アルバイトの行方 終
時間推しちゃいました。固そうな話なんでサクサク次へと行きたいと思います。
今日は朝から雨が降っていた。
週末の雨は、人々の外出を妨げる要因の一つであり、家か近所で事を済ませる人が多い。
そんな今日のファミレスデミーズは、ランチがいつも以上に混み合っている。
土曜日の休みに、志恩はアルバイトの約束の期限は過ぎていたのだが、延長してもらい朝から働いていた。
「いやぁ~甲斐くんが居てくれて助かっているよ」
店長の目黒は志恩の背中を叩きながら嬉しそうな顔をして声を掛けてきた。
最近、アルバイトの人が辞めて人手不足となっていた為、仕事に慣れてきた志恩の働きぶりには助かっているようだ。
「忙しいと時間がたつのが早くて驚きますね」
志恩が店長に話すと、店長はうんうんと笑顔で頷いていた。
ランチの時間も過ぎ、食事よりもティータイムを楽しむお客が増えてきた頃。
「いらっしゃいませ、デミーズへようこそ」
「はーい、いらっしゃいました」
雨の中、元気一杯な女子3人が来店。
「おっやってますなバイトくん」
「制服似合ってますよ」
「ちゃんと出来てるの志恩?」
「くっ…」、「こちらの席へどうぞ」志恩の案内で席まで誘導された静香、柚木、愛莉の3人は席に着くとメニューを広げながら志恩を覗き見して、笑いを堪える様にしていた。
愛莉達は志恩のバイトをからかいに、もとい応援しに来ていて、志恩も知り合いが居ると少し恥ずかしいところもあるがちょっと嬉しい気持ちでもあった。
休憩の時間には店長が気を利かせてくれ、志恩も愛莉達と一緒の席に着き、座談を楽しんだ。
夕方頃になり愛莉達も帰ろうかとしていると、店の奥の席で男の怒鳴り声が響く。
「なんじゃこりゃ、スープに虫が入ってるぞ。この店は虫入りスープなんか出すんかい」
またか、と志恩が向かおうとするが店長が直ぐに志恩を止め。
「ここは僕が対応するから、甲斐くんは他のお客様をお願いするよ。何があっても僕に任せて、大丈夫だから」
そう言って、怒鳴り出すお客の元へと向かう。
志恩は渋々指示通り、他のお客に謝りながら対応していく。
愛莉は志恩の側へと近付き。
「あれが例の問題を起こす人?」
その問いかけに、志恩は少し考え込む顔をして。
「そうなんだけど、ちょっといつもと違うかな。いつもはもっと若い連中なんだけど、今叫んでいるのは中年ぽい輩だし、どうかな…。取り敢えず、愛莉達はもう帰りな、雨だし気を付けてね」
愛莉と柚木は心配そうな顔をしてから。
「無茶しないでね」
「気を付けてくださいね」
静香に関しては。
「不届き者はやっつけちゃいな」
などと、無茶苦茶を言っている。
そんな3人を見送り店内に戻ると、店長が騒ぎ出していたお客に胸ぐらを掴まれ詰められていた。それを見た志恩は急ぎ店長の元へ駆け付けるが、志恩が近付いて来るのに気付いた店長は、腕を志恩に向けて差し出し制止させる。
志恩は苛立ちを覚えたが、ここで自分勝手に暴れては、店長に迷惑が掛かってしまう。それに店長の気持ちも裏切ってしまうと思い、ぐっと我慢をし堪えた。
そんなとき、店内に1人の締まりのないスーツ姿の男が入って来る。
志恩は案内をしようと近付くが、男は志恩の横を通り過ぎ、揉め事になっている店長の側に近付くと、胸元から手帳を取り出し声を掛けた。
「おいおい、何があった?俺は青空署の刑事で神田ってもんだが」
神田の登場に、今まで店長の胸ぐらを掴んでいた男は手を離し、「へいっ」と話し出した。
そして男からの虫入りスープの話を聞いただけで、神田は「それはいけねえな。おい、お前が店長か?」と、神田刑事は何の追及も質問もせず、男の話をただ聞いただけで、店長に対して。
「衛生管理に問題があるなら、今すぐ店を閉めて衛生局に調べてもらいな。それまでは営業停止だな」
一方的に話を進める神田刑事に対して、志恩は理不尽さを覚え抗議しようと進み出るが…
「分かりました。今日は営業を中止します。誠に申し訳ございませんでした」
店長の目黒は刑事にそう言うと、因縁を付けてきたお客にも頭を下げ、志恩や他のバイトにお客様を帰すように指示をした。
この日は、結局そこで営業が中止になってしまい、志恩も「気を付けて帰りな、ごめんよ」と悲し気な表情の店長に見送られ、帰ることとなった。
雨も上がり志恩が帰り道を歩いていると、前方に先程一方的に店を閉めさせた神田刑事の姿を見つけたので、咄嗟に自動販売機の影に隠れて様子を伺う。
暫く様子を伺っていると、神田は先程言い掛かりを付けてきた男の客と落ち合い、何やら楽しそうに会話をしながら歩いて行く。どこへ向かうのか気になり、志恩は跡をつけていく。
勿論、相手は刑事なので素人の志恩が尾行などしたらすぐにバレてしまう可能性があるため、予め姿隠しと盗賊のスキルを魔法で掛けている。
夕方だが土曜日の雨上がり人通りも少なく、上手く見失わずに2人を追うことが出来た。2人が向かった先は雑居ビルの2階、ビルの表札には大久保興業と書かれてあり、いかにもと言う感じであった。
志恩は入り口に監視カメラもあることを加味して、外から浮遊で窓を覗き、中へとテレポートの魔法で潜入する。
中には山ノ手組と看板が掲げられていて、見た通りの厳つい顔の人達が何人も居た。
そして神田刑事はと言えば、ソファーに揺ったりと座りながら、貫禄のある白髪でダブルのスーツを着た偉そうにしている人物と話をしていた。
「神田さんにも手伝ってもらって、助かります」
神田の正面に座った大久保組長は神田にそう言うと、神田は姿勢を前に倒し組長の顔を見ながら。
「いや、今回の話は金に成りそうですからね。俺も頑張らせて貰いますよ」
「若い連中を使ったんだが、中々成果を出さなくて、手を拱いていたところなんですよ」
神田はソファーに体を預けて座るとやれやれと言う口調で一言。
「早く立ち退いてもらって、けりをつけましょうや」
組長はイヤらしい笑いを浮かべながら神田や他の人間に聞こえるように話す。
「次で終わりにしますよ。店で若い奴等を暴れさせ、そのあとダンプでも店に突っ込ませれば、2度と商売をしようとも思わんでしょう。神田さんにももう少し手伝って貰いますよ」
「おう、任せてくれ」
2人は甲高く笑った。
ーー目黒店長もいい人なのに、変なことに巻き込まれてツイてない人だなぁ…志恩は同情してしまう。
それから数日は保健所などの調査を依頼することで、デミーズは休みを取り志恩達も何事もない日々を過ごしていた。
今日は夕方からデミーズの再オープン。
志恩や猛、目黒店長はオープンの準備に取り掛かっていたのだが、店長は今一つ浮かない顔をしていた。
「どうしたんですか目黒店長、折角のオープンに浮かない顔をして」
志恩が店長の顔を覗き込むように話し掛けた。
「いやね、前回の様にまた何か有るんじゃないかと不安でね。それに従業員やお客様に何かあってはと思うと、気が気じゃなくてね」
「大丈夫ですよ、それにオープン前からお客様が入り口で待ってますよ」
そう言って志恩が入り口の方を指で指し示すと、店長も入り口に目をやる。そこには既に10人近いお客が列を成していて、それを見た店長は胸を張りやる気を出したようで。
「そうだな、お客様が期待してくれるならそれに答えなくてはな」
それから店長はテキパキとオープンの準備を始めた。
夕方の5時になり、入り口の札をcloseからopenへと代えるとお客が順番に案内されて行き、店内は忙しくなってきた。
ホールを志恩、猛、店長が世話しなく動き回り、お客の対応に追われながらも店内が活気付いて着た頃、ぞろぞろと入り口から15人程のバットや鉄パイプを持った例の若い男達が来店してくる。
そんな歓迎されない来店者に店長は真っ青な顔で倒れそうに成りながらも、志恩と猛を集め。
「私が何とか対応して時間を稼ぐから、二人はお客様を避難させてくれ」
そう言って武器を持った男達の元へと進んで行こうとする。
すると今度は志恩が店長の腕を掴んで引き戻す。
「店長、今日は俺らの出番です。店長は怪我をしないように下がっていてください」
何を言っているんだ、と言う顔の店長を尻目に、志恩は前へと進み出た。
招かざる客は持っている武器で、レジ近くのお土産やテーブルの上の備品などを壊しながら店内へとゾロゾロと進行してきた。
志恩は手近な若い男を次々と殴り関節を決め鎮静していく。志恩が手に余った男達は、お客へとちょっかいを出し始めた。
「おう姉ちゃんいい胸してな、こんな店でお茶してないで、俺らといいことしようぜ」
「あら、良いわよボク。でも私は過激よ」
そう言って女性客は立ち上がると、話し掛けてきた2人の男の手首持つと腕を半回転させしゃがみ込む、すると手首を持たれた男達は関節を極められ、体を地面へと擦り付け痛い痛いと唸る。
それを唖然と見ていた男の前に男性客が立ちはだかり。
「ほらほら、余所見している暇はないぞ」
そう言われた瞬間、持っていた木刀を捻り取られ、男性客は一瞬で周りに居た5人の手首を木刀で上から下へと叩き、持っていた武器を弾き落とさせる。
その他の暴れる男達も近くの客に一人一人取り押さえられていった。
怒濤の様な出来事に店内は一瞬で静まり返り、店長はただ唖然としている。
だが、すぐに次なるゲストが登場するのだった。
バタバタと、15人程の制服警官が突入してくる。
そして警官隊に混ざり、例の神田刑事。
「おう、乱闘事件が発生しているとの報告が入っている。暴れてる奴等を全員逮捕だ‥」
と、意気込んで入って来たが、店内の様子に動きを止めてしまった。
そこへ店長が素早く対応する。
「刑事さん、突然暴れて入ってきた若者達をお客様も協力してくださり、取り押さえてあります」
神田はその状況に苛立ちを覚え、警官隊と店長に叫んだ。
「ええい、こんな場所で乱闘していたことに代わりはない。全員逮捕して、店は当分営業停止だ」
店長は慌てふためきながら「お客様は関係ありません」と神田刑事に言い寄るが、神田は店長の言葉を無視し、早くしろと命令する。
神田刑事の指示で警官隊が店内の人間を捕縛しようとすると、男達を取り押さえていたお客達は一斉に胸元から手帳を取り出し。
「我々は警視庁刑事課の者だ、事件を起こしたのは我々が取り押さえている若いガキ共だ、速やかに連行したまえ。そして神田刑事、君には山ノ手一家との話がある、同行してもらうぞ」
神田刑事は目を丸くして力なくその場に崩れ落ち、乱闘騒ぎの若者と一緒に連行されて行った。
一連の目まぐるしい展開に、店長の目黒はただ呆然と見ているしかなく、レジにもたれ掛かりながら頭を押さえ隣に居る志恩にか細い声で聞いてくる。
「次から次へと、何が起きているんだい?このまま営業は出来るのかな?甲斐くんはどこまで分かっているんだい?」
当然の質問に、志恩は申し訳なさそうな顔をして。
「すいません店長、でも多分まだ終わりじゃないですよ」
志恩の言葉に店長は、辛そうな驚きの表情で返す。そして、窓の外へと視線をずらすと驚愕の表情へと変わり、窓の外を指差しながら尻餅を着いて腰を抜かしてしまった。
その時窓の外では、T字路の交差点に位置するこのレストランに向かって運者席に誰も乗っていないトラックが猛スピード突進してくるのが見えた。
店長と猛、そしてお客として潜入していた刑事は、驚きながら窓から退避する。
しかし、志恩と客の振りをしていたシェリー、隆二は微動だにせず、涼しい顔をしていた。
トラックはT字路を突き切り何台かの車を弾き飛ばしながら、店前の歩道に乗り上げ窓を突き破って店内に突っ込んで来る筈…だったが、その事故を見た人々は全て驚きを隠せずにいたのだった。
なんと、トラックが歩道に乗り上げる寸前、歩道のガードレールに車体を完全に止められ運転席は潰れてしまい、砕けた破片などがレストランの窓ガラスに当たるが、窓ガラスはびくともせず、破片はその場に落ちて散らばったのだった。
勿論これは、予めガードレールと窓ガラスにシェリーが魔法を発動するように仕掛けておいたものである。
しかし事件はまだ終わらず、志恩は自分の甘さを悔いり怒りを増すこととなった。
外では野次馬達が集まり、遠くからサイレンの音が聞こえ始めた頃、ファミリーレストラン「デミーズ」に一本の電話が鳴った。
それを受けた店長は「分かったから止めてくれ」と電話口で叫んだ後、その場に崩れ落ちてしまう。
志恩は店長の側へと駆け寄りどうしたのかと聞くと、その電話はドスの効いた声で従業員の女を預かっている、大人しく解放して欲しがったら店を閉めろ、と言うものだったそうだ。
すぐに電話は切れてしまい、今度こそどうすれば良いのか分からないと、頭を抱える店長に志恩は怒りを抑えた表情で。
「大丈夫ですよ、今度が最後です。すぐに解決しますから、店長は店が営業出来る様に片付けをしててください」
そう言って、店のサロンを外し猛に渡す。
「ちょっと最後の後始末を見てくるから、店の片付けとか宜しくな」
と猛に言うと、猛は危ない事は警察に任せておけよと言われ、後片付けは任せとけと背中を押される。
志恩が店から出ると、そのあとに隆二、シェリー、葛城、水上と続いた。
一行は、大久保興業の入るビルの下にたどり着き、臨戦態勢に入った。
志恩と隆二は手に先程レストランで拾った木刀を持ち、シェリーはぶつぶつと既に魔法の詠唱に入っている。葛城と三上は銃を手元に構えていた。
このビルに入るいくつかの会社やお店は、非合法のものしかないので、遠慮しないでいいと聞いている。
志恩は2階の入り口扉の前に立つと武器を持たない左手を扉に添えて一言呟く、すると扉は大きな音を立てて内側に吹き飛び、吹き飛んだ扉に1人が巻き込まれ扉と一緒に床に倒れた。
それを合図に志恩と隆二は中へと駆け出し乱闘へと突入した。
シェリーは室内を見回すと奥の部屋を指差し、後ろに居る葛城と三上に「居た、奥の部屋」と言って、目的の部屋に近付き壁に両手を添える。すると忽ち壁が砂に変わり大穴を開け、奥の部屋が露となった。
奥の部屋には椅子に座らされた大塚里奈が涙を浮かべながら男二人に掴まれている。シェリーは素早くその男二人に両手を差し出し魔法を唱える。すると男達はピタリと動きを止め動かなくなり、シェリー合図で後ろに居た葛城と三上が素早く駆け寄り、大塚を保護した。
シェリーが志恩にテレパスで大塚の無事を伝えると隣の部屋では、乱闘音が更に激化、破壊音、爆発音、そして銃声。暫くすると、静まり返った。
眺めの良くなった組事務所に葛城と三上を残し、4人はその場を後にする。
大塚里奈は涙を流しながら震えていたが、シェリーが頭を撫でながら「もう大丈夫だよ、怖いことは何もないから、ゆっくり眠って忘れなさい」と言って魔法を唱える。大塚は隆二に背負われデミーズへと向かうのだった‥夢の中で今の出来事を忘れながら…
「さあ店長!気合い入れて頑張りましょう!」
今日は日曜日、悪い噂が流れ客足の減ったファミリーレストラン「デミーズ」を盛り上げようと、朝から学校の友達にも手伝ってもらい、ビラを配って知り合いを呼び、本日のデミーズはオープンから満員御礼である。
「デミーズへようこそ」
「デっデミーズへようこそ…」
「ほらほら、柚木ちゃん、もっと自信もって」
今日は静香、柚木、愛莉にも手伝ってもらっている。
「柚木ちゃん、制服似合っているよ」
「そうですか?あんまり志恩くんに見られると恥ずかしいよ」
柚木が顔を赤くして照れていると、志恩の耳が摘ままれ引っ張られた。
「痛て痛て」
そこには愛莉と静香が腕を組ながら仁王立ちで志恩の前に立ち。
「ちょっと!私達には何もないのっ」
志恩は二人をじっと見つめ。
「勿論、二人共良くお似合いで。でも、スカート短くない?パンツ見えるよ」
パシッ
ーー痛い‥
「ハハハ」
そこには笑顔で忙しそうにしている目黒店長の姿があった。志恩は店長の側にいき。
「俺、目黒さんみたいな真面目な人が好きです。頑張って下さい」
志恩に言われ、目黒は照れながら。
「甲斐くんには不思議な体験をさせてもらったよ。目茶苦茶な出来事があったけど、いつの間にか何も無かったかのように日常が戻ってきて驚いているよ。また、忙しい時にはいつでも手伝いに来てくれ」
志恩は目黒の差し出された手を力強く握った。
最近、愛莉の影が薄いので、次回はメインで描きたいと思います。
更にそのあとには…。
今週中に次を仕上げたいですが、忙しいと来週のこれくらいになってしまいます。




