第九七二話 醍醐味の尊重
隠しダンジョンと言えば、ロールプレイングゲーム等に仕込まれている、通常のゲームクリアには直接関係しない、主にやり込み要素に位置するコンテンツだ。
物によってはエンドコンテンツと同一のものだったりもする。
二周目プレイで初めて解禁される隠しダンジョンとか、手間はかかるけどついやっちゃうんだよね。攻略情報を調べずに探すのもまた楽しかったり。
……っていうのがまぁ、ゲームでのお話。しかし今しがたウェブデさんの述べたそれは、この世界に実在する隠しダンジョンの話に他ならず。
思い起こされるのは、SH魔王撃破の折に現れた通知のこと。
【新たに隠しダンジョンがアンロックされました】というその衝撃的な内容に、当時はチームミコバト内であれこれと、盛んに意見が交わされたものだけど。
しかしながらその甲斐もなく、結局情報が足りないということで調査は保留となり、今の今まで後回しにされていたわけだ。
だというのに、それがよもやここに来て進展を見せようとは、一体誰が予想できただろう。
いやもしかすると、だからこそ『クワシクハ ウェブデ』だったのかも知れない。
拳の骸は、隠しダンジョンに関する情報の在り処を知らせるべく、ウェブデさんの存在をヒントとして残したのかも。
黙秘権を行使しがちなウェブデさんが、自発的に述べてきた情報が正にそれなのだから、案外考え過ぎとも言い切れない。
とは言え、そこはこの際重要ではないか。拳の骸の意図がどうであれ、この帰り際になって、とんでもない爆弾を追加で投げてきたウェブデさん。
あまりの衝撃に、ついぽかんと呆けてしまうも、間抜け面を晒している場合じゃない。今こそ掘り下げるべきタイミングだろう。
「な、なにそれ詳しく! 魔王城跡地に何があるって言うんです!?」
「ガウガウ!」
「その質問にはお答えでき……なくもありませんが。しかし宜しいのですか? プレイヤーならば、ご自身の目で確かめたいのでは?」
「っ!!」
思いがけず、痛いところを突かれた。クリティカルヒットである。
そうさウェブデさんの言う通り、プレイヤー……っていうかゲーマーとしては『発見する喜び』を味わいたいというのも、抗い難い欲求というもの。
そりゃゲーマーって言っても色々で、ネタバレを気にしない人もいれば、寧ろ先に情報をネットでもなんでも使って集めた上でプレイする、って人もいるだろうけど。
だけど私は、ゲーマーで、プレイヤーで、冒険者だから。ネタバレっていうのはなるべく回避したいわけで。
自分の頭で考え、足で現地へ赴き、目で見て確かめる。そこに強い達成感と、得も言われぬ喜びを感じるのである。
魔王城跡地に何があるのか。問うたなら答えてくれるかもしれない。そんな雰囲気はある。けれど、それを問うては負けのような気もする。
歯がゆくは思うものの、どうしようもなくウェブデさんの配慮には納得と、何なら感謝の念すら懐いてしまった。
「ぐぬぬ……なら、【隠しキャラ】については何か知りませんか? ネタバレにならない程度で!」
「ふむ。そうですね……隠しダンジョンを調べれば、自ずと関わることになるのではないかと」
「なる、ほど……」
「グルゥ」
隠しダンジョンがアンロックされた、という通知と一緒に、隠しキャラがアンロックされたという通知も届いた。
なれば隠しダンジョンにその隠しキャラなる存在が関わっていたとしても、確かにおかしくはないだろう。
しかしながら不思議なのは、どうしてそれをウェブデさんが知っているのか、というところ。
だってそうだ。件の通知は通称ミコバトっていう、私のスキルを介して届いたもので。
そもそもそれが、現実世界に影響を及ぼすってこと自体異常事態なんだ。
その上そこにウェブデさんが絡んでくるってなると……。
ウェブデさんは、迷宮やダンジョンのみならず、へんてこスキルにも大なり小なり関係があるってことなのでは?
いや、ウェブデさんは自身を『高位のNPC』だって言った。なら、ヘンテコスキルに関わりのある『別の何者か』と、繋がりを持っている……くらいの解釈が近いのかな?
何にせよ、私っていう存在を解明するための緒であることは間違いない。
「ううむ……やっぱり、もうちょっとお話を聞いてから帰るべきか……」
「ほぅ、BANが恐くないと見えますね」
「出直してきます。ではまた!」
「グラグラ!」
なんかしっしと追い払われたような気がしないでもないけれど、無事に脱出できるっていうんならそれが一番だ。
そそくさと踵を返し、扉を潜る私とゼノワ。
後ろ髪を引かれる思いが無いと言えば嘘になるけれど、しかし収穫としては十分過ぎる。
今はこの情報を皆の元へ持ち帰り、意見交換を行うことこそが肝要だろう。
真っ白な扉を潜り、後ろ手でパタンと閉じたなら、そこはうんざりするほど黒一色の広大な空間。
ただし、足元には一直線に伸びる青いレーザーが続いており、帰り道をはっきりと示してくれている。なんて心強いのだろう。
何とはなしに後ろをちらりと振り返ってみたなら、今まであった白い扉は影も形もなく消え失せており。
残されたのは帰路のみ。不安と安心の入り混じった、何とも複雑な心持ちに、軽く眉を顰める。
「さて、帰ろうかゼノワ。みんなが待ってる」
「ガウラ!」
高機動型最強装備へ換装し、ゼノワとともに低空飛行を始める私。
レーザーの導きに従い、ひたすら真っすぐ飛び続ける。途中、レーザー補強のための中継機をストレージに回収しつつ直進。
三分ほどかけて、やっとこさレーザーの発生源である魔道具のもとに到着。これといった不具合もなく稼働し続けてくれていることに、内心で安堵を覚えた。
そうしたら後は、通路を通って闘技場へ戻り、宝箱のあった場所まで移動したなら、宝箱を潜って体の試練のゴール部屋へ……っていう、帰路の予定だったのだけど。
ところがここで一つ、大きな問題が発生した。
闘技場へ繋がっている通路が、何処にも見当たらないのだ。
レーザーの照射装置は、確かに通路の隅っこに設置したはず。だっていうのに、私たちの見つけた照射装置は何もない真っ黒な空間にぽつんと、さも取り残されたかのように置いてあり。
石造りの真っ暗な通路なんてものは、綺麗さっぱり消え失せていたのである。
しかしながら、その代わりと言わんばかりに設置されていたものが一つ。石碑だ。真っ白な石碑。
真っ黒なこの空間に於いて、否応なく目を引きつけるそれは、言わずもがなワープポータルであった。
気がかりなのは、一体何処に通じているポータルなのかという点。
迷宮の管理者たるウェブデさんから、直々にお引取りを願われてここまでやって来たのだ。なればポータルが通じているのは、体の試練のゴール部屋か、或いはゼノワが他のメンバーたちと合流したっていう場所なんじゃないか、とは思うのだけど。
しかし当然ながら、確証は無く。転移を発動しても良いものか、というのは些か迷いどころではあった。
「ギャウン!」
「え、ゼノワが先に転移して安全を確認してくれるって? 確かにそれが一番無難だとは思うけども……でもちょっと抵抗はあるよね」
「ガウ!」
「そんなの今更だって? 確かに、考えてみたらゼノワとは本来合流できるはずのないタイミングで、強引に合流を果たしたんだっけ。しかもそれでウェブデさんに会ってる。んで、注意を受けたわけでもないと来たなら、ここで遠慮するのも違うか」
私がゼノワと合流したのは、体の試練をクリアした直後のこと。
あの時点では本来、まだ誰とも合流は出来ないはずだった。ゼノワが居た場所から私の居た部屋へ、転移するための術は存在していなかったのだから、当たり前の話である。
だっていうのに、精霊の特性を用いて私の元へやってきたゼノワ。この時点で彼女がイレギュラーな存在だってことは、ウェブデさんにも筒抜けなんじゃなかろうか。
いや、何なら迷宮に入った瞬間からゼノワが普通でないことくらい、直ぐにバレていても不思議ではないのかもしれない。
何せ、第一の試練ではニセモノを作り出すために、恐らくメンバー全員のステータスや記憶なんかの情報が読み取られたと思うんだ。プライバシーもへったくれもあったもんじゃない。
しかしそのプロセスで、ゼノワが普通でないってことくらい容易く分かるだろう。
にも拘わらず、今に至るまでコレといったお咎めもなく。何なら普通に試練へ参加出来たらしいし。
ならば本試練の済んだ今、ゼノワの力を使うことに遠慮する必要は無いのだろう。少なくとも、ルールの上では。よって、ゼノワを先行させるというのは確かに有効な手段と言えるんじゃなかろうか。
が、恐いのはそんなゼノワをもってしても脅威と感じられるような、厄介なトラップが仕掛けられていた場合だ。
直ぐ様転移で戻って来れるのならば良いけれど、もしそれが不可能だった場合……。
ゼノワなら無敵っしょ! なんて言って、取り返しのつかない事態にでも陥ったら、きっと悔やんでも悔やみ切れない。
後悔先に立たず。迂闊な真似は控えたい。
というようなことをゼノワに語って聞かせた上で、私は一つ方針を打ち出した。
「先ず、この真っ黒な空間をもうちょっと探索してみます」
「ガウ」
「それで何もないと分かった場合は、私も一緒に転移します。ゼノワだけを危ないところに放り込んだりはしません」
「グラ!」
「え、危なかったら転移で戻ってこれる? そりゃそうだけど、それが罠かもしれないじゃん。現にゼノワの転移っていう手の内は既に見せちゃってるわけだし、対策を打たれていても不思議じゃない」
「グゥ……」
「だったら二人で飛んだほうが、まだ手の打ちようはあるってものさ。恐いのは分断されちゃうことだけど、流石にそうなったら自力で打開するしか無いね」
「ギャウ」
「そうだね。そもそも杞憂だって可能性も大いにあるから、後は出たとこ勝負。その前にまず、この空間の探索を済ませよう。高機動型を使えばそこまで苦労もしないだろうし、何か見落としがないとも限らないからね」
その様にタスクを組んだなら、早速実行に移す私たち。
先ずはレーザーの照射装置を複製だ。今度は赤いレーザーを吐き出す設定とし、扉のあった方角とは真逆の方向へ向けて照射開始。
そうしたらこの赤いレーザーを道標に、真っすぐ飛び続けるわけだ。レーザーが弱くなってきたなら、先程同様中継機を置いて、また真っすぐ飛び続ける。
そうしてしばらく直進を続けていると、不意に変化があった。赤いレーザーの隣に、いつの間にやら青いレーザーが並んでいるではないか。
首を傾げつつも飛び続けていると、やがてその原因が判明した。
戻ってきてしまったのだ。レーザーの照射装置を置いたスタート地点、即ちワープポータルの元へ。まるで星をぐるっと一周してきたみたいだ。
ならばと、今度は別方向へ飛んでみることにした。赤と青のレーザーを縦線とするのなら、横線を描くように三機目の照射装置を起き、レッツ低空飛行。
果たして、結果は予想したとおり。また元の場所に戻ってきてしまった。
であれば、次は上だ。三次元に生きる私だもの、縦横ときたら、高さも検証する他無い。
そう思い、垂直にレーザーを照射し真っ黒な空へ飛び上がり。驚いた。
とある地点で、不意に重力が反転したのだ。上下が逆さになる感覚。そのまま上昇は降下へと変わり、天地すら入れ替わり。重力に引かれるがまま地上にまで降りてみたなら……。
そこにはやはり、照射装置とワープポータルがあったわけで。
「さては、ここがローマか……」
「ガウガウ……」
すべての道はなんとやら。どう足掻いたところで、この場所に辿り着くよう設計されているらしい。
こうなってはもはや、諦めてワープポータルを使うしか無い。なんとも言えない敗北感に苛まれつつ、取り敢えずレーザーの中継機と照射装置を回収する私たち。
そうしたら後は、覚悟を決めるのみである。
ゼノワと頷き合い、白の石碑へ一緒に手を触れる。
そうして、ワープポータルを起動。転移を発動。
次の瞬間だった。
私の身体に、衝撃が走ったのは。
毎度誤字報告感謝です!
助かってます……はい……!




