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悪の門 The Villains Gate  作者: ばく
第一章
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半三の修行

「なんじゃお前たち、庭で腕立て伏せなんかしよって。それに最近、八郎たちの姿を見んが何かあったのか?」

蛇ノ目家の庭では、半三とその部下たちが筋トレに励んでいた。

「八郎様たちは、丑との干支合戦に向けて修行に出ています。その間、本部の留守番を任されたんですけど、やっぱり俺たちも鍛えておいた方が良いと思いまして」

「そうか、精が出るのぉ。良きことじゃ」

六助が縁側へ腰を下ろす。

「いよいよ八郎も、丑との干支合戦かね。一年足らずで、よくここまで頑張ってきたものじゃ」

八郎との日々を思い返すように、六助が静かに庭を眺める。

そんな六助へ、半三がおずおずと声をかける。

「あのぉ……実は六助様に教えてほしいことがありまして……」

「わしに聞きたいこと?こんなおいぼれでよければ力になってやるぞ」

半三は少し躊躇いながら口を開く。

「会議中や会話の中で『贄』って言葉をよく聞くんですが、俺はまだヴィランになって間もなくて……何のことだかさっぱりなんです」

そして、申し訳なさそうに頭を掻く。

「六助様にしか、こんなこと聞ける方がいなくて……」

「そうか。それはヴィランなら知っておかんといかんな」

六助が自分の隣を軽く叩く。

「よしよし。わしが贄について教えてやろう。こちらに来なさい」

半三が六助の隣へ腰を下ろす。

六助は少し遠くを見るような目をして、話し始める。

「よいか。これはあくまで昔話として聞いとくれ。真実かどうかも定かではない、童話のようなものじゃ。

時は遡ること、奈良時代。

太陽の神と月の神、そして大地の神。三柱の姉弟がおった。

太陽の神は、月の神と大地の神に己の核を半分ずつ与え、月の神には陰を、大地の神には陽を授けた。

大地の神は自ら子孫を残し、その末裔が今のヒーローとされておる。

そして月の神は――自らの陰を使い、八つの頭を持つ龍を作り上げた。

この龍こそ、この国最古のヴィランとされておる存在じゃ。

月の神は、その龍の血肉を人間に食わせ、陰の力を与えた。

そしてその中から、国を統ずる力を持つ十二の部族を選び『悪役十二支』と名付けた。

悪役十二支には、それぞれ役割が与えられておる。

しかし、それとは別に――もう一つ、特別な使命があった。

龍を作り、長い眠りについた月の神へ陰を返し、再び月の神を復活させること。

それが『贄』というしきたりじゃ。

四年に一度の閏年。子から順に、一族の中でも特に強い陰を持つ者を月の神へ捧げる。

そうして、かつて与えられた陰を元の月の神へと返す。

その儀式を――何千、何百年もの間、繰り返してきたのじゃ」

六助が一度言葉を止める。

「わしも、このしきたりの真相までは分からん」

珍しく真剣な表情だ。

「しかし、これを守らねばヴィランの命は途絶え、三つ巴の均衡は崩壊してしまうと言われておる」

六助の表情が少し曇る。

「じゃが……一族の誰かを差し出すというのは、誠に心苦しいものでな」

「………」

「悪役十二支の間でも暗黙の了解として、贄について敢えて触れる者はおらんのじゃ」

半三は、六助の話を聞きながら一つの疑問を抱く。

「巳の一族も、贄に選ばれた者がいるってことですよね」

少し考えながら続ける。

「単純計算で……三十六年前、ですか?」

「うぬ。巳の前回の贄に選ばれたのは、わしの兄じゃった」

六助が遠くを見つめる。

「掴みどころのない性格での。兄が何を考えているのか、まるで分からんかった」

そして、当時を思い返すように話を続ける。

「しかし贄の番が来た時、自ら贄に名乗り出たのは兄じゃった」

六助が少し俯く。

「その時は……正直ホッとしたわい。自分が贄にならんで良いとな」

半三は黙って話を聞いている。

「じゃが、今思い返してみれば、兄は常にわしらのことを考え、一族に貢献しておった」

六助の表情がわずかに和らぐ。

「特に弟であるわしに対しては、特別に気を配っておったな」

少しの沈黙。

やがて六助が再び口を開く。

「半三や」

「はい?」

「今、お前さんが思うとることはよく分かる」

六助が半三へ目を向ける。

「次に贄の番が回ってきた時、誰が贄になるのか気にかけておるのじゃろ?」

半三がゆっくりと頷く。

「安心せい。八郎は贄にはさせんよ」

そして静かに続ける。

「次は、わしの番じゃ」

「………」

いつものように穏やかに笑う。

「あと二十年は生きるつもりじゃ。いや――なんとしてでも長生きせんといかんな」

そう言って、六助は空を見上げる。

「今なら、兄の気持ちが痛いほど分かるわい」

そして隣に座る半三を見る。

「半三。もしお前さんが、わしの立場なら分かってくれるかの?」

急に質問され、半三は少し考えてから答える。

「今の俺は……正直、分かりません」

六助が静かに半三を見る。

「ヴィランである前に、俺は娘の父親ですから。娘を一人残して贄になるなんて考えられません」

「ほほ!正直でよろしい」

六助が笑う。

「わしらより、よっぽど父親ができておるわい」

そして、少し表情を和らげる。

「じゃが、今の八郎にはお前さんのような良き仲間がおるからな」

六助が庭へ視線を向ける。

「八郎は今や、わしのたった一人の肉親であり、大切な孫じゃ」

その声には、祖父としての強い想いが込められていた。

「わしの命に変えてでも、守らねばならんのじゃ」

そして半三を見る。

「半三。これからも八郎を支え、仲間であり続けてやってくれ」


六助の言葉を聞き、自分とは違うその覚悟の重さを感じながらも、半三は改めて巳の仲間として八郎の力になろうと強く決心する。


そして――いよいよ、丑との干支合戦が幕を開ける。


第一章 完

第二章へ続く

このエピソードはpixivで挿絵付き版も公開しています。

キャラクターデザインが見たい方はこちら!

pixiv:【https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=29305643】


今話にて第一章は終わりとなります。第二章では丑との干支合戦から始まり、いよいよタイトルである悪の門The Villains Gateの物語の本筋へと移行していきます。とにかくまず、ここまで読んでくださった方に深くお礼申し上げます。そして次に入る第二章は、おそらく第一章を超えるものとなるでしょう。これは期待していてくださいね!今後ともこの悪の門をよろしくお願いいたします。

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