第九六六話 制限解放と探索
宝箱を潜った先は、第二の試練の舞台となったフィールド型フロアだった。
ぐるりと視線を巡らせてみれば、のどかな草原が漫然と続いており。遠くには険しい山。生い茂る木々も見えるし、ここからじゃ見えないけど海まで存在しているんだよね。
やはり、見覚えのある景色だった。それはゼノワも同様なようで、頭の上では彼女も辺りを見回している気配が感じられる。
頭の上と言えば、そう。今しがた通り抜けてきた宝箱の出口はどうなっているのだろうか。
気になって真上を見上げてみたなら、そこには……逆さまの宝箱が、固定されたかのように宙にピタリと浮かんでいて。
中身は底が抜けていて、ワープポータルのある部屋へ通じているようだった。小さく天井が見えるもの。
「なんか……どことなく、マ◯オの土管みたいだね。もしやそういうイメージで作られていたり……?」
「グル……」
天を仰いだことで、私の頭からずり落ちそうになったゼノワは、宙に浮かび一緒になって宝箱を確認。彼女もまた、何とも不思議そうな表情をしていた。
と、ここでふと思い至り、私はスキルのチェックを行った。技の試練に於いては三つ四つしかスキルを持ち込むことが出来ない仕様だったからね。
もしもこのフロアに足を踏み入れたことで、再びその制限を受けたのでは厄介だと思い、具合を確かめてみたのだ。
結果として、私は胸を撫で下ろす。どうやら今回は、特にスキルを封じられるようなことにはならなかったらしい。
思う存分力を発揮できるっていうんなら、危険度も随分軽減されるってものだ。一安心である。
しかしながら、それならそれでまた、別の懸念が湧いてくるのだけど。
技の試練とは異なるってことは、ワンチャンこの場所が、技の試練のフロアとは似て非なる未知の場所、なんて可能性が大きくなったわけだ。
「取り敢えず、ランダムエンカウントが起こるのかどうか。それを確かめてみようか。どんなモンスターが出現するかも気になるし」
「ガウラ!」
せっかくなので、スキルや念力を駆使して宙へ浮かび上がる私。前回は出来なかった空からの探索を兼ねようってわけである。
当然、ゼノワだって伊達に普段から浮遊しているわけじゃない。空中戦だってお手の物だ。
もしかすると出現するモンスターが、飛行不可能なやつばかり、なんて可能性もあるしね。だとしたら戦闘も楽に済む。ポップとともに落下して、地面との激突でそれなりのダメージを見込めるかもしれない。距離も取れるし。
なんて、それは流石に楽観がすぎるだろうか。まぁ、そこら辺は試せば分かることだ。
早速ひらりと上空へ舞い上がった私とゼノワ。見る見るうちに眼下の景色は縮尺を小さくし、すっかりジオラマめいてしまった。
なんだったら、このままどんどん高度を上げて、この星の形でも確認してみようかとすら考えつく。
多分、スキルを駆使したら私、宇宙にこの身一つで出ることも可能なのでは……いや、でもな。
行きは良くても帰りがどうなるか。っていうか、宇宙に出てもスキルやステータスが使えるかっていうのは、ちょっと疑問だ。
予測の付かない要素も多いし、止めておいたほうが無難だろう。
なんて考え事をしていると、唐突に出現したのは鳥型のモンスター。出現場所は、足の下。
構造上仕方のない事とはいえ、こっちに背中を向けての出現だ。なんて運のない子だろうか……。まぁ、だからといって手心は加えないけども。
先んじて動いたのはゼノワ。細いブレスを吐き出して、鳥の背中へ照射。っていうか多分、貫通してる。
当然鳥は止まってるわけではないため、奴が前進するに連れて傷口は裂けるように広がり、あっという間に重傷化。悲惨な状態だ。痛そう。
それにしても、巨大な鳥である。怪鳥とでも呼ぶべきか。大きく広げた翼は、幅で言うと二〇メートルくらいあると思う。地上から見上げたなら、小型の飛行機と言われても信じちゃうかもしれない。
そんな怪鳥が、痛みに悶えて墜落しそうになってる。錐揉み回転をしながら、魔球の如き奇妙な軌道で地面に向かっているのだ。
とは言え、鳥だしね。それもモンスターだし。その気になれば復帰も可能なんじゃなかろうか。
それにステータスも多分高いのだろう。墜落したくらいで絶命するとも思えない。
よって、追撃だ。慈悲はない。
ゼノワと二人、魔砲をビシバシ浴びせかけたなら、あっという間に黒い塵へと還る怪鳥。
奴のおかげで、取り敢えずランダムポップが有効だってことは知れた。あと、ポップ場所によってはこんな残念なことになるのだとも。
逆に頭上にポップされてたら、ちょっと面倒だったかもしれない。油断大敵である。
それから数度のエンカウントを処理しつつ、順調に高度を上げていく私とゼノワ。
すると、不意に違和感を覚え、天を仰ぐ私。ゼノワも気づいているらしい。
「なんか、見えない壁で遮られてるみたいだね。限界高度が設定されてるみたいだ」
「ガウガウ」
どのみち宇宙に飛び出すのは無理だったようだ。まぁ、迷宮の中だしね。それはそうか。
納得しつつ、改めて下方の景色を見渡してみる。
「前に山の上から見たのと同じ、ぐるっと海に囲まれてるね……多分その海だって見えない壁で遮られてて、一定以上遠くには行けないようになってるんじゃないかな?」
上空から見下ろして分かったのは、このフィールドが周囲を海に囲まれた、所謂絶海の孤島であること。そして、見る限り海の向こうに陸らしい陸は存在していないこと。
その様は、以前山頂から見下ろした景色と相違ないように思える。
この事から、今私たちの居るこのフィールドが、少なくとも地形の上では技の試練で用いられた島と同様のものである、ということは判断できた。
とは言え、得られた情報といえばその程度。これと言って目ぼしい何かが発見できたわけではない。
「……取り敢えず、ランダムエンカウントが発生することは分かったし、地上に降りようか」
「グル」
言って、勢いよく降下を始める私とゼノワ。勿論移動に伴いエンカウントも発生したけれど、ポップした瞬間に処理するため然程問題はなかった。
脅威度は多分、エンドクラス。スキルを使われると厄介だけど、使われる前に倒せばちょっとステータスが高いだけのモンスターに過ぎない。
そうしていよいよ地面が迫ってきた頃、ふと目に留まったのは闘技場の存在。
技の試練のボスと戦った場所であり、ボスガチャが設置されていた不思議な場所……。
ん? ボスガチャ……?
「あ。なんか、ちょっと気になること思い出しちゃった。ゼノワ、闘技場に行ってみたいんだけどいいかな?」
「ガウ? ギャウン!」
快い返事を受け、私たちは降下を中止すると一路闘技場へ。空を飛んだまま、最短距離の一直線である。楽ちん快適時短時短!
出現するモンスターを蹴散らしながら、あっという間に目的地へ到着。
しばらくぶりに目にした白い闘技場。その裏口前に降り立った私たち。
「先ずは一応、ボス部屋がどうなってるか確認してみようか。本命は後回しだよ」
言いつつ、装備を変更。これも問題なく可能なようだった。技の試練挑戦時には装備変更が制限されていたのだけどね。
身につけたのは、雷帝の双面。ダンジョンを高速で攻略する際によくお世話になる、準レギュラー的位置づけの仮面だ。
この闘技場、ボス戦直前の探索に於いて、とある小部屋で宝箱を発見した経緯がある。
中身は選択スキル枠を一つ増やせる、特別なチケットだった。
この宝箱、最初に探索したときには見つからず、ボスガチャを引いた後になって突然現れたんだよね。
なら、特殊な方法でこの場所を再訪問した現状、また何か変化が起きているんじゃないか、という気がかりもあり。
ボス部屋を調べる前に、雷帝の双面を用いた高速探索で、通路や小部屋をババッと見て回ろうという魂胆である。
結果。
「何も見つからなかった……最初に探索した時と同じ、草臥儲。やっぱりボスガチャを引いたあとじゃないと、宝箱って出現しないのかな? 或いは、やっぱりここは例のフロアとは似て非なる未知のフロアってこと?」
忙しなく動き回っては考え込む私に、やや置いてけぼりを食らった様子のゼノワは、なんだか呆れた表情。
それを察して、取り繕うように事情を説明する私。
「グルゥ……」
「ええと、つまり……このフロアは本当に技の試練のときと全く同じものなのか、とか、宝箱を潜ってきたことでなにか変化があったんじゃないか、って見て回ってたわけさ」
「ガウラ……ガウガウ」
「! あ、そうか。ゼノワもこのフロアには見覚えがあるんだ……ってことは、同じフィールドでも違うサーバーとか、ルームとか、そういう仕様が用いられていた可能性もあるのか」
どうやらゼノワたちのPTも、このフィールド型フロアで技の試練を受けたらしく。よくよく話を聞いてみたなら、課題の内容も同様だったらしい。
それに心の試練や体の試練に関してもそう。ダンジョンの内容は、話を聞く限りほぼ一致しており。
ならばやはり、ネトゲのように『アクセス』って概念が用いられている可能性が高いのではないだろうか。
或いは妖精が大人に認識できないっていう、あの感覚に近かったりして……まぁ、そこは深掘りしても仕方がないか。
大事なのは、結局のところ『どうして体の試練のゴールとこのフロアが繋がっていたのか?』って部分だ。
単にこの広大なフロアでの“取り忘れ”を回収する機会を与えてくれた、と解釈することも勿論出来るのだけど。
一方で新たなギミックを仕込んである、という線も捨てきれないし、何ならその可能性のほうが高いまである。
なので先ずは今しがた行ったように、前回このフロアを訪れた時との差異を、あちこち探し回ってみるのがベターだろうか。
その意味に於いてもやはり、ボス部屋の確認というのは優先度が高い。
脇道を調べ終え、あら方考察も済み。いよいよボス部屋前の大扉へ向かう私とゼノワ。
雷帝の双面にてバリバリと我が身を雷に変え、ちゃっちゃか大扉の前へと到達したなら、こともなげに追いついてきて私の頭に乗っかったゼノワとともに、大扉を確認する。
「……開いてるね。っていうか、ボス部屋扱いの舞台までしっかり見えてるし」
「ガウラ!」
「あ、ホントだ。ワープポータルまである。何所に通じてるんだろう……?」
大扉は封鎖されているどころか、大きく開いており。その奥には私たちがヴァルキリーナイトと戦った、闘技場の舞台が広がっていたのである。
舞台中央には白い碑石、すなわちワープポータルがぽつんと設置されており、私たちがこのフロアを去った際、最後に見た光景そのままだった。
ここだけ見たなら、単に戻ってきただけだと。やはり取り忘れを回収させるために、わざわざ宝箱の底とこのフロアを繋いだ、迷宮製作者の粋な計らいであると。そう捉えても違和感は無いと言っていい。
実際、スキル制限や装備変更制限などのルールが開放されている以外に、技の試練との違いは何所にも見当たらないのだから。
この場に於いて唯一気になる点があるとすれば、あのワープポータルがどこに繋がっているのか、という。その一点に尽きる。
普通に考えるなら、体の試練前の待機室に通じているのだろう。
その場合、また体の試練を受けさせられるかもしれない。って考えると、触るべきではない。
或いはもしかすると、ゼノワがメンバーの一部と合流を果たしたっていう、踏破者部屋に送られるって線も考えられるか。
ないしは、それこそ見たこともないような場所に通じていたりね。って考えると、ワープポータルを利用してみるのも一興だろうか。
けれど、“本命”を調べずしてここを立ち去るつもりもない。
ゼノワと二人して、舞台上は疎か観客席までしっかり調べて、コレといった変哲もないことを確認したなら、踵を返すことに。
すると、ワープポータルはいいのかと問うてくるゼノワ。
返す私の言葉は……。
「それについては後回し。先に、ボスガチャのところに行くよ」




