第九七七話 やる
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待機室内に、脱落者を除く挑戦者全員が揃ったことを確認致しました。
おめでとうございます。あなた方は見事、心・技・体全ての試練を乗り越え、エンドコンテンツへの挑戦に足る能力を示しました。
つきましては、これを証した記念品の授与を行います。
本ウィンドウをタッチすることで扉が出現しますので、準備ができ次第先へお進み下さい。
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メッセージウィンドウの内容は、存外あっさりしたものだった。
要するに、メンバーが皆揃ったから先へご案内しますよー、ってことだろう。
ただ一つ、怪しげな点を挙げるとするなら……。
「準備、準備か……もしかして戦闘があったりするのかな?」
懸念を口に出してみたなら、皆も同じようなことを考えていたようで。そう来なくては! とやる気を漲らせる者もあれば、うんざりした様子の者もあり。
「何れにしたところで、先ずはクリスちゃんを休ませてからだな。万全を期して臨むに越したことはないだろう」
イクシスさんの言に異論は出ず。そうであるならばと、一時解散の流れとなった。
何せ聖女さん、頬も幾らかコケて顔色もちょっと良くないもの。きっと水も食料もギリギリでやりくりしていたのだろう。
もしもこの後すぐに戦闘が始まるってなると、パフォーマンスの低下は免れないはず。しっかり休養を取ってほしいものだ。
というわけで聖女さんの回復を待つ間、私たちはこの待機室で各々時間を潰すことになったのである。
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試練と試練の合間に訪れた待機室と比べて、私たちの今居るこの待機室はすこぶる充実していた。
メッセージウィンドウの出現した場所をロビーとするのなら、他に寝室や食堂、お風呂にトイレ、体を動かせるトレーニングルーム、それに医務室まで用意されており。
聖女さんが身を休めるのには、うってつけと言っても差し支えない環境だった。
皆もそれぞれの方法で時間を潰してはいたのだけれど、やはりもっぱら人が集まったのはトレーニングルームに他ならず。
かくいう私も、そこに入り浸っては鍛錬欲求の解消に努めたのである。
とは言え、依然としてまだ迷宮から脱せられたわけでもなし、何よりトレーニングルームはスキルを思い切りぶちかませる程広い空間でもなかった。
なので、出来るのは精々が肉体トレーニング。筋トレやランニング、スキルを禁じての模擬戦などが主だった。
また、ソフィアさん主催で行われた、技の試練で入手した新スキルの発表会。
実演は無理でも概要を語るくらいなら出来るって言うんで、情報の共有が行われた。
思った通り誰も彼もが強力な新スキルを得ているらしく、ソフィアさんが狂喜乱舞しては、メモ帳にゴリゴリと凄まじい勢いで何かを書き付けていた。
そういえば今に至るまで、結局【超必殺技ゲージ】を試せないままでいる。ずっと視界の端っこでマックスゲージがピカピカと主張しているけれど、すっかりそれも見慣れてしまった。こんなに目立つのに気にならなくなるっていうんだから、慣れって恐ろしい。
「ガウラ」
「ん? へ? スキルオーブ?!」
「なんですとっ!?」
ふとゼノワに、やると言われて差し出されたのが、技の試練にて課題報酬として獲得した七色スキルオーブ。
件の強力なスキル群の発生源だ。言わずもがな、めちゃくちゃ貴重なものである。
すると必然、誰より食いつきを見せたのがソフィアさん。メモ帳をほっぽりだして飛びついてきた。
そんな彼女はまぁ、置いておくとして。
ゼノワ曰く、自分で使おうとしたけど使用不能だったのだと。やはり精霊とスキルは相容れないようだ。
なので、私に使わせた後、覚えたスキルを提供してもらおうというのがゼノワの考えであるらしい。
実際彼女は今や、ヘンテコスキルだって私と共有できている状態だからね。制限付きではあるけど。
それなら新たなスキルも行けるのではないか、と考えたようだ。
「なら先ずは、【超必殺技ゲージ】の提供から試してみようか。これが上手くいくようだったら、ゼノワの思惑も通るはず」
「ギャウン!」
ゼノワの賛成と了承を得て、早速彼女へ超必殺技ゲージの提供を試みる。
結果は……成功だ。嬉しそうにガウガウとはしゃぐゼノワ。かわいい。
かわいいけど、ただでさえ火力がバカみたいに高いゼノワが、超必殺技……大丈夫かな? 味方を巻き込んだ事故とか起きないよね?
その辺り、彼女にはよくよく言い聞かせておくべきだろう。
ちなみに、ゼノワにスキルを提供した場合、彼女は何かしらの制限を受けた状態でそのスキルを行使することになる事が多いのだけど。
例えば【ストレージキャノン】には一発しか弾を装填できないとかね。
んで、今回の超必殺技ゲージの場合も、もしかしたら何か制限を受けている可能性がある。
けど、現段階ではその内容まで把握することは出来ないでいた。トレーニングルームで試し撃ちをするわけにも行かないからね。
しかしまぁ、制限があるにせよ無いにせよ、提供は可能だってことが分かったのは大きい。
ならばゼノワにもらったこの七色スキルオーブ、有り難く使わせてもらうとしようじゃないか。
「最終確認だよ。本当に私が使っちゃって良いんだね?」
「ガウガウ!」
「おっけー、では……おいでませニュースキル!」
言って、七色スキルオーブを使用。虹色の輝きが私の胸に吸い込まれ、新たなスキルを芽生えさせる。
迷宮の制限に引っかかってステータスウィンドウが開けないため、感覚で新たなスキルを探ってみる……と。
あった。スキル名とその効果が、いつの間にやら頭の中に知識として収まっている、いつもながらに奇妙な感覚。
傍らでは、どんなスキルを得たんですか、はやく教えてくださいとソフィアさんが涎を垂らしているけれど、まぁ待ちなさい。
「ええと、スキル名は……【チャージ】。攻撃行動を控えている時間に応じて、次に繰り出す一撃に強力な威力補正が掛かるっていうパッシブスキルみたい」
「威力補正系のパッシブスキルですか……! 派手さにこそ掛けますが、凄まじく使い勝手の良い強力なカードになりそうですね!」
「グラァ! ガウガウ!」
「はいはい、ゼノワにも共有ね……うん、大丈夫そう。成功したよ」
「ガウー!」
「それにしても、超必殺技ゲージとチャージ。とてつもなく相性が良いのでは……? 補正値によってはとんでもない事になりますよ!」
予めセットしたアーツスキル、ないしはマジックアーツスキルを、ゲージを消費することで破格の威力にて撃ち出すことの出来るらしい【超必殺技ゲージ】。
更にここへ、【チャージ】による威力補正を乗せることが出来るのなら、確かにとてつもなく強力な一撃が繰り出せそうな予感はする。
ただ、あまりに威力が高い場合、トッツォくんのように禁術指定を食らう可能性があるため、その点は要注意か。
「ミコトさん! 検証をしてみましょう! 超必殺技ゲージは難しくとも、チャージであれば可能なはずです!」
「それもそうか。よし、クラーウ! ちょっと来てー!」
「グラーゥ!」
「む? 呼んだか?」
同じトレーニングルームの中、剣の素振りに勤しんでいた彼女がパタパタと駆けつけてくれた。
何用かと首を傾げるクラウへ、私とソフィアさんは事情を説明。新たなスキルと聞いては彼女も興味を示し、快く検証実験に協力してくれることに。
して、肝心なその方法なのだけど。
「私がミコトの攻撃を盾で受ければ良いわけだな。そして受けた手応えがどんなものだったかを、口頭で伝えれば良いと」
「ええ、そうです。本当ならトレモさんを活用するのが、数値も測れて確実でしたが、残念ながら現在はミコバトが使用できませんからね」
「んで私は、クラウの盾めがけて攻撃をしつつ、チャージに掛かる時間と最大補正がどの程度かを探るわけだ」
「ガウガウラ」
というわけで、早速検証実験の開始である。
万が一想定外が起きて自滅するようなことにならないよう、納刀月日だけは身につけておき。残りは控えめなもので身を固める。
更に手には拳を保護するためのグローブを装着し、クラウの構えた盾を打つべし打つべし!
一定の力加減で、チャージのための時間を短く取ったり長く取ったりして、データを取得していく。
ソフィアさんがそれらをきっちりまとめて、あっという間に結果を割り出してくれた。
「ってわけで、驚くべき結果が判明したわけです。最大チャージに必要な時間は一〇秒。威力補正値は最大でおよそ三倍。五秒時点では威力補正もおよそ二倍と、最大補正値の約半分だったことから、概要通り、攻撃を控えた時間に比例して補正値が上昇する事が分かりました」
「一〇秒で三倍とは、なかなかの威力じゃないか……まぁ、ミコトの場合一〇秒もあれば、三発と言わず攻撃をたらふく繰り出せるだろうからな、火力面で言うと些か物足りなさもあるが」
「いやいや、一撃の重さが物を言う場面に於いては、とんでもなく有用なスキルだよ。デメリットも特に無いし、コストも掛からない。何よりこれ、まだスキルレベルが最低の状態だからね!」
「ギャウンガ!」
「ゼノワ様の場合、最大チャージまでの必要時間が一二秒と、やや長く掛かるようです」
「グルゥ……」
「いや、ゼノワ様の火力が一二秒待つだけで三倍になると考えると……率直に言って恐ろしいんだが。技の試練で散々見せつけられたからな……」
「そういえば同じPTだったんだっけ。流石ゼノワ、大活躍だったみたいだね」
「ガウガウラ!」
ゼノワで言うと、六秒間攻撃行動を控えるだけでも、倍の火力が出せるってわけだ。
普通なら重たい一撃を繰り出そうとすると、どうしてもその分MPだったり精霊力だったりを、余計に上乗せする必要がある。コスパの悪い技だと尚の事、ゴリゴリに消耗するし。
そのコストを削減できるってだけでも、このチャージなるスキルは破格の性能を有していると言えるだろう。
まぁその分、手数を減らさなくちゃ最大効果を発揮できないってのは、ちょっともどかしくもあるけどね。
でも、例えば攻撃と攻撃の合間に生じる僅かな隙だって、チャージカウントとしては有効な時間なんだ。
つまり、どんな攻撃にも大なり小なり威力補正の乗る、パッシブのバフスキルである、と。
そう考えると、どれだけとんでもないことか分かろうというもの。
やはり今回も、飛び抜けた性能のスキルが手に入ってしまった。
喜びは確かにあるけれど、その分エンドコンテンツの脅威度を思うと恐ろしいな。
エンドクラスのモンスターは、凶悪なスキルを行使しがちだからね。
モンスター側も余程やばいスキルをぶっ込んでくるに違いない。
その辺り、今のうちから肝に銘じておいたほうが良さそうだ。
ともあれ、そんなこんなで束の間の休息時間は過ぎていくのだった。




