勇者達[悪への断罪]第12話
『強き仲間の集い』メンバー
サイラス 騎士見習い
ハービット ハーフエルフ 精霊使い
山間の村ザハマ。
普段、ザハマ村の夜は闇に包まれ、静けさが全てを覆っている。
しかし今夜のザハマ村は、各家に明かりが灯り、寺院の周りには篝火が炊かれおり、寺院を明るく照らし出している。
今日の寺院は人の出入りが頻繁で、多くの村人も詰めていた。そんな寺院の内部では‥
ーー今夜は誰かが来るみたいね。こんな夜中に来るなんて、きっとろくな奴じゃないわねーー
人の行き交う廊下を、姿隠しの魔法で堂々と歩くシェリー。
「寺院の構造から言って、地下室が怪しいわね。取り敢えず、地下への入口を探さないと」
独り呟きながら歩いていると、通路突き当たりの扉だけ鉄扉となっており、人の出入りが無く、否にも怪しそうに見えた。
「きっと、あそこね」
シェリーは、廊下から人の気配が消えるのを待ち鉄扉へと潜入する。扉を開けると、冷たい風がシェリーの首元をヒヤリと通り抜る。扉の中は5m程の通路が続き、その先が階段になっていた。
人の気配を気にしながら階段を降りると、この建物の構造からすると真新しい通路で、左右へ別れたT字路となっていて、左の方からは微かに人の話し声が聞こえた。
「先ずはこっちかな」
シェリーは、人の声のする方へと向かう。そこは、扉が鉄格子しなった部屋が並んでおり、通路の奥にひとり男が椅子に座り、頭をこっくりこっくりと半分寝掛かっている。
「あらあら、お疲れなのね」
シェリーは、見張りの男に眠りの魔法を唱え、深い眠りへと誘ってあげた。
『アンロック』
カチャリ ギギギギギィィ
「みんな、大丈夫?」
そこでシェリーが合流したのは、シェリーとは別の場所に捕まっていた、ミンツ、バゼル、ツベリラの3名。3人に怪我はないようで、シェリーは3人の拘束を外し、今の現状を話しながら来た道を戻り地下のもうひとつの通路へと向かった。
シェリー達が向かったもう一つの通路は、厳重に鍵の掛けられた扉が途中に3つもあり、行く手を妨げる…が、シェリーにとっては只の扉でしかない。魔法で扉を次々と突破し、最後の扉を開き中へと入ると、そこは1つの部屋となっていた。
その部屋は石造りとなっており、四隅には蝋燭の台座が薄明かりを照らし、冷たさを感じさせる。10畳程の正方形の部屋の中央には、石で出来た台座が作られており、台座を中心に天井と床に魔方陣が描かれている。そして台座の上には、何かが横たわっていた。
4人は、恐る恐る警戒しながら台座へと歩み寄る。すると、暗がりの中、台座に横たわって居るのが、胸に黒く蛇の紋章の入った短剣を突き立てた少女である事が分かる。
「なんて酷い」
「酷な事を‥」
「早く助けないと」
3人が少女へと手を伸ばそうとした時‥
「ダメよ。少女に触れたら助からないわよ」
シェリーの叫びが3人の動きを止めた。
「その子を今動かせば、確実に死んでしまうわ」
「では回復を」ツベリラが魔法を唱えようとすると、シェリーがツベリラの肩に手を置き「それもダメ」ツベリラはーーなぜ?ーーと言わんばかりに、シェリーの顔を見つめる。
「その子は、呪いの儀式により、呪われてしまっているのよ。だから、その子に掛けられた呪いを解かない限り、助けることは出来ないわ」
そして、シェリーがツベリラの顔を見詰め、
「あなたの解呪の神聖魔法で、この呪いを解ける?」
シェリーの目を見てからツベリラは、1度瞳を外し「私の唱えられる解呪の神聖魔法は、低位のものでどこまで効果があるか分からないわ」そう言って少女を見詰めた。
「でも、やってみるしかない」
ツベリラは、力強い目で少女を見詰めると、両手を自分の前で握り、神に祈るような姿勢で魔法を唱える。
「我遣えし偉大なる神ミスティアよ!我にそのお力をお示し下さい」
『ディスペルカース』
ツベリラが魔法を唱えると、少女の体が光りの粒に包まれようとした‥
パシッ
少女の体を包もうとした光が弾かれ「キャッ」ツベリラがその衝撃に弾かれ、後ろに尻餅を着いて倒れてしまう。
「やはり、私には無理だったみたい」
ツベリラは、少し辛そうな顔で悔しがる。
ーーこれはマリアを連れて来ないと無理ねーーシェリーは、心の中で自分に語り掛けた。
「一旦、出ましょう」
シェリーは、この場を諦め出直そうとしたが、そこにバゼルが口を挟む。
「おいおい、俺達の目的はこの儀式の間を破壊する事で、人命救助じゃないはずだ。俺も酷な事を言いたくはないが、これ以上ここの事に首を突っ込むのは危険なんじゃないか?」
バゼルの言うことは、冒険者としては至極当然の事である。しかしミンツとツベリラは、「はい、そうですね」とは答えられなかった。
そんな2人を優しい目で見詰めてから、シェリーは「大丈夫、私に考えがあるの。だから、少し大変になるけど、この場は離れましょう」
ミンツとツベリラは、辛い葛藤の助け船とばかりに、シェリーに従い、バゼルもミンツが決めることなら従うと、その場を後にするのだった。
寺院の入口で教祖とその横に黒ずくめ男達。
「ムガマド様、やっと到着したようです」
「その様だな。しかし、予定よりも時間が掛かった様だが、大丈夫か」
「先触れの話ですと、領主やギルドの妨害に遇い手こずったようですが、予定の人数は集められたとの事です」
「そうか、ならばよいが」
「それが‥」
「なんだ?」
「同行したグレモール様が、召喚の儀式で自身を悪魔とし、追っ手の冒険者を撃退したとの事なのですが、その際、腕を神の使いに奪われ重傷だとか」
「油断しおって。だが、まさか悪魔に手傷を負わせる者が居ようとは思いもしなかっただろう。仕方ない、到着し次第、村人達に見られないよう寺院の中へ誘導しろ」
「畏まりました」
黒ずくめの人物は、教祖の傍を離れると、闇の中へと姿が消えていった。
シェリー達4人は、寺院の裏手にある部屋に潜り込み、その部屋の窓から外に脱出しようとする。
そして窓を開けたその時、松明を灯した馬車が寺院の裏口に着けられているのが見え、気付かれない様に窓からその様子を伺った。
黒塗りの汚れた馬車は、馬の様子からもかなりの距離を旅して来た様に見える。馬車の後ろ側が寺院の裏口と向き合い、その帆が捲られる。すると、馬車から出てきたのは、6人の少女達、周りにはそれを誘導するように黒ずくめの者達が数人取り巻いてた。
そして、少女達が寺院の中へと連れて行かれた時に、馬車から黒い生き物が出てきた。
その姿は、真っ黒な全身で頭に小さな羊の様な角が生えていて、異様な顔、体をしている。しかし、右肩からごっそりと右腕が無く、それが自然ではない事をその生き物の歩き方が物語っていた。
「あれはなんだ?」
右手が無く、弱っている様に見えながら、その強さと邪悪さのプレッシャーにバゼルの口から言葉が漏れていた。
ツベリラは、生唾を飲み込み、額から汗の雫を一つ溢し「あれは悪魔よ、間違いない。下級悪魔の様な、たまに見掛ける悪魔とは違うもっと恐ろしい存在だわ」
ーー確かにあれは上級悪魔。種類は色々いるけれど、あれは人間に近いタイプの様ね。私でも倒せるけど、しくじった時、周りに犠牲が出かねない。誰かカバーに入れる仲間が必要ねーー
シェリーも今争うのは避け、人が居なくなるのを見計らい寺院を後にするのだった…
暫しの静寂が村に訪れた‥
ガタンッ
「逃げるんだっ!」
「逃すかっ!」
寺院の入口扉を蹴破り、子供達と姿を現したのは、若き騎士見習いのサイラスとハーフエルフのハービット。サイラスは剣を構え、今出てきた寺院の入口を体で塞ぎ、ハービットは子供達を連れて先へと駆けていく。
「俺は気にせず、早く子供達を安全な場所に!」
サイラスの叫びに、ハービットは奥歯を噛み締め、子供達の手を引き走り出す。
ハービットが駆け出したのも束の間、「ぐわっ」とサイラスの叫びと供にサイラスの体が宙を舞いハービットと子供達の進む先に落下する。
「「キャー」」
子供達の悲鳴と供にハービットは足を止めて振り返る。そこには忘れもしない、仲間達の命を奪った真っ黒な片腕の上位悪魔が立っていた。
気が付けば、寺院の入口からは悪魔と数人の黒いローブを着た男達と司祭の様な格好の人物が出てきており、周りの林からは村人と思われる人々がハービットと子供達を囲んで居た。
「なんだ?なんだ?教祖様の傍に居る黒いのは?」
「恐ろしい顔してるぞ」
「あれは何かの変装か?」
村人達が、教祖の傍に居る悪魔を見てざわめいている。
サイラスは悪魔に蹴り飛ばされた胸を抑えつつ、剣を杖にして立ち上がり村人に叫んだ。
「みなさん、あれは悪魔です。あそこに居る者達は悪魔の使いです。どうか騙されないで下さい」
サイラスの叫びに村人達がざわめくが、教祖のムガマドは落ち着いた様子で、堂々と弁舌をする。
「村人達よ。この者達は、寺院に押し入り子供達を拐かして逃亡する輩。私の横に居るのは、神の奇跡にて力を与えられ、強化された我が弟子グレモールである。どちらを信じるか、皆には分かっておろう」
教祖の言葉を聞き、村人達は「そだそだ」「んだんだ」と教祖に頷く。
教祖達と村人達の包囲が徐々に狭まり、サイラス達に詰め寄る。
「くそっ。ハービット、俺が血路を開く。子供達を連れて何とか逃げてくれ」
サイラスの言葉にハービットは悲しそうな顔をして「わかった」と呟く。ハービットには、無駄死にで終わらない最善の方法であることが伝わったのだ。
「いくぞっ!」
サイラスが剣を握り締め、叫んだ! その時‥
「そこまでだ」
取り囲む村人達がバタバタと倒れ、その後ろから5人の冒険者風な男女が現れた。
「安心しろ、この者達には寝て貰っただけだ。それにしても、あんたらみんな馬鹿じゃないのか!いくら教祖を慕ってるからって、あんな化け物を連れている奴とこんな幼気ない子供達を庇う2人のどっちを信用するって言うんだ」
ミンツの言葉を聞き、村人達に動揺が走り、動きが止まる。
「俺達は味方だ、協力して奴等を排除するぞ」
ミンツの言葉にサイラスは「はいっ」と応え、表情に力を取り戻すのだった。
サイラス、ハービット、子供達と合流して、ミンツ、ツベリラ、バゼル、ローゼン、モーリスの5人…が戦闘態勢に入った‥
シェリーと真里亜はと言うと…
寺院を脱出したシェリー、ミンツ達は、森の中で直ぐに真里亜達と出会い、合流。その後の作戦を相談。子供達の救出、儀式の間の少女の救出、儀式の間の破壊である。
そして、手分けをして、行動しようとした時にサイラス達の騒ぎが起こり、直ぐに行動を開始したのであった。
騒ぎの起きている寺院の表入口とは違い、寺院の裏口には人気がなく静まり返っており、シェリーと真里亜は誰にも出会う事なく潜入に成功した。
シェリーと真里亜は、急ぎ寺院の地下室へと駆けて行く。早くしなければ、ミンツ達に犠牲が出てしまう。彼等には時間稼ぎに集中してくれと言っておいたが、上級悪魔相手に、どれだけ持つか不安である。
儀式の間に到着した2人は、まず、台座で横たわる瀕死の少女へと駆け寄り、真里亜が少女に手を添え魔法を唱える。
『ブラッシングゴッド』【神の祝福】
真里亜の唱える魔法は、神聖魔法の上位に位置する魔法であり、少女の呪縛を直ぐに解除するのだった。直ぐ様、真里亜は完全完治の魔法で少女を回復させ、命をとりとめる。
少女を真里亜が抱え部屋を出ると、次にシェリーが『ディスペルマジック』【魔法破壊】の魔法で、呪いの魔方陣を破壊し、その後部屋を更に破壊して地下室を後にするのだった。
寺院の入口では、冒険者対上級悪魔の壮絶な闘いが続いていた。
教祖の手下である黒ずくめの男達を撃退しつつ、上級悪魔を牽制してるが、片腕とは言え上級悪魔の攻撃は重く、3人掛かりでも防ぎ切れず重傷を負っていた。
「教祖様、そこまでしなくても、その者達は抵抗出来なくなってます」
「そだそだ」
村人達は、ミンツやサイラス達が子供達を庇って必死に闘う姿を見て教祖に慈悲を求めるが、村人が従わぬ事に苛立ちを感じている教祖は、更なる要求を村人に課す。
「我を慕う村人達よ。その者達は、我に牙をむく不届き者。お前達の手でトドメを刺せ、それが出来ぬ者はその者達と同じ、我に歯向かう不届き者と見なすぞ」
教祖の言葉に村人達は、鍬や鉈などの武器を握る手に力を込めるが、どうしたらいいのか迷っていた。
「くそっ、この悪魔信者どもが!みんな、最後の力を振り絞って、悪魔へ一斉攻撃だ」
ミンツの叫びにみんなが呼応する。
そして、敵の隙を見て最後の力を振り絞り、ミンツ、サイラス、バゼルは、3人同時に斬り掛かり、ツベリラは3人に補助魔法を唱え、ローゼンは弓を射て、モーリスとハービットは最大の攻撃魔法を唱える。
しかし、魔法は上級悪魔に命中すると同時に掻き消され、弓は弾かれ、3人の一撃は片手で防がれる。
上級悪魔は、声に生らぬ声を発し腕をミンツ等に向けると、どす黒い光がミンツ達7人を襲い、攻撃を受けた7人はその場に倒れ虫の息となってしまう。
ツベリラは、朦朧とする意識の中、最後の力を振り絞って近くに居る村人へ「子供達を助けて」と力ない腕を差し伸べたのだった。
それを見ていた村人の1人が「こんなやり方、間違ってるだ」と叫び、持っている鍬を捨てると、踞る子供達の場所へと駆け寄り「さっみんな、逃げるんだ」と、誘導する。
次の瞬間。子供達を引く村人の体に稲妻が走り、村人の体は石へと変わり果ててしまう。
「うわっ」
「キャー」
「うぇぇぇん」
他の村人や子供達の驚きの叫びの中、
「ふっ役立たずどもが!もう、村人等に用はない、生け贄を捕まえ、後は始末してしまえ」
教祖の行動と言葉に、村人達は怯え驚き混乱してしまう。
「やっと、本性を現したようね。悪魔の手先が」
「なにっ?」
寺院から現れ、教祖らの背後から声を掛ける二人の姿。その腕には生け贄にされていた少女を抱えて。
教祖ムガマドは、振り返り二人の姿を見たとき、その腕に抱える少女を見て、二人を睨み付けた。
「きさまら、その生け贄は‥あの部屋へ入ったな」
「そうよ、地下室は破壊させてもらったわ。あなたの悪事もこれまでね」
シェリーの軽い台詞に、ムガマドの顔は鬼の様な形相へと変わり「もうガキにも用はない。全員血祭りに上げてやれ」
ムガマドの行動よりも先に、シェリーは、少女を抱える真里亜と供に子供達の側へと短距離テレポートする。
突然現れた事に、村人や子供達は驚き、ムガマドは顔を少ししかめる。
「貴様、若い顔をしているが、高位の魔法使いだな、何者だ?」
シェリーは口元に人差し指を1本当て「なっいっしょっ」と、おどけてみせる。
そして、真里亜から少女を受け取ると村人の1人に差し出し「子供達と倒れている仲間達をお願い。あなた達が生き残る道はそれしかないんだからね」と、少し語尾を強めて言う。
おろおろする村人は「だども、あいつらはどうするんだ?」と、言い終わる間際、上級悪魔グレモールが後ろを向いて村人と話すシェリー目掛けて殴り掛かり、それをシェリー越しに見ていた村人は、悲鳴を上げて尻餅を着く。
バシッ ブンッ バキッ
ベンゼルの拳がシェリーに届く事はなく、間に飛び込んだ真里亜が、グレモールの拳を受け止め、流し、体をぶん投げ、グレモールは数メートル離れた木に激突していた。
後ろで起きている事を見もせず、シェリーは村人に「ねっ、後は私達に任せて、傷付いた仲間と子供達を運んで」
1人の村人が、シェリーに言われる通り、子供の手を引き始めると、他の村人も、ミンツ達と子供達を連れて逃げ始めた。
「さて、今度はこっちの番よ」
シェリーは、振り返り教祖を睨んだ。
「少しはやるようだが、所詮は女二人。やってしまえ」
教祖は、高らかに叫んだ。
黒ずくめの男達が一斉に襲い掛かるが、シェリーが腰に下げた小さな杖をひと振り、
『ライトシャワー』【光の雨】
空中から現れた光の槍が降り注ぎ、黒ずくめの男達を射貫き、一瞬で全員を沈黙させた。しかし、上級悪魔グレモールは、その攻撃を受けたが、煙りを上げただけでダメージを負っていない。
「はーはっはっは、そんな魔法ごとき、上級悪魔に効くわけがなかろう」
黒ずくめの男達が倒された時は、驚きの顔をしていたが、グレモールが無傷なのを見ると勝ち誇ったように叫び出した。
「ちょっと私を見くびっているようね」
シェリーは、続けざまに魔法の詠唱に入る。
「馬鹿め、いくら魔法を唱えようが、上級悪魔に効く魔法などないわ」
シェリーは、詠唱が終わると一言「残念でした」と言って、魔法を完成させた。
『コンビクションブロー』【断罪の一撃】
上級悪魔グレモールは、真っ赤な光に包まれ動きを止められ、次の瞬間、真っ二つに割れて砕け散った。
「ばっばかな‥」
教祖は1歩2歩と後退りし驚愕する。
「さあ、もう頼るものはなくなったわよ。諦めて降参することね」
シェリーと真里亜は、お互いの顔を見て、ほっと一息つくのだった。
「はーはっはっは!馬鹿め、ここまできたらもう許さぬ」
そう言って、教祖は寺院の中へと駆け込む。シェリーと真里亜が急いで追い掛けると、教祖は、寺院の奥に掲げられた、怪しい蛇の巻き付く剣の形をした碑石に触れると叫ぶのだった。
「我が主アスモデウス様、我が肉体と魂を捧げます。どうか愚か者どもへ、死の制裁を与えるお力を授けたまえ」
寺院の礼拝堂の床に大きな魔方陣が浮かび上がる。
「不味い、マリア、表へ」
シェリーの言葉に、教祖を追い掛け突入したマリアは、シェリーと供に踵を返して表へ飛び出した。
闇夜に突如、真っ赤な光の柱が寺院から立ち上ぼり、暗い空を突き刺す。そして光が寺院へと収縮すると、寺院の屋根が吹き飛び空へ黒い物体が飛び出し停止する。
「不味いなマリア」空に浮かぶ物体を眺めながら、シェリーが呟く。
「ちょっと不味いわね」シェリーの言葉に真里亜は、シェリーの顔を見ず、一緒にその物体を見詰めながら相づちを打つ。その顔には苦い表情を浮かべ…
「教祖は、自分の体に悪魔を降ろしたわ。あれは間違いなければ最上位悪魔。二人で倒せるかしら」
夜空に浮かぶその生き物は、背中に羽をはやし、スリムなスーツが似合いそうな体型をしている。頭はトカゲの様な表皮にあっさりとした顔つき、2m程の身長。体は硬そうな強化スーツを纏っている様な表皮で覆われていた。
「私をここまで追い詰めるとはな、その代償は命で償って貰うぞ」
そう言い放つと、大きく腕をひと振り。その腕の振りから巨大な火の玉が出現し、シェリーと真里亜を襲う。
『マジックプロテクションシールド』【魔法防御壁】
ムガマドの放った火の玉は、シェリーと真里亜の直前で見えない防壁に阻まれたが、爆風は防ぎ切れず二人を襲い、シェリーと真里亜は数メートル吹き飛ばされた。
「余裕かます暇ないね。飛ばしていくよ」
「ええ」
シェリーと真里亜は直ぐに立ち上がり、反撃に出る。
『コンビクションブロー』
『ホーリーゴッズジャッジメント』【聖なる神々の裁き】
巨大な魔法がムガマドを襲う。真っ赤な光と真っ白な光、2つの光がムガマドを包み込んだ瞬間。
パシッ!
ムガマドは自分を包む光を弾き飛ばす。多少の傷は負わせているが、最大の攻撃を防がれ、シェリーと真里亜は奥歯を噛み締め悔しがる。
「ふはははは、流石はアスモデウス様が下さった体。お前達など相手にならぬわ。少し早いが、終わりにさせてもらおう」
ムガマドはそう言うと両手を前に突き出し、何やら唱え始めた。すると、ムガマドの正面に黒い球体が現れると、次第に膨張を始め、大きな球体となる。
「さぁ、これでも喰らって消し飛ぶがいい」
ムガマドから放たれた黒く大きな球体は、シェリーと真里亜目掛けて襲い掛かる。
逃れることの出来ぬ攻撃。二人はシールドの魔法を唱え攻撃を阻もうとするが、シェリーの唱える絶対魔法防御も真里亜の唱える聖極光防壁もあえなく突破され、なす術を失い防御に徹する。
迫り来る攻撃、接近するほど大きさが増していく気もしてくる。
身体防御で敵の攻撃を耐える。
「死ね」
ムガマドの冷たい声が聞こえた気がした…
『聖銀河斬』
輝く斬撃がムガマドの放つ黒い球体を真っ二つに切り裂き、シェリーと真里亜の両脇に落ち消滅する。
「なにっ!」
ムガマドは、その顔からは読み取れぬ表情で驚きを見せる。
「えっ」
「ふふっ」
真里亜は驚きキョトンし、シェリーはほくそ笑んだ。
「シオンくん」
「遅いぞ」
「なんで二人がこんな所に‥」
ムガマドと同じ位の高さに、剣を構え肩に猫を乗せた志恩の姿があった。
志恩はそのまま下降し、シェリーと真里亜の前へ降り立つ。
「細かい事情は後で聞く、先ずは奴を仕留めるのが先決だな」
志恩が背中越しに二人へ話掛け、
「「うん」」
二人は声を揃えて返事をした。
アサヒは、麒麟の姿へと戻りムガマドの攻撃を全て打ち消し、真里亜は悪魔の力を弱らせ、シェリーが志恩に力を与え、志恩の斬撃でムガマドに深手の一撃を与えた。
「なぜだ‥なぜ私が倒される‥お前達は何者だ‥」
ムガマドは崩れゆく体を支えながら、志恩達に呻いた。
「相手が悪かったな。俺らは大陸の勇者だ」
志恩の言葉を聞き終わり、ムガマドは崩れ去り塵へと化すのだった…
時間もなく箇条書き的になりました。その内清書します。
エピローグと次への話は急いで書く予定です。