終結、そして始まり。
真面目な本筋を入れようと思ったら、ダラダラ硬い話が続きそうだったんで、一端終わらせました。
メインの登場人物や事件をどの順番で入れていこうか悩んでますが、もし楽しく読んで下さっている方がいるなら、頑張って書いて行きます。
家の明かりやお店のネオンが付き始め、街の景色が昼から夜へと移り変わっていく。
電車の窓から見える景色、遠い空を眺めながら、虚ろな眼差しを浮かべていた。
駅を降り人混みを抜け扉を開ける。
カランカラン
「あれ、どうしたの愛莉ちゃん。1人?」
愛莉は『カフェムーン』のカウンターに座り、暗い表情で隆二の顔を見つめた。
「志恩がいなくなっちゃったの、どうしたらいいか分からなくて」
「何も言わずに?」
「うん…突然出て行って、追い掛けたんだけど消えて居なくなっちゃったの!」
隆二は志恩から全て聞いている。その上で志恩が愛莉に何も言わず、それも魔法を使って移動したとなると、よっぽどの事があったと思われた。
「愛莉ちゃん、行こう」
「えっ!」
葛城と長谷部の前方には、顔は見えないがハッキリと人影が見え、その顔がニヤリと笑った様に思えた。
相手は手を突き出し何かを唱えると、手のひらから炎の玉が現れ、葛城達へと飛ばして来た。
葛城は避ける事を諦め、長谷部を庇うように覆い被さりグッと耐えた。只では済まない覚悟を伴って。
少し遅れて近くで爆発音…がしかし、爆風も衝撃も襲ってこない。
葛城は恐る恐る体を起こしてみると、目の前に爆煙が上がっており、自分の回りにドームの様な虹色のガラスが覆っていた。
「何とか間に合いましたね」
頭上からゆっくりと降りてくる少年の姿に、葛城はゴールテープを切ったマラソン選手の様な安堵の表情を浮かべてしまった。
「志恩くん、上にまだ吉田議員と三上巡査が」
「了解です」
志恩は素早く、敵が居たと思われる方向に手をかざし唱える。
『ファイアーウォール』
姿の見えぬ敵と志恩達との間に、突如横幅10m程の炎が燃え上がった。
その隙に志恩達は急いで山道を登り始める。
志恩達の前方では、三上が銃撃戦を繰り広げていた。しかし多勢に無勢、三上が撃つ銃弾は威嚇射撃にしかなっておらず、敵の包囲は徐々に近付いて来ていた。
そんな三上の後ろで足音が…三上は青ざめた表情で後方へと銃口を向けた!
必死だった三上の表情は、後ろの人物を確認出来た瞬間、安堵へと変わっていった。もしここが、敵の火中でなかったら、緊張の糸が切れて気を失っていただろう。
三上を見付けた志恩達は合流を果たし5人となったが、まだ敵の包囲網の中に居て、脱出方法を考えなければならなかった。
志恩はまず、魔法で辺り一面にスモークを張り、敵のいない横道へと歩き始めた。
志恩自体この場所に急いで来るため、かなりの魔力を消費しており、逃げ切る為には魔力の無駄遣いを避けねばならなかった。
相手には魔法使いがいるので、こちらの動きは筒抜けと考えた方がいい。今は少しでも早く、この場所を離れなければ、こちらが不利になるのは必然だった。
志恩は葛城と吉田議員に向かい合い。
「人里に向かって逃げ、急いで東京に戻りましょう。こちらの動きがバレているなら、東京での護衛の方が安全です」
2人は無言で頷き、志恩の後に続いた。
5人は急いで移動しているが、山に不馴れな上に女性も含まれている。どうしても行進スピードに限界が出ている状況で、後方から銃声や爆発音が聞こえてくるので、精神的にも疲労が溜まってきてしまう。
敵は当然、威嚇のつもりで発砲や魔法を使っているのだろう。今の我々には充分効果を発揮しており長谷部紀香は時折、私を置いて先へ行ってくれと言い出す。が、そんなことをここに居る4人は考えてもいなかったし、その様な行動に出るものもいない。
志恩達は何とか舗装された二車線の道路へと出ることが出来た。だが逆に視界が開けた分、敵に狙われやすくなってしまう。
長谷部の体力はもう限界であり、これ以上山道を進むには無理があった。
全員で空を逃げても、志恩の魔力が尽きた時に敵に見付かれば終了してしまうし、志恩が残り敵を足留めしている隙に、他の人が道路に沿って逃げたとして、一般車両と遭遇すればいいがもし敵の車と遭遇した場合、その時点で終了してしまう。
どの選択肢を選んでも、一か八かの賭けになってしまう状況で志恩は決断しなくてはならなかった。
「葛城刑事、俺がここで敵を足留めするので、4人はこの道を下ってください。もしも途中で車に遭遇出来れば、そのまま逃げて下さい」
「志恩くんはどうするんだね?」
「俺の場合、1人の方が逃げ切る確率は高いですから」
志恩はそう言ったが、いつまで持ちこたえればいいのか分からない状況で、限界まで粘ってから逃げ切れるか、あまり自信がなかった。
しかし、今は行動を選択し、決断しなければならなかった。
4人を行かせた後、志恩は呟いた。
「異世界ではドラゴンや魔獣と、何度も戦ったけど1人で戦ったことってなかったな~寂しい~」
志恩は夜空を眺めながら感傷に浸り、その後、気を引き締め銃声の鳴る方角を睨んで見つめた。
志恩が覚悟を決め敵を待ち構えていた時、4人の逃げた道路の方向から車のライトが近付いて来た。
4人がもし、途中で車を捕まえる事が出来た場合、そのまま街に逃げるように伝えてある。その後、他の車と遭遇したなら危険なのでこちらに車を来させないだろう。そう考えると一番悪い可能性の敵に遭遇し捕らえられてしまい、その追っ手が来たと考えるのが打倒である。
志恩は近付く車に向かって、臨戦態勢を取った。
「しおーん!!」
近付いて来る車の窓が開き、そこから懐かしい声が聞こえてくる。
近付いて来た車を視認出来たとき見間違うことのない車にホッとする。夏に温泉にみんなで行った時のワゴン車。勿論、運転手は隆二である。
涙が出そうになる喜びを我慢して、志恩は車へと乗り込む。それを確認する間もなく、来た道を逆方向へと急発進し、その場から走り去った。
車の走り去る音を聞き付け、現れた黒塗りの武装集団。
「ちっ逃したか!まあいい、東京に帰れば、隠れられるところなどないのだからな」
黒い影は、森の中へと消えていった。
隆二の車は、警視庁の前で4人を降ろし、その後志恩と愛莉を家の近くまで送り届けてくれた。
「隆二、ありがとな!助かったよ」
「礼なら愛莉ちゃんに言いな!スゲー心配してたんだぞ。またな」
隆二は去っていき、愛莉と志恩が残された。
「どうして勝手に危ないところに行っちゃうの?」
「急な話だったからな、ごめん。俺も焦っちゃって」
「高校生の志恩が行ったって、何にもならないじゃない。最近、志恩がどこか遠くへ行っちゃう夢見るから、本当にどこかへ行ってしまうのかって心配になったんだから」
「ごめん、どこにも行かないし、無茶もしないよ」
志恩は愛莉の泣きそうな顔を自分の胸に押し当て、頭を撫でてやった。
「今日は助かったよ、ありがとう」
静かに呟いた。
その日のニュースは、吉田議員で持ちきりだった。
吉田議員は、自分を狙う者達がいて隠れていたが、これからは法案可決まで逃げ隠れせず闘うと発表した。
葛城刑事や警備に入る警官は大変だろう。しかし、山荘の隠れ家が露見したことから、警察内部に敵が居ることは間違いなさそうだった。
そんなニュースを愛莉と観ていたが、愛莉はどう思っているのだろう…ニュースになるような事件に、これ以上関わらないで欲しいと思っているのは間違いないだろうが、実はこの事件の真相に志恩が深く関わっているとは、夢にも思ってないだろう。
志恩はニュースを観ながら、愛莉の横顔をずっと眺めていた。
次の日、学校の授業を終えて1人帰宅する志恩。愛莉は部活があるので遅くなるようなので、家に帰ってから夕食の用意をして出掛ける仕度をした。
その日の学校の休み時間に、志恩は葛城に電話をしていた。葛城は警護の部隊を指揮しているらしく、夜に会おうとのことだった。
日も暮れ出した赤い夕日の道路を人の流れに逆らって、秋葉原の道を進んむ。
いつものドアを開き、カウンターへと座った。今日は葛城と三上たげなので、隆二も交えて話をする事にしていたのだ。
昨日は隆二のお陰で助かったと言う要因も有り、話をする中に入れておかなければならないと判断したからである。
葛城から現状の説明をしてもらった。
吉田議員は警察の完全警護体制下にあるが、警察内部に敵がいて襲ってくるなら、意味の無いものである。しかし、警護に当たる刑事達は命を掛けて守るつもりでいるため、後は祈るのみであった。
議会が開かれるのは4日後なので、その日までがタイムリミットである。いくら警察内部に敵がいたとしても、この短期間に犯行を強行する場合、敵はかなりのリスクが伴われるはず。だからこそ、物量で警護するのだと葛城は賭けに出ていた。
志恩と隆二は大きな動きがあるときは手伝ってもらうが、あくまでも一般市民な為、最後の切り札としてしか動いてもらうつもりはないと、葛城は志恩達に告げた。
それから数日、何事もなく世間は動いていった。
流石に敵も諦めたのだろうと、警護に当たった者達がホッと気を許した時、事件は起きた。
警護に当たった大勢の警官やSP達が、議事堂まで吉田議員を見送り、最後の仕事を終えたと思ったその時、正面入口から向かって左の路上で爆発が起き黒煙を上げた。
そこに居た多くの人達が、黒煙の上がった方向に警戒体制を取った瞬間、その背後の方向より炎の玉が2つ飛来し、吉田議員を急襲、議員諸共近くに居た人を吹き飛ばした。
志恩がその事件を知ったのは、事件が起きてからかなり時間が経った頃、授業を終えて帰宅した時間である。
葛城から連絡があり、吉田議員は即死、周りに居たSPなども全員死亡。長谷部紀香は第一秘書に成っていたのだが、吉田議員から法案の可決が終わるまでは、外での一緒の行動は避けるように言われていた。
1度、辛い思いを彼女や家族にさせてしまったと言う、吉田議員からの配慮だったようだ。
しかし、辛い結末になってしまったのは間違いない。志恩も悔しさはあるが、志恩以上に葛城はもっと辛い思いをしているだろう。
敵の目的は達成されてしまい、今後の動きは予想出来ない。
今後、犯人捜査をしていくのが葛城達の仕事になっている。しかし、証拠が残らない手口で唯一の手掛かりは、その場に居た人達が容疑者と言う、途方もない難解事件であった。
志恩は真剣な面持ちでカウンターに座る。その正面には、スポーツ選手の様な体格の隆二が、営業スマイルを時折見せながら、志恩と一緒に考え込んでいた。
志恩の正体が、敵に知られている可能性は高い。しかし、あくまでも志恩は一般市民であり、警察でもなんでもない。敵に狙われる可能性は比較的に低いし、例え狙われたとしても志恩を害することは容易ではなく、相手にとってもリスクのあることになる。
しかし、志恩の家族や友達が危険に晒される可能性は高くなったのは事実である。
やはり、仲間を増やすしかない。
そう、協力な勇者と言われた仲間を…
次回、誰が誰を好き?体育祭まで後わずか。
書きたいことが一杯で、どう書いたらいいのか悩んでます。
もっと上手く書けるようにしていきますので、宜しくお願いします