少年の恋と気長な約束
ハルフォンソの街からこんにちは。ティファレトです。
今日は珍しく、アーノルドを連れて市場に来ています。
なんでも、最新の刺繍が見たいのだとか。
アーノルドは最近9歳になったばかりなので、流石に1人で人がひしめき合う市場は危険と判断して同行しています......過保護ですかね?
「あら、こんにちは。ティファレトさん」
「こんにちは、ミリアーネさん」
食材の買い出しでしょうか?干し肉と果物を手に取ったミリアーネさんがいました。
顔に斜め一直線についた大きな傷跡、引き締まった細身の体が示す通りの歴戦の武を持つ銀階級冒険者です。
確か、10代前半から冒険者をしている、でしたか?
それで今まで生き残って銀階級になっているので、ハルフォンソにおける英雄の1人とも言われていた筈です。もう1人はジードさんですね。
「ティファレトさんも買い物かしら?」
「アーノルドが最新の刺繍を見たいとの事で付き添いです」
「アーノルド......リバーシが強い男の子だったかしら?」
「そうです。今度、良ければ相手をしてもらえませんか?私では相手にならないので」
「もちろんよ。私にとっても強い人とするのは楽しいもの」
「ありがとうございます。アーノルド、アーノルド。こちらへ来てください」
私から離れて服を見ているアーノルドを呼びます。
「何?シスター......!?」
「アーノルド、こちらはミリアーネさんです。今度リバーシをしてくれると......アーノルド?」
アーノルドがミリアーネさんを見て固まってしまいました。
少し頬も赤いですね......ふむ、熱は無し、と。
「大丈夫なの?」
「わかりません、こんなに固まっているのは初めてです」
「......綺麗だ」
「え?」
「あ、あ、あ、あの、僕!アーノルドです!」
動き出したと思えば、元気が有り余ったように大声を出しました。大丈夫ですか?
「ミリアーネよ。アーノルド君ね」
「はい!あ、あの、ミリアーネ!」
「何かしら?」
「ぼ、僕と!結婚してくれませんか!」
「!?」
「え?」
アーノルドが唐突にミリアーネさんに告白をしました。
もしかして、以前の熱病が治っていないのでは?
「とても綺麗で、その、僕は子どもだけど!すぐに稼げる男になるので!はい!だから、その......」
告白をしながら顔を俯かせていきます。
......この場合、保護者はどうすれば良いのでしょう?
「アーノルド君、顔を上げて」
ミリアーネさんがアーノルドの前でしゃがみます。
「アーノルド君、貴方が綺麗と言ってくれたこと、とても嬉しいわ。でも、応えられないのも分かるわね?」
「......」
「アーノルド君が成人するまで何年かしら?」
「6年...です」
「その頃には私は32歳。その年頃まで女を待たせる罪深さは...分かるかしら?」
「......はい」
「それなら」
「だけど!僕が大人になるまで待っててくれませんか!」
「!!......冒険者を続けている以上、私はどんどん傷だらけになって醜くなるし、その頃には死んでいるかもしれないのよ?私を娶る為に努力を続けた貴方は、それに耐えられるの?」
「もちろんです!だって、きっと、もっと綺麗になってる筈だから!」
「......ふふふっ、ごめんなさい。こんなに真っ直ぐな告白を受けたのは初めてだから。でも、そうね、その頃まで独り身なら、貰ってくれるかしら?」
「待っててください!」
「ふふっ、分かったわ。待ってるわね、アーノルド君」
「はい!」
これが本に書いてあった一目惚れというものですか。
まさかアーノルドで実例を見るとは思いもしませんでした。
「シスター」
ミリアーネさんと別れたあと、アーノルドが私を決意を込めた目で見ます。
「僕、鍛えて強くなって、刺繍も上手くなって、いっぱい稼げるようになりたい。ミリアーネさんに恥ずかしくない人になりたい」
「それでは、毎朝の運動は厳しくしましょうか」
商売の本も買ってあげましょう。頑張るのですよ、アーノルド。




