勇者達[悲しき別れ]10第話
天気の良い朝、日の光を浴びながら教会へと向かう志恩。
「サラちゃんは、もっと喋ってくれれば助かるんだけどなぁ~。まだ、恐怖が残っているのだろう」
などと、独り言を呟きながら歩き、教会へと到着した。
すると、朝だと言うのにシスター達が、掃除をしている訳でもなく、うろうろと教会の周りを歩き回っている。
志恩は、少し年配の身近にいたシスターへ話し掛けてみる。
「おはようございます」
挨拶をする志恩に気が付いたシスターは、志恩の顔を見て「はっあ‥え‥」と言葉に詰まってしまう。
「みなさん早くから、どうかされたんですか?」
爽やかな笑顔で尋ねる志恩に、シスターは一旦落ち着きを取り戻し、何があったか話してくれた。
シスターから聞いた話では、昨夜、賊が忍び込み教会で預かる少女を2人連れ去った。そして、その内の1人がサラであったとの事。
志恩は、直ぐに現場となったサラの部屋を調べる。しかし、特に手掛かりとなる物は見付からず、唯一、魔法を使った痕跡だけ知ることが出来た。
サラを預かってくれた司祭には、子供は志恩が捜索するので心配しないで待っていてくれと伝え教会を後にする。教会周辺を捜索し、賊の痕跡を探すがめぼしい物は見付からず闇雲に探すよりはと考え、まずはサイラス達と落ち合う為、冒険者ギルドへと向かった。
志恩がギルドに入ると、何時もとは違う空気が流れており、冒険者達がざわついていた。
志恩はサイラス達と合流して事情を話すと、サイラス達もギルドの様子を話してくれた。
今朝、ギルド長から緊急クエストが発表され、冒険者達が召集されたそうだ。
その内容が…最近この町で子供の誘拐事件が多発しており、怪しい組織が動いている可能性がある。直ちに犯人の隠れ家を見付け出し、子供を救出、可能であれば犯人の確保、又は殲滅すること。との事だった。
その日、冒険者やサイラス達、そして志恩は、町中の捜索をしたが手掛かりすら見付からず、夕暮れを迎えた。
そして、その夜。
ヤジル宅に戻った志恩がベッドに横になったその時、アサヒが毛を逆立てて立ち上がった。
その様子にただならぬ出来事を察しベッドから起き上がる。
「どうした?アサヒ」
アサヒは少し気を落ち着けて座ると、
「うむ、魔の力と強い魔力を感じた。不吉な‥」
志恩は「よしっ」と頷き装備を整え出掛ける準備をすると、窓からそっと外へと飛翔するのだった。
志恩は、町の中心でもある冒険者ギルドの近くへ行き、気配を調べようとする‥と、
「よぉ、シオンじゃないか。どうしたんだ?」
振り向くと、そこにいたのはサイラス達『強き仲間の集い』のメンバー達だった。
志恩は、少し驚きつつ「いや‥んー‥何か嫌な予感がして、賊が動くのって夜なんじゃないかなって思ってね」
「なるほどな、確かにそうだし、シオンの勘も気になるな。よしっ、俺達も協力するぜ」サイラスは、笑顔で応えた。
志恩的には渋々、サイラス達と行動を供にするしかないなと諦めたその時、志恩の元へ駆け寄り声を掛けてくる女性の姿が‥
「シオンさんですよね?冒険者ギルドの者ですが、分かりますか?」
そう言われ、暗がりだったせいもあり、その女性の顔をマジマジと覗き込む志恩。
「そこまで見られると、少し恥ずかしいんですが‥」
志恩は、女性から慌てて飛び退き「すっすいません。‥確か、ギルド長への紹介状を受け取ってくれたカウンターの‥」
女性はニコッと微笑み。
「はいっそうです。シオンさんから紹介状をギルド長のグレブルに届けたマーリンです」
志恩は思い出し、ポンッと手を叩くとマーリンは少し不満顔をするが、ハッと何かを思い出し、
「そうです、シオンさん。ギルド長のグレブルが至急話があるので、来て欲しいとの事なんです」
それを聞いて、志恩がサイラス達に振り返ると、サイラスが「行ってきな。俺らはシオンが来るまで辺りの捜索をしてるから」と言って、サイラスは、仲間達と東門の方へと歩いて行く。
志恩は、マーリンと供に冒険者ギルドへと向かい、ギルド長の部屋へと入る。するとそこには、ギルド長グレブルの他に、如何にも貴族と分かる豪華な服を着た40代半ばと見える顔つきの男性が居た。
志恩が部屋に入るとグレブルが口を開く。
「おお、早かったな夜更けにすまない」
「いえ、丁度ここの側で誘拐犯の捜索をしようとしていたところだったんで構いません。で、お話とは?」
「それなら話が早い。実は、こちらにいらっしゃる御方は、この町の東を統治する領主リーデント卿なのだが‥」
そこまで話すと、リーデント卿がグレブルの前に出て話を引き継ぐ。
「グレブル、ここからは私が。初めましてシオンくん。実は私が所有する離れの館がこの町にはいくつか在るのだが、その内の1つに見知らぬ者が住み着いておる。お恥ずかしい事に、我が家の者が小銭欲しさに隠れて貸していたらしく、その事が先程発覚してな。誘拐事件の話は前々からグレブルと相談はしていたのだ。犯人達は手練れな集団と聞いていてな、急ぎ冒険者ギルドの協力を仰ごうと参ったのだ」
リーデント卿の話が終わると同時に、グレブルは志恩に話す。
「そう言う事で、今、信用のおける手練れに声を掛けていておる。あまり大勢で押し掛けてしまうと相手に気付かれてしまうのでな。シオンくんはヤジルさんの手紙にその強さと信用のおける人物と書いてあったぞ」
志恩は、サイラス達の事を考えたが、わざわざ危ない賊の隠れ家に彼らを連れて行くことはないと思い、口にしなかった。
その後10名の冒険者が集められ、グレブルの号令の元、賊が居ると思われる隠れ家へと向かうのであった。
志恩と別れた後、サイラス達は町中を捜索していると、1台の荷馬車とすれ違う。それは、樽とブドウを積み込み、黒いローブを纏った御者が2人乗る荷馬車。この町では、珍しくはないのだが、この時間に走るとは…
荷馬車が走る方向は、東門の方であった。サイラス達は、裏道を通り先回りをして町の東門の外で待ち構える。すると…門をくぐる馬の足音、砂利を踏み締める木の車輪音、東門に備え付けてある松明の灯りに照され、先程の荷馬車が現れた。
サイラス達は街道に立ち塞がり荷馬車を待ち構える。
荷馬車がサイラス達に気付き馬足を落とす。だが、御者の隣に座る人物が何やら耳打ちしたかと思った次の瞬間、御者の手綱が馬を叩き、荷馬車の馬が加速した。
荷馬車は速度を上げてサイラス達へと突っ込み、荷馬車の馬とぶつかる瞬間、サイラス達は左右へと飛び退き間一髪で接触を避ける事が出来た。
「くそっやってくれるぜ。ハービット、止められるか?」
「まーかせてよっ」
そう言ってハービットは荷馬車へ振り返ると、手を伸ばし精霊語を唱える。
「大地の精霊ノームよ、我に力を『ホールスペース』」
ハービットの叫びが木霊し、闇の中へと消えてゆく…すると、前方を走る荷馬車の後輪片側の地面に突如、大きな穴が出現し、荷馬車の車輪が吸い込まれる。そして、車輪が落ちたまま荷馬車は引かれ、その勢いで車輪が弾け飛んだ。
ザザザザザー
馬は荷馬車を引きずりながら暫く進むと止まり、御者の二人が逃げていく。それを見て、ハービットは透かさず『バインディング』【目標拘束】の精霊魔法を唱える。すると黒ローブの御者2人は、足下から発生した植物の蔓に巻き付かれ、身動き出来ない状態となった。
サイラスは荷馬車に乗り込むと、ブドウに埋もれる樽の蓋が外れており、その中に拐われたと思われる子供の姿を確認出来た。
御者を捕まえようと指を鳴らしながら歩くマーベラに向かってサイラスは「子供達が居たぞ」と声を掛け、マーベラは「おうっ、こっちの2人は任せろ」そう言って、片手を挙げた次の瞬間…
ドカッ
マーベラの腹を突き破ってカラスの足に似た4本指をした腕が、赤い血を滴らせながら現れる。マーベラの後ろを歩いていたハービットは、顔を真っ青にし、両手で口を塞ぎ声にならない声を漏らす。
腹を突き破った腕が引き抜かれ、マーベラは「うぅぅぅ」と声を洩らし、穴の空いたお腹を抑え、両膝を着き前のめりに倒れた。
倒れたマーベラの後ろから姿を現したのは、薄暗い月明かりの下だからこそ更に暗く全身真っ黒の出で立ち、蝙蝠の様な羽を生やし鬼の角を伸ばした様な頭、爬虫類の様にギザギザな肌をした紛れもなく悪魔。
悪魔/デーモンなどは、高レベルの冒険者が万全の態勢で闘いを挑んで勝負する相手、この様な状況で闘う相手では無いことは、冒険者ならば熟知している。
サイラスは、怒りに歯を噛み締め荷馬車から地面へと飛び降りると、剣を抜きデーモンへと斬りかかる。
だが、サイラスの剣がデーモンに届くよりも早くデーモンの蹴りがサイラスの腹へと当たり、サイラスは吹き飛んだ。
サイラスは、剣を杖代わりに立ち上がり「くそっ」と、再度剣を構える。
隣でそれを見たモノリスは、サイラスの腕を掴み首を横に振る。
「無理だ、無駄死にするぞ」
サイラスはモノリスの瞳を見詰め、
「それでも、一太刀浴びせねば…」
モノリスは、鋭く、そして力強い眼差しでサイラスに、
「今、お前さんがやらなくてはならない事は、ここを生き延び、この事を町に知らせ、万全の態勢で仇を取ることだ」
モノリスは、サイラスを後ろへ押し退け前へと進み「ハービット!サイラスを連れて逃げろ」と怒鳴り口調で叫ぶ。あまりの出来事に呆然となっていたハービットは、モノリスの怒鳴り声にビクッとしてから我に返り、慌ててサイラスの元へと駆け出す。
ハービットがサイラスの元へと辿り着き「さあ」と腕を引くと「いやっまだだ。モノリスが奴と対峙している」と逃げるのを拒む。
しかし、それを聞こえたのかモノリスが「奴は俺が足止めする。お前らは急いで逃げろ、頼む」最後は悲痛な叫びにも聞こえた。
デーモンはモノリスから視線をずらし、逃げようとするサイラスとハービットを視界に捉え動こうとする。しかし、モノリスはデーモンの視界を遮る様に近付き「お前の相手は私だ!」と睨んだ。
デーモンの口元が笑った様に見えた次の瞬間、モノリスの肩から胸に掛けて切り裂く様にデーモンの
手刀がめり込む。モノリスは胸にめり込むデーモンの腕を掴み、苦痛な表情で叫ぶ「逃げろ!」
ハービットは嫌がるサイラスの体に抱きつき魔法を唱える。
『キャリーエアー』
すると、ハービットとサイラスの体を小さな竜巻の様な風が包み込み、2人を地面より少しだけ持ち上げ町の方向へと移動させて行く。
「止めるんだモノリスー!」
サイラスの声にモノリスは小さく「生き残れ」と呟き、デーモンへと鬼の形相を向けた。
「さあ、命はくれてやる。お前も一緒に行こうか」
デーモンは、モノリスに掴まれた腕を引き抜こうとするが全く動かず、もう片方の腕でモノリスの顔面を殴打する。
モノリスは、顔をボロボロにしながら呟く「そう急ぐなよ」
そしてモノリスは、最後の魔法を唱えた。
『モータルライフ』
次の瞬間、辺り一面が眩い光に包まれ、その光がモノリスへと集約し、そして天へと光の柱を築いた。
モノリスが居た場所には、優しい光の粒が微かに残り、数メートル距離を置き、肩からゴッソリ右腕を失ったデーモンが立っていた…
暗く静かに建つリーデント卿の別邸。今にもお化けが出そうで怖い、などと志恩は考えてしまうが、この世界でリアルなモンスターとしてお化けを怖がる者はいても、ただ驚かせるだけのお化けを怖がる者はいないだろう。
志恩は、そんなくだらない事を考えながら、グレブルとその他9人の冒険者達と屋敷の側まで来ていた。
「外を監視する者を3人残して、館へ侵入する。いいかね」
グレブルが指揮を執り、皆が頷く。
「おいっシオン」
「わかっている、中にはもう誰もいないって言うんだろ」
「だったらなぜ」
「こちらが大きく動けば、敵に何らかの動きがあるかもしれないから、それを待っている」
「したたかだのぉ」
志恩は、アサヒとそんなやり取りをしながら館の中へと向かう。
グレブル達討伐隊は、館へと突入を開始し次々と部屋の捜索を行うが、館はもぬけの殻で何の手掛かりも見付けられず、呆然としていた。
と、その時だった。
「シオンっ」
「ああ、俺も感じた」
それは強く、優しく、悲しい魔力を…
「なっなんだ‥あの光は‥」
グレブルに選ばれた冒険者の1人が、窓から見える一筋の光を指差した。
光は空の彼方へと消えて行く…
光を見て、志恩の胸に何か不安が過る。
「グレブルさん、たぶん奴等はあそこです。急ぎましょう」
志恩の言葉に、グレブルも頷き指示を出す。
「皆の者、奴等は先程の光が見えた東門の方角だ。急いで向かうぞ」
グレブルの指示で、冒険者達は一斉に外へと向かう。
グレブル達が東門を視界に捉え始めた時、門前にうずくまる二人の人影。その姿がハッキリと見えた時、志恩が叫ぶ「サイラス!」
そこに居たのは、サイラスとハービット。サイラスはお腹に重傷を負っており、プリーストの冒険者が治療に当たる。ハービットに怪我はなかったが、魔法の使い過ぎにより、酷く精神疲労していた。
二人の手当てをして事情を聞くと、討伐隊は直ぐ様気を引き締め東門の外へと向かう。先頭には、周りの制止も聞かず志恩が走り、追うように他のメンバーが後を追った。
志恩が現場に着いた時には、荷馬車に積まれた子供の姿はなく、地面に倒れるマーベラの亡骸だけ残っていた。
グレブル達は、サイラスに詳しい話を聞き、今後の行動を討論している。
そんな中、志恩は、そっとその場を後にして『フライ』の呪文を唱えると、その場に別れを告げるのであった…
ここで2話前に辿り着きました。
次で一区切りの予定です。




