第九八〇話 新手の妖怪
おもちゃ屋さんのリビング。
師匠たちへ向けて私は、白のモノリス再調査へ向かってから今に至るまでの経緯を、なるべく細かく語って聞かせた。
何せ妖精師匠たちである。隠し立てするべきことは何もないはずだから。
ゼノワもガウガウと補足を入れてくれて、師匠たちからの質問にも応じていけば、随分詳細な体験談となったのではなかろうか。
その間、対面に屯して話を聞いてくれる師匠たちもあれば、私の頭や肩や膝の上に陣取り、何処へも逃さぬと言わんばかりの師匠たちもあり。
そこはかとない針のむしろ感に苛まれつつも、何とか全部語り終えた私である。ゼノワは飽きたのか、いつの間にやら丸くなって寝てるし。
そんなこんなで話を締めくくってみれば、次は師匠たちのターンである。
口火を切ったのはモチャコだった。
「こっちは本当に心配したんだからね! 何度迎えに行こうとしたか分かんないくらいだよ!」
「ほんとよ。スキルの共有化が途絶えちゃった時なんて、すごい騒ぎになったんだから!」
「モチャコなんて顔真っ青だったよねー」
「ア、アタシだけじゃないし! ショックで倒れちゃった子もいるし! っていうかユーグだって寝込んだくせに!」
「さー、なんのことかなー?」
なんか、案の定すごく心配を掛けちゃったみたいだ。モチャコたちのみならず、あっちこっちでどれほど心配したかっていう訴えが上がり、居た堪れないったらない。
いつの間にやら正座である。已むを得ぬ事情があったにせよ、皆の声は謹んで受け止めるのがせめてもの償いというもの。
しかしながら不思議なのは、そこまで心配したにも拘らず、よくぞこれだけの日数帰りを待ってくれていたなという点だ。
その辺りを問い掛けてみたなら、返答は。
「迎えに行こうとしたに決まってんじゃん! けど、ラナクが言ったんだ。ゼノワは無事だからミコトもきっと大丈夫だって」
「!」
ラナク・ラティエは、モチャコの契約精霊で、光を司る大精霊だ。ゼノワは彼? 彼女? に教えを請うた経緯があるため、当然面識もあり。
だからか、ラナク・ラティエには迷宮の中にあってもゼノワの安否が分かったらしい。精霊間での連絡網的な何かでもあるのだろうか。
何にせよ、そんな契約精霊から諭され、大人しく私たちの帰りを待ってくれていたらしいモチャコ。
そしてそれは、モチャコのみならず。大半の師匠たちが似たような理由から、暴走せずに済んだようだ。流石は大精霊……!
「けどさ、それから何日経っても全然戻ってこないもんだから、いよいよ今日明日にでも動くべきじゃないかってみんなで話してたんだ」
「そうそう。そうしたら突然念話が復活するんですもの、ビックリしたわよ」
「みんなしていっぺんに念話を使うもんだからー、頭の中うるさすぎてどうにかなっちゃいそうだったよー」
「それについては、多分私のほうが被害大きいから……」
先程の出来事である。モチャコを皮切りに、師匠たちが一斉に念話でメッセージを送りつけてくるものだから、ある種の精神攻撃みたいになっちゃってた。
グループ念話と個人念話が入り乱れての大殺到。正直ヤバかった……でも、あれに耐え続けたら鍛錬になる気がしないでもない。今度お願いしてみるのもありか……。
っていうのはまぁ、いいとして。
ともあれ私はおもちゃ屋さんへの帰宅を果たし、師匠たちが行動を起こす前に自らの無事を知らせることに成功したのである。
最悪の場合、師匠たちが大精霊を引き連れて白のモノリスに押し寄せる、だなんて言うラグナロクめいた光景を目の当たりにするところだった。危ない危ない。
いや、もしかするともっとヤバいか……? ゼノワに贈られたあの銃の件もある。下手をすると大精霊に加えて、未知なる超兵器の登場……。
うん。これ以上考えるのはやめよう。
「えっと、取り敢えずさ。何日もおもちゃ作りの修行が出来なかったんだ。よかったら指導をお願いできないかな?」
ガラッと話を変えて、鍛錬のお誘い。おもちゃ作りの技術を磨くのも、私にしてみれば立派な鍛錬だからね。
すると、ギラリと目の色を変える師匠たち。良いね良いね、ゾクッとする。そうこなくっちゃ。
そんなこんなで、私は師匠たち指導のもと、久しぶりにみっちりとおもちゃ作りの技術を磨いたのである。
やっぱり間を空けたせいで、幾らか鈍ってしまっていた。不甲斐なし!
よく漫画とかで、前線を離れて隠居している戦士が、十数年ぶりとかにベテラン戦士とやり合って「ふん、腕は鈍ってないようだな!」なんて評価を受けるシーンがあるけど。
リアルじゃそうは行かないよね。洗練された技術であればあるだけ、たった数日触れないだけでもブランクは生じるものだ。それは前世のゲームでだって同じこと。アクションゲームだと、途端に指の動きや思考のキレ、間合い管理やタイミングの読み合いとか、もろもろ鈍くなるからね。
それをここで、叩き直そうってわけだ。
まるでマグロである。泳ぎ続けないと死んでしまう。私の鍛錬も、似たようなものなのかもしれない。
時刻はやがて午後七時を回ろうかという頃。
師匠たちの熱心な指導により、随分と勘の戻ってきた私は、最強装備の副腕(作業ツール形態)とカミカゼの念力を用いた、おもちゃ作り特化モードにて一心不乱に、師匠たちから出される課題をひたすらこなし続けていた。
脳汁がドバドバ出てるのを感じる。楽しい……! 既存の技術の反復に、私がまだ知らぬ応用法。そしてたまに飛び出す新技術。
それらをしこたま実践にて練習するわけだ。組み立て、解体、組み立てという反復練習の合間に、傷んだパーツのリペア作業なんてのも行ったりして。
洪水の如く押し寄せる知識と技術の中で、荒ぶる鮭の如く必死に泳ぎ続けるような感覚。堪らん!
などと、延々没頭し続けている私に。
「ミコト、そろそろお夕飯の時間じゃないの?」
と声を掛けてきたのはモチャコ。
一瞬それを、『お夕飯をモチーフにした造形で何か作ってみせろ』という新たな課題と勘違いした私は、脊髄反射的にシャカシャカと副腕含めた六本腕を動かし。
ばばんと出来上がったのはお子様ランチ風プラ◯ールもどき。ああでも、この世界って汽車とか電車とかあるのかな? 見たことはないけど。
などと頭上にはてなを浮かべる私の顔面に、ガシッと組み付いたのはゼノワ。
「ガウガウラ!」
「え、なに? お夕飯なら今……これじゃダメってこと? なら作りなお」
「グラ」
ベシンと、尻尾ビンタを貰ってしまった。なんでっ?!
と、ここでようやっと集中の途絶える私。キョロキョロと周りを見てみれば、苦笑だったり生暖かい目が寄せられているじゃないか。
どうやら、少々のめり込みすぎていたらしい。ってことは、お夕飯っていうのは……。
「ミコト、そろそろお腹空かない? えげつない作業量こなしてたけど」
「ほんと、作業スピードは化け物じみてるわよね……流石は私たちの弟子だわ」
「でも精度に関してはまだまだ伸び代があるけどねー。もっと頑張りましょー」
「うぐぐ。精進します……あと、言われてみたら確かにお腹空いてる」
「グルァ」
流石にお腹の虫がリアルに鳴き出す、なんてことこそ無かったけど、一度意識し始めると気にはなるもので。
時間も程よい頃合いなのだろう。師匠たちの方から言い出してくれたってことで、切り上げるのに気兼ねせずに済むのも良い。
お言葉に甘える形で席を立った私は、装備を普段着寄りのそれへと換装すると、皆へ断りを入れた後ゼノワを伴い転移の準備。
「なるべく早く返ってくるつもりだけど……あー、もしかしたらちょっと遅くなるかも」
「また何所かに行くの? もう夜なのに!」
「ああいや、そうじゃなくてさ。迷宮で新しいスキルを得たって話はしたよね? でも、まだその検証とか出来てないんだ。迷宮内ではミコバトも使えなかったから」
「そうなると……ソフィアが黙ってなさそうね」
「もしかして念話で催促が来てたりするのー?」
「催促はまだ来てない。けど、それが逆に不気味っていうか……」
「ガウゥ」
スキル大好きソフィアさんについては、既に面識のある師匠たち。加えて私からも偶に話題に出すものだから、スキルに対する彼女の執念深さは周知されている。
故に、帰りが遅くなるかもしれない、という私の懸念についても理解はスムーズだった。
なるべく早く帰るように。遅くなりそうなら一報入れるように。なんて念押しを受け、皆に見送られた私とゼノワは転移を発動。
数時間ぶりとなるイクシス邸転移室へと舞い戻るのだった。
「待ち侘びましたよ、ミコトさん」
「っ!?」
「グラッ!?」
転移直後のことだった。耳元で、ねっとりとしたソフィアさんの声。
かと思えば、背中からがっしりと組み付かれており、背筋に怖気の走る不気味さがあった。
この妖気、間違いない。妖怪スキル強請りだ! なんて、戯けている場合じゃない。
いくら転移室に現れると分かっていたとは言え、転移した瞬間私やゼノワに気取られず背後を取り、ねっとりと耳元で囁いてくるとか、オルカに匹敵するような芸当じゃないか。いや、オルカはねっとりしてないけども!
何とか彼女の魔の手から逃れようと、抵抗を試みる私。ゼノワは不気味がって、スススと距離を取ってしまった。薄情か!
するとその時、転移室の扉がガチャリと開き。現れたのは、なんだか足元のおぼつかないオルカ。
かと思えばがくりと膝をつき、憔悴した様子で言うのだ。
「ごめん、ミコト……私たちじゃ、ソフィアを……抑えきれなかった……」
「オルカ!? な、なんだ……私の知らないところで一体何があったのさ!?」
「ふふふ、まったく大袈裟ですねぇ。皆さんにはちょっと、スキルの検証に付き合っていただいただけですよ……」
「妖怪スキル強請り!!」
「ギャウンガギャウンガ!!」
つまりは、そう。
私がおもちゃ屋さんにいる間、スキルの検証をさせろ! っていうソフィアさんからの催促が飛んでこなかったのは、偏に皆がその間彼女の相手をしてくれていたからに他ならなず。
そうとも知らないで私は、のうのうとおもちゃ作りの鍛錬に没頭していたと……くそぅ、なんてことだ!
「ごめんよオルカ、みんな……私がもっと早く戻って来ていれば……!」
「さぁ、ミコトさん。メインディッシュはあなたです。ずーっと待っていたんですからね? たくさん検証しましょうね? ふふふふふ」
「新手のヤンデレ化してるぅ!!」
「グルゥ……」
「ミコト、逃げ……」




