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志英館の章 二 新宿

「あなたたちも少し疲れたでしょう。お昼になりましたし、お食事でもどうかしら?」

沖竹に勧められ八郎と大吾も一階にある食堂へと向かう。

その道中、大吾が八郎へ声をかける。

「八郎もありがとな。これで俺の目的の一つは果たせた」

「うん、本当によかった。でも他に叶えたいことがあるの?」

「そりゃな!八郎をヴィランのトップにしなきゃならねぇ。俺が必ず八郎の夢を叶えてやる。任せとけ!」

八郎たちが食堂へ着いた頃には、既にクボケンたちが席に座って二人を待っていた。

カレナの治療が無事に終わったことを伝えると、皆も安堵と喜びの表情を浮かべる。

「十三時からの定例会には皆さんにも参加してもらいやす。まぁ例のウェブの件について聞かれると思いやすが、真の目的は以前話した通りなんで、そう身構えないで大丈夫っすよ。とりあえずじゃんじゃん好きなもの食べてください!ここのカツカレーおすすめなんすよー」

寝三郎に勧められ一同も昼食をとる。


やがて――予定の十三時。

一同は四階にある大広間へと案内される。

そこはまるで時代劇を思わせるような広い和室。

向かい合うように敷かれた座布団には、既に局長以外の真英組組長たちが揃っていた。

その中に、最近見たばかりの顔を見つける。

ドグだ。巳の一同がやってくると「よっ!」とでも言うように軽く手を上げる。

「巳の皆々も集まったところで、早速真英組定例会を始める!まずは局長、近桃勇の挨拶から!」

真英組副長、土金歳郎が声を張る。

すると――

ポン!ポポポポン!

どこからともなく太鼓の出囃子が鳴り、掛け声が響く。

「真英組局長、近桃勇のおなーりー!」

ゆっくりと奥の襖が開かれていく。

一同に緊張が走る。

「…………」

しかし、そこには誰もいない。

「ちょっと前すみません」

申し訳なさそうに沖竹が襖の奥へと消えていく。

しばらくして沖竹に支えられながら、ヨボヨボのおじいちゃんが姿を現す。

「段差がありますから気をつけてくださいねー」

「いつも申し訳ないのぉ」

震える足でゆっくりと座布団へ腰を下ろす老人。

「よっこいしょ。はぁー、年には勝てん。では改めて……近桃勇じゃ。よろしゅう」

「…………」

巳の一同が心の中で同時に叫ぶ。

(((虫の息じゃねぇか!)))

そんな一同をよそに近桃が穏やかに口を開く。

「皆の衆、よくぞ集まってくれた。そして巳の者等よ。ご足労感謝いたす」

近桃の目が八郎で止まる。

「お主が七瀬の息子、八郎かね?」

「はい」

「ほぉー……何年ぶりじゃ。立派になったわい。時が経つのはなんと早いことよ。あんなにめんこかった赤子が、もうこんなに勇ましい若人になっとる。まるでひ孫の成長を見ているようじゃの。ホッホッホ」

どうやら八郎は赤ん坊の頃に近桃と会っているようだ。

「と、いうわけで局長の近桃勇だ。次に真英組の組長を紹介していく。まずは俺の自己紹介からさせてくれ」

土金が一同を見渡す。

「真英組副長の土金歳郎だ。主に局長のサポート、新人ヒーローの教育係を任されている」

クボケンが土金へ目を向ける。

(あれが世に言う鬼の土金か。陽もだが、鍛え上げられたあの身体……並じゃないな)

「続いて一番隊組長、沖竹総妃。既にお互い挨拶は済んでいるようだな。知っての通り、何百人もの医療スタッフをまとめる凄腕の医者、そして看護婦長だ」

沖竹が穏やかに微笑む。

「次に二番隊組長、永浦島八。サッカーの浦島ブルーダイヤモンズのキャプテンでもある。身体能力は真英組でも飛び抜けている。ただ結構な田舎もんでな」

「オラそんなに田舎もんだべか?とりあえずよろすくだ!」

「え!サッカーの永浦さんって真英組の人だったの!?」

睦子が目を輝かせ永浦に見惚れる。

そんな睦子を横目に大吾が呟く。

「なんか腹立つな……」

「では次に三番隊組長、斎藤一寸。斎藤は諜報課を管轄している。ヒーローやヴィラン内で不正や悪事が行われていないかを探ったり、機密情報の伝達など、どちらかと言うと光の当たらない暗躍者といった組織だな」

続いて土金が隣へ目を向ける。

「そして四番隊組長、松笠休地。二階にあるアカデミーの校長、そして由緒ある尼さんでもある。真英組の中では近桃さんに次ぐご長寿だ」

「余計なことは言わんでよろしい」

松笠が鋭い視線を向ける。

「失礼……」

土金が八郎たちへ顔を寄せ、小声で囁く。

「あの婆さん恐いから気をつけろよ?」

咳払いをし気を取り直す。

「五番隊組長は、よく知ってるだろ。戌のドグ博士だ。ここでは花田観柳斎で名が通っている」

ドグが軽く手を上げる。

「唯一、悪役十二支の戌の長と真英組組長を兼任しているすげぇお方だ。普段は戌でウェブの管理をしているが、ここではヒーローが扱う陽による武器の開発を任せている」

(ドグ博士って、めちゃくちゃすごい人だったんだ……)

菜々子が改めてドグを見る。

「次に六番隊組長、井上寝三郎。既に聞いたかもしれんが、こう見えて刑事課を管轄する凄腕の刑事だ。寝三郎のIQは二百以上。普段はつかみどころのないやつに見えるが、頭の切れる油断できん男だ。

そして七番隊組長、藤堂鶴姫。鶴姫は自らの能力で、ヒーローの衣装のデザインや制作を担っている。それとは別に、本名の鶴姫でアイドルヒーローとしても活躍しているな」

そこまで話すと、土金が何かを思い出したように続ける。

「ちなみに、今月の二十日に八枚目のシングル『なんつったってヒーロー』がリリースされます!良かったら聴いてくださいね!……ということだ」

(可愛い……絶対CD買お)

大吾が鶴姫を見つめる。

「最後に八番隊組長、原田力之助。網走の所長だ。以上」

「なんで俺の紹介だけ短いんだ!おかしいだろ!」

力之助の声が大広間に響き渡る。

「長くなってしまったが、これで真英組の紹介を終わらせてもらう。続いて今回の定例会の本題へ移ろう。近桃さん、よろしくお願いします」

土金に促され近桃が口を開く。

「それでは、わしから質問しても良いかな?酉のゴルゾン姉妹を倒したと聞いたが、それは真かね?」

「近桃さん、違う違う。ウェブの件です!」

「え?えぶ?エビのことかね?トシや、わしもエビが大好きじゃよ」

「違うって!ウェブですよ!不正アクセスで禁書が漁られたっていう。ちゃんと伝えたじゃないですか!」

「なに!?禁書が!?それは大変じゃ!どうするトシ!」

「…………」

まるで噛み合っていない近桃と土金のやり取りに、一同が呆れた顔を浮かべる。

「ゴホン……失礼。局長の調子が良くないので、俺が話を進める」

土金が気を取り直し、八郎たちへ向き直る。

「今回、巳の者等に参加してもらったのは、ウェブ上で起こった不正アクセスについて話しておきたいことがあったからだ。ことの経緯は花田観柳斎から聞いている。もちろん、君たちを疑っているわけではない」

一拍置き、土金の表情が引き締まる。

「問題は、今回狙われた禁書にある」

「お、俺たちは禁書の中身なんて見てないぜ!」

大吾が慌てて叫ぶ。

「分かっている。もし見てしまっていても、見たとは言うな」

その言葉に八郎たちの表情が変わる。

「あれはな、正式には『御禁書山蟹見聞録陰陽世中法度』といってな。真英組の元総長、山蟹申乃の一族――山蟹家が代々記してきたものだ」

土金が続ける。

「ウェブに保管されていたものは、バックアップ用の複製データだ。原本は志英館に厳重に保管されている」

そして、先ほどまでとは違う低い声で告げる。

「中には、この国の歴史の禁忌が記されている」

「…………」

「禁忌ゆえ、それを知ってしまった者には重い処罰を与えなければならん。これは俺たちからの善意として聞いて欲しい」

土金が八郎たちを見渡す。

「禁書については誰にも口外するな。もし禁忌を知ってしまったとしても――墓まで持っていけ」

大広間の空気が、一気に重くなる。

すると先ほどまで頼りなさそうにしていた近桃が、打って変わったような真面目な口調で話し始める。

「禁書に関わった者は、碌な死に方をせんわい」

八郎たちの視線が近桃へ集まる。

「現にこれを書いた山蟹も切腹する羽目になったのじゃ。おそらくこの禁書を狙った者らも良い死に方はできんじゃろう」

そして、静かに言い聞かせる。

「悪いことは言わん。禁書については忘れなさい」

「…………」

しばらく、大広間を沈黙が包む。

「えっと……なんの話じゃったかの?」

「…………」

近桃が首を傾げる。

「エビはやはり伊勢のものに限るわい。八郎よ、機会があればご馳走するでのぉ」

先ほどまでの緊張感はどこへやら。

近桃はすっかり元のヨボヨボのおじいちゃんへ戻っていた。

その後は巳と組長たちとの取り止めのない雑談が続き、定例会はお開きとなった。


組長たちが大広間から退出していく中、沖竹が八郎へ声をかける。

「八郎くん、少しいいかしら?あなたのお母さんについて、少しお話ししたいの」

「母さんのこと……?」

空気を読んでか、八郎以外の者たちはその場から立ち去っていく。

二人きりになった大広間で八郎が沖竹へ尋ねる。

「母さんのこと、知ってるんですね?」

「ええ。知っているどころか……あなたの出産に立ち会い、あなたを取り上げたのも私です」

「……!」

思いもよらない言葉に八郎が沖竹を見る。

「あなたの母、夏帆さんについて。そして彼女の死因について、あなたは知らなければなりません」

沖竹が優しく八郎を見つめる。

「あなたは十分に成長しました。真実を知る権利があると思うのです」

「…………」

八郎が、静かに覚悟を決める。

そんな八郎へ沖竹が続ける。

「しかし、それをあなたに伝えるのは私ではありません」

「え?」

「私はヴァイパーに口止めされていますし、もっと相応しい方がおられます」

沖竹が穏やかに問いかける。

「どなたかわかりますか?」

「……いえ」

見当もつかず、八郎が首を振る。

そして沖竹は、その人物の名を静かに口にする。

八郎はしばらく考えたあと、沖竹に教えられた人物のもとへ向かうことを決意する。

このエピソードはpixivで挿絵付き版も公開しています。

キャラクターデザインが見たい方はこちら!

pixiv:【https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=29158458】

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