体育祭 終
体育祭もラストスパート。
純奈の行く末は…
「どぉーなってんだ!バカヤロー」
バシッ!礼二はいつも子分の様に連れている生徒の1人を殴り飛ばした。周りの同級生達も少し引き気味に怖がっている。
礼二は自分のバッグに手を突っ込むとジャラっと手一杯の指輪を取り出し。
「おいっ、サッカーのハーフタイムで全員にこれを付けさせろ。1年と2年にもだぞ」
そう言うと、もう一人の子分に指輪を渡した。
「ふっ、これで純奈は俺のもんだ」
C組対D組の試合は順調に進んでいる。
そしてA組対B組の試合も順調に進み、ハーフタイムに入ったところだった。
両方の試合を注意を払いながら観ていると、志恩の足の上に足が乗って来た。グリグリ…
「シェリー先生と言い、今度は白石先輩ですか?最近、年上にも手を出していらっしゃるのね。お・に・い・さ・ま」
「いやぁ…ただ、仲良くしているだけですよ愛莉さん・・」
「へぇ~志恩は仲が良いとすぐに抱き合うんだね。アメリカンなだけとか言わないでしょうね」
「あの~足がグリグリ強くなってないですか…はは」
「なんであんなに仲が良いのか、たっぷりと聞かせてもら・・
ーーシオンっ不味いぞ、B組を観てみろ!
突然、頭の中にシェリーの声が響く。
志恩はB組のグランドに目を向けると、既に試合は始まっているのだが、試合に参加しているB組全員が指に指輪をはめていた。
指輪をはめることによる、能力向上だけならまだマシだったのだが、グランドで競技している生徒達の目の色が不味い。あれは少し抑えてはあるが、バーサーク化している目だ。
先程までの試合と違い、B組がA組を圧倒していた。だが、A組も負けまいと体をぶつけてディフェンスに入り、B組の生徒と小競り合いの様な形になる。しかし、そのぶつかり合いが引き金となってしまった。
ボールを取り合う両者が競り合っていたが、A組の生徒がボールを奪った瞬間、奪われたB組の生徒が殴り掛かった。それを切っ掛けに、サッカー選手のB組生徒が近くにいるA組選手に襲い掛かり始め、グラウンドは騒然となり始めた。
シェリーはグラウンドを隔てて向こう側に居るのが見え、既に魔法の詠唱準備に入っている。
志恩は愛莉を突き飛ばす形になり、愛莉が尻餅をついてしまったが、一言「ごめん」と言って走り出す。
愛莉は志恩に怒鳴ろうとしたが、隣のグラウンドで乱闘が始まっているのを見て、何も声が出なくなってしまった。
志恩はシェリーが何をしようとしているのか、すぐに察知し、志恩も詠唱の準備に入り、そして魔法の効果範囲に入ると、シェリー目掛けて呪文を唱えた。
『スモーククラウド』[煙幕弾]
シェリー姿は煙の中に消えると同時に、煙の中から光の線が目の前で乱闘になっているグラウンドの生徒に向かって飛んで行く。
すでに試合どころではないA組対B組のグラウンドは大混乱だった。しかし、何処からともなく飛んできた光に、暴れているB組の選手が当たると、生徒の指にはまっていた指輪が弾け飛び、生徒はその場に倒れ込んだ。
シェリーは志恩よりも魔法に関しては専門家であり強力な魔法使いである。志恩は指輪の破壊をその物体に触れなければ行使出来ないが、シェリーは遠距離での破壊を可能とする。しかしその際に破壊物への軌跡がシェリーから目標物へと出てしまう。今回はその軌跡を志恩がフォローする形になった。
今回の件で、A組対B組の試合は没収試合となり、引き分けの判定となった。
C組対D組の試合は後半戦でD組が頑張り、2対1でD組が勝利を収め、D組の優勝がほぼ確定した。
サッカーの騒ぎも収まり、志恩は自分のクラスの場所へと戻ると、生徒達はみんな次の種目の準備をしていた。そう、二人三脚の準備である。
志恩が愛莉を探していると、人の輪から外れて座り込んでいる。
「どうしたんだ愛莉、こんな隅っこで」
「別に。さっ私達も用意しましょうか」
愛莉が立ち上がった時「つッ」とよろける。
志恩は咄嗟に愛莉の体を支えてからしゃがみ、愛莉の足を触る。
「ちょっとよろけただけよ、何でもな…イタッ」
「何でもないのに痛い訳ないだろ。二人三脚は棄権だな、保健室に行こうか」
志恩が愛莉の肩を持ち行こうとすると、愛莉は立ち止まって志恩の腕を掴んだ。
「お願い、二人三脚だけ最後に走らせて」
「こんな足で走れないだろ」
「志恩に負担掛けちゃうけど、二人三脚なら片足だけでも走れる」
「だけどな…」
愛莉は悲観そうな顔で志恩を見つめ。
「だって、私も想い出が欲しいんだもん。足手まといになるかもしれないけど、志恩との体育祭の想い出が」
「・・・・始まるギリギリまで休んでおけ、保健室からテーピングと湿布貰ってくるから」
愛莉は満面の笑みで志恩に頷いた。
「うんっ」
足を挫いたくらいなら魔法ですぐに治せるが、あの場でそれを行うわけにはいかないし、次の競技で足を更に悪化させたとしても、その時はタイミングを見て魔法で治療すればよいのだ。
痛さよりも体育祭の想い出が欲しいと願う愛莉の気持ちは、魔法ではどうにも出来ない。ならば、魔法は保険として利用すればいい。志恩はそんなことを考えていたのだった。
痛めた足を志恩の足と結び、二人三脚走の順番を待つ。愛莉は時折、苦悶の表情を浮かべるが、それ以上に幸せそうな笑顔を志恩に向けていた。
志恩と愛莉の順番が来て、二人はスタートする。
志恩は私を気にしないで全力で走って、と言う愛莉の言葉に従い志恩は手を抜かず走った。勿論、愛莉を支える腕には目一杯力を込めて愛莉の負担を減らしながら。
結果は3位と平凡ではあったが、愛莉はゴールした喜びで志恩の頬っぺにキスをして周りをざわつかせた。
その後、愛莉をおんぶして保健室へと向かったのは言うまでもないだろう。
夕方まで青空を貫き通した太陽は、そろそろ疲れたと西の空へと傾きかけた頃、体育祭は全種目終了し、表彰式へと以降していく。
結果、D組が優勝、2位はF組、僅差で3位B組となった。
後片付けの開始しで、全校生徒は動き出す。
そして粗方終わったところで、志恩は最後の仕事に取り掛かるのだった。
人が殆ど居なくなった校庭の死角になる片隅で、純奈と礼二、それに礼二の子分2人が話をしていた。
「豪徳寺くん、D組が勝利出来たけど、私の事は諦めて貰えるかしら」
礼二は歯ぎしりをしながら悔しがっているが、突然開き直り。
「ああ、今すぐは諦めるが明日からは違う。そうだな、来週末にでも泊まりでデートでもしようぜ」
純奈はやはりと予想はしていたが、実際に言われると辛い表情になってしまう。
「それじゃあ約束もなにも無いわね」
「さぁな。別に断ってもいいんだが、俺は律儀だからな、親父にこの事を報告しちゃうかもしれないぜ。ひっひっひ」
純奈は項垂れてため息をつくと「わかったわ」と返事をした…と、その時。
「先輩、そんな約束も守れないアホの言うことなんて、聞く必要ないですよ」
純奈はハッと顔を上げ声のする方を振り向くと、辛い思いながらも笑顔を浮かべた。
礼二は顔を真っ赤に染めた怒りの表情で志恩を睨み付けた。
「おいっ小僧。お前が今、誰に大口叩いているのか分かってないようだな」
礼二は近くに置いてあったバットを拾い、志恩へと向ける。そして、後ろの二人に命令した。
「おいっそのガキを喋れないようにしてやれ」
そう言うと、礼二の後ろに居た体格の良い二人が手にバットと竹刀を持って志恩に近付いて来た。
「その子は関係ない。志恩くん、私は大丈夫だからもう帰って」
そう叫びながら純奈は志恩に駆け寄ろうとしたが、礼二に腕を掴まれ止められる。
「女は黙って見てろっ」礼二のその唸り声と共に2人の男子生徒が志恩に襲いかかった。
二人は交互に縦横斜めとバットや竹刀を志恩目掛けて振るが、志恩にはかすりもしない。やがて大振りになってきた攻撃に志恩が動いた。
バットが上から下へと振り抜かれると同時に、体を横にしてかわすと素早く懐に入り、下から上へと
掌低を繰り出す。男は少し体が浮き、そのまま後ろへと倒れた。
そこへもう一人が竹刀を横殴りに志恩を狙うが、志恩は今倒した男が持っていたバットが男の手から離れた瞬間、そのバットを空中で掴み取り、竹刀を受け止めた。そして竹刀を凪ぎ払うと、相手の懐へ飛び込み腹への一撃。男は汚物を吐いてその場に踞った。
礼二は、ぺっと唾を吐き。
「少しはやるようだが、そんな雑魚に勝ったくらいで調子に乗るなよ」
と言って、バットを振り回しながら志恩へと詰め寄って来た。
志恩は礼二からのバットや蹴りの攻撃を持っているバットで受け流し、時計を見て「そろそろかな」と呟く。
礼二は「よそ見してんじゃねぇ」と、バットを大きく志恩目掛けて振り下ろした。志恩は礼二の振り下ろされるバットのスピードよりも速いスピードで、礼二のバットを握る手元を斜め下から上へとバットで切り裂き、礼二の持っていたバットは宙を舞い、礼二は手を抑えて少し屈んだ。
志恩は振り上がった自分のバットを礼二の肩へと振り下ろし、礼二は膝を着いて肩を抑え戦意を失う。
志恩はバットを捨て、純奈の元へと歩み寄るが、その姿を見て、礼二は笑い出す。
「はっはっは。なんだお前は純奈の男か。だが残念だったな、いくら俺を倒しても純奈は俺の言うことを聞くしかないのさ。そうだろ純奈」
純奈は項垂れ志恩の腕をギュッと掴むしかなかった。
ところが志恩は笑顔で純奈の顔を上げると、うんっと1回頷いた。
「なぁ豪徳寺先輩、携帯持ってるでしょ。見てごらんよ」
志恩に言われ、ふてくされながらも自分の携帯を取り出すと、タイミング良く鳴り出した。
「なんだ脅かすなよ。親父からじゃねぇか」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「なんでだよ、わかったよ、怒鳴らないでくれよ」
電話を終えると、礼二は項垂れながら純奈に向かって力なく話す。
「もう、お前とは関わらない。もう何処かへいっちまえ」
「えっどうして?」
純奈は何が起きたのか全く理解出来ないと言った顔つきだった。
「いや、礼二。終わりじゃない、お前はこれから始まるんだ」
志恩がそう言うと、志恩の後ろから学校には似つかわしくないスーツの男女が4人近付いてくる。
「豪徳寺礼二だな、我々に同行してもらう。任意だが断ることは出来ない。言ってる意味が分かるな」
警察手帳を見せながら葛城刑事が言い、2人の刑事が礼二の両脇に来ると、オロオロとする礼二を抱え上げた。
「警察が学校に黙ってこんなことしていいのかよ」
礼二は悪あがきまがいに叫ぶが、更に現れた人物によって黙ることとなった。
「あら、学校は大丈夫よ。校長先生の了解も得てますし、お父さんの了解も得てますよ」
シェリーがそう言うと、礼二は力を落とし刑事に抱えられながら連れていかれ、葛城も志恩に目配せをしてから立ち去った。
シェリーは礼二の子分2人の男子生徒を連れ、志恩にウインクすると校舎へと戻って行った。
残されたのは志恩と純奈の2人だけ。
純奈は目の前で起きたことを理解するまで、呆然と志恩の腕にしがみついていたが、フッと我に返ると志恩に抱き付き、頬っぺにキスの嵐を振り撒く。
「志恩くん、あなたは魔法使い?私の一生の悩みを一瞬で解決してしまうなんて!夢でも観ているようだわ」
純奈は涙を流しながら満面の笑みで志恩を抱き締め続けるのであった。
志恩は純奈の落ち着くのを待ってから、まだ体育祭の後始末があるので教室へ戻らなくてはと言い、話はまた今度ゆっくりしましょうと、純奈を連れ立って校舎へと戻るのだった。
教室は祝賀会ムードで盛り上がっていた。
そこに志恩が戻ると、何人かの生徒が気付き志恩が戻った事を伝える。そうすると、更にクラス中が盛り上がり志恩を労ってくれた。
志恩は野球で大活躍し、クラス中その話で盛り上がっていたのだ。
こうしてひと波乱あった体育祭も無事幕を閉じるのであった。
帰りはシェリー先生が、車で志恩と愛莉を送ってくれた。勿論、愛莉はなぜ特別扱いしてくれるのかと尋ねたが、シェリーは志恩と私の仲だからと、それだけ言って去ってしまうので、愛莉の不信感はドンドン増殖していくのだった。
志恩は愛莉を部屋まで運び、夕食の用意を始める。そしてお風呂を沸かして、愛莉を呼びに2階へと向かおうとしたとき。
ガタガタゴト
大きな音に志恩が駆け付けると、階段の下でひっくり返った愛莉を見付けた…
「何やってんの?」
「だって~退屈だし、お腹空いたから台所に行こうとね」
「ちゃんと出来たら迎えに行くからさ。まぁ今、呼びに行こうとしたところだから、丁度いいや」
そう言って、愛莉の手を握り、引っ張り起こそうとすると。
「痛っ」
志恩はもしやと、もう一度手を触ると。
「痛い」
手を捻ったようだ。
「まったくもぉ、明日、足と一緒に手も診てもらわないとな」
取り敢えず食卓に座らせ、食事の用意を済ませる。
「それじゃあ、いただきます」
「いただきます。あーん」
「ん?」
愛莉は志恩に向かって口を開ける。「あーん」
「いやいや、フォークが有るんだから、食べれるだろ?」
「おかずは食べれるけど、パスタは無理だよ!はーやーくー」
「・・・」
「嫌なら今すぐ、シェリー先生や白石先輩の事を洗いざらい喋って貰いますからね」
「洗いざらいって…別にやましい事は何も無いけど・・・しょうがない、ほら、あーん」
愛莉は足をバタつかせながら、食事を楽しんで取ることが出来た。
食事を済ませ、後片付けを終わらせてから志恩は愛莉に向き直り。
「さっ、お風呂に入ってもう寝るぞ」
愛莉は両腕を伸ばして志恩に甘える。
「うん、早く入ろう」
「入ろうって、日本語おかしくないか?風呂場までは連れてってやるぞ」
「やです、右手が使えないんだから、お風呂に入れてくれないと」
「あのな、今日は簡単でいいから、軽く流しておいで」
「やです、運動して砂と汗で汚いんだから、しっかり洗いたい。別に私は気にしないんだから、早く入ろう」
「・・・分かった、なら責めて水着を着なさい。それなら今日だけ洗ってあげるから」
「う~ん、しょうがない、それで手を打ちましょう」
その後は部屋に戻って二人とも水着に着替え、一緒にお風呂に入る。
体を洗い終わった後、湯船に浸かりながら愛莉が水着を脱いでしまうので、最後は志恩が逃げるようにお風呂場から出て来るのだった。
明日からは、アーティファクトの出所の調査で忙しくなりそうだ。
数日後、愛莉を魔法で完治させ、医者には治りが早いと驚かれることとなった。
体育祭も終わり、またもや志恩に仕事が増えてゆく。
次回、番外事件?




