い、その勢いを乗せて胴回し回転蹴り!

 ガツンとすごい音がしてドラゴンの頭がひしゃげた。明らかに頭蓋骨までめり込んでる。回転の勢いのままキメラの潰れた頭に手をつく──接触した手のひらから電撃がほとばしった! あれはかわしようがない、キメラの体表に火花が走る。乾いたオゾン臭が硫黄の臭いに混じる。


 そしてその後のレアの攻撃は……すっげえコンビネーション! 連打の繋ぎが見えねー。痺れたキメラはサンドバッグ状態だ。レアの攻撃を棒立ちで受け続けている。

 しかも一撃一撃に謎の衝撃が乗っている。マンティコアの時と同じだ、体毛が逆立って波のように伝わるのが見える。キメラの表面に波紋が走り続けて尻尾の先を弾けさせた。


 キメラが哭いてる……。あの小さな手のどこにそんな威力が隠されているのか、キメラの巨体が縦に横に揺れる。

 キメラの反撃は全然追い付かない。レアは速いだけじゃなく【飛行】スキルで三次元的な運動を実現している。おっぱい小さいからブン回しても大丈夫なんだな。


 そして最後にレアの右ストレートがライオンの顔面にめり込んだ。今度打ち込まれたのは衝撃じゃなかった。波紋の代わりに渦巻く炎がキメラの全身を取り巻いた。

 燃え盛る炎の中でキメラだったものは少しずつ崩れていった。


「どう?」


 レアは得意げな顔をした。冒険者たちは軍隊式で最敬礼した。


「サー! イエッサー!」

「レア殿が最強でアリマス!」

「そうでしょうそうでしょう。わかったら讃えなさい。敬いなさい」

「アイシー、マム!」

「ん、よし。で、タイチは?」

「え、俺もやんの? えーっと、レア、君は素敵だ。すごい。カッコいい。その手は岩を押し上げるシシュポスのように力強く、その翼は太陽に向かうイカロスのように美しい」

「それ褒めてるの?」

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