金庫から見つかった音声データ
禁書が荒らされた事件後、真英組五番隊組長、花田観柳斎――通称ドグが金庫内のデータを確認した。
奪われたデータはなかったが、一つ余分なデータが発見される。
それは音声データであり、記録された作成日時は――1969年。
しかし、真英組の中にこの音声データについて知る者はいなかった。
事件の実行者によるものとも考えられたが、犯行動機、また音声データの内容についても詳細は不明。
以下、その音声データの内容である。
……トントン。
マイクに触れる音。
「あー、あー。テスト、テスト。実験1004回目。これ本当に録れとるのだろうか?」
数秒の沈黙。
「あー。この音声が聞けているということは、無事に転送できたということだ。今回の試みは、時間と空間の概念を無視できるデジタルへの可能性に賭けたものだ。きっとうまくいくはずだ。いや、そうであると信じたい」
男がゆっくりと言葉を続ける。
「ここまで実験を繰り返し、成功か失敗かも分からず足掻いてきた。まるで己の人生を象徴しているかのようだ」
男の声が少しだけ遠くなる。
「思い返せば、近くもあり遠いあの頃の日々。どちらが本物の人生なのか分からなくなる。かつて親友と数字の美学について語り合った学生時代。それから孤独な日々を送った時もあったが、やがて家族ができ、帰る場所ができた。しかし、これは偶然ではなく必然だったのかもしれん。この意味はいずれ分かるだろう」
一拍おいて。
「いかん。データ容量が大きくなるのもあれだ。本題へ移る。ここで伝えたいことは主に二つ。多次元世界論と、この国を支配しようとする者たちについてだ」
男の話が本題へ移る。
「まず一つ目、多次元世界論について。結論から話そう。君たちのいる世界は、幾つもある世界線の一つということだ。そして君たちは、この世界で唯一無二の存在である。ここで『この世界で』と表現したのは、別世界には君と同じ魂を持つ者がいるということだ。先に言っておくが、魂という言葉が適切かどうかは分からん。しかし、他に適当な言葉がなかったため、敢えて魂という言葉を使う。
では仮に、一つの世界に同じ魂を持つ者が存在するとしたら、何が起こるだろうか? 世の物質には存在できる質量が決まっておる。それは人体も例外ではない。一つの世界に同じ魂を持つ者が二人存在すると、世界の法則に矛盾が生じ、互いの存在が反発する。つまり、同じ魂を持つ二人は一つの世界に共存することができないということだ。
分かりやすい例を挙げよう。ドッペルゲンガーという言葉を知っているかね。自分と瓜二つの人物のこと、自己像幻視とも言う。ドッペルゲンガーに出会った者は命を落とすと言われておるが、正確には出会ったこと自体が原因ではない。同じ魂を持つ者が一つの世界に同時に存在することで、世界の法則が崩れ、どちらか一方の存在が失われるのだ。
実のところ、己自身もこの摂理に手を焼いている。なんと情けないことか。しかし、この法則の謎を解明できたのなら、別の世界――つまり多次元世界への扉は開かれたということになる。」
数秒の沈黙。
「ここで二つ目に入るとしよう。先ほど話した世界の法則を無視し、この世界へ入り込もうとする者たちがおる。奴らは自らを真十二天将と名乗り、悪役十二支、さらには真英組に取って代わろうとしておる。この国が奴らに支配される日が近づいておるのだ。
そうなれば前述の通り、多くの命が失われ、この世界の秩序は崩壊するだろう。なんとしてでもそれを阻止しなければならない。
これを聞いている者よ、心して聞いてくれ。真十二天将を統率する者、それは――ヴァイ……ツキ……デ……」
ここで音声は途切れる。
データ容量から、音声には続きが存在していたと推測される。しかし、データの破損により後半部分を聞くことはできない。
また、声色から録音した人物は、このデータを発見した花田観柳斎ではないかとの疑惑も出た。しかし、花田観柳斎本人にはこの音声データに心当たりがなく、データ上の作成日時から考えると、録音した人物が彼本人である場合、音声の年齢とは矛盾が生じる。
結果、本データは詳細不明のものとして、禁書と同じ金庫に厳重に保管されることとなる。
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