一ノ瀬結衣の苦難 一
レイリーとの一件以降、不良たちはすっかりおとなしくなった。
八郎にも大吾や睦子という友達ができ、結衣は少し寂しさを感じながらも安心していた。
しかし――
結衣自身にも、大きな悩みがあった。
生まれつき、人並み外れた怪力を持っていること。
幼い頃からその自覚はあった。だからこそ、周囲には気づかれないよう注意しながら生活してきた。
結衣が望んでいるのは、ただ一つ。
普通の女の子として生きること。
だが成長するにつれて、その力は少しずつ強くなっていた。
家族に相談しようと思ったこともある。しかし、結衣の両親はかつてエリートヒーローとして活動しており、兄もまた――現在ヒーローとして活動している。
(もし私にも、ヒーローの力があるって分かったら……)
両親は喜ぶかもしれない。だが結衣にとって、それは喜ばしいことではなかった。
兄のようにヒーローとして生きることは、どうしても自分には想像できなかった。
そんなある日。
「お、一ノ瀬」
大吾が結衣の肩を指さす。
「肩に蜘蛛ついてるぜ」
「えっ!?蜘蛛!?」
結衣が反射的に大吾を突き飛ばす。
「いやぁぁぁ!!」
ドゴォン!!
大吾は教室の窓を突き破り、そのまま外へ吹っ飛んでいった。
「な、なんで俺が……」
さすがにもう、隠し続けるのは無理かもしれない。
結衣はもう、自分の力を見て見ぬふりできなくなった。
放課後。
結衣の姿は図書館にあった。
机には、ヒーローに関する本が何冊も積まれている。
「ヒーローについて記録が残っている最古の書物は、西暦七一二年に記された古事記……」
ページをめくる。
「確か、中学の歴史で習った覚えがあるけど……」
それからも黙々と調べ続ける。
しかし――
自分の怪力が何なのか。
自分に本当にヒーローの力があるのか。
答えに繋がるものは見つからなかった。
「……やっぱり、一人で悩んでてもダメなのかも」
「ってことで、私のところに来たわけねー」
保健室で、結衣の話を聞き菜々子が口を開く。
「はい……」
「人と違うことに悩む子はたくさんいるけど、結衣ちゃんの場合はちょっと特殊ね」
菜々子が少し考える。
「特に女の子だと、怪力っていうのは余計に気になっちゃうわよね」
菜々子には分かっていた。
結衣から、僅かではあるが陽の気配を感じる。
「正直に言うと、私にも結衣ちゃんに何が起きてるのかは分からない」
菜々子が結衣を見る。
「でも、ヒーローの素質を持ってる可能性は十分にあると思う」
結衣の表情が曇る。
「自分がヒーロー、ヴィラン、ミドル――どれに属しているのか。それを確実に調べる方法が一つだけあるの」
「そ、それって……!?」
焦る結衣を宥めるように、菜々子が続ける。
「ただし、それができるのはヒーローの本部――志英館だけ」
結衣が少し黙る。
ヒーローになりたいわけではない。むしろ、その逆だ。
それでも――このまま自分の力から目を背け続けるわけにはいかない。
「……行ってみます」
菜々子が微笑む。
「うん。それがいいと思う」
こうして結衣は、自分の力の正体を確かめるため――
志英館へ向かうことを決めた。
このエピソードはpixivで挿絵付き版も公開しています。
キャラクターデザインが見たい方はこちら!
pixiv:【https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=29001676】




