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悪役十二支 緊急筆頭集会 京都府

十月――京都。

白漆喰の壁に、重なる黒瓦。

太い木柱と畳敷きの大広間を備えた、日本古来の姿を残す巨大な城。

ここは、ヴィラン協会本部が置かれる――丑の本拠地。

普段は静かなこの場所。

そこへ全国各地から異様な者たちが次々と集まっていた。

「だから嫌だって言ってるだろ!」

「うるせぇ、大人しくしてろ」

最初に現れたのは、子の長・ルーシー。

側近のシカオに引きずられながら、露骨に嫌そうな顔をしている。

その後ろから、静かに本丸へ入ってくる二人。

顔を仮面で覆った丑の長・茨木童子と、その側近・般若。

童子は誰とも言葉を交わさず、そのまま自分の席へ向かう。

何もない空間に、一枚の扉が現れる。

ガチャ。

「やあ。久しぶり!みんな元気してた?」

扉の向こうから姿を現したのは、寅の長・ダンテ。

その後ろに扉を作り出したアダムが続く。

次に、大広間へ巨大な影が差す。

空を見上げれば、城の上空に巨大な空中船が停まっている。

そこから縄梯子を伝い、軽やかに降りてくる兎の長・ボニー船長。

その後に側近のグレイスが続く。

城門前には、黒塗りのベンツ。

後部座席から降りてきたのは、辰の若頭・太刀花龍二。

補佐の高杉雅美を従え、周囲へ目もくれず本丸へ入っていく。

ほどなくして――

巳の長・バジリスクが、マクベスを従え堂々と本丸へ姿を現す。

全国の悪役十二支が集う異様な空気の中でも、臆することなく自らの席へと向かう。

そこへ、午の側近である執事が棺桶を召喚する。

ゆっくりと蓋が開く。

中から出てきたのは、アイマスクをつけた午の長・クリス。

「…………」

眠っている。

執事が慣れた様子で、そのままクリスを席まで連れていく。

続いて現れたのは、未の側近・J。

長であるジャイロの姿はない。

監獄から出ることのできない彼に代わり、Jが出席。

さらに――

酉の長・ボルティナと、その妹ロックが箒に跨り悠々と登場。

戌の長・ドグに肩車され現れる、二足歩行の犬・プルー。

プルーは小さな身体で、集まった者たちを物珍しそうに眺めている。

そして――

約束の時間が迫る。

残るは亥と申。

その時――

ドゴォン!!

本丸の壁が、突然吹き飛ぶ。

「なんとか間に合ったわい」

巻き上がる土煙の中から、猪のような見た目の大男が姿を現す。

亥の側近――カマイー。

その背中に、小さな少女が乗っている。

亥の長・イブキ。

静かに集まった悪役十二支を見渡し、カマイーのあぐらの上に座る。

集まった者たちが、それぞれの席へ着く。

逃げ出す隙を窺っているルーシー。

未だに眠っているクリス。

ドグとカマイーは、いつの間にか楽しそうに世間話をしている。

一方では、目を合わせるだけで空気が張り詰める者もいる。

(……なんてまとまりのない人たちなんだ……)

バジリスクが呆れていると――十二ある席のうち、一つだけが空いていることに気づく。

申の席。その主だけが、まだ姿を見せていない。

そんな中――上座に座る老人が、ゆっくりと口を開く。

ヴィラン協会会長。丑の酒呑法師。

「約束の時間となったようじゃ」

広間の空気が、一瞬で静まる。

「まだ申が来ておらんようじゃが――始めるとしようかの」

七年ぶりに開かれる、

悪役十二支 緊急筆頭集会。

その幕が上がる。


集まった者たちを見渡す酒呑法師。

「今回の題目は主に三つじゃ。一つ目――来年の贄について。二つ目――草薙剣と御使いについて」

法師の視線がバジリスクへ向く。

「そして三つ目――巳の十二支巡りについてじゃ」

バジリスクが黙って法師を見返す。

「では早速、一つ目から始めようかの」

法師がゆっくりと寅の席へ目を向ける。

「来年は閏年。皆も知っての通り、月の神へ贄を捧げる年じゃ」

広間が静まり返る。

「前回の贄となったのは、丑の元長――閻魔」

「そして、今回は寅の番となる」

法師の視線の先。

寅の長・ダンテが、穏やかな表情で一点を見つめている。

「ダンテよ。覚悟はできておるかな?」

「はい。できています」

ダンテが静かに答える。

「僕がいなくなった後は、弟のエースを次の長に推薦します。エースなら、寅をうまくまとめてくれるでしょう」

「うむ」

法師が頷く。

「また一人、名高いヴィランがいなくなるのは心苦しいが――千年以上続くしきたりじゃ」

一拍置き、

「ダンテには悪いが、月の神のために尽くしてもらおう」

誰も口を挟まない。

重い沈黙だけが、広間を包む。


酒呑法師が次の議題へ移る。

「さて、二つ目じゃ。草薙剣が御使いによって盗まれたと報告を受けておるが――間違いないな?」

アイマスクを外しクリスが答える。

「ああ。剣は所在が分からないよう、屋敷にある千の剣の中へ紛れさせていた。さらに屋敷には、陰・陽・中を感知する結界も張ってあった。だが、御使いは結界に一度も反応せず、千の剣の中から草薙剣だけを見つけ出した」

クリスが淡々と続ける。

「その時屋敷には祖父のチャールズと、父ラウルもいた。御使いは二人の攻撃をかわし、そのまま剣を持って逃げていった」

クリスが僅かに眉をひそめる。

「……今までの御使いでは考えられない行動だ」

「それで盗まれたって言い訳か?」

辰の長・太刀花龍二が口を挟む。

「お前ら、それでも悪役十二支かよ」

広間の空気が張り詰める。

「盗まれたことも無論、重大じゃ」

酒呑法師が冷静に返す。

「じゃが、それ以上に問題なのは御使いの行動じゃ。もし自らの意思で草薙剣を盗んだのであれば――これまでとは話が変わってくる」

酒呑法師が険しい表情を浮かべ、しばし考え込む。

「御使いの調査は、申の役目だったはずじゃが?」

Jが空いた席を見る。

「って言っても、申はまだ来てねぇじゃ――」

「私はここにいるぞ」

「うおわぁ!?」

Jが飛び上がる。

いつの間にか空いていた申の席に、一人の男が座っている。

申の長――ハイリー提督。

「御使いの調査は随時進めている。だが、今回のような事例は過去にない」

ハイリーが僅かに目を細める。

「知能を持つ個体が存在するのか――あるいは、そもそも草薙剣を盗んだ者が御使いではない可能性もある。いずれにせよこちらで調査を続ける」

「うむ。進展があればヴィラン協会へ報告してくれ」

酒呑法師がクリスへ目を向ける。

「草薙剣の行方が分かり次第、午が奪還へ向かう。それでよいな?」

クリスが静かに頷く。


酒呑法師が最後の議題へ移る。

「では三つ目――巳の十二支巡りについてじゃ」

法師がバジリスクへ目を向ける。

「この半年で、巳は子・寅・兎・午・未を巡り、盃を交わしておる。何か目的があるのかの?」

バジリスクが答える。

「かつては父ヴァイパーをはじめ、悪役十二支がこの国のヴィランをまとめていた。だが父が姿を消してから、好き勝手に暴れるアマチュアのヴィランが増え、国の治安は悪くなる一方だ」

バジリスクが集まった長たちを見渡す。

「ここで今一度、悪役十二支の結束を固め、ヴィランの統制を図りたい」

「なるほどのう」

酒呑法師が頷く。

「では実際に巳と盃を交わした者たちは、どう考えておる?」

真っ先にルーシーが口を開く。

「別に私たちは、バジリスクの下についたつもりはないよ」

ルーシーが頬杖をつく。

「でも考えには賛成。アマチュアのヴィランが好き放題やってるのも気に食わないしね」

「僕は彼の考え方が、師匠のヴァイパーさんに重なったのが大きいかな」

ダンテが穏やかに続ける。

「巳のみんなもいい人たちだしね」

「あたしは単純さ」

ボニーがニヤリと笑う。

「バジリスクはアタシの弟子みたいなもんだからね。弟子がやろうとしてることに手を貸すのが、師匠ってもんだろ?」

クリスが続く。

「俺は干支合戦に敗北した。それに妹が世話になった借りもある」

一拍置き、

「俺は巳に期待している。以上だ」

「俺たちは、ぶっちゃけそこまで深く考えてねぇな」

Jが笑う。

「干支合戦に負けたのは事実だし、それに巳の奴らは面白ぇ。ジャイロも俺も気に入った。それだけだ」

それぞれの言葉を聞いていた太刀花が、低い声で口を開く。

「……お前ら、甘くねぇか?」

広間の空気が変わる。

「今さら仲良しごっこかよ」

太刀花の視線が、バジリスクへ向く。

「それにコイツ――まだガキじゃねぇか。俺は納得できねぇ」

「子供か大人かなど関係ない」

酉の長・ボルティナが淡々と返す。

「必要なのは、悪役十二支をまとめられるだけの力があるかどうかだろう」

「力……ねぇ」

太刀花が僅かに口元を歪める。

「だったら今ここで、俺とバジリスクで力比べでもするか」

太刀花から陰が溢れ出す。

「強くなけりゃ、統率もクソもねぇだろ」

瞬間――凄まじい殺気が大広間を満たす。

空気が張り詰め、集まった者たちがそれぞれ太刀花へ視線を向ける。

その中で――

「お前、もういい。黙ってろ」

低い声が響く。

声を発したのは、亥の側近――カマイー。

太刀花がゆっくりとそちらを見る。

「あ?」

「テメェ、俺のやり方に口出すのか?」

太刀花の視線が、カマイーのあぐらの上に座るイブキへ移る。

「側近ごときのテメェが。お前んとこの小娘は、口も聞けねぇ臆病者か?」

カマイーの表情から笑みが消える。

「黙れ」

そして――

「お前、食っちまうぞ?」

太刀花とは別の殺気が、大広間へ広がる。

再び広間に緊張が走る。

一触即発――

そんな空気の中、酒呑法師が静かに口を開く。

「……話が逸れてしまったのう」

法師はまるで動じる様子もなく、太刀花とカマイーを見渡す。

「わしは各々の考えを聞きたかっただけじゃ。事情も大体わかった」

そして、僅かに笑う。

「ここで殺し合いをしても、最後にわしが残って終いじゃよ」

その一言に、張り詰めていた空気が僅かに揺らぐ。

「干支合戦は古くから続く正式なしきたり。そこで交わされた盃を、疎かにすることはできん」

「まあまあ、龍ちゃんもそんなにカッカしないの」

ダンテがいつもの調子で口を挟む。

「あのおじいちゃん、めちゃくちゃ強いの知ってるでしょ?」

「ダンテ……テメェ、龍ちゃんって呼ぶなって言ってんだろ」

太刀花がダンテを睨む。

「ボニーも笑ってんじゃねぇよ」

殺気に満ちていた広間の空気が戻る。

そんな一同を眺め、酒呑法師が再び口を開く。

「それでは、本日は皆ご苦労じゃった。各々戻ってよいぞ」

こうして――七年ぶりの悪役十二支緊急筆頭集会は幕を閉じる。


だが――帰りの新幹線。

クボケンは、隣に座る八郎の様子がどこかおかしいことに気づく。

「八郎」

「ん?」

「太刀花が殺気を放った時、なんか様子がおかしかったな。何かあったのか?」

八郎が少し考え、口を開く。

「……今回初めて、悪役十二支の長を全員見た」

窓の外を流れる景色を眺めながら続ける。

「法師を除いて、一番陰が強いと思ったのは……亥の長の女の子だった」

「イブキか?」

「うん」

八郎の表情が僅かに曇る。

「太刀花さんが放った陰には、どこか手加減を感じたんだ」

八郎が視線を落とす。

「でも――その陰に紛れるようにして、僕を本気で殺そうとしている別の陰を感じた」

クボケンの表情が変わる。

「……どこからだ?」

八郎がゆっくりと顔を上げる。

「丑の長」

「茨木童子……?」

「仮面をつけてたから、表情までは分からなかったけど……」

八郎が静かに言う。

「僕に向けられていたのは――悲しみと、憎しみのこもった陰だった」

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