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ユニコーンのモモ肉のユッケ

 さらに進むと荒れ果てた岩場に出た。草がまばらになってゴロゴロ転げた石がむき出しになっている。川で運ばれたものじゃないらしく角がゴツゴツしている。当たったら痛そうだ。


 ここまでくると周りには岩しかなく見晴らしがいい。逆に言えば身を隠すところがない。

 俺たちはここで簡単に昼食を済ませた。いよいよ本格的に山登りだ。


 この山は登山道が整備されているわけじゃない。ただの荒れた山だ。俺は長い棒を拾って杖にして、歩きにくい斜面をほとんどすがりつくようにしてよじ登った。

 転移してきてすぐの頃なら息が上がってたな。俺、こっちに来てからもう三年分くらい運動してるよ。シロは楽しそうにあっちに行ったりこっちに来たりしてる。


 冒険者たちは俺よりずっと体力がある。だから俺よかずっと確かな足取りで登ってるんだが、それでも辛そうだ。今回は登山ということで装備を軽いものにしてるとはいえなかなかの重装備だしな。

 レア? 飛んでるよ、いかにも身軽に。タカと追いかけっこしたりしてロッテが迷惑そうな顔をしていた。


 時々モンスターと戦闘しながら俺たちは山を登った。

 レアはもちろんこいつらも普通に強いんで危なげなく山頂に到達した。その時にはもう日が暮れかかってたけど。


 この火山は独立峰で近くには他に高い山がない。だからここからは山の周りをぐるりと眺め渡すことができる。


 南の方を見ればアサカの町が見える。あー、こうして見ると小さな町だな……。町からは細い、糸のような街道が東に向かって伸びていた。あの先にはまた別の町があり別の人の営みがあるのだろう。


 一方西側を見ればどこまでも森だった。なだらかに広がる山裾から続く森は彼方に緑の地平線を描いている。

 その地平へと巨大な太陽が落ちて行く。

 空は一面夕暮れ色だ。雲まで赤い。世界の端から真っ赤な光線を放射して、緑の森を自分の色に染めている。


 すごい光景だ……。太陽の圧倒的なエネルギーがダイレクトに伝わってくる。元の世界じゃ一生拝めなかったかもしれん。

 ほとんど茫然自失で落日を眺めていたら疲れも一瞬忘れてしまっていた。


 夕日から目を背けて後ろを見れば、山の上には大昔の噴火の跡が大きく口を開けていた。火口を取り囲んでギザギザの王冠みたいに起伏が連なっている。

 その起伏も高さに差がある。俺たちが今立っているのは起伏の起でも一番低い方のてっぺんで、反対側にはまた聳え立つような壁が見える。


「あそこの頂上の辺りに巣があるんだよ」


 そう言いながらマックが指さす先に、ちょうど巨大な鳥が舞い降りるところだった。


「あれがロック鳥か……。デカいな……」

「あれに挑戦するのは明日だな」

「今夜は英気を養おうぜ」




 火口の縁に立ってると風が強くて火が熾せない。俺たちは下の窪みに移動して設営した。

 毒ガスの臭いなんだろう、火口の中にはずっとマッチが燃えるような臭いが漂っている。毒無効じゃなかったら大変だったんじゃないかな? でもこの臭いは正直嫌いじゃない。


「おい天ぷらやろうぜ、天ぷら」


 モスがそんなことを言い出した。


「なんだ、気に入ったのか?」

「もちろん、大いにな! マンティコアの尻尾旨かったよなぁ……」

「毒キノコも……」

「え、お前らそんなもの食ったの?」


 ネスたちは気持ち悪そうな目で二人を見ていた。


「気に入ってもらえたのはありがたいんだが、油ねえし」

「安心しろ、持ってきた」

「え? この山の上まで?」

「わたし! わたし!」


 レアが両手で自分を指さした。ストレージか。

 空間の印に手を突っ込んでレアは天ぷら鍋を引っ張り出した。いくつかの壷も。


「こっちがオリーブオイルでこっちがごま油」

「食材は?」

「えーっと……コカトリスでしょ。アルミラージでしょ。マンティコアの残りがちょっとだけ。あとは毒バナナと毒ニンニクと……マンドラゴラと……、それから毒キノコがいっぱい!」

「ちょっと待て!」

「全部毒じゃねーか!」


 ネスとドムがツッコミに回った。顔が必死だ。


「【毒無効】スキルが効いてるから大丈夫だ」

「そりゃ理屈の上ではそうかもしれんが……」

「いいから食ってみろって。レア、薄力粉と卵ある? ないと天ぷらにならないんだけど」

「まかせて。いっぱい買ってきた」


 レアは食材をゴソッと出した。

 この世界だと卵も油も高いんだが、レアは金をあげたらあるだけ使っちゃうからなあ。金額を見ないで目についたものを片っ端から買ってきたに違いない。

 まあ、正直助かるけどな。天ぷらってほぼ油の味なんで、いい油を使えば腕がヘボでも旨くなる。


「あ、こっちはコカトリスの卵」

「おお。使わせてもらうわ。そいつを活かすとしたら──」


 ……あ、そうだ。せっかくだからアレ食うか。えーっと、七人分だとこのくらいか?


「それじゃ準備するからさ。さっきのユニコーン、肉にしてくれない? こんくらいでいいから」


 俺は両手のひらを揃えて突き出した。このくらいあればいいだろう。


「あーあとレバーも。シロの餌にするから」


 ロッテはユニコーンの肉をざっくり切り取ってくれた。注文通りだ。シロにはいつも通りレバーを食わせてやった。


「これ、薬効があるの」


 ロッテがそう言うので指で輪を作って覗いたら青く光って見えた。滋養があるってだけのようだ。


 さて、ユニコーンの肉を細切りにして器に入れて、ごま油を掛け回す。塩をガッツリ振って、毒ニンニクの薄切りを散らして、真ん中に卵黄を乗せる。せっかくだからコカトリスの卵を使おう。天ぷらにしちゃったら味がわからないもんな。


「──よし! はい、お通しな。天ぷらが揚がるまでこれ食っとけ」

「なんだこれ」

「ユニコーンのユッケ。旨いぞ? かき混ぜて食え」

「マジかよ。では……」

「……マジだ」

「ガチでうまい」


 まあごま油と卵黄を絡めて塩とネギを効かせたら大抵の生肉は旨い。馬肉でもマグロでも旨い。なんなら刺身こんにゃくでも旨いくらいだ。

 六人がユッケを食っている間に俺は天ぷらをジャンジャン揚げた。


「へい、お待ちぃ! ドンドン揚げるからガンガン食え」

「こりゃなんだ?」

「マンティコアの尻尾」

「いきなりゲテモノ食わせようとしてんじゃねえ!」

「いや、マジで旨えんだよこれ。この前食ったから間違いねえ」

「お前らがそういうなら……」

「これで最後だから味わって食えよー」

「で、では……」

「アフッ……」

「……マンティコアうんめっ!」

「何これ、異次元の味……」

「マジか、ちょっと信じられないぐらい旨いじゃないか」

「おい、もっとないのか?」

「残念、店じまいだ」

「くぅぅ!」

「今度狩ってくるわ」

「いれば、な」

「俺たちは腹いっぱい食ったぜ!」

「クソッ、なんて時代だ!」


 コカトリスは竜田揚げにした。アルミラージの天ぷらが鳥天っぽくなりそうだったから差をつけた。


「味濃ゆっ! これ食っちまったらもうニワトリ食っても味気ねえだろ」

「アルミラージ柔らけぇっ!」

「それになんだかいい匂いがする」


 それからバターがあったのでついでに揚げた。

 薄切りにして片栗粉をはたいて、レアに凍らせてもらって、衣をつけて一気に揚げる。


「ほい、次!」

「何これ」

「バター」

「え、何揚げてんのお前」

「そんなもん食えるのか?」

「まあいいから、騙されたと思って食ってみろ」

「じゃあ……うまっ」

「何だこれ、意外な旨さ! 揚げパンのメッチャウマイやつ!」

「こんな揚げパンないよぉ! サクッとしてフワッとしてバターがとろけて……。幸せパン……」

「何ちゅう頭の悪い食いもんじゃ……うまいけども」


 あ、意外と受けた。喜んでバクバク食ってる。

 でもこれ、毒じゃないけどある意味毒だよな。こんなもの常食してたら脳が詰まるか心臓が止まる。


「キノコ! キノコちょうだい!」

「ん? キノコ欲しいのか、いやしんぼエルフめ」

「あーんっ。……んふふ、美味美味」


 レアが騒ぐので箸の先につまんでスーパーキノコの天ぷらを差し出すと幸せそうにパクリといった。

 やれやれだぜ。雛に餌をやる親鳥の気分だな。

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