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アルバイトの行方 1

すいません、出張で忙しく書くのが遅れてます。

ちょっと脱線な的な話です。

「いらっしゃいませ、デミーズへようこそ」


「何名様ですか?お煙草はお吸いになられますか?」


「4名様、喫煙席入りまーす」


 志恩の声が店中に響き渡る。

「おっ、少しは慣れてきたみたいだな」

「はい、目黒さんの教え方が上手なんで、なんとかやれてます」

「おっ、甲斐くん分かってるね」


 

 志恩は今、ファミリーレストランでバイトをしている。なぜ…それは前日・・・



 キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン


「いや~今日も終わった、終わった。早く帰って寝たい」

 本日の授業が終わり、志恩が思いを口に出していると、猛が志恩の前の席に後ろ向きに座り、志恩の正面に向く。

「おいおい、どこのオヤジだよ。学校終わったら帰って寝たいってよ」

「いいだろ、俺だって色々忙しいんだよ」

「はいはい、そう言う事にしておく。それより、暇人の志恩に頼みがあるんだよ」

「…頼み事がある奴の言い方かよ」

 志恩は不貞腐(ふてくさ)れた顔をする。

「まあまあ、それは兎も角。実はさ・・・」

 猛の話では親戚に不幸があり、明日の夜から通夜などの手伝いをしなくてはならなくなり、アルバイトに行けなくなってしまった。そこで自分の代わりにアルバイトに出て欲しいと言うものであった。最近その店はバイト辞めてしまい、人があまりいなく、穴を開ける訳にはいかないが通夜の手伝いはしない訳にはいかないらしい。

 忙しいバイトに新人の志恩が行って役にたつのかと言ったのだが、志恩なら心配ないし、簡単な仕事だからと断る間も与えられず強引に押し付けられてしまったのだ。

 愛莉にも相談したのだが、通夜の手伝いじゃ助けてあげないと、と納得されバイトに行くことになった。志恩はここ数日、葛城と連絡を取り合って打ち合わせをしたり、シェリーとテレパスで事件について話し合ったりと、誰にも知られず忙しい毎日を送っていたのだ。

 しかしそれを知らない周りからは、部活もバイトもしていないのんびり者と思われていた。

 だが、志恩も今回は友達のピンチなので助けることに承諾せざるおえなかった。



 ーー慣れてくると、なかなか楽しかったりもする。しかし聞いていた話よりも今日は忙しい気が…


 この店で店長兼ホールをしているのが、目黒庄司35歳、独身。身長も体格も全てが普通を絵に描いた様な見た目で、ちょっと頼り無さを感じる。しかし、人柄は凄く良く、真面目で優しい印象がある。


 ホールにはもう一人女性が居る。大塚里奈22歳、専門学生、気弱な雰囲気で推しに弱そうな感じだ。見た目は細身で、顔もスッとしていて綺麗な印象を持ち、肩位の長さは有る髪を後ろでポニーテールにしている。



 店長の目黒さんは威張った様子もなく、何も知らない志恩に、事細かく仕事を教えてくれていた。

「甲斐くんは覚えるのが早くて、即戦力に成りそうだから助かるよ。佐藤くんが急な休みでどうしようかと困ってたところだったからさ。よし、このあと忙しくなって来ると思うから、少し休憩行って来なさい」

「はい、ありがとうございます。じゃあ少し休憩貰います」

 志恩はそう言うと、軽く頭を下げてから従業員控え室へと入った。

 志恩は始めての仕事で体も気持ちも大分疲れた。よくよく考えてみると、志恩は異世界での15年を冒険者として過ごしていた為、大人になってからの現代社会的な仕事はこれが始めてであったのだった。

 ーーモンスターと戦ってる方が気持ち的には楽かもしれない。

 などと、椅子に項垂れながら考えていた。


 ガシャーン


 その時、ホールの方でグラスの激しく割れる音が聞こえ、何かあったのかと、志恩は制服を正しホールへと向う。

 ホールに出ると若い男の怒鳴り声が聞こえたので駆け付けてみると、そこでは3人の若い柄の悪そうなお客に頭を下げている店長とその後ろに大塚さんが居る姿が見えた。

 志恩は何か助けが出来ればと店長の横に並ぼうとしたが、店長は素早く志恩を手で押さえ「ここは私が対応するから、二人はホール作業をしてろ」と、何時もにはない強い口調で志恩を下がらせた。

 その後も気にはなっていたが、店長の指示通りホール作業をこなす。

 志恩が仕事をしながら垣間見た限りでは、店長は水を掛けられ文句を言われ続けていたが、結局ずっと頭を下げて謝り続けた店長に呆れ、男達はお金を払わずに帰って行く。その後店長は他のお客達に頭を下げて周り、仕事へと戻った。

 それからは徐々にお店も忙しくなり、そんな事件など気にしている暇もなくなっていた。

 時間も夜の9時近くになると、店も落ち着いて来くる。志恩がホールを見渡せる壁際で一息つくと、大塚さんが隣並んだ。

「甲斐くん、店長って凄く弱腰だよね、やんなっちゃう」


 大塚さんの話では、先程騒いだ男達は大塚さんが近くを通った際、突然スカートを捲り上げたので、驚いた大塚さんが水の乗ったお盆を落としてしまい、その水がズボンに掛かったと因縁をつけてきたそうだ。


「あんな奴ら、ガツンと言ってやらないと分からないんだよ」

 ーー大塚さんはああ言っているが、志恩には分かる。どんなお客にも低姿勢で接客をし続ける事が、どんなに大変で勇気のいることなのかを…志恩も中身は大人なのだからこそ。


「でも店長さんが対応してくれたから、何事もなく終わったんだし、店長さんは立派ですよ」

 志恩が店長を誉めると、大塚さんは少し嫌な顔をする。

「どこが立派なのよ。ただ、言い返す度胸が無いだけでしょ。それに最近この店に増えてるのよね、さっきみたいな柄の悪い客が」

「今日だけじゃないんですね?」

「そうなの、最近は似たような事が何度かあって、バイトの子が何人か辞めてったの」

 なるほど、それがバイトの人数が少ない理由かと、志恩は納得した。しかし、急にそんな連中が出入りし始めるのも何か理由があるのではないか…などと、志恩は考え始める。


 その後は何事もなく10時を回り、高校生の志恩はバイトが終了した。

 志恩は家に帰り休んでいると夜中猛からの電話があり、今日の出来事を話す。猛の話では、最近この街に若いはみ出し者達が集まってチームを作り幅を効かせてるそうで、またまたその集会場所が猛のバイト先の近所らしい。

 事件を起こしている訳ではないようなので、こちらからどうこうする訳にはいかないようだ。

 志恩は気持ちが煮え切らないまま、眠りに就くことにした。



 次の日も志恩は猛の代わりに、ファミリーレストランでバイトに励む。

 この日は特に変わったことはなく志恩はバイトを終えるのだった。

 そしてその次の日、事件は起きた…


 志恩がバイトのファミリーレストランに行くと、店内は異様な雰囲気に包まれていた。と言うのも、店内は半分以上席が埋まって居たのだが、その客全員が昨日騒いでいた柄の悪い若い男達だったのである。勿論、昨日騒いだ男達もその中に居た。

 そして誰も注文をせず、水のお代わりと叫んでいるので、新しく来たお客もすぐに出ていってしまう始末だ。

 志恩は店長に何事かと尋ねたがお昼頃からこの調子で、店長も何度か聞きに行ったのだが、注文を選ぶのにこの店は時間制限があるのかと、胸ぐらを掴まれて言い返されたそうだ。

 何か有るのかも知れないから、今日のところは黙って観てようと店長は言っているが、志恩としては我慢が出来ない。かと言って志恩が勝手に喧嘩をする訳にはいかず、考えているところに葛城からの電話が入った。

 葛城からの話では、体育祭で使われたアーティファクトについて分かったことを近々話そうという、余り進展のない内容だったが、ここで志恩は1つの名案を思い付いた。


 

 志恩はバイトの制服に着替え、ホールで店長と二人で突っ立って居る。大塚さんは女性に何かあっては困るので、控え室で待機してもらっていた。志恩も呼ぶまで控え室に居ていいと言われたが、店長とホールで待機したいと言い、ホールで立っていた。

 今のここでの仕事は、ずっとメニューを開いて喋って居るだけの奴らに水のお代わりを持っていくのと、新しく来たお客様に何かあっては困るので、今日のところは帰ってもらうと言う作業だけである。


 そして暫くするとスーツ姿の男女二人が来店し、店長が帰ってもらう様に話をしたが、その二人は逆に店長を(なだ)め、連中の(たむろ)する真ん中の席へと着いた。

 柄の悪い男達は、直ぐにその客に対して茶々を入れ始め、店長はオロオロとしている。


「よーよーお二人さん、仕事終わりにデートかよ」

「飯食って、これから一発嵌めるの~羨ましいね」

 そして禁煙席のエリアなのだが、煙草を吸い、煙を二人の男女に浴びせ掛けた。

 その行為に、店長が意を決し注意しようと足を向けると、二人の客のうち、男の方が大きな声で喋り出す。


「ギャーギャー五月蝿(うるさ)い小学生の集まりかと思ったら、煙草なんか吸い出すなんて、子供にしてはやり過ぎなんじゃないか」

「本当、女もしらないチェリーだから、女性の私に発情しているのかしら」


 それを聞いた男達は、一斉に立ち上がり二人連れの男の胸ぐらを掴み立ち上がらせる。

 店長は血の気が引いた顔をしているが、争いを止めようと前に進む。それを見た志恩は立派な店長だな、と遠目に感心するがその争いを静観するだけだった。

 そして店長が割って入ろうとした時、胸ぐらを掴まれた男が逆にその腕を掴んで一言叫んだ。

「はい、公務執行妨害成立ね。時間は?」

 男性は女性に尋ねる。

「18時53分現行犯です。応援呼びます」

 そう言って警察手帳を出す。

 先程まで騒いで居た男達は静まり返ると、次の瞬間、蜘蛛の子を散らす様に一斉に出口から我先にと逃げ出して行き、気が付くと店内には葛城刑事と三上刑事、志恩とポカンと口を開けて呆けている目黒店長が残されるだけだった。

 葛城と三上は志恩に目で合図をしながら、店を後にする。

 志恩は店長の肩を叩くと。

「良かったですね、刑事さんがタイミングよく来店してくれて。さっ早く片付けて、営業再開しましょう」

 騒ぎを聞き付けて出てきた大塚さんも協力して、その日はそこからの営業再開となった。

 そしてその日は、それだけでは終わらなかったのである…



 志恩が上がる22時には、お店にお客も居なくなったので大塚さんも上がりし、志恩と二人で帰ることになった。

 志恩は自転車だったので、大塚さんを最寄り駅まで送ってから帰ろうと二人で歩いて駅まで向かった。途中、公園の中を横切り、話をしながら大塚さんと歩く。

 今の危ない雰囲気のお店が嫌になってきたので、私も辞めようと思っていると大塚は志恩に愚痴を溢す。

 志恩はそんな大塚を励ましながら公園の暗がりを二人で歩いていると、突如前方を塞ぐように4人の男が現れ行く手を阻む。志恩達が立ち止まると後ろからも逃げ道を塞ぐ形で、4人男達が現れた。

 目を開き暗がりをよく見ると、その内の何人かは先程バイト先のファミレスで嫌がらせをしていた男達であることが分かった。


 志恩は待ってましたと前に進もうとした時、大塚さんが歳上である為か、志恩を自分の後ろに隠す姿勢で前に出て、少し震える声で威勢を張った。

「何ですかあなた達は、道を開けてくれないと人を呼びますよ」

 大塚さんの話に、ニヤニヤと薄笑いを浮かべながら、男達は近付いてくる。

「ほー、威勢がいい姉ちゃんだね。だけど、少し震えてるみたいだよ」

 そう言って彼女の腕を掴む。

「きゃっ止めて」

「お前達には少し嫌な思いをしてもらうだけだ。それが嫌なら、あそこのバイトは辞めることだな。ほら女の後ろに隠れてるガキも、ブツブツ言ってないで鳴きでも入れたらどうだ」

 そう言われた志恩は、フッと笑い、男と大塚の間に立つ。

「準備は出来た」

 大塚を掴んだ男の手を手刀で引き離し、志恩は大塚を後ろに(かくま)う。そして。

「悪者退治といきますかっ」


 志恩が一番手前にいる男の腹に蹴りをお見舞いすると、男は数メートル吹き飛び倒れる。男達は一瞬、何が起きたのか分からず動きを止めていたので、志恩は透かさずその隣の男の横脇腹へ横蹴りをお見舞いし、又もや数メートル吹き飛ばす。


 お分かりと思うが、先程志恩が大塚の後ろでブツブツ言っていたのは、自分への魔法行使である。ここで志恩が用いたのは、身体能力の向上、攻撃力のアップ、急所への的中率アップ、武道家のスキルによる筋力向上であった。よって志恩の些細な攻撃であっても、大きな威力発揮していたのであった。


 2人を倒された事で、正気を取り戻した男達は、一斉に志恩へと襲い掛かる。しかし、男達の攻撃は志恩に(ことごと)くかわされ、志恩のキックやパンチの一撃によって倒されていく。

 最後の1人を倒し終わると、志恩は手を軽く(はた)き大塚の元へと近付く。

「大塚さん、大丈夫ですか?」

「甲斐くん、貴方は何者?あの人数をあっという間に倒しちゃうなんて!」

「えっと…内緒ですよ、実は格闘家を目指して修行しているんですよ‥なんちゃって」

「凄い!甲斐くんは格闘家になるんだね。夢があって素敵」

「あっ…いや…まぁ…いっか」


 大塚さんには変な誤解をされてしまったが、特に困ることもないだろう。奴らが来たらいつでも俺が戦います。などと言って、大塚さんがバイトをすぐに辞めるのを止める事は出来た。

 しかし、奴らが突然の過激な行動には只事成らぬ理由がありそうだ。志恩は今夜から少し本腰を入れて動く事を考えてた。




ちょっと長めに話を作ってます。

次回は遅くなっても日曜日中に上げます。早ければもっと前に書き上げます。

まだまだ本編は濃くなって行く予定です。

宜しくお願いします。

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