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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第九六三話 不可視の攻防と、決着

 ステータスによる力に、アーツスキルの威力補正。そこに身体強化スキルの恩恵まで加わったなら、生身で対峙する私に成すすべなど無く。

 私の手を離れ、真上に打ち上げられてしまった槍。一瞬の、それでいて決定的な隙。

 ブラックトレモちゃんによる、見えざる槍の穂先が私を突き破らんと迫る。


 だが、詰みではない。寧ろこの展開は予想の範疇とすら言えた。

 これまで、戦闘時間の経過に伴い行動に変化の見られたブラックトレモちゃん。

 ならば、残り時間が三〇秒を切ったタイミングでも、何かしら新たな動きを見せるのではないか、と。そうした予想はついていた。

 身体強化系スキルの解禁。これも想定していた内の一つだ。だからこそ、そこに驚きは無く。


 観察するのは彼女の手元。体の向き。力の入り方。あとは、これまで培ってきた経験から来る勘もバカに出来ない。

 それらに反応を委ねてみたなら、自ずと私の左手は、その甲でもって不可視なる槍の穂を的確に捉え、軌道を逸したのである。

 同時、潜り込むように踏み込んで肉薄。空いた右手でナイフを抜き、逆手で握ったそれをコンパクトに振るった。

 が、流石はブラックトレモちゃん。動揺もなければ対応も速い。

 ぎゅるんと回転した槍は、その石突でもって私を打たんとしたのだ。マスタリースキルと高い身体能力があってこその素早い反応だと言えるだろう。


 ポイントは、そう。彼女の槍が不可視であるように、この場に於いては私の身につけている物もまた、私の目にもブラックトレモちゃんの目にも映らないということ。

 そして骸の経験をもってすれば、ブラックトレモちゃんの動きを的確に予測することも容易く。

 必然、見えようが見えなかろうが、ここで石突が迫ってくることは分かっていた。

 だから私は、振るった勢いでナイフを手放して、こっそりと左手へと投げ渡し。そうしてフリーになった右手で、石突の軌道を逸したのだ。


 ナイフを握っていたはずの手で、槍の側面に掌底を叩きつけた。

 膂力に関しては比較にもならないけれど、それでも攻撃を退かすことくらいは可能で。

 私がナイフを握っていると睨んでいたブラックトレモちゃんは、その手に凶器が無いと認めたことで、ナイフの行方を見失い。これには流石に困惑した様子。

 何せ槍やナイフであれば、私は彼女を一撃で殺し得るんだ。拳じゃ難しいかもしれないけどね。

 もしも先の戦闘の記憶を引き継いでいるのだとしたら、尚の事ナイフの行方は気になるだろう。


 已むを得ず、槍を手放し拳での迎撃に切り替えるブラックトレモちゃん。拳装備を身につけていることから、拳マスタリースキルも有しているものと見るべきだろう。

 私がナイフを突き立てるよりも早く、鋭い拳撃を放ってくる彼女。が、拳であれば不可視でもなんでも無い。何より、こっちには拳の骸さんの経験があるんだ。

 紙一重で避けつつ、見舞うのは蹴り。残念ながらナイフを叩き込むには、些か警戒され過ぎている。

 反面、蹴りという選択肢は意表を突くのに有用だった。何せ、足具なんてつけていないからね。それどころか下着姿……っていうか、今はスッポンポンに見えてるわけだし。

 この切迫した場面では尚更、無力なキックが飛んでくるとは考え難かったことだろう。

 足の指でナイフを掴んで突き刺す! とか、そういった器用な真似が出来れば一番だったんだろうけど、流石にこの土壇場でそれを試すのは避けた。


 所謂ケンカキック。ノックバックに定評のある、押し出すような蹴りをブラックトレモちゃんの腹部に押し付け、反動を活かし私も軽く距離を取る。

 いくらパワーがあろうと、バランスを崩されたら蹈鞴を踏む。サラステラさんだって例外じゃないってんだから、ブラックトレモちゃんも勿論後方へ一歩。

 そこへすかさず、私は右手をシュッと振ってみせた。

 あたかもそれは、投擲モーション。ナイフ投げの様に見えたはずだ。

 学習能力や判断能力が足りてない印象を受けるブラックトレモちゃん。果たして反応してくれるかは確信の持てない部分だったけれど。

 しかし幸いなことに、彼女は上手くリアクションを返してくれた。それだけナイフの存在を警戒していたということなんだろう。

 つまり、キルされた時の記憶を引き継いでいる可能性が高いと見るべきか。

 殊更頭部を庇うように、大きく身を逸らすブラックトレモちゃん。当然、動きは乱れた。


 そこへ、本命である左手のナイフを投擲。狙いはガードの堅い頭部ではなく、機動の要たる足。

 スコンと、床と縫い留めるかのようにブラックトレモちゃんの足の甲へ、深々と突き刺さる私のナイフ。

 しかしながら、流石は試練のボスと評するべきか。そこに狼狽えた様子などはなく。

 即座に反撃せんと、腰に差した自らのナイフへ手を掛け、意趣返しがてら投擲モーションに入ったのだ。

 しかも彼女の繰り出すそれは、私のナイフ投げなどとはまるで意味合いが異なっている。アーツスキルによるナイフの投擲となれば、容易く私の身体なんて貫いてしまうだろう。


 対してこちらは素手。いや、グローブと靴は身につけているけれど、迫る脅威を前にそれらが一体、何になるというのか。

 回避が必要だった。さもなくば最悪、これで終わりである。最低でも頭と心臓は守らなくちゃならない。そんな場面。

 けれど私は、ナイフを投げたのとは反対の手を頭上に掲げ、彼女の投擲モーションに目を凝らすばかり。


 その時である。


 ドンピシャで、先程打ち上げられた槍が頭上より落下。私はそれを掲げた右手にて受け取ると、撃ち出すように投げ放たれたブラックトレモちゃんのナイフを叩き落とし。

 直後、あらん限りの最速にて踏み込み、彼女の心臓めがけて穂先を繰り出したのだ。


 庇わんと差し込まれた彼女の手のひらを貫通し、深々とブラックトレモちゃんの胸部を突き刺した私。

 更に一歩踏み込む。

 彼女の足の甲に刺さったナイフを引き抜き、すれ違うように彼女の左手側へ身を滑り込ませる。

 槍の穂で手と胸を固定されているブラックトレモちゃんは、とっさに動くことが出来ず。精々が距離を取らんとステップを踏む程度。

 けれど、そんな彼女の肩に手を掛け、一緒に跳ぶ私。そして。


 ザクリと。側頭部に刺し込む、冷たい刃。硬質な手応えに怯むことなく、深くまで突き入れたなら、それでお終い。


 ビクリと痙攣し、文字通り糸の切れた人形が如く倒れ伏すブラックトレモちゃん。

 黒い塵へと還る彼女の頭上に、表示された残り時間は二一秒。

 けれど彼女がリポップするには、およそ一分ほど時間を要するはず。先程のリポップと同様であるならば、残り時間内にブラックトレモちゃんが復活することはないと見て良いはずだ。

 しかしながら、勿論油断なんてしない。

 急ぎ槍を拾い上げ、ナイフを鞘に戻し、そそくさと物陰に身を隠す私。

 何時何所でブラックトレモちゃんがリポップしても対応できるよう、注意深く視線を巡らせた。


 そして。


 息を殺して待つこと、およそ一〇秒ちょっと。起きた異変はと言えば、なんとも地味なもので。

 パッと、ボス部屋の奥に現れた一枚の扉。ブラックトレモちゃんが戻ってくることは無く。

 かと言って、勝利を告げるようなファンファーレの一つもないって言うんで、何ともリアクションに困るところ。

 念のため、そこから更に三分ほど身を潜め続けたけれど、結局それ以上の変化は何も見られなかったのである。


 恐る恐る、物陰から出て辺りを窺う私。念のため足音をなるべく立てぬよう、向かった先は脱ぎ捨てた服の元。

 今度こそ、衣服を着ていても問題ないだろうか。急にまたスニークミッションが始まったりしないだろうか。

 なんて、軽い疑心暗鬼に囚われながらも、脱いだ服を探す。……見つからないんですけど。

 しばしウロウロしていると、時間経過により透明化が解けた場所に、ようやっとそれを見つけることが出来た。散らかったオブジェクトに紛れるよう、くしゃくしゃの布がヘタっと横たわっており。

 そのくたびれっぷりときたら、まるでボロ布のようで。なんか、ちょっと哀しくなった。入浴欲求がまたぶり返してくる。

 それでもまぁ、好き好んで下着姿で居るわけでもないため、もそもそと衣類を身につける私。

 しかも、何時襲われても対応できるように、という警戒心丸出しの着替えって言うんで、もしこの様子を誰かが見ていたとしたら、さぞ滑稽に思えたことだろう。


 そうしたら、一旦ボス部屋を出てリュックの回収だ。

 戦闘の邪魔になるからと置いてきたもので、中身はもう医療品くらいしか入っていないのだけれど。

 それでも一緒にこの試練を乗り越えてきた相棒だ。愛着も湧こうというもの。何なら小石すら今の私には愛おしく思えるほどだもの。実際たくさんお世話になったし。

 せっかくなので、記念品として持っていくことは出来ないだろうか?

 リュックを回収した後、ボス部屋内で小石探しである。少々手こずったけど、何とか三つとも回収できた。


 あとは、出現した扉へ向かうのみ。ブラックトレモちゃんを相手に三〇分生き延びたのだから、これで体の試練はクリア……ってことでいいんだよね?

 まさか、「ボスを相手に三〇分生き残れとは言ったけど、ブラックトレモちゃんがボスとは言ってない!」なんて無茶苦茶なことは言い出すまい。

 でもこの迷宮のやることだ。ワンチャン無いとも言い切れない……。


 扉の前で、ゴクリと固唾を呑む私。こういう時にこそメッセージウィンドウの出番でしょうに。

 試しにペチンと扉を叩いてみる。扉に触れることが切っ掛けで出現するんじゃないかと、期待してのことだったけれど。

 不発。なんて気が利かないんだ……つい溜め息が溢れてしまった。


「はぁ……行きますか」


 ぎゅっと、槍を握る手に力を込め。おっかなびっくりドアノブへと手を掛け、扉を押し開いた。

 同時、ビョンと飛び退き槍を構える私。鬼が出るか蛇が出るか!

 なんて警戒してはみたものの。しかし扉の向こうにあったのは、なんてことのない小部屋だった。


 それは何だか、ダンジョンの特典部屋によく似ていて。

 何なら部屋の真ん中に、でんと大きな宝箱が設置している点も共通しているじゃないか。

 念のため罠を警戒しつつ、特典部屋っぽいそこへ足を踏み入れる私。

 バタン!

 と、入室した瞬間、背後で勢いよく扉が閉まってしまった。やはり罠だったかと警戒を強くする。

 モンスターの出現に備えて、鋭く視線を巡らせた。一応、逃げ道に通じていると見せかけて扉から何か仕掛けてくるんじゃないか、とも警戒し、ジリジリと立ち位置を変えてみる。


 しかし、幾ら待ってみてもモンスターが出現することはなく。かと言って毒ガスが噴出するだとか、水攻めに遭うだとか、床に火が点くだとか、そういったことも一向に起こらず。

 首を傾げた私は、一先ず勝手に閉まったドアが開くかどうか確かめてみることに。

 ……開かない。閉じ込められてしまったようだ。


 けれど、部屋の中には宝箱の他、これまた特典部屋よろしくワープポータルも備え付けられており。

 きっとあれで先に進みなさい、ということなのだろう。

 そこまで思い至ると、唐突に察しがついてしまった。

 体の試練をクリアしたってことは、没収されたステータスやスキル、そして装備品や所持品が戻ってくるってことじゃないか。

 なら、それは何時、何処で返却されるのか?

 もしかしてこの部屋こそが、そのために用意されたものなんじゃないか。

 だとすると宝箱の中身って……!


 居ても立ってもいられず、飛びつくようにして宝箱へ駆け寄る私。

 そうしていよいよ、その上蓋へ手をかけようとした、その瞬間だった。


 目の前に、メッセージウィンドウが出現したのである。

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