第13話 レンジー=フォン=グリトリビア
side レンジー=フォン=グリトリビア
「嫌な女が現れたわね、コーデム」
私はそう言って、私付きの執事であるコーデムに話しかける。
「レンジー様のおっしゃる通りです。側室であるシュレイナ様は、ツェヴァルト様の寵愛を受けようと画策しているようですね」
「ええ。正妻であるヴィーリャ様だけでなく、あの女まで現れて厄介だわ」
ヴィーリャ様は、側室の私にも優しく接してくれた。だけど、私はヴィーリャ様を利用するつもりだった。だって、側室の私にツェヴァルト様は興味がない。私はどちらかと言うと幼い顔つきだし、大人っぽく美麗な顔つきをしているヴィーリャ様の方がツェヴァルト様の好みなんだろう。
隣国にとても綺麗な姫君がいる、ということは聞いてたけど、まさかあそこまでとは思っていなかった。条約で『美しい令嬢を差し出す』ということが条件だった、と聞いて納得してしまった。
女の私ですら、あのダンスシーンでは見惚れてしまったのだ。世の中の殿方はきっと、あの女––––シュレイナに一目惚れしてしまうであろうことは明白だった。
しかもシュレイナは、盤戯も嗜むらしい。殿方だけが嗜む盤戯をするだなんて野蛮な、と思ったがきっとシュレイナは見事な手腕を見せ勝ってしまうのだろう。私と違って、支配する側の人間なのだろう。
「コーデム、このままだとツェヴァルト様の寵愛を受けるのは難しくなってしまうわ」
「……はい。ですが、ここでレンジー様が第二夫人としての格の違いを見せつけるのはいかがでしょうか」
「格の違いね……簡単なようで悩みどころね」
見た目で勝つことができない、と今日悟ってしまった。この前、城門前で全裸にさせられて歩かされた女とは思えないほど、堂々としていた立ち振る舞いだった。しかも、私と同じように幼い顔立ちを持ちながらも、ヴィーリャ様のような大人っぽい顔立ちも両立してバランスのいい顔立ちをしていた。
私が小さい頃は、見た目も整っていると思っていた。だけど現実はそんな甘くない。ヴィーリャ様のように美しい方はいるし、そもそもグリトリビア家の方は美しい方が多かった。心が綺麗かと言われたら、微妙なときもある。
「レンジー様。あの女、どういたしますか? 私共が手を回すこともできますが」
「とりあえず、様子見ね……今、私が動いたところでツェヴァルト様にバレて、正妻の位置のしあがれるわけでもありませんし」
この間、シュレイナは廊下でネズミと虫だらけの水をかけられたらしい。けど、水も滴るいい女でしょ?と言い返したらしい。そんな女にどう勝て、と言うのだ。これは、貴族連中がシュレイナを試すためにやった、とか聞いたが私なら耐えられない。
「ヴィーリャ様を踏み倒すプランも考えておりますし、シュレイナ様を蹴落とすプランも策定する予定にございます。レンジー様はご安心してお過ごしくださいませ」
コーデムにそう言われるけど、私はヴィーリャ様を初めて見た時のような感覚がこの間シュレイナを見た時に感じなかった。うまく言葉に表せないが、シュレイナに丸め込まれるような感覚に襲われたのだ。
人を射抜くような目、そして人を魅了する見た目。私にはもってないものをたくさん持っているシュレイナが羨ましくてしょうがない。なんで、私にはこんなに何もないのだ。皇太子の側室という光栄な立場を得られてはいる、とはいえ私は物足りない。やっぱり、寵愛を受けてこそだと思うのだ。ツェヴァルト様、なぜ私を愛してくれないのですか? と思う。
王城に着き、馬車が止まる。先についていたであろうツェヴァルト様は口を拭いながら馬車から降りてきていた。拭った手袋には少しばかりの口紅がついているように見えた。
(あの女、まさかツェヴァルト様と口付けを……!?)
ツェヴァルト様の後に出てきたシュレイナは不自然に口紅が取れていて、口付けをしていたことは明らかだった。なんで、と疑問が頭の中で反芻する。
「コーデム、やはり遠慮はいらないわ。シュレイナに対しては早々に準備してちょうだい」
「畏まりました、レンジー様」
恭しく礼をしたコーデムを見て、私は城へと歩み始めた。




