大吾と睦子の修行と八郎の秘密
「今日は町中の豆腐の角を鋭利にしておいた!」
「意味が分からんぞバジリスク!調子が悪いのか!?ビクトリースマーッシュ!」
今日もいつものように、バジリスクがビクトリーによって空の彼方へと吹き飛ばされる。
しかし――
今日の八郎は、どこか浮かない顔をしていた。
原因は、先日ボニーから受け取ったトンファー銃。
〝アンフェスバエナ〟。
トンファーとしての扱い方は分かる。だが問題は――銃としての使い方だった。
自室でアンフェスバエナを手に取り、あらゆる角度から眺める。
「弾を入れる場所がないんだよなぁ……」
銃である以上、どこかに弾丸を装填する場所があるはず。しかし、いくら探してもそれらしき箇所は見当たらない。
そんな八郎の隣で、睦子が一枚の写真を眺めている。
「この写真の人がヴァイパー?」
「…………」
「この人めちゃ強そうだねー!」
「…………」
「なんで左目に傷があるの?」
「…………」
「なぁんで無視するのよぉおおおおお!」
「えっ!?なに、どうしたの睦子?」
「さっきからずっと話しかけてるんだけど!」
「あ、ごめん。ちょっと考え事してた」
八郎が写真へと目を向ける。写っているのは、父――ヴァイパー。
「左目の傷はね、最強の魔法使い〝灰の王ガンダルフ〟につけられた傷なんだ」
「えっ!?」
「……っていうのは、父さんが小さい頃の僕に話してた冗談。言うことを聞かない時はいつもこの話で僕を怖がらせてたっけ」
「なーんだ。」
実際のところは、ヴァイパーが五歳の頃。六助の刀で遊んでいたところ、手を滑らせて目に刃を当ててしまったらしい。
「父さん、ちょっと抜けたところあったからなぁ」
「意外としょうもない理由だった……」
睦子は呆れながら写真を置く。
「ところでさっきから何をそんなに悩んでるの?」
「これ」
八郎がアンフェスバエナを見せる。
「トンファーとしては使えるんだけど、銃なのに弾を入れる場所がないんだよ」
「じゃあ単純に、銃っぽいだけでトンファーとして使いなさいってことじゃない?」
「でも引き金があるんだよね」
「ちょっと貸して」
睦子が八郎からアンフェスバエナを受け取る。
そして――引き金に指をかける。
「くらえー!」
バンッ!!
「!?」
大きな銃声が部屋に響く。
そこには、ちょうど部屋へ入ってきた大吾が――その場に倒れる。
「なんで……?」
「大吾ぉぉぉぉ!?」
睦子の顔が青ざめる。
「わ、私悪くないもん!」
八郎は倒れた大吾を見ながら、冷静に答える。
「大丈夫。これ、空砲だから」
どうやらアンフェスバエナは、ボニーの陰によって銃の内部で爆発を起こすことができるらしい。
しかし、肝心の弾丸を装填する場所がない。
考えていても仕方がないと、八郎は銃に詳しい半三へ相談することにした。
アンフェスバエナを手に取り、半三がじっくりと観察する。
「トンファー銃とは珍しいものですね」
引き金や銃口を確認しながら話を続ける。
「そもそも銃というものは、火薬の爆発によって弾丸を発射するものです。これは銃自体に爆発を起こす陰が込められている。ですが――」
半三が銃口を覗き込む。
「やはり弾丸を装填する場所がありませんね」
「そうなんだよ。だからどうやって撃つのか分からなくて」
半三は少し考える。
「ボニーさんは、お父様ら八郎様に渡すよう頼まれていたんですよね?」
「うん」
「でしたら、八郎様にしか扱えない何かがあるのでは?」
「僕にしか……?」
八郎がアンフェスバエナを見つめる。
そして、何かに気づいたように目を細める。
「……なるほど」
一方――卯との干支合戦で、悪役十二支との力の差を思い知らされた大吾。
そして兄を倒すため、もっと強くなりたいと考える睦子。
二人はさらに強くなるため、クボケンと菜々子に陰の使い方を教えてほしいと頼んだ。
それぞれの戦闘スタイルを考え、大吾は菜々子。睦子はクボケンから指導を受ける。
クボケンの前に、睦子が正座する。
「俺とお前は、どちらかと言えば近接型だ」
「うん」
「攻撃力は高いが、その分大振りになって隙ができやすい。そこをどう補うかも大事なんだが――」
クボケンが睦子を見る。
「その前に、そもそも陰の量が少なすぎる」
「えっ」
「大吾も同じだ。まずはそこからだな」
一方、大吾と菜々子は――
「じゃあまず、陰についてちゃんと教えてあげる」
「おう!」
「この世界に生きる者はみんな、核というものを持っているの」
大吾が自分の胸元を見る。
「核?」
「そう。ヴィランは陰の核、ヒーローは陽の核。そして市民は、その両方を半分ずつ持っているわ」
「へぇー」
「この核が、私たちの力の源。だから核を破壊されれば命を落とすし、陰を使い果たしてしまっても同じよ」
「……使い切ったら死ぬのか?」
「そう。だから強くなるためには、ただ技を覚えればいいってわけじゃないの」
菜々子が大吾を指さす。
「まずは、陰を蓄えられる核の器そのものを広げること。器が大きくなれば、それだけ多くの陰を使えるようになるってことね」
菜々子が指を折りながら続ける。
「核の器を広げるために必要なのは、体力、筋力、精神力、思考力、集中力――この五つ。これをまとめて――五広力という」
「お前らの学校の成績を見る限り、思考力と集中力は期待できそうにないから……」
再び、クボケンと睦子。
「お前らは、体力と筋力と精神力を鍛える。まずはそこからだ」
菜々子からマンツーマンで指導を受けると聞き、何やら期待を膨らませる大吾。
(菜々子先生と二人で修行かぁ……)
思わず頬が緩む。
「何ニヤニヤしてるのよ」
「いや!なんでもねぇ!」
こうして、大吾と睦子の本格的な修行が始まった。
翌朝。
隈だらけのゲッソリした顔で、大吾が朝食をとっている。
そこへ――顔中をたんこぶだらけにした睦子がやって来る。
二人の目が合う。
「大吾、どうしたのよその顔……」
「おまえもな……」
大吾は菜々子から、鬼のような精神力の修行。
睦子はクボケンから、竹刀を使ったスパルタ修行を受けていた。
どうやら二人とも、想像していた以上に過酷な夜を過ごしたらしい。
そして放課後。
いつものように、大吾と睦子が八郎を誘う。
「八郎、帰ろうぜ!」
「ごめん。今日はちょっと用事があるんだ」
「用事?」
「うん。また明日ね」
そう言い残し、一人で歩いていく八郎。
大吾と睦子は、その背中をぽかんと見送る。
しばらくして、睦子が目を細める。
「……何か怪しいわね」
「怪しいって何が?」
「いつも一緒に帰ってるのに、今日は一人でどこか行くのよ?」
睦子が八郎の背中をじっと見る。
「もしかしたら、何か強くなる秘密があるのかも……」
大吾も八郎を見る。
「なるほど……」
「大吾、追いましょ!」
「おう!」
二人はこっそり、八郎の後を追うことにした。
二人が距離を取りながら、八郎の後をつけていく。電柱の陰から顔を覗かせる睦子。その後ろから大吾も覗く。
「見失わないでよ」
「分かってるって」
しかし――八郎はとっくに二人の気配に気づいていた。
(……ついてきてるな)
何事もないように歩きながら、普段なら通らない細い路地へ入っていく。
右へ。左へ。
さらに細い道を抜け――
「……いない!」
角を曲がった睦子が辺りを見回す。
八郎の姿は、どこにもない。
「完全に見失った……」
「待て」
大吾が耳を澄ませる。
「……こっちだ」
「分かるの?」
「足音が聞こえる」
「そんなの聞き分けられるの!?」
大吾を先頭に、二人は再び八郎を追う。
やがて辿り着いたのは、一枚の壁。
「この向こうだ」
二人がそっと壁から顔を覗かせる。
そこに広がっていたのは――墓地。
「……え?」
一つの墓の前に立ち、静かに手を合わせる八郎。
思わず言葉を失う二人。
その時――
「何してんだ、お前ら」
「うわっ!?」
背後から突然声をかけられ、二人が飛び上がる。
振り返ると、そこにはクボケンが立っていた。
「ク、クボケン!?」
「八郎の後をつけてたのか?」
「えっと……その……」
睦子が気まずそうに目を逸らす。
クボケンが小さくため息をつく。
「まったく……」
実はクボケンも、八郎から頼まれて二人の後をつけていた。
大吾が墓地にいる八郎を見る。
「あれ、誰の墓だ?」
クボケンが墓の前にいる八郎を見守る。
少しの間を置いて、静かに口を開いた。
「八郎の母親の墓だ」
「八郎の……?」
「八郎の母親は、あいつを産んだあと、とあるヴィランに殺された」
大吾と睦子の表情が変わる。
「犯人はまだ見つかってない。それに、父親のヴァイパーさんも今は行方が分からない」
クボケンが続ける。
「だから八郎はヴィランとして活動しながら、ヴァイパーさんの行方と母親を殺した犯人の手がかりを探してる。ヴィランの世界にいれば、そういう情報も入ってきやすいからな」
「…………」
「ヴァイパーさんだって、生きてるとは限らない。それでも八郎はずっと探し続けてる」
二人は何も言わず、八郎の背中を見つめる。
「悪役十二支をまとめて、ヴィラン同士が争わないよう、もう一度結束を固める。それはヴァイパーさんも目指していたことだ。八郎はその意志を受け継ごうとしている」
睦子が顔を上げる。
「それで、十二支巡りを……?」
「ああ」
クボケンが少し間を置く。
「八郎が十二支巡りの話を出した時、俺は反対したんだ。歴代でそれを成し遂げた者は一人もいない。ヴァイパーさんですら、成し遂げられなかった。それがどれだけ無茶な挑戦か知ってたからな」
墓の前に立つ八郎を見つめる。
「でも八郎は聞かなかった。お前らは知らないだろうけど、あいつは毎日、人知れずとんでもない修行を続けてる。全部、自分の目的を果たすためだ。月に一度ここへ来るのも、母親の墓の前で自分の決意を確かめるためなんだろうな」
大吾が小さく呟く。
「……全然知らなかった」
「私も……」
二人が、墓の前に立つ八郎を見つめる。
いつも学校で一緒に笑っている八郎。その裏で、誰にも見せず自分の目的のために努力を続けていた。
しばらく黙っていた大吾が口を開く。
「……俺、もっと強くならねぇとな」
睦子も静かに頷く。
「うん。私も」
二人はそれぞれの目的のため、改めて強くなることを決意する。
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