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卯の章 石川県

バジリスクへの懸賞金騒ぎも、ようやく落ち着きを見せ始めていた頃。

八郎たちは石川県を訪れていた。

目的は――悪役十二支〝卯〟の一味。

アン・ボニー船長率いる女海賊団との同盟である。

海岸へやって来た八郎たちの前に、巨大な影が姿を現す。

「うおー!すげーでけーっ!」

初めてその光景を目にした大吾が、思わず見上げる。

そこにいたのは、巨大な鯨。そして、その広大な背には一隻の海賊船が築かれている。

帆には、卯を象徴する海賊旗。

この国の海域を守る、アン・ボニー海賊団の船――〝ポセイドン〟。

その巨体は、まるで重さを感じさせないように海上へ浮かんでいる。

八郎がポセイドンを見上げる。


今回ここを訪れたのには、大きな目的があった。

〝十二支巡り〟。

悪役十二支を巡り、それぞれの一族と同盟を結んでいく試練である。

悪役十二支の世界では、正式に同盟を結ぶことを――〝盃を交わす〟という。

十二支のすべてと盃を交わし、十二支巡りを成し遂げた者は、未だかつて存在しない。

だが、その偉業に最も近づいたと言われている人物は存在する。

八郎の父。ヴァイパーだ。

そして今、八郎もまた十二支巡りに挑もうとしている。

その最初の相手として選んだのが、卯だった。

だが、ただ会いに行けば同盟を結べるわけではない。

十二支同士が盃を交わすためには、互いを認め合い、絆を深める必要がある。

そのために行われる勝負。

それが――〝干支合戦〟。

干支合戦を申し込まれた側が、勝負の内容を決めることができ、戦いであろうと、競技であろうと、その方法は自由だ。

そして正式な干支合戦には、勝敗を取り仕切るため〝辰〟から立会人が派遣される。

今回、八郎たちの前に現れた立会人は――

「うっす!」

勢いよく頭を下げる人物がいる。

「今回、立会人を務めさせていただく伏龍会の羽瀬光希っす!よろしくっす!」

辰の一族――伏龍会。その下っ端、羽瀬光希。

そして卯が提案した今回の干支合戦は――リレーであった。

四人一組でバトンを繋ぎ、先にゴールへ辿り着いた方が勝利となる。

ただし――

攻撃、妨害、罠。何でもあり。普通のリレーとは、少々違う。

「やっとこの日が来たね。よろしく、ボニー」

「うぬ。悔いのない戦いをしよう」

八郎の向かいに立つ、小柄な女海賊。卯の長――アン・ボニー船長。

八郎はその姿をじっと見る。

「ところで……以前より随分と小さくなったよね?」


今回肝心の八郎とボニーはリレーには参加しないようだ。

二人は並んで戦いを見守っている。

「私は巳に入ったわけではないからね」

睦子も選手には加わらず、光希とともに実況を担当することになった。

いよいよ、ウサギとヘビのかけっこ大会が始まる。

ボニー海賊団の船員とスネイク団の下っ端たちが沸く。

最初の競技は――自転車レース。

巳の第一走者は、音川大吾。

骸骨のヴィラン――ジミーへと姿を変え、バイクに跨がる。

「よっしゃ! ぶっ飛ばしていくぜ!」

勢いよくエンジンを吹かす。

睦子が思わず目を丸くする。

「……ちょっと待って。自転車レースだよね?」

ジミーが乗っているのは、どう見てもバイクである。

一方、卯の第一走者――サディが跨がっているのは、ママチャリ。

「いやいや!さすがに不公平でしょ!」

睦子が審判役の二人を見る。

八郎とボニーは顔を見合わせ――

「許可」

「許可」

「いいんかい!?」

スタートの合図が鳴る。

「もらったぁ!」

ジミーのバイクが勢いよく飛び出す。

エンジン音を響かせ、一気にサディを引き離していく。

誰が見てもジミーの圧勝――かと思われた。

ものすごい勢いでママチャリがジミーの横を通り過ぎる。

「……は?」

サディはそのまま猛烈な速度でペダルを漕ぎ、あっという間にジミーを置き去りにしていく。

「なんだありゃぁぁぁ!?」

睦子も興奮気味に声を上げる。

「明らかに不利と思われた卯チーム!ママチャリにもかかわらず、とんでもないスピードです! 何かあの自転車に仕込んでいるのでしょうか!?」

「いや、何もないっす。」

光希が即答する。

「卯の一族は、もともと脚力をはじめとした身体能力がものすごく高いんすよ。つまり――」

猛烈な速度で走り去るサディを見る。

「普通に漕いでるだけっす!」

「普通じゃないよ!」

ジミーとの差を一気に広げたサディは、そのまま第二走者へバトンを繋ぐ。


次なる競技は――空中戦。

巳の第二走者は、八郎の担任・久保田健司。

ヴィランとしての名は――マクベス。

対する卯の第二走者は、風使い、グレイス。

先にバトンを受け取ったグレイスは、空中に浮かびながらマクベスを待っている。

「ふーっ。やっと来たか」

煙草をふかしながら、余裕の表情を浮かべるグレイス。

遅れてマクベスがジェットブースターを噴射し、空へと舞い上がる。

睦子が二人を見上げる。

「マクベスが飛べるのはなんとなく分かるけど……グレイスはなんで浮いてるの?」

「グレイスさんは風を操る能力の持ち主っす。サディさんの能力で重力を軽くしてもらって、そこから風を使って飛んでるんすよ。」

「へぇー」

「ちなみにポセイドンが浮いているのも、この二人の能力を使ってるからっすね。」

「そうだったんだ!」

グレイスが腰から武器を引き抜く。

刃の部分が高速で回転する――チェーンソード。

「行くぜ!?」

マクベスも剣を構える。

空中で二つの刃が激しくぶつかり合う。火花を散らしながら競り合う二人。

そのまま戦いは、第三走者へと引き継がれる。


第三コースは――砂漠地帯。

巳の第三走者、半三。

その姿を見た睦子が目を疑う。

「……ちょっと待って」

半三はスネイク団の下っ端、テッカーたちとともに――ミニ戦車に乗っている。

今回の干支合戦のために、バジリスクが用意したものだ。

「それアリなの!?」

対する卯の第三走者は、怪力を誇るルシラ。

睦子がすぐさま八郎とボニーを見る。

「さすがに戦車はルール違反じゃない!?どうなの審判!」

「許可」

「許可」

「いいんかい!!」

半三が叫ぶ。

「撃てぇ!!」

戦車の砲台から砲弾が放たれる。

しかし――ルシラは飛んできた砲弾を真正面から受け止める。

「そんな攻撃じゃあ、あたしは倒せないよ!」

そのまま戦車を追い抜き、砂漠を駆け抜けていく。

卯が再びリードする。

「隊長!このままじゃ追いつけません!」

テッカーの一人が叫ぶ。

半三が砲台を見る。

「砲台を後ろに向けろ!」

「後ろっすか!?」

テッカーたちが慌てて砲台の向きを変える。

砲口が、進行方向とは真逆を向く。

「撃てぇぇぇ!!」

ドォン!!

後方へ放たれた砲弾。その反動を受け、ミニ戦車が一気に加速する。

「うおおおおおお!!」

猛烈な勢いで砂漠を突き進む半三たち。

さらに、砲撃によって荒れた砂地に足を取られ、ルシラの速度が落ちる。

その横を半三が勢いよく通過する。

「失礼!」

「ちょっと……待ちな!!」

半三が一歩リードした状態で、最後の走者へバトンを繋ぐ。


最終競技は――

十キロの長距離マラソン。

巳の第四走者は、野薔薇菜々子。

ヴィランとしての名は――薔薇の魔女フローラ。植物を操る能力の持ち主だ。

ただし今回はヴィランの姿ではなく、普段の菜々子の姿で参加している。

「こう見えても陸上部の顧問だからね!」

菜々子が勢いよく走り出す。

半三が作ったリードもあり、序盤から大きく先行する。

対する卯の最終走者は――俊足のアルテン。

「ボクの脚に適う者はいないのだ!」

アルテンが一気に加速する。

「はっや!」

睦子が思わず声を上げる。

菜々子との差が、みるみる縮まっていく。

そして――

「追いついたのだー!」

アルテンが菜々子を抜き去る。

「ちょっと!速すぎでしょ!」

このまま卯の勝利かと思われた。

だが――

「……あれ?」

アルテンの足取りがふらつく。

「なんだか視界がぼんやりして……走れないのだー」

ついには、その場で動けなくなってしまう。

「どうしたの!?」

睦子が身を乗り出す。

光希が淡々と答える。

「花粉っすね。」

「花粉?」

菜々子が走ったあとには、細かな花粉が舞っている。

「菜々子さん、走りながら睡眠作用のある花粉を撒いてたみたいっす。」

「そんなのアリ!?」

睦子が八郎とボニーを見る。

「許可」

「許可」

「もう何でもアリじゃん!!」

光希が淡々と答える。

「干支合戦とはこういうものっす。なんでもありの真剣勝負、場合によっちゃ命を賭けなければならないっすよ。」

眠気に襲われながらも、アルテンは諦めない。

「ま……まだなのだ……」

地面を這いながら、少しずつゴールへと進んでいく。

一方、菜々子も着実にゴールへ近づいていた。

「あと少し……!」

「負けないのだー!」

二人が最後の力を振り絞る。

「ゴール!!」

ほぼ同時にゴールへ飛び込む。

睦子と光希が判定を確認する。

結果は――同着。

干支合戦は、引き分けとなった。

「引き分け……?」

ジミーたちに緊張が走る。

ここで勝敗がつかなかったとなれば、卯との同盟はどうなるのか。

光希が、あっさり口を開く。

「実はっすねー。最初から同盟を結ぶことは決まってたっす。」

「…………え?」

ジミーたちが固まる。

「ええええええええ!?」

一斉に八郎とボニーを見る。

しかし二人は、何事もなかったような顔をしている。

「八郎!知ってたのかよ!?」

「うん」

「先に言えよ!!」

八郎とボニーは、八郎が生まれた頃からの付き合いだった。

ボニーは八郎にとって叔母のような存在であり、幼い頃から武術を教わった師匠でもある。

初めから、ボニーは巳との同盟を断るつもりなどなかった。

それでも今回、干支合戦を行ったのには理由がある。

「これから十二支巡りをするなら、他の一族がどれくらい強いのか知っておいた方がいいと思ってね」

八郎が仲間たちを見る。

今回の干支合戦は――これから待ち受ける十二支との戦いに備え、八郎がボニーに頼んで行った予行練習だったのだ。

ボニーが腕を組む。

「言っとくけど、あたしたちはかなり手加減してるからね」

「えっ!?」

ジミーたちの顔が引きつる。

「これで手加減してたのかよ……」

「十二支巡りを続けるなら、この程度の力じゃ先が思いやられるね」

八郎が小さく笑う。

「分かってる」

こうして――巳と卯は、正式に盃を交わすこととなる。


別れ際、ボニーが八郎を呼び止める。

「八郎。あんたに渡しておくものがある」

「僕に?」

ボニーが差し出したのは、一対のトンファー銃だった。

八郎が受け取る。

「これは……?」

「アンフェスバエナさ」

ボニーの陰が込められた、二丁のトンファー銃。

「ヴァイパーから預かってたものさ」

「父さんから?」

「ああ。あんたがヴィランとして活躍するようになったら渡してくれって頼まれてた」

八郎は手にしたアンフェスバエナを見つめる。父が、自分のために残していたもの。

「……ありがとう、ボニー」

「礼ならヴァイパーに言いな」

八郎は頷く。

そして、改めてボニーを見る。

「ところでさ」

「なんだい?」

「さっきも聞いたけど……なんでそんなに小さくなったの?」

「アンフェスバエナに、少々陰を込めすぎてしまってね。そのせいで体が幼児化したのさ」

「そんなことあるんだ……」

「まあ、陰が回復すれば体も元に戻るだろうさ」

八郎は納得したように頷いた。

こうして卯と盃を交わすことに成功した巳一行。しかし今回の干支合戦で、八郎たちは改めて思い知る。

悪役十二支――その名を背負う者たちの強さを。

このエピソードはpixivで挿絵付き版も公開しています。

キャラクターデザインが見たい方はこちら!

pixiv:【https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=28973189】

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