転校生
十二月――
菜々子の一件もひと段落し、八郎たちにもいつもの日常が戻り始めていた。
ある日のホームルーム。
教壇に立つクボケンが、生徒を見渡す。
「今日からお前たちのクラスメイトになる転校生を紹介する」
教室の扉が開く。
入ってきたのは――どこか素朴で、おとなしそうな男子生徒。
「親の転勤で京都から転校してきました。茨木優人です。あの……迷惑かけてしまうかもしれないけど、よろしくお願いします」
緊張した様子で頭を下げる。
「みんな仲良くするようにな!それじゃあ、八郎の隣空いてるから、そこ使ってくれ」
「はい」
休み時間。早速優人の周りにクラスメイトが集まる。
次々と飛んでくる質問に、少し困りながらも丁寧に答えている。
その様子を離れたところから眺める、いつもの三人。
「転校初日って、やっぱり大変そうだね」
「てかよぉー!女の子じゃねーのかよ!もう俺、ショックで授業できねぇよ」
「私も転校してきた女の子ですけど!」
睦子がすかさず突っ込む。そして、もう一度優人を見る。
「……でも、私ちょっと好きなタイプかも」
「マジ?」
八郎と大吾の声が重なる。
授業が始まり――教科書を持っていない優人に、八郎が教科書を貸す。
「教科書見せてくれてありがとう。八郎くんだよね?これからもよろしくね」
「僕の方こそよろしく。なにか困ったことがあったら力になるよ」
体育の時間。
この日の授業は剣道だった。剣道部の顧問でもあるクボケンが、優人を呼ぶ。
「茨木は京都の学校で剣道部だったそうだ。なかなかの腕前と聞いたぞ。他の生徒のお手本ってことで、俺と一試合してみないか?」
「えっ、先生とですか?」
少し恥ずかしそうにしながらも、優人は竹刀を手に取る。
二人が向かい合い、試合が始まる。
そして授業後。
体育館の隅。クボケンが一人、体育座りをしていた。
結果は――優人の二本勝ち。クボケンの惨敗だった。
「クボケンのやつ、相当へこんでるな。次の授業できないんじゃないか?」
「…………」
クボケンに剣道で勝ったという噂は、あっという間に学校中へ広がった。
女子生徒に囲まれる優人。
しかし、男子生徒も例外ではない。
高い運動神経と成績にも関わらず、傲慢な態度を見せない親しみやすい性格に、男子からの評判も良いようだ。
そして、優人が学校中から引っ張りだこになったまま――三日が過ぎる。
「くそー……羨ましいぜ……」
「何も泣くことないでしょ」
「八郎も危ないかもよー?」
睦子がニヤニヤしながら顔を覗き込む。
「結衣ちゃん、取られちゃったりして」
「…………ムスッ」
そんな八郎のもとへ、優人がやってくる。
「八郎くん、今日の放課後少しいいかな?ちょっと相談したいことがあって」
突然の誘いに少し驚く八郎。
それでも、
「いいよ」
優人の頼みを快く引き受ける。
授業が終わり、夕日が空を赤く染める頃。
八郎は、優人との約束の場所を訪れていた。
「八郎くん、忙しい中ごめんね」
「いや、全然大丈夫だよ。ところで相談って何かな?」
早速、本題を尋ねる八郎。
しかし、優人はすぐには答えない。
数秒の沈黙が、辺りを包む。
そして、ゆっくりと口を開く。
「僕はある人を探しているんだ。七瀬って言うんだけど、知らないかい?」
「…………」
七瀬。それは、父ヴァイパーの本名。
その名前に僅かに動揺する八郎。
だが――何かの偶然だろうと平静を装う。
「……知らない」
「そんなわけないんじゃない?」
優人の雰囲気が変わる。
「君の父親だろ?」
「……!!」
確信を持って放たれた言葉に、八郎が咄嗟に距離を取る。
優人は、そんな八郎を見つめたまま続ける。
「七瀬は僕の父を殺したんだよ。だから僕は彼が憎い。そして――その血を受け継いだ君が、とても憎いんだ」
「…………」
その時――気づけば、優人の傍らに般若面をつけた男が立っていた。
男が刀を抜き、八郎へ斬りかかる。
しかし。
その刃が八郎へ届く直前――別の刃が受け止める。
そこに現れたのは、マクベスだった。
「あの剣道の太刀筋。そして、わずかに感じた陰と殺気。来てよかった」
「流石だね、マクベス」
優人がマクベスを見る。
「ずっと僕を見張っていただろ」
「…………」
優人の姿が、ゆっくりと変わっていく。
そして現れたのは、あの緊急集会で八郎が目にした少年。
丑の長。
「余は丑の長――茨木童子」
優人とはまるで違う口調で、童子が八郎を見据える。
「四年前、余は父上がお前の父親に殺されるのを見た。この復讐を果たそうと、ここまで来たのだが――」
童子がマクベスへ視線を向ける。
「お前の側近は、思ったより優秀なようだ。それに――」
マクベスの背後へと目を向ける。
童子の凄まじい陰を察知した菜々子、大吾、睦子もその場へ駆けつけていた。
「生徒と教師まで、巳のヴィランとはな」
童子が巳の面々を見渡す。
「これでは分が悪い。お前を殺すのは、またにしてやる」
そう言い残し、童子と般若面の男は煙のように姿を消していった。
翌日のホームルーム。
教壇に立つクボケンが、生徒たちへ告げる。
「茨木は親の都合で、急に転校することになった」
「えー!?」
突然の知らせに、クラス中から落胆の声が上がる。
わずか数日で学校中の人気者になっていた優人。その転校を惜しむ生徒たち。
しかし、八郎だけは昨日童子から聞かされた言葉が頭から離れずにいた。
『四年前、余は父上がお前の父親に殺されるのを見た』
「…………」
新たに突きつけられた父の過去に、八郎は困惑していた。
その頃――暗い洞窟の中。
一人の男が、岩に腰掛けている。
その片手には一本の刀。
午の屋敷から奪われた、天叢雲剣――通称、草薙の剣。
手にした草薙の剣をじっと見つめる男――アンノウン。
そして・・・ぼそりと呟く。
「童子……待っていろ……」
仮面の奥にあるその瞳には、八郎たちの知らないある計画が映っていた。
このエピソードはpixivで挿絵付き版も公開しています。
キャラクターデザインが見たい方はこちら!
pixiv:【https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=29127103】




