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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第九五九話 VSブラックトレモ

 対ブラックトレモちゃん戦。残り時間は二〇分を切ったところだ。

 あとおよそ二〇分間生き残ることが出来れば、この勝負、私の勝ちとなる。

 そのためには如何にしてブラックトレモちゃんの索敵を掻い潜り、潜伏し続けられるか、という点が肝となるのだけれど。

 そんな私の肝を冷やすようなスキルを、たった今彼女は放ってみせたのである。


 自らの正面へと、徐にかざされた手のひら。そこに生じたのは紫を帯びた光の球。未知なるスキル。

 あれは一体なんだろうかと、物陰よりこっそり観察していると、勿体ぶるでもなくその光球は真っ直ぐに放たれて。

 必然、射線上に存在したオブジェクトに接触。直後、その能力を顕にしたのだ。

 障害物に接触するなり、光球はみるみるうちに膨れ上がり、最終的には半径にして五メートルほどの巨大な球体にまで膨張した。

 その後、パッと消え去った紫の光は、火の粉が如き残滓を宙に漂わせ、直ぐにその余韻すらも消失。

 現場に残ったのは、光球の残した痕跡のみである。その驚くべき爪痕にこそ、私は瞠目して息を呑んだのだ。


 光球に触れたオブジェクトの尽くが、あたかも削り取られたかの如く消失し。床すらもごっそりと半球状に削ぎ落とされていた。

 彷彿とさせるのは、魔法少女化した私の【グラトニービーム】だろうか。触れたものすべてを喰らい尽くす、という。

 紫の光球が残した痕は、正しくそれに共通して見えたのだ。つまり、あの光球に触れたが最後、良くて部位欠損、悪ければ即死。

 なんて恐ろしいスキルを有しているんだろうか……と、物陰よりごくりと固唾を飲んでいると。

 しかし、次いで私は思いがけない光景を目にしたのである。


 何を思ったのかブラックトレモちゃん。自身の為したスキルの成果に、これといったリアクションを見せるでもなく。

 徐に歩みを再開した彼女。されどその足が向かう先は、正面。即ち、今しがたオブジェクトが形を失い、床すら綺麗にくり抜かれた歪な空間。

 さぞスケボーやローラースケートなど、ローラースポーツの捗りそうななめらかな床へ、なんでも無いように踏み入れていくブラックトレモちゃん。

 けれど驚いたことに、彼女の足は削れた床の曲線を下るでもなく、悠然と虚空を踏みつけにしたのだ。

 あたかもそれは、失われたはずの床の上を歩いているようで……と考えて、もしかしてと思い至った。


(あれってひょっとすると破壊したわけじゃなくて、単に“見えなくした”だけなのかも……つまり、物体を透過するためのスキル。索敵を効率化するための手段、ってことかも)


 私の持つスキルに【透視】ってものがある。文字通り、物体を透かして見通すためのスキルなのだけど。

 しかしこの透視、当然と言えば当然なれど、スキル使用者である当人しか透かして見ることが出来ないわけで。

 それに比してブラックトレモちゃんのあのスキルは、当人のみならず第三者にとっても、物体が透過して見えるっていう特徴があるのではなかろうか。

 だから私には、というか私にも、光球によってオブジェクトや床がごっそり削られたように見えたのではないか。

 裏付けとして、ブラックトレモちゃんは消失したはずの床を、何事もなかったかのように歩いているし、傍から見るとそれはさながら空中歩行そのものだ。

 更には彼女の身につけている装備が、いつの間にやら姿を消しているのも根拠になり得るだろう。

 そしてもう一点。削れた床に対して、ダンジョンの修復作用が働かないという部分を見ても、やはり実際破損の憂き目に遭ったわけではない、と捉えることが出来る。


 ただし、あの光に私が触れてしまった場合どうなるか、というのは別途考察する必要がありそうだけれど。

 だってそうだ。仮にあのスキルが私に対しても有効だとしたら、私のこの体すら透明にしてしまうってことではないか。

 索敵のために用いたと思しきスキルで、探すべき対象である私を透明にして、結果より見つけづらくなる、だなんて。そんな間抜けな話もあるまい。

 だから恐らく、あの光は私ないしは生物に対して無害、若しくは攻撃能力を備えているもの、と考えたほうが良いと思う。


 何にせよ、とにかくあの光に触れないよう気をつけること。それがここからの立ち回りでは重要になってくるのだろう。

 せっかくブラックトレモちゃんから身を隠していても、飛び道具的にあれをばら撒かれてしまえば、距離を取っていてもさして意味は無い。

 残り時間が三分の二を切って、新たな手を持ち出してくるとか。これは今後も強い警戒が必要なようだ。


 まぁ、とは言えだ。光球の効果範囲は直径でも一〇メートル程度の球体状。仮に足元に着弾しようと、膨張し切るまでには一~二秒くらい時間がかかる。

 その隙に素早く逃げを打ったなら、何も出来ずに巻き込まれる、なんてことにはならないだろう。

 とにかくブラックトレモちゃんの動きから目をはなさないよう、しっかり注意しておくことが肝要だ。

 これまで同様、なるべく彼女からは距離を取りながら、何時光球が飛んできても静かに対処できるよう、慎重に立ち回り続ける私。


 幸いだったのは、ブラックトレモちゃんが件のスキルを使用する頻度。これがまだ大人しいという点である。

 およそ三〇秒に一発くらいだろうか。しかもこのボス部屋は広く設けられているため、うっかりすぐそこに着弾する、だなんて事故も生じづらい。

 よって、何かしら物音を鳴らすなどして失態を演じでもしない限りは、そうそう窮地に陥るような事態にはならなかった。

 ドキリとしたのは、彼女がとうとう私の脱ぎ捨てた衣服を発見したことか。何せリュックは置いてきてしまったからね。脱いだ服は放置していたのだ。

 結果として、捜索を続けていたブラックトレモちゃんに、確かな痕跡を見つけられてしまうというのは、必然としか言いようがなく。


 土汚れを帯びたくたびれた衣類を、無造作に拾い上げてはじっと観察するブラックトレモちゃん。

 その様子を、離れた場所からこっそりと眺める私。なんか、無性に羞恥心を煽られてる感じ。とても落ち着かない。

 これでもし、突然「くっせ!」とか言って鼻でもつままれようものなら、メンタルブレイク待ったなし。何なら既に泣きそうなんですけど!

 なんていう私の憂い事は、どうやら杞憂に終わってくれたようで。興味が失せたようにポイと服を手放したブラックトレモちゃんは、キョロキョロと辺りを見回しながら光球を撃ち放ち、淡々とした捜索作業へ戻ったのである。


 分かったことが一つある。警察犬よろしく、ニオイを辿って対象を追跡する! というような真似は、どうやらブラックトレモちゃんには出来ないみたいだ。

 やはり思ったとおり、彼女の感覚器官は私のそれと大差ないのかもしれない。まぁ、目も鼻も口すらついていない顔で、どうやって五感を得ているんだと問われたなら、それは私にも謎なのだけどね。

 って考えると、感覚は寧ろ鈍いと見るべきなのだろうか? それはちょっと楽観が過ぎるように思うため、想定としてはあくまで私と同程度の感覚器官を有している、と捉えておくけれども。


 そんなこんなで時間は過ぎ。ボス戦もいよいよ後半戦へと突入していった。即ち、残り時間あと一五分だ。

 そろそろまたブラックトレモちゃんの動きに変化があるんじゃないかと、警戒してみたならば、案の定。

 ブラックトレモちゃんが早足で動くようになった。更には光球の使用頻度も増して、一五秒に一発は撃っている。

 そのせいでボス部屋内は虫食いのように……とはならず。撒き散らされた透過光球の痕跡は、時間経過とともに消え去り。何事もなかったかのように被弾の痕は失せたのだ。

 おかげで、隠れる場所が段々失われていく、というような事態は避けられたものの。

 それでも、ブラックトレモちゃんの行動が素早くなったというのは、私にとってリスク増加以外の何物でもなく。

 一層気を引き締めて、これまでの立ち回りを更に徹底させたのである。


 残り時間、一〇分。ますます動きが盛んになったブラックトレモちゃん。常時駆け足で捜索を行っており、物音を立てないよう行動している私と比べたなら、うさぎとかめが如し。

 そして更に、透過光球の使用頻度は勿論のこと、その効果範囲も上方修正が掛かってしまった。

 直径一五メートルほどの空間に透過処理を施し、じゃんじゃか見通しを良くしていくブラックトレモちゃん。

 いよいよもって私も動きづらさを覚えるようになってきた。と言うか、少しずつ部屋の隅へ追い込まれているような、そういう感覚がある。多分狙ってのことなのだろうけれど。

 しかし私も、まんまと引っかかるようなバカではない。気取られぬよう追い込みの穴を潜り抜けたなら、寧ろ裏取りが出来ようというもの。

 だがブラックトレモちゃんも然る者。敢えて突破ルートを残しておいて、私がそこを通るのを待ち構える、くらいの策は仕掛けてくる。


 単なる逃げ隠れから、心理戦の様相を交えつつ、複雑化していく盤面。当然逃げの手しか打てない私は、時間が経つに連れてますます不利を被ることになるのだけど。

 それでも、ここで見つかる訳にはいかない。ガチ戦闘が危険であることは火を見るより明らかだから。

 勿論、瞬殺の憂き目を見るほどに、バカげた力の差があるのかと言えば、それは断言の難しい部分なのだけど。

 だって、人によってはこの三〇分を戦闘一本で乗り切ろうという者もあるだろう。だとすると、勝負にもお話にもならないような極端な設定は、意図的に避けられている可能性が否定できない。

 反面、逃げ隠れにこそ重きを置いたコンセプトのもとに設計されたボス戦であるとしたなら、ガチ戦闘はゲームオーバーに直結しているって線も十分考えられる。


 心構えとしては、『見つかったら即ゲームオーバー!』くらいの気持ちで臨むべきとし、必死になって今も身を潜めているわけだけれど。

 残り時間、八分。徐々に勢いを増すブラックトレモちゃんの荒々しい探索は、とうとうオブジェクトを掴んではぶん投げるという暴挙にまで及ぶようになり。

 否応なく次第に追い詰められていく私。一見すると、焦れったくて暴れているようにすら見えるブラックトレモちゃんだけれど、その実的確に私の隠れる場所を封じるような立ち回りに徹しており。

 こうなると、いよいよ発見されるのも時間の問題となってきた。嫌な汗が背中を伝う。


 が、しかし。そこに怯えの類いは無く。寧ろ次第に上昇していく難易度へ、心が燃え上がっていくような感覚すら覚えていた。

 隠れんぼだって立派なゲームである。そうさ、これは私とブラックトレモちゃんによるタイマン隠れんぼだ。

 何が何でも見つかってなるものかと、やる気が漲れば漲るだけ、不思議と体は軽くなり。動きは冴え。深草徒歩のちまちました動きですら、今はシャカシャカと虫を思わせる素早さにて熟せるようになっていた。

 そこでふと気づく。私の身体が、仄かに赤いオーラを纏っていることに。やばいやばい、また闘気をお漏らししてる!

 心身共に仕上がってるせいか、普段より発生のハードルが低くなっているみたいだ。


 慌てて闘気を引っ込める私。が、しかし。残念ながら闘気の発現に伴う濃密な気配の発露を、まんまとブラックトレモちゃんに気取られてしまったようで。

 彼女の手がこちらへとかざされたなら、無慈悲に放たれる紫色の光球。

 忽ち血の気の引いた私は、大慌てでその場を離脱した。勿論極力物音は立てぬようにしながら。


 しかし、逃げ回る私を嘲笑うかのように、追加で光球がポンポンと撃ち出され。さながら銃撃に晒されているかの如き心持ちで、私は必死に逃げ続けたのだ。

 胸中には否応なく、敗北の予感が濃密に漂い出し。それと反発するように負けず嫌いが暴れたなら、またも闘気がぶわりと発せられる。何という悪循環。

 早鐘を打つ心臓。脳裏を駆けるのは、様々な思い。


 思えばここまで、私は完璧なスニーキングを維持したまま頑張ってきたんだ。

 そのためには土にもまみれたし、鍛錬したいっていう欲求にも耐えてみせた。

 挙げ句、乙女にあるまじき体たらくまで晒して、ここまで忍んでみせたんだ。

 だっていうのに、こんな、こんな闘気の暴発で気取られるだなんて、そんな皮肉めいた敗因があって堪るか。


 潜まなくちゃ。何が何でも見つかってやるものか。


 頑なになればなるだけ体を覆う赤は濃く膨れ上がり、私の意に反して自らの居場所を主張してしまう。

 強烈なストレスだ。

 タタンと、軽やかなブラックトレモちゃんの足音。すごい速度でこちらへ迫ってくる。あと数秒とせず、彼女は私の隠れるこの物陰を覗き込み、携えた得物で襲い掛かってくるのだろう。

 そうなったら、ボス戦の趣旨はどうあれ、隠れんぼとしては私の負けだ。ここまで維持してきた完璧なスニーキングが崩れてしまう。

 それはさながら、音ゲーでパーフェクトを目前にしたような、ワンミスとて許されない切迫した心境にも似ていて。


 だからこそ、強く思った。潜まねばと。隠れねばと。

 頭の中を駆け巡る、これまでの体験。隠れ潜んだ記憶。


 例えばこの体の試練に於ける、ここまでの道程。

 例えば槍の骸戦に於ける、地面の中を泳いだ経験。或いはモブのイヤリングから力を引き出し、存在感を殺したあの時の感覚。

 例えばドレッドノートに殺されそうになった時の恐怖。

 例えばクリスマスの夜、サンタさんに扮してこっそりと、皆の部屋を回った思い出。

 例えば亜精霊モードを発動し、世界と融合したかのような、不思議で強烈な体験。

 例えば誰より隠形に長けた、最も付き合いの長い仲間の姿。


 そんな、これまでに蓄えた様々な記憶が、溶け込むように闘気と結びつき。

 次の瞬間である。


 私が身を隠していた、たぬきの信楽焼を荒々しく払い除け、勢い込んで姿を見せたブラックトレモちゃんと、がっちり視線がぶつかったのは。

皆さんがこれを読んでいるということは、年が明けたということです。

新年明けまして、おめでとうございます!

昨年は大変お世話になりました。今年もどうぞ、よしなにお付き合いいただきたく!

今年は何かしら、新作にも着手できたら良いな、なんて密かに思っております。抱負ってやつですね。

ということで、恒例となりつつある時をかけるカノエカノト(※)でした。

今年も無理せず頑張っていこうぜー!


※:時をかけるカノエカノトとは、これを書いている時点ではまだ2022年であり、予約投稿にて皆様にご挨拶申し上げている、フライングあけおめをキメているカノエカノトのことである。

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[一言] あけましておめでとうございます。 今年もよろしくお願いします。
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