勇者達[新しき?仲間]8第話
「おっ見えてきた。あれが目印のドラゴン島だ」
「この先の道から、山の方へ向かうのね」
「そうです。もう少しで目的の村です。警戒して進みましょう」
陸から近い海に浮かぶドラゴン島。ドラゴン島と言ってもドラゴンが棲んでいる訳ではなく、日暮れの頃、夕陽をバックにその島を観ると竜のシルエットに見える事から、そう呼ばれている。島は歩いて1時間程で回れる位の小さな島だ。
ミンツ達の馬車は、行程通りの旅を続け、間もなく目的地の村へと差し掛かろうとしているのだった。
馬車は海沿いの街道から村へと続く一本道へと入り、静かに走る。村への道中、誰ともすれ違う事無く馬車は走り続け、夕方頃、前方に目的地の村とおぼしき場所が見えて来た。
ツベリラは、村へ入る前に全員との打ち合わせに入る。
「みんないい?今から入る村、ザハマには、原祖の時代、ミスティア神に封じられたとする魔神デモゴルゴンを信仰、復活を願う者達が隠れ住んで居ます。何人居て、どこに居るか分からないので、我々の目的を隠し、極秘裏に事を済ませましょう」
ミンツが手を上げ「ちょっといいですか?」とツベリラに発言し「どうぞ」と話を促された。
「僕たちの目的は、この村のどこかで行われている呪いの儀式を破壊、阻止することですよね?」
「そうです」
「その儀式とかって、僕らが見てもすぐ分かる物なのですか?」
ミンツの言葉に、他のメンバー達も首を縦に「確かに」と頷いた。
「それは問題ないと思います。悪魔を使った呪いの儀式なので、見た目もそうですが、必ず生け贄を使っている筈です。それも若き少女を‥」
ミンツ達は、生唾を飲み込み、それぞれがそれぞれの想像に嫌悪した。
ザハマの村は、村の大きさから100人以下の小さな村と思われた。山の麓に在り、森に囲まれ、開拓した農地を生活の糧としている。村を抜けて山間を越えるとその遥か先に大きな街がある。
村は腰程の高さで出来た柵で外周を囲っており、馬車が走る道を進むと、そのまま村の入口へと続いている。馬車が村に入り走っていると、ちらほら村人を見かけることが出来、ミンツは道行く人に声を掛け宿屋があるか尋ねる。
村人は優しく、この村唯一の宿屋を教えてくれ、ミンツ達は教えて貰った宿屋へと馬車を着けるのであった。
「いらっしゃいませ。こんな辺鄙な場所までよくお出で下さいました。こちらには、何か用事で来られたのですか?」
ミンツ達は、宿屋のカウンターでこの宿の女将と言う女性に迎えられる。女将は、若く美しく、こんな辺鄙な村には勿体無いと言う印象を感じた。
「いえ、私たちは山を越え、その先にあるルイドールの街を目指しております。ここへ寄ったのは、旅の疲れを癒すのと、仲間が具合を悪くしたので、その回復をするためです。なので、仲間の具合が良くなるまで数日の宿をお借りさせてください」
ミンツは、呈の良い言い訳をして、宿屋の女将に宿の手配をお願いする。
「それは大変ですね。この村に僧侶様は居りませんので、お医者様をご紹介いたしましょうか?」
「ありがとうございます。でも、精神的なものだと言われております。旅の疲れが出たのでしょう、少し休めば回復するはずです」
「そうですか、何かあれば言って下さい。では、お部屋へ」
女将に導かれ、部屋へと案内される。男女に別れ二つの部屋へと案内された一行は、荷物を降ろすと、男性の泊まる大部屋へと集まり、作戦会議を始める。今は夕方を過ぎた頃、時間で表現するなら6時を過ぎた頃である。
「これから夕食の時間だけれど、皆、バラバラに行動してもらうわ。男女二人一組で行動して、別々に調べてもらいます。ローゼンさんは、隠密行動が得意との事で、1人別行動です。村人の誰が敵の一団か分からないので、気を付けて下さい」
そう言い終わると、組み合わせを決めて部屋を後にした。
探索の組み合わせは、ミンツとシェリー、バゼルとツベリラ、モーリスと真里亜である。暗がりの村を冒険者達は、手掛かりを求めて動き始めるのであった。
「まだか、まだなのか」
黒いスターンを牧師の様に着込む男が、苛立ちを露にして呟く。
「申し訳ございません。連絡では、明日には到着との事でごさいます」
茶色のローブを着た人物は、男の機嫌を取るように、言葉を選んだ。
「早くせねば。もう少し、もう少しなのだ…」
夜空を『フライ』の魔法で飛行する志恩。その肩に乗る白猫アサヒ。
「もう少しで追い付きそうだ」
「ああ、私のセンスにも感じるぞ。すぐに奴等を倒し、救い出すのか?」
「いや、ここまで来たら、奴等のアジトを突き止めて、一網打尽にしてやるよ」
「それも良かろう」
夜空を飛行する志恩。冷たい夜風が志恩の頬を叩く「こっちの地方は、冷えるね。特に夜は辛いよ」志恩が愚痴を溢していると「全く。これくらいの寒さで音を上げるとは、情けないのぉ」アサヒが志恩の頭をポンポンと叩く。
「しょうがないだろ。こっちは只の人間なんだからさ」
「勇者じゃろぉ、もっと気合を入れんか!気合を」
などと話していると、前方に動く光が見えて来た。その光をよく見ると、馬車の周りを松明で照らし、夜道をひた走る馬車である。
一般的な旅だと、街頭などないこの世界では、真っ暗な夜道を旅する事はなく、夜はモンスターが闊歩する世界である。そんな危険しかない夜に馬車を走らせる者と言ったら、何かの用事で急ぐ者か犯罪者位なものである。
「追いついた」
志恩は、馬車を確認すると先回りをし、小高い丘の上から馬車の行方を追い掛けた。
数日前…
コンコン
扉をノックする音に、志恩は寝惚け眼を擦りながら起き、返事をする。
「はーい」
「朝食の用意が出来ましたんで、良かったらお出で下さい」
志恩の返事を聞き、ノックをした人物は扉の向こうから用件を述べ「分かりました」と志恩の返事を聞くと扉の向こうの人物は、立ち去って行った。
木だけで組み上げたベッドが、寝起きの志恩を森の香りで包み込む。
志恩の寝る掛け布団の上で、アサヒが大きな欠伸をし、眠そうに起き上がる志恩を見て呆れる。
「夕べ、騒ぎ過ぎたんじゃないか、まったく…」
「しょうがないだろ。ヤジルさんが放してくれなかったんだから」
「それでも飲み過ぎなんじゃよ」
「まぁそれは…だって元の世界だと、酒を飲ませてくれないから、つい。俺も段々楽しくなっちゃって。ハハ」
志恩はアサヒと会話をしながら、朝の準備を進めていた。
志恩は商人のヤジルさんを助けた御礼に、ルイドールにあるヤジル宅に昨晩は泊めて貰い、更に、夜は酒盛りまで開いてもらい遅くまで騒いでいた。
「みなさん、おはようございます」
「おはようございます。シオンさん」
「「おはよぉうシオ~ン」」
志恩はヤジルさん一家の食卓に着いた。昨日の帰りに子供達とはアサヒを絡めて仲良くなり、昨晩は使用人や奥さんなど、大人達とも交流を深めており、楽しい朝食の時間を過ごす事が出来た。
「シオンさんは、これからどうするのかね?」
ヤジルさんは、当分我が家に泊まっていってくれと言ったが、シオンが渋った返事だったので、気になったようだ。
「実は、仲間とはぐれてしまい、彼らを探さなくてはならないんです」
「おや、それはお困りですな。宛はあるのですか?」
「いえ、アルビス大陸の何処かに居ることしか分からなくて」
「お仲間と言うのが冒険者なら、冒険者ギルドに行くのが良いと思いますぞ。ここのギルド長とは知り合いでな、宜しければ紹介致しますぞ」
ヤジルの言葉に感謝を示し、志恩はヤジルの紹介状を胸にルイドールの冒険者ギルドへと向かうのであった。
ルイドールは人口が約4000人程の町で、外周を高さ3m程の外壁で囲まれており、東西に町へ入る入口が設けられている。町はラグビーボールの様な楕円形で東西に延びており、東と西で二人の領主が別々に治めている。町の外には畑もあるが、主に葡萄園が大量に設けられていた。
冒険者ギルドは、町のやや中心に在り、モンスターなどから町の治安を守る役割を担っている。3階建ての建物で、この規模の町のギルドにしては大き目であった。
志恩は朝食後、ヤジルにギルド長への紹介状を書いてもらい、直ぐに冒険者ギルドへと向かうのであった。
ルイドールの通りは人で賑わっており、葡萄を大量に載せた荷馬車が時折通りを走り抜けていく。街道の途中に在る町だけあって、商人や旅の者など様々な人が行き交っていた。
冒険者ギルドの1階は、半分が受付カウンターや依頼ボードがあり、もう半分が酒場となっている。酒場は、食事や休憩も出来、冒険者達の交流場所となっていた。
志恩は、紹介状をカウンターの受付に渡し、ギルド長を訪ねたが、今日は領主の館に行っている為、戻らないとの事で、後日のアポイントメントをお願いし、カウンターを離れた。
「最初の宛がなくなっちゃったけど、どうしよう。宛もなく、今動いてもダメな気がする」
志恩は、周りの人には聞こえない声で肩に乗るアサヒに呟く。
「そうだな、今は待つ事じゃな。それにお前さんは武器も装備もないんじゃないか?」
「うっ…確かに、文無しだ‥。取り敢えず、お金を稼がないと。はぁー、なんかリアルでやだなぁ」
志恩は渋々、依頼書の貼ってあるボードの前で何となく依頼を眺めて居ると、後ろから不意に声を掛けられる。
「こんにちは。あまり見ない顔ですが、新しい冒険者の方ですか?」
志恩は、少し驚きながら振り返ると、そこには20歳位に見えるフルプレートを着た青年が立っていた。青年はサラサラで男としてはやや長めの髪を後ろに流し、爽やかな絵顔でそこに立っていた。
「は、はい。昨日、この町に着いたばかりで」
「なるほど。僕の名前はサイラス、仲間とこの町を中心に冒険をしているんだ。分からない事が有れば何でも聞いてくれ」
「あっありがとう。自分の名前はシオン。何かお金になる仕事がないか探してたんだ」
サイラスは右手を出し「宜しく」と笑顔をこちらに向ける。志恩は、一瞬サイラスの手を眺めてしまったが、慌てる様にその手を握り「宜しくです」と応えた。
「良かったら、手頃な依頼を紹介するよ。シオンのパーティーは何人だい?」
志恩は「えっ?」と考えてしまった。そう、今の志恩はたった1人、いや、1人と1匹なのだから‥
「えっと‥仲間は‥この肩のアサヒかな…」
「‥‥え?」
サイラスは一瞬固まってから、1度咳払いをして、もう一度話す。
「アサヒって、その猫?」
「あはっそう…かな」
志恩は頭をポリポリと掻きながら返事をした。
「その猫だけって、要は君1人で依頼を受けるつもりなのかい?」
サイラスは目を丸くして志恩を見詰めた。
「まぁ、そう言う事かな…」
志恩は少し困った顔をしながら答える。すると‥
「なるほど、それで困っていたんだね。よし、ルイドールに君が居る間だけでも、僕達が君の面倒をみようじゃないか。仲間には僕の方で言っておくから大丈夫だ。さっ向こうに仲間達が居るから、紹介するよ。それから依頼を探そう!うん、うん」
そう言って、サイラスは志恩の手を引っ張って行く。
「えっいやっ俺はっ、あのっ‥」
『やれやれ、お前さんがハッキリ言わんから、変な勘違いに捲き込まれるのじゃぞ』
アサヒが志恩の頭に直接話し掛けるのであった。
志恩が引きずられる様に連れて来られた席には、3人の男女が席に着いており、サイラスと志恩を面白そうに眺めていた。
「おいおいサイラス、どうしたんだ?」
大柄な鎧を着た女性が、楽し気に声を掛ける。
「あはは、またサイラスのお節介が始まったかな?」
背の低い可愛い女の子が笑って喋る。
「はっはっは、サイラス坊は優しいからなぁ」
大柄な体の男が頷く。
サイラスは、高ぶった息を整えながら、仲間達のテーブルへと志恩を引っ張って来る。
「みんな聞いてくれ、ここに居るシオン君が1人で依頼を探して困っていたので、僕らのパーティーで助けてあげようと思うんだ」
「ほらな」
「やっぱり」
「はっはっは」
サイラスは「ん?」とキョロキョロするが、志恩を前に押し出し、喋り始める。
「彼がシオン君だ、みんな宜しくな。それで、左から‥
サイラスのメンバー紹介が始まった。
パーティーの名前は『強き仲間の集い』
ハーフプレートに身を包み、身長が180はある大柄な女性、マーベラ。大きなグレートソードを主戦武器とし、先頭を切って闘う戦士。見た目は厳つく男勝りな性格だが、実は優しい。
背の低い可愛いらしい外見のハーフエルフの女の子、ハービット。イタズラ好きでよく笑う精霊使い。
マーベラよりも少し大きく、頭の少し薄いおじさんモノリス30歳。力と正義を教義とするルクルス神を信仰し、素手で熊と闘う格闘家、いわゆるモンクである。落ち着いた物言いとでしゃばらず、いつも静かに見守る性格。
そしてリーダーのサイラス。騎士見習いとして、修行中。お節介でそそっかしい。正義と慈愛を心に留め、困っている人を放っておけない性格。ブロードソードとラージシールドを主戦武器に持ち勇敢に闘う。歳は21だが、サイラスの性格に引かれてメンバーが集まり、彼をリーダーとしてパーティーを組んでいる。
‥‥と、こんな仲間達だ、宜しくな。シオンの職種は何だい?肩に乗せてる猫は使い魔かな?」
志恩が一言も喋る暇もなく、ここまで話が進んでしまい、呆気に取られてしまったが、サイラスの気の良さに少し楽しくなってしまい、話の流れに乗ることにする志恩であった。
「初めましてシオンです。剣で戦い、少し魔法を使います。肩に居るのはアサヒで、使い魔ではないですが友達です」
「へぇー魔法剣士かぁ凄いね」
「おぉぉ、魔法剣士とは勇者のようだな」
「うちのパーティーは、古代語魔法を使える者がいないから、丁度いいね」
「へぇ、その猫は只の猫なんだね」
トントン拍子で話が進むと直ぐにサイラスは志恩の手を引き「さあ、僕らの最初の依頼を探しに行こう」と言って掲示板へと向かうのだった。
何か、話が変な方向へ進んでしまったが、サイラスの優しさとその仲間達の気の良さに、志恩は少しの間ならいいかな、と流れに任せるのであった。
次回は、志恩が続きます