失敗は成功の元?
ハルフォンソの街からこんにちは。ティファレトです。
今日は密かに試していた、水ブドウの漬物を試食したいと思います。
自室の隅に置いていた壺を運び、祈り場へと移動します。
「何それ?シスター」
祈り場で刺繍をしていたアーノルドが聞きながら壺を覗きこんでいます。
「水ブドウを塩に漬け込んでみました。アーノルドも食べますか?」
「僕はいいや」
「そうですか」
途端にアーノルドは興味を無くし、壺から目を離して刺繍を再開します。
そんなにも嫌ですか?水ブドウ。
「......」
ひとまずアーノルドの事は置き、壺から水ブドウを取り出していきます。
「随分と萎みましたね」
取り出した水ブドウは瑞々しさの欠片も無く、年老いた人のように皺が刻まれています。
更には、人の頭ほどある水ブドウが親指ほどにまで縮み、周りの塩が水ブドウの果汁の色に染まっています。
「では......」
まずは一口。
「〜~~ッッッ!?」
酸っぱい!
何ですかコレ!?酸っぱい!
「どうしたのシスター?固まってるけど、不味いの?」
私は震える手でアーノルドに塩漬け水ブドウを差し出します。
「食べろって?......〜~~ッッッ!?酸っぱぁ!!」
どうやら私の味覚が機能不全になったわけではなさそうです。
「これは、失敗ですね」
「ゴホッ、ゴホッ。ど、どうだろう?酸っぱいのが好きな人もいるし、誰かに渡してみたら?」
「そうしましょう」
まさか食べられない水ブドウが出来上がるとは、完全に誤算でした。
それにしても、あれほど甘い水ブドウを塩漬けするとこんなにも酸っぱくなるとは、実に不思議です。
「では、知人に持って行きますので出掛けますね」
「はーい」
そういう訳で、冒険者ギルドの料理長へと持って来ました。
「んぐっ!?ゲホッ!酸っぺ!ゴホッ!」
「大丈夫ですか?」
「あ、あぁ。確認するが、これは水ブドウなんだな?」
「はい。30日ほど塩に漬け込んでいます」
「他には何かしてるか?」
「していません」
「なるほど......それなら、こうだな」
料理長はすぐさま厚めのお肉を取り出し、焼いた後に潰した塩漬け水ブドウを薄く塗りました。
「ふむ...よし、思った通りだ。これはイケるぞ!」
どうやら良い味付けに仕上がったようです。
「これは定期購入は出来るか?」
「流石に私の教会では生る量が足りません。ですが、水ブドウ農家のダダンさんに製法を伝えれば大丈夫でしょう」
「......良いのか?」
「はい」
特に秘匿する利点が私にはありませんからね。
「それじゃあ頼む。その際に......よし、これをダダン爺さんに渡してくれ」
料理長が私に手紙のような物を書いて渡します。
「これは?」
「ダダン爺さんに言伝だ。ティファレトちゃんに良い水ブドウを都合するように書いてある」
「まぁ!」
まさかこのような幸運に出会うとは思いませんでした。
提案してくれたアーノルドに感謝せねばなりませんね。
帰りにアーノルドの好きなお菓子を買って帰るとしましょう。




