第九八五話 最終確認と予定
新スキル【超必殺技ゲージ】が、強力すぎて使い物にならないスキルである、というのは分かった。
しかしだからと言って、それで検証作業が打ち切られるわけではない。
と言うより、裏を返せば『安全な使い方さえ見出し確立させたなら、間違いなく強力無比な武器になる』と確信を得たわけだ。
ならばその、安全な運用方法を見つけ出すためにも、検証作業というのは非常に重要な意味を持つわけで。
そういう話であれば、私だって俄然やる気が湧いてくるというもの。
他の皆が飽きて各々の鍛錬に取り組み始めた後も、私はソフィアさんとともに、超必殺技ゲージとチャージに関するデータの採取に、延々と取り組んだのだった。
そんなこんなで、翌日。
結局午前中も検証作業の続きに当てて、昼食前にやっとこさ一区切りつけた私たちである。
そこまで頑張って分かったことと言えば、やっぱりどう足掻いても超必殺技ゲージの扱いには、難があるってこと。
問題となるのはざっくり言って三点。
・超必殺技に味方を巻き込む恐れがあること。
・フィールドへの被害が甚大であること。
・自分自身も小さくないダメージを負うこと。
どれ一つ取っても対応が難しく。手っ取り早い手段として『出力を抑える』という方向性であれこれと試してみたりもした。
チャージが十分に機能しないタイミングで撃ち出すのは勿論のこと、魔力制御に注力したり、別の魔法を用いて被害を抑えるよう努めたり、何なら自身にデバフを掛けてみたり……。
そんなこんなで、細心の注意を払えば一応許容範囲内の被害で扱えるところまでは漕ぎ着けたのだけど。
しかし、そこまでやっておいて、気づいたのである。
これ、普通のスキルで火力出したほうが、余程安全でコスパも良いのでは……?
心が折れかけた私だけど、そこは流石のソフィアさん。「ダメな子ほど可愛いものですよ!」と、無意識で暴言を吐きつつも、どうやら見放すつもりはないらしい。
そのうち制御方法を確立できたら良いな……くらいの。今のところはそんな感じ。
正直、こういう自壊も厭わないような技を抱えてると、変なフラグが立ちそうで嫌なんだけどな。
この先エンドコンテンツで苦戦を強いられた時、フィクションだとこれみよがしに私が身を挺して無理やり敵を倒す、みたいな展開が待ってるやつだもん。んで瀕死の重傷を負ったり、下手すると死んだりするんだ。私は詳しいんだ!
って考えると、今の状態であまり無茶なことは出来ないな。予想できてるのに現実になるとか、そんなバカな話もないだろう。命大事に!
昼食を終えた私たちは、これまた久しぶりとなるイクシス邸会議室へと集い、各々いつもの席へと腰を下ろしていた。
イクシスさんも既に、教壇に立つ先生よろしく、いつものようにマジックボードの前に構えており。
簡単な挨拶も済んだところで、早速本題である。
「さて、今日集まってもらったのは他でもない。先日『篩の迷宮』を無事に攻略し、帰還を果たした我々ではあるが。肝心要のエンドコンテンツに関しては、一旦保留としているのが現状だ。今回はこれについて皆の意見を聞き、方針をまとめたく思う」
これまでもこの場所で、エンドコンテンツに関しては何度も話し合ってきた。
けれど今回は、いよいよ篩の迷宮の攻略に成功し、エンドコンテンツ解放を目前に控えた、最終判断、最終調整的な意味合いを持つ、重要な会議となるわけだ。
それを理解していればこそ、皆の表情も相応に真剣で。ゼノワですら折り目正しく机の上に鎮座し、大人しくイクシスさんの言葉に耳を傾けている。
「では先ず、はじめに訊いておくとしよう。エンドコンテンツの解放に異議・反対意見のある者は居るか?」
白のモノリス再調査に際し、同じような質問は以前も投げかけられた。
その際は誰からも、反対らしい反対は出なかったけれど。しかし、篩の迷宮を経験したことで考えが変わった人が出たとしても、それは何らおかしなことじゃない。
だからこそ今、改めて皆の考えを聞こうと。そのように意図しての問い掛けなのだろう。
これに対する皆の反応はと言うと……。
「…………」
二秒、三秒と、誰から声が上がるでもなく。
どうやら「やっぱり止めましょうよエンドコンテンツなんて!」って意見は、誰も持ち合わせていないみたいだった。
心眼で見回してみても、迷いや葛藤を抱えているようなメンバーが居るわけでもない。
そりゃ勿論、不安を懐くメンバーならばチラホラ見受けられるけれど。それでも、異論として唱えるつもりは無いらしい。
そんな皆の様子に、満足気に頷くイクシスさん。
「うむ。どうやらエンドコンテンツの解放に、反対する意見は無いようだな。であれば、話を進めるぞ」
篩の迷宮を経験して尚、自分たちの力はエンドコンテンツにも通用する。大なり小なり皆が、そのような確信を持っているのだろう。
そんな皆へ向けてイクシスさんが切り出したのは、先ず『エンドコンテンツを解放するタイミング』についてだ。
「篩の迷宮を攻略したことで、エンドコンテンツを解放する目処は立ったと言えるだろう。では具体的に、何時それを行うのか。この後すぐにでも実行してしまって良いのか、それとも機を見計らうべきなのか。皆の考えを聞かせてくれ」
そのように意見を募るイクシスさん。すると、呼応してメンバーたちから返答が発せられる。
「何時でも行けるぱわ! この後すぐだってなんにも問題ないぱわ!」
「約二週間もかけて蓄積した疲労が、たった一日二日の休息で取り除けるはず無いんですよー。お休みは大事です~」
「フゥちゃんの修行に付き合うって約束もあるしね」
「冒険者としての仕事も溜まってるんじゃないの? ご無沙汰にしてたわけだし」
「ガウガウー」
「『虚ろなる塔』、だったか。どんなものか気になりはするが、調査や攻略に集中するためにも、整えるべき準備はありそうだな」
「新たなスキルを育てる時間も欲しいですね。せっかく検証でデータを集めたのですし、有効に活用していただきたい!」
「むむ。言われてみたら、皆の言うことも尤もぱわな……」
どうやら、すぐにでもエンドコンテンツへ! という声は少数派らしい。かくいう私もフゥちゃんの修行に付き合うのに、しばらく時間がほしいわけだけど。流石にエンドコンテンツに挑みながらフゥちゃんの修行もってなると、どっちかが疎かになるだろうからね。
そうして皆の意見を一通り聞き、律儀に一つ一つマジックボードへと書き付けていったイクシスさん。
少数派である、「今すぐにでも!」って声もきちんと拾っては、「何か急ぎたい理由でもあるのか?」としっかりと話を聞き。
そうこうして意見をまとめていった結果、結論としては……。
『エンドコンテンツの解放は、然るべき準備の整った後、折を見て実行に移す』
という具合に落ち着いたのだった。何かふわっとしてるけど、要するに一先ず今は他のことを優先しましょう、ということらしい。
ウェブデさんの話を鵜呑みにするのなら、エンドコンテンツを解放しても、コレといった悪影響が出ることはないみたいだけど。
しかしそれが出任せだった場合、準備不足で当たるにはあまりに危険だからね。
欲を言うのなら私も、超必殺技ゲージを何とかモノに出来てから挑戦したい。フラグを折っておきたい。
すると、ここで不意にレッカが挙手。
イクシスさんが発言を許可したなら、彼女は疑問を口にしたのである。
「そもそもの話にはなるんだけど、結局『資格者の証』っていうのは『篩の迷宮踏破証明書』って認識で良いのかな? 可能なら確認しておくべきなんじゃないかな」
「む。確かにそれがあったな……だが調べようにも、どうする?」
「実際白のモノリスに吸わせてみる、というのは危険ですよね」
「その瞬間エンドコンテンツが解放されないとも限らないわね」
「こんな時こそ検索機能です!」
「それだ!」
ドヤ顔で宣ったソフィアさんが、皆に先んじて『篩の迷宮踏破証明書』を検索に掛けたらしい。
そして、判明した結果を彼女は発表したのである。
「どうやら、踏破証明書が『資格者の証』である、という仮説は正しかったようですね。その旨が検索結果に表示されました」
「思い返してみると、黒いモノリスの時もキーオブジェクトの名前って、メッセージウィンドウを読んで初めて判明したんだっけ」
「もしかすると『資格者の証』っていうのは、アイテム名そのものって言うより、それを示すヒントって認識が正しいのかもね」
「なるほどな……」
この情報は、今後もしアップデートを目指してキーオブジェクトを集めるようなことになった際、役立つかもしれない。
そうでなくても、前々から何処かの誰かが勝手にアップデートを引き起こさぬようにと、キーオブジェクトを集めておこうって話は出ていたんだ。
イクシスさんが裏で動いてくれたおかげで、既に幾つかは回収出来ているようだけど。それらにもそれぞれ対応するモノリスがあり、ヒントも記されてたりするんだろう。
モノリスを調べることで、キーオブジェクトがどんなものかをぼんやりと知り、それを求めて世界中を飛び回り、発見してから再びモノリスの元へ。
っていうのがもしかすると、正規の手順だったりするのかな? 途方もない手間じゃないか。
しかし世界中に影響を及ぼすアップデートだって言うんなら、そのくらいの難易度は設けられていて当然なのかも知れない。
それで言うと篩の迷宮は、キーオブジェクトとモノリスがやけに近い場所にあった。
それを鑑みると、エンドコンテンツが悪い影響を及ぼさない、っていうのにもなんとなく説得力があるように思えてくる。
ともかく、『資格者の証』が手元にあることは分かった。これでエンドコンテンツは私たちがその気になりさえすれば、いつでもアクティベートすることが出来るはずだ。
ならば後は、実行に向けて準備を整えるだけ。フゥちゃんの修行に付き合ったり、英気を養ったり、新しいスキルを磨いたり。
それから……あ、そうだ。
「はい!」
「む? どうしたミコトちゃん」
「エンドコンテンツ解放後の話にはなるんだけど……隠しダンジョンについてはどうしようか」
「むむ」
思いがけずウェブデさんから聞かされた情報。
魔王城跡地に、何かあるらしいって話。それも、隠しダンジョンに関係する何かが。
しかしまぁ、魔王城跡地だなんて言ったら、そんなのはイクシスさんたちレジェンズにとって因縁浅からぬ地だ。
せっかくの話し合いの場なのだし、話題に上げておくべきかと思い、こうして意見を求めてみたのだけど。
イクシスさんやサラステラさんの胸中を慮ってか、皆が小さくざわつく。フゥちゃんも空気の変化を感じてか、なんだかオロオロしている。
「……まぁ、そうだな。隠しダンジョンに関しては、恐らくどこかのタイミングで調べに行くことにはなるだろうが。その前に一度、エンドコンテンツ解放前の状態を見に行っておいても損はないだろう」
「そうぱわな……。私も賛成ぱわ」
表情に苦味を滲ませながらも、そのように答えたイクシスさんとサラステラさん。
彼女らがそう言うのであれば、勿論他の面々から異論が出るはずもなく。
斯くして一度、魔王城跡地へと足を運ぶことになった私たち。
勇者PTの盾役にして、イクシスさんの夫。クラウにとってはお父さんだ。そんな彼が、命を落とした場所。
些か以上に、覚悟を決めて調査に赴く必要がありそうだ。




