第6話 廊下での一幕
バシャ。
廊下に出て、出会い頭にメイドたちから、冷や水を浴びせられた。周りは、メイドたちと私を見下す貴族たちしかいない。全員から、くすくすと下卑た笑いを向けられた。これは過去にも経験がある。
わっちが花魁から、誰でもウェルカムでーすみたいな遊女に転落した時の目とおんなじだ。この目はトラウマだ。誰にでも抱かれるようになるなんて、わっちは思ってすらいなかった。生理が来なくなって、堕胎して大量に出血して……ああ、思い出したくもない。
反射で下を向いてしまったせいで、髪の毛から水がぽたぽたと滴っている。しかもぶっかけられたのは汚水だったからか、着ていた灰色のドレスに何かの虫の死骸やら糞がついていた。まったくもって汚い。
灰色のドレスがお似合い、だなんてあのクソ皇太子にも言われたけど本当にそう思う。わっちは所詮、地に落ちたことのある花魁だ。わっちが禿のときに君臨してたお姉さま方は、こんな妊娠するなんてヘマしていなかった。
そもそも言われていたのに人を好きになったのが、よくなかったのだ。また、人を好きになるのが怖い。だからわっちは、わっち自身を愛することによって自分を守るのだ。今だって、嘲笑の目線なんかに屈するなんてわっちのプライドに傷がつく。
「はぁ……よくもまぁこんな汚い水を集められましたわね。そちらの方に感激いたしますわ」
髪を右手でかきあげながら言う。巻いた髪におそらく引っかかっていた虫かなんかを触ったが、気にしない。虫は嫌いだけれど、虫如き小さい生き物よりはるかにわっちは強いのだ。
「ほら……言うじゃないですか。水も滴る良い女って……まぁこれは汚水ですが。そんな汚水でも私の見目の綺麗さは、さらに良くなるんではなくって?」
そういうと、周りを囲んでた奴らは嘲笑の目から、怒りや困惑の目に変わる。
「はぁ? そんなネズミの糞まみれの雨水被った、灰色ドレスが似合う女が何言ってんの?」
「良い女は何を身に纏っても、綺麗に映えるものよ。それに、あなたの方がよっぽど汚れているのでは?」
「はっ、何を根拠に。私は真っ当な侯爵家の出なのよ? 汚れているわけないじゃない。ほんとこれだから敗戦国の人間は、学がなくて困りますわ」
はーむかつく。でもまぁわっちは、この程度じゃ心は揺れ動かない。わっちの反応が、つまらなかったのか囲んでいた奴らはだんだんと減っていった。
「第三夫人とも呼ばれる方が、ネズミの糞まみれで何をやられておられるので?」
メイドは明らかに上から目線かつ、さっきいた貴族連中の嘲笑を含んだ目線で聞いてきた。一応わっちの担当のメイドという職務なだけあって、対外的なことは気にしているんだろう。わっちがメイドだったら、主人がネズミの糞まみれになっていたら即風呂場行きだ。
「ああ、ちょうどよかった。水桶を用意してくださる?」
「……かしこまりました」
わっちが知ってる昔は上下水道の状態がひどい、って聞いていたけどこの国は発展していた。井戸のようなものもあるし、清潔な水を汲むことができる。
(はぁ……以外と攻略難航するかもな)
この様子を金髪の美女が舌打ちして、様子を伺っているなんてわっちはつゆも知らないのだった。




