第12話 馬車内での駆け引き
パーティーの帰り道の馬車にて。ツェヴァルトは正妻のヴィーリャと帰るのかと思ってたけど、今晩はわっちと一緒に帰るらしい。たしかに用意されてた馬車は、悪いものではなくて一級品だったからおかしいとは思っていた。
ダンスを一緒に踊った相手ではあるけど、まだツェヴァルトの本性がよくわかっていない。夜を一緒に過ごしたわけでもない。夜のお相手するときも演じれる男はいるし、ツェヴァルトもそのタイプだと思っている。
わっちはこれでもツェヴァルトは、一番オトすのが難しいと思ってる。今日感じたことはたくさんあった。仮面を被る技量、人を見る目、自分にリターンがあるかないかで友好関係を深めるかどうか決めていた。もちろんバレないようにして、だけど。
わっちはゆくゆくは、この国を掌握したいと思っている。この国を掌握したら、この男尊女卑の世界や何もかもを変えてやるつもりだ。今日も結局、女だからと見下された場面が多かった。しかもわっちは敗戦国で売られた身分。
ツェヴァルトが出したらしい『美人な女を差し出せ』という条件だけで選ばれただけの人間。戦争がなければ、負けなければわっちとして、自我を出すこともなかった。わっちが目を覚ました、ということは世界にとってわっちが必要だったってことだろう。
そんなことを考えながら、ツェヴァルトを見る。わっちは薄化粧であんまり化粧崩れを隠す必要はないから、扇子は今持ってない。ツェヴァルトは腕組みをしていた。そしてふ、と視線が交わる。
「シュレイナ、お前俺のこと利用しようとしてるだけだろ?」
「ふふ、そんなことありませんわ」
利用じゃなくて、わっちの虜にしようとしてるだけ。利用はしようと思ってるけど、ツェヴァルトはただの踏み台だ。
「ふーん。お前のギラついた目を見てると、食っちまいたくなる」
「味見、してみる?」
自分の人差し指をぺろりと舐めて、ツェヴァルトを誘ってみる。さっきからあったギスギスした雰囲気は無くなって、馬車の中は妖艶な空気が漂う。ガタガタと地面を跳ねる振動と音だけが、2人の間を過ぎていく。
「ふーん……じゃあお手並み拝見ってとこか?」
首から顎にかけて手を添えられて、口付けられる。お互い目は開けたまま。至近距離で目があって、ツェヴァルトの瞳の奥にちらりとした独占欲が伺える。音もなくただ、唇を重ね合わせるだけ。角度を変えながら啄むように、キスをされる。
(舌も入れないなんて、コイツヘタレかよ)
唇を少し離された時に、ツェヴァルトの薄い唇をちろりと舐める。ツェヴァルトも慣れてはいるのか、舌を絡め取られる。唇は触れずに舌だけで、キスをする。時間として30秒くらいだっただろうか。コンコンと外から馬車のドアをノックされ、開けていいか御者に尋ねられる。
「ちょっと待て」
「かしこまりました。御用がお済みになりましたら、お呼びください」
御者にそう言い、ツェヴァルトとの距離が開く。
「お前、慣れてるな」
「初めての殿方との口付けだったのに……ひどいですわ」
この世界ではお初だ。何も嘘は言ってない。ありえない、と思ったんだろうツェヴァルトは、片眉を釣り上げていた。
「初めてだと? 娼館の女より手練なくせになに言ってんだ……まぁいい。俺はお前を射落としてやる……いいぞ。開けろ」
そう言って、ツェヴァルトと一緒にわっちは馬車から降りた。
射殺す、ね。いいじゃない。わっちだってあんたをオトすつもりなんだから、それくらい強気で来てくれないと困る。
「ツェヴァルト様」
「あぁ? 何だ」
「ツェヴァルト様が私を射殺すのではなく、私がツェヴァルト様をオトすのです。勘違いなさらないようにしてくださいまし」
わっちの思うシュレイナ像ではしない、口角だけを釣り上げてそう言う。
「はっ、言っとけ」
ツェヴァルトの反応が前より、良くなった手応えを感じながらわっちはメイドたちに連れられ自室へと戻るのだった。




