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猫の章 二 島根県

「ところで――」

クボケンが大吾たちを見る。

「俺たちがいない間に、何か作戦は考えたのか?」

「もちろんよ!」

真っ先に声を上げたのは睦子だった。

「完璧な作戦を考えたんだから!」

得意げに胸を張る。

「あの猫神が八郎の能力を奪ったのよね?だったら、向こうからまた襲ってくることはないはず!」

「うん」

「つまり猫たちは、八郎の能力を奪われないよう本拠地で待ち構えてる!」

睦子がビシッと指を立てる。

「そこで私たちは猫の本拠地へ乗り込む!当然、向こうは罠とか色々用意して、私たちを潰しにくるでしょうね!」

「…………」

「えっへん!」

クボケンが眉をひそめる。

「潰されて終わりじゃねぇか!」

「ち、違うわよ!このあとがあるの!」

焦る睦子。

「えっと……そのあとは……」

「睦子、ありがとう」

菜々子が笑顔で口を挟む。

「ここまで私が考えたことを、睦子が説明してくれたんだけど――ここからが本当の作戦ね」

「ちょっと!」

菜々子は気にせず話を続ける。

「猫神は、おそらく本拠地の奥にいる。そして私たちが能力を取り戻しに来れば、あの四人が阻止しにくるはず」

八郎たちが黙って聞く。

「八郎は今、アギトを使えない。だから四人との戦闘は、健司、私、睦子、大吾で引き受ける」

クボケンが腕を組む。

「私たちが四人を引きつけている間に――子のみんなが猫神のもとへ向かう」

菜々子がビッグマウスを見る。

「猫たちは、リンダさんが今も子の長だと思っていた。それだけ情報が古いなら、巳と子が一緒に乗り込んでくることまでは想定していないはずよ」

「……なるほど」

シカオが頷く。

しかし――

「ちょっと待ちな」

ルーシーが低い声で遮る。

「なんで私らが、勝手に作戦へ組み込まれてんだい?」

菜々子がルーシーを見る。

「奪われたのは八郎の能力だろ?私らには関係ないね」

「関係ないことないでしょ!八郎はあなたを庇って――」

「その話はもうしただろ」

ルーシーが言葉を遮る。

「悪いけど、私は手を貸さないよ」

「ルーシー!」

「ライブも終わったし、疲れてんだ。私はホテルに帰る」

そう言い残し――ルーシーは本当にその場を立ち去ってしまう。

「……相変わらず強情っぱりなガキだぜ」

シカオが頭を掻く。

「だが、ああなっちまったら俺たちも勝手には動けねぇ。あれでも子の長だからな」

八郎を見る。

「力になってやりたいが……すまねぇ」

「ううん。気にしないで」

やがてシカオたちビッグマウスも、ルーシーを追ってホテルへと戻っていく。

残されたのは――八郎と、巳の四人。

「まあ、子のみんながいなくたって何とかなるよ!」

睦子が明るく声を上げる。

「八郎のためだもんな。俺は逃げねぇぜ!」

大吾も拳を握る。

「私の作戦なら、子がいなくても大丈夫よ!」

菜々子が自信満々に言う。

「いや――」

クボケンが首を傾げる。

「四人を俺たちが相手するのはいいとして……」

一同を見る。

「誰が猫神のところへ行くんだ?」

「…………」

全員の視線が――ゆっくりと八郎へ集まる。

「え、ええ!?僕?!?」

こうして――アギトを奪われた八郎を含む巳の一行は、

猫の本拠地――猫屋敷へと向かうこととなる。


八郎が先頭を歩く。

「八郎、本当にこっちで合ってるの?」

睦子が尋ねる。

「うん」

八郎が胸元に手を当てる。

「奪われたアギトが僕を呼んでる気がするんだ。なんとなくだけど……場所が分かる」

その感覚を頼りに進み――やがて一行は、猫屋敷の門へと辿り着く。

「……ここだ」

門の前には――すでに四人の男女が待ち構えていた。

アキナ。

シェイド。

タオ。

タンク。

ライブ会場を襲撃した、猫盗楽団の四人。

「やはり来たか。」

アキナが静かに八郎たちを見る。

「僕のアギトを返してもらうよ」

八郎が一歩前へ出る。

「それはできない。」

アキナが答える。

「猫神様に捧げた力は、我らの悲願を叶えるために必要なもの」

その言葉と共に――四人がそれぞれ楽器を構える。

バイオリン。

ビオラ。

チェロ。

コントラバス。

「……やっぱり」

八郎が目を細める。

弦が鳴る。

四つの音が、猫屋敷に響き渡る。

そして――四人の背後に、巨大な影が現れる。

「死神……!」

菜々子が身構える。

クボケンが口元を僅かに上げる。

「どうやら、俺たちの予想は当たってたみたいだな」

猫盗楽団もまた――冥響召喚の使い手。

「八郎!」

菜々子が叫ぶ。

「ここは私たちに任せて!猫神のところへ!」

「分かった!」

八郎が屋敷の奥へ向かおうとする。

しかし――

「行かせるわけにはいかない」

猫盗楽団が一斉に動く。

クボケンたち四人が前へ出る。

「お前らの相手は――俺たちだ!」

こうして――巳と猫盗楽団、四対四の戦いが始まる。

だが…

冥響召喚を操る猫盗楽団は、想像以上に手強かった。

四人とも容易には隙を見せず――

中でも睦子と大吾、いやメアリーとジミーは、次第に相手の力に押され始める。

「くっ……!」

「こいつら、強ぇ……!」

八郎も屋敷の奥へ進むことができない。

これまでか――そう思われた、その時。

「――私らのダチに、たいそうなことしてくれたじゃないか」

聞き覚えのある声。

八郎たちが振り返る。

そこに立っていたのは――

「ルーシーさん!?」

大吾が目を丸くする。

そして――

シカオ、タケ、ゆに、タイド。

ビッグマウスの五人だった。


少し前――

ルーシーたちの泊まるホテル。

「ルーシー。本当にこれでいいのか?」

シカオが尋ねる。

「アイツらだけじゃ、猫の奴ら相手に――」

「そんなこと分かってるよ」

ルーシーが答える。

「私だって子の長やってんだ。猫の力量くらい分かる」

「だったら、なんであんなこと言ったんだ?」

「作戦通りに戦えば、白髪とおばさんはともかく――あのおバカな娘と骸骨ボーイは殺されるだろうね」

「……?」

「あの場で私らが四人衆との戦いに加わるなんて言ったら、巳の面子が潰れちまうだろ?」

シカオがルーシーを見る。

ゆにが眠そうに首を傾げる。

「ってことはぁ……ルーシー、最初から助けに行くつもりだったのぉ?」

ルーシーがニヤリと笑い立ち上がる。

「八郎なら、たぶん分かってるよ」

「え?」

「まったく、本当に油断できないガキだよ」

タケが勢いよく立ち上がる。

「よーし!じゃあ行くか!」


そして現在――

巳の四人の隣へ、ビッグマウスが並ぶ。

アキナたちが表情を険しくする。

「子まで……」

タオがビオラを構える。

「蛇に鼠が加わったところで――」

弦を鳴らす。

「猫の餌には変わりありませんわ」

その言葉を合図に――猫盗楽団の四人が一斉に動き出す。

「八郎!猫神のところへ行け!」

クボケンの声に、八郎が頷く。

「分かった!」

「八郎、俺がついていく」

シカオが八郎の隣へ並ぶ。

「ありがとう」

八郎のアギトを取り戻すため――巳と子も、それぞれ猫屋敷の奥へと走り出す。

しかし当然、猫盗楽団が黙って通すはずもない。

八郎たちの行く手を阻むように、四人がそれぞれ立ちはだかる。

こうして――猫屋敷の各所で、四つの戦いが始まる。


ルーシーとジミーの前に立ちはだかったのは――タオ。

「まさか巳と子を同時にお相手することになるとは思いませんでしたわ」

タオがビオラを構える。

「どうぞ、お手柔らかに」

弓が弦を滑る。

響き渡る旋律と共に――巨大な鳥の死神が姿を現す。

タオはその脚に掴まり、一気に上空へと舞い上がる。

「空かよ!」

ジミーがギターを掻き鳴らす。

炎の死神を召喚し、上空へ炎を放つが――届かない。

「そんなところからでは、私には届きませんわ!」

鳥の死神が翼を大きく広げる。

無数の羽根が刃となり、二人へ降り注ぐ。

「ちっ!」

ルーシーが歌声を響かせる。

現れた花の死神が枝を伸ばし、羽根を弾き飛ばす。

しかし――次々と放たれる羽根の刃によって、伸ばした枝が切り刻まれていく。

さらに鳥の死神が急降下。鋭い爪が二人へ襲いかかる。

ルーシーとジミーは咄嗟にかわすが、反撃しようとすればタオは再び上空へ。

完全に空を支配されていた。

「ルーシーさん!このままじゃやべぇっす!」

「んなこたぁ見れば分かるっての!」

ルーシーが空を見上げる。

そして――地面に散らばった、切り落とされた枝へ目を向ける。

「骸骨ボーイ!」

「はい!?」

「そこに落ちてる枝、全部燃やしな!」

「枝を?」

「いいから早くしな!」

「わ、分かりました!」

ジミーがギターを掻き鳴らす。

炎の死神が地面へ火を放ち――散らばった枝が一斉に燃え上がる。

「何をしたところで無駄ですわ」

上空から二人を見下ろすタオ。

だが――

「……?」

突然、その身体がふらつく。

鳥の死神も飛行を乱し始める。

「な、何が……」

視界が歪み、方向感覚を失っていくタオ。

そしてようやく――異変の正体に気づく。

燃え上がる枝。その熱によって生まれた上昇気流。

風に乗り――

花の死神から放たれた大量の花粉が、上空まで舞い上がっていた。

「まさか……!」

「気づくのが遅いんだよ」

ルーシーがニヤリと笑う。

花粉を吸い込んだタオは錯乱状態に陥り、鳥の死神をまともに操ることができない。

そのまま高度を落とし――地上へと墜ちていく。

そして、その落下地点には――ジミーが待ち構えていた。

ジミーが勢いよくギターを掻き鳴らす。

炎の死神が拳を振り上げ――落下してきた鳥の死神へ、強烈な一撃を叩き込む。

ドゴォン!!

鳥の死神が地面へ叩きつけられる。

その姿が崩れ――やがて現世から消えていく。

タオもその場へ倒れ込む。

「……まさに、窮鼠猫を噛む、とはこのことですわね……」

ルーシーが眉をひそめる。

「窮鼠?知ってるか、骸骨ボーイ?」

ジミーが首を傾げる。

「さぁ?なんのことだか……」

「…………」

タオが呆れたように二人を見る。


タケとメアリーの前に立ちはだかったのは――タンク。

「お!なんだか面白いコンビだなぁ」

タンクがコントラバスを構える。

低い音色が響き――地面から、巨大な鮫の死神が姿を現す。

「鮫!?」

メアリーが身構える。

次の瞬間――鮫の死神は地面へ潜り、その姿を消す。

「どこ行った!?」

タケが辺りを見回す。

直後――メアリーの足元から巨大な口が飛び出す。

「っ!」

メアリーが咄嗟に両腕でその顎を受け止める。

「今よ!」

「任せろ!」

タケが両手のスティックを構える。

カッ!カッ!カッ!

スティック同士をリズミカルに打ち鳴らす。

その音に呼応し――雷の死神が姿を現す。

丸く突き出た腹の周囲には、いくつもの太鼓が浮かんでいる。

タケが死神の腹へ飛び乗り、その一つへスティックを振り下ろす。

ドン!!

太鼓の音と共に――雷の死神から強烈な雷が放たれる。

バリバリバリッ!!

しかし――

雷は鮫の身体を伝い、そのまま地面へと逃げていく。

「なに!?」

ほとんど効いていない。

タンクが笑う。

「地面の中じゃ、雷も逃げちまうってわけだ!」

鮫の死神が大きく身体を捻る。

「ぐっ……!」

強烈な顎の力に押され、メアリーの足が地面を滑る。

その時――鮫から漏れた僅かな電流が、メアリーの身体へ流れ込む。

バチッ――

「……?」

ツギハギだらけの身体に、青白い火花が走る。

そして一瞬だけ――鮫を押さえる腕に力が入る。

だが。

「うっ……!」

すぐに鮫の力に押し戻される。

タケが頭を抱える。

「このままじゃツギハギ嬢ちゃんがやられちまう!なんかいい手は……!」

しかし――

「ダメだ!何にも思いつかねぇ!」

その一方で――メアリーは先ほど身体を走った感覚を思い返していた。

電気が流れた瞬間。

確かに――力が増した。

「……そういうことか」

メアリーが顔を上げる。

「タケ!」

「ん!?」

「私を雷で攻撃して!」

「……はぁ!?」

タケが目を見開く。

「何言ってんだ嬢ちゃん!?」

「いいから!必ずうまくいくから信じて!」

「でもよぉ――」

鮫の顎がさらにメアリーを押し込む。

「早く!!」

「……ええい!どうなっても知らねぇぞ!」

タケが太鼓へスティックを振り下ろす。

雷の死神が――今度はメアリーへ向けて、強烈な雷を放つ。

バリバリバリバリッ!!

「ぐっ……!」

メアリーの全身を電流が駆け巡る。

ツギハギの身体から青白い火花が迸り――

次の瞬間。

鮫の死神を押さえていた腕が、一気に押し返す。

「なに!?」

タンクの表情が変わる。

「私は電気で動くフランケンシュタイン――」

メアリーが一気に鮫を押し返す。

「電気があれば、もっと力を出せる!」

そのまま鮫の死神を――地中から強引に引きずり出す。

「うおお!?マジかよ!」

宙へ放り出される鮫の死神。

タケがニヤリと笑う。

「地面から出ちまえば――こっちのもんだ!」

雷の死神の腹に乗ったタケが、周囲に浮かぶ太鼓へスティックを振り下ろす。

ドォン!!

強烈な雷が鮫の死神を直撃。

鮫は激しくのたうち回り――やがて、その姿が崩れていく。

タンクもその場へ膝をつく。

「まさか俺の死神が……」

メアリーとタケを見る。

「お前ら――なかなかいいコンビじゃねぇか」

そう言い残し――タンクはその場へ倒れ込む。


シェイドと対峙することとなったクボケン。

しかし――なぜかその背中に、ゆにがいた。

「すぅ……すぅ……」

「なんでこのタイミングで眠れるんだ!」

戦いが始まった途端、ゆには睡魔に負け完全に眠っていた。

その背後から――低く重いチェロの音が響く。

シェイドが召喚した砂の死神が、二人を追って迫ってくる。

「ったく……!」

クボケンはゆにを背負ったまま走り、どうにか物陰へと身を隠す。

「とりあえず、ここで寝てろ」

ゆにをそっと下ろす。

「俺一人でやるしかないな」

クボケンがマクベスへ姿を変える。

物陰から飛び出し――迫り来る砂の死神へ剣を振り抜く。

ザンッ!!

砂の死神を一刀両断。

しかし――切り裂かれた身体は砂となって崩れ、すぐに元の姿へと戻っていく。

「斬撃じゃダメか……」

再び剣を構えるマクベス。

その時。

「せんせぇ~」

背後から、眠そうな声が聞こえる。

振り返ると――ゆにが鍵盤ハーモニカを手に立っていた。

「ようやく起きたか!」

「ごめんごめん。ボクまた眠っちゃったみたいだねぇ」

ゆにが鍵盤ハーモニカを吹く。

音色と共に――巨大な鉄の死神が姿を現す。

その拳が、砂の死神へ叩き込まれる。

ドゴッ!!

だが――砂の身体は衝撃と共に崩れ、再び集まっていく。

「これもダメか」

「いくら数が増えようと同じことだ」

シェイドが冷静に二人を見る。

「お前たちの攻撃は、俺の死神には通用しない」

「…………」

マクベスが砂の死神を見る。

そして――隣に立つ、ゆにの鉄の死神へ視線を移す。

「……そうか」

何かを思いついたように、剣を握り直す。

「ゆに。ちょっと手を貸してくれ」

「はーい。なにするの?」

マクベスが二体の死神の間へ飛び込み――

剣を地面へ突き刺す。

「雷陣!」

剣を通じて電流が走り、砂の死神と鉄の死神を包み込む。

バリバリバリッ!!

「……!」

シェイドが一瞬怯むが、大したダメージはない。

砂の死神が身体を大きく崩し――大量の砂となって、マクベスと鉄の死神へ襲いかかる。

だが。

「……なに?」

シェイドの表情が変わる。

砂が――思うように広がらない。

それどころか、砂の一部がゆにの鉄の死神へと引き寄せられていく。

マクベスがニヤリと笑う。

「気づいたか」

砂の中から、黒い粒が次々と浮かび上がる。

「お前の死神には砂鉄が混じってる」

マクベスが剣を握る。

「さっきの雷陣で磁力を持たせた。砂鉄が、ゆにの鉄の死神に引き寄せられてるってわけだ」

「……!」

「だが、まだ足りない」

マクベスがゆにを見る。

「ゆに、準備はいいな!」

「はーい、せんせぇ!」

マクベスが鉄の死神の背へ手を当てる。

「いくぞ!」

ありったけの電流を流し込む。

バリバリバリバリッ!!

鉄の死神が強力な電磁石となり――砂の死神に含まれる砂鉄を一気に引き寄せる。

「くっ……!」

身体を砂へ分散することができない。

逃げることもできない。

「今だ!」

鉄の死神が拳を握る。

そして――身動きの取れない砂の死神へ、猛烈な連打を叩き込む。

ドドドドドドッ!!

「ぐっ……!」

ついにシェイドが召喚を解除する。

砂の死神が崩れ――その姿が消えていく。

「…………」

シェイドが二人を見る。

「お前たち……最初から、ここまで計算していたのか?」

「いや、一か八かの――」

「もちろん!」

マクベスの言葉を遮り、ゆにが胸を張る。

「ボクたちの作戦勝ちだよー!すごいでしょー!」

「…………」

マクベスがゆにを見る。

「…………」

シェイドもゆにを見る。

二人の呆れた視線を受けながら――ゆには得意げに笑っていた。


タイドとフローラの前に立ちはだかったのは――アキナ。

「先手必勝!」

フローラが腕を振るう。

地面から伸びた薔薇の蔓が、鞭のようにアキナへ襲いかかる。

しかし――攻撃が届く寸前。

アキナの身体が無数の蝶へと変わり、宙へ舞い散る。

「なっ!?」

次の瞬間――周囲に何人ものアキナが姿を現す。

「無駄だ。アナタたちはすでに私の罠にかかっている」

アキナがバイオリンを奏でる。

その背後に現れたのは――無数の蝶が集まった、幻影の死神。

死神から舞い落ちる鱗粉が辺りへ広がり、フローラたちの視界を惑わせていた。

「これじゃ、どれが本物かわからない…!」

フローラが薔薇の鞭を振るう。だが、捉えたアキナは蝶となって消えていく。

一人。また一人。

どれだけ攻撃しても、本物に届かない。

さらに――フローラの指先が僅かに痺れ始める。

「……っ」

鱗粉には幻覚だけでなく、麻痺の作用まであるようだ。

このまま時間をかければ――身体が動かなくなる。

その時。

隣にいたタイドが口を開く。

「僕の死神なら、相手の居場所が分かるかも」

「え……」

フローラがタイドを見る。

「あなた、話せたのね」

「…………うん」

ベースを構えるタイド。

低い音が響き――その背後に、海の死神が姿を現す。

まるで水中を泳ぐように宙を進みながら――

キィィン――

特殊な音波を周囲へ放つ。

「これは……」

フローラが辺りを見る。

海の死神が使っているのは、イルカやクジラと同じエコロケーション。

跳ね返ってくる音から、物の位置や距離を探る。

いくら幻で惑わすことができても――実際にそこにいる者の位置までは誤魔化せない。

海の死神が一方向へ顔を向ける。

タイドも同じ場所を見る。

「……そこだ」

「!」

フローラが即座に腕を振るう。

地面から無数の蔓が伸び――何もないように見えた空間へ絡みつく。

「くっ……!」

幻が消える。

そこには――蔓に捕らえられた本物のアキナ。

「捕まえた!」

蔓がアキナの身体を強く締め上げる。

振りほどこうとするが、アキナの身体は完全に封じられている。

「……くそっ」

勝負は決した。

「あなた、やるじゃなーい!」

嬉しさのあまり、フローラがタイドへ抱きつく。

「っ……!」

その勢いでバランスを崩し――二人はそのまま地面へ倒れ込む。

そして偶然――フローラは、これまで隠れていたタイドの素顔を目にする。

「…………」

一瞬、固まるフローラ。

そして――頬がみるみる赤くなる。

「……あらぁ♡」

タイドの顔をじっと見つめる。

「イケメン」

「…………」

タイドは無言のまま、そっと顔を逸らした。


こうして――

猫屋敷の各所で繰り広げられた四つの戦いは、巳と子の勝利に終わる。

タオ。

タンク。

シェイド。

そして、アキナ。

猫盗楽団の四人は、全員敗れた。

残るは――猫屋敷の奥にいる、猫神。

そして――八郎とシカオは、すでにそのもとへと辿り着こうとしていた。

このエピソードはpixivで挿絵付き版も公開しています。

キャラクターデザインが見たい方はこちら!

pixiv:【https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=29061222】

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