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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第九五八話 音を恐れて

 体の試練、ボス部屋。

 和をテーマにかき集めたオブジェクトを、デタラメに配置したような混沌とした空間の中、気配を殺して身を潜める私。

 物陰からこっそりと眺める先には、ポップを果たしたブラックトレモちゃんの姿があり。

 何時動き出すものかと警戒していると、不意に一つ、彼女の頭上にて異変が生じたのである。


 彷彿とさせるのは、技の試練に於いて頭上にカウント表示を乗っけたボクサーゴブリン。確か第一課題でアグネムちゃんの戦ったやつ。

 それと同様、ブラックトレモちゃんの頭上に突然、数字が出現したのである。

 恐らくはカウントダウンタイマー。示すのは三〇分の表示。

 と、見ている内にそれは動き始め、思った通り数字は徐々に減少を始めたのだった。

 そして、カウントが開始されると同時、ブラックトレモちゃんも電源が入ったかのように動き始め。

 目鼻等のパーツなんてついていないその顔を、キョロキョロとあちらこちらへ一頻り振り回したかと思えば、徘徊するかの如く歩みを開始したのである。


 優に体育館を上回る程の広さを誇る、このボス部屋。デタラメに歩き回ったとて、私を見つけることは叶うまい。

 ただしそれは、ブラックトレモちゃんの有する感覚器官が、人間のそれに近ければという話。

 もしも未知なる感覚……例えば、そうだね。気とか霊圧とか、そういうのを感じ取る能力を有していた場合、私の潜伏場所なんてあっさり割り出してしまうかも知れない。

 そうであれば、立ち回り方を切り替える必要が出てくる。好ましくない事態だ。

 よって、先ず行うべきは観察と分析。ブラックトレモちゃんが如何な能力を有しているか、こっそり見極めることが肝要である。


 予想としては、ブラックトレモちゃんの素の身体能力は、私と同程度。感覚器官についても、私と同等か、それに近いものであると考えている。

 理由は、身体能力を挑戦者と同程度に設定することで、そこに上乗せするステータスやスキルの能力が際立って見えるから。

 この体の試練からは、殊更『素の能力』を測らんとする意図を垣間見ることが出来る。

 ステータスやスキル、所持品にいたるまで、すべて事前に取り上げられたという点からして、自力を試さんとする考えが透けて見えるようじゃないか。

 で、あるならば。ここに来てブラックトレモちゃんに、ステータスもスキルも関係なく、敢えて超人的な能力を授けて、挑戦者を甚振ることにどれほどの意味があるだろう?


 あー……でも、そうか。

 ここまでの道程で、渡り廊下に配置されたモンスターたち。ステータスやスキルの力にどう対峙するか、と試すのが目的なら、彼らの相手で十分それは示されたと見ることも出来る。

 なればこそ、敢えてブラックトレモちゃんにデタラメな能力を設定し、『怪物VS無能力』っていう構図を作り出すことにも、意味はあるのかも知れない。

 絶対的な力の差を前にした時、無力なあなたはどう立ち回るのか! みたいな。これはそういう問い掛けなのだと言われたなら、それはそれで納得できてしまう。

 とすると、ブラックトレモちゃんが私と同等の身体能力しか持たない、という推察は間違いなのだろうか。

 まぁその辺は、見れば分かる。何れにしても筋は通るという話。大事なのは、その“筋”に沿った攻略法を練ることだ。


 ブラックトレモちゃんの素が私と同程度の場合、最悪正面からの戦闘も時間稼ぎの手段として、ある程度期待することが出来る。

 けれどブラックトレモちゃんが超人設定の場合、正面からの戦闘は論外。逃げ隠れすることこそが必須と言えるだろう。

 しかしそうなると、これだけ隠れやすいステージを、迷宮がわざわざ用意した意図とは何なのか?

 思うに、もしブラックトレモちゃんが超人の如き力を有しているにしても、索敵能力に関しては然程優れていないのではなかろうか。

 だって、索敵にまで秀でていたならば、それはもうゲームにも試練にもならない。ただの蹂躙でしかないのだから。


 ってわけで、ブラックトレモちゃんの身体能力が如何程であっても、こうして隠れ潜むという選択肢は有効であると考えて良い。

 寧ろ、彼女の身体能力が高ければ高いほど、索敵能力には欠点を抱えていると見るべきかもしれない。

 だってそうだ。例えばこれがサラステラさんなら、私みたいに隠れたりはしない。十中八九正面からぶつかっていくだろう。

 でも、流石の彼女だって『ダメな相手』は理解する。そしてサラステラさんは、脳筋ではあってもバカではない。

 無理と判断したら、逃げ隠れに転じるだけの強かさを持ってる。

 だというのに、そこで「逃がすものか愚か者め!」って言って、ブラックトレモちゃんが完璧な索敵を披露したんじゃ、“見つかってから隠れ直す”という選択肢が機能していないことになる。


 勿論、迷宮側が「二度目のチャンスなんて与えません」なんて方針を取っていないとも言い切れないため、確信を持ってどうこうと断じることは出来ないのだけど。

 それでもやはり、ブラックトレモちゃんの索敵能力は、良くて私と同程度(ただし索敵スキルを持っていないとは言ってない)、悪くてかなり鈍感設定、として調整してある可能性が高いのではないかと思う。


 して、肝心のブラックトレモちゃんの動きについてだけど。

 こうして遠巻きに眺める感じ、彼女はまだこちらに気づいたような素振りは一切見せておらず。

 そしてボス部屋内を歩き回るその動作も、メチャクチャ素早いだとか、人間離れした動きをしているだとか、そういう印象は受けない。

 不気味なほど静かに、丁寧に、物陰を片っ端からチェックしつつ探索を行っている。

 どうやらじっと身を潜めていれば、気配なんかであっさり発見される、なんてことは無いみたいだ。

 その点は取り敢えず一安心。であれば、ここからもう一歩踏み込んだ検証を行わねばなるまい。


 音だ。ブラックトレモちゃんは、どの程度の音に反応を示すのだろう。

 少なくとも現時点に於いては、私の立てる心臓の音や呼吸音といった、「そんなの聞き取られちゃ、どうしようもないじゃろがい!」ってレベルの音には反応が無い。

 だけどこれが、足音になったらどうか。衣擦れの音だったらどうだろうか。どのくらいの距離でバレるんだろう?

 っていうか、しくじったな。こんなことなら服なんて着てこなきゃよかった。ボス戦くらい格好もちゃんとしようって思った、私の真面目さが憎い。


 ……よし。検証がてら、脱ぎますか。なんかこのダンジョンで、こういうことばっかりやってるけどさ……でもやる。

 ブラックトレモちゃんとの距離は、四〇メートルくらいはあるかな。今なお彼女はこちらに背を向けて、徐々に遠ざかっている。

 私からはブラックトレモちゃんの足音なんて……うん。薄っすらと聞こえるかな? くらいのもの。板張りの床で、足音が鳴りやすいっていうのが厄介だね。

 いっそ靴も脱いでしまおうか。でも、足裏を怪我したら悲惨だ。もし戦闘になった際も、足を狙われちゃ困ってしまう。

 ってことで、靴はやっぱり脱がない方向で。脱ぐのはそれ以外。衣擦れの音くらいなら、多分届かないはず……少なくとも、これだけ距離があったら、私の耳には届かないはずだから。


 布と布、或いは布と肌の擦れる音って、こういう静かな場所に於いては思いがけず際立つものなんだよね。

 試しに恐々としながらも、私は服の裾と裾をこすり合わせ、敢えて摩擦音を鳴らしてみた。控えめにね。

 そうして、そろりとブラックトレモちゃんの様子を観察してみる。

 …………大丈夫。こちらに振り向く様子はない。どうやら、動物並みの聴覚! みたいな設定は施されていないようだ。

 動物並みの聴覚……獣耳。脳裏にホワンと、猫耳をつけたトレモちゃんの様子が浮かんできて、つい口元がニヤける。ふふ、なんか間抜けでかわええ。


 ゆっくりと、服を脱いでいく。音を立てないよう慎重に。ああ、これまでで一番ドキドキするな! 今度こそ変な趣味に目覚めそうだ!

 気づかれたら一気に絶体絶命! 気取られぬよう、そっと上着を脱ぎ、シャツを脱ぎ。

 次いでズボン……困ったな。ベルトが邪魔なんですけど。チラチラと、ベルトとブラックトレモちゃんを見比べ。

 ええいままよと、慎重にベルトを外し、ズボンから足を引っこ抜く。靴が引っ掛かって、ちょっと手間取ってしまった。

 それでも、物音は最小限に抑え。ズボンのベルト穴から引っこ抜いたそれを腰に巻き付け、バックルで固定。

 腰にナイフを鞘ごと差したなら、脱衣完了である。これで衣擦れの音で気取られる心配は無くなった。

 その代わり、嗅覚への配慮が必要になるかもしれない。服で隠していた匂いが、脱いだことで開放された、とか。なんかありそうじゃん。


 クンクン、臭うぞ。汗臭いな!! とか言って感づかれたら、乙女として終わる……絶対バレる訳にはいかない。極力距離を置かねば。

 まぁそれでも、音よりは気づかれにくいと思うけどね。人の感覚って目と耳がメインだって、どっかで聞いたことあるし。

 それに比べたら、嗅覚から得られる情報なんて……まぁ、人間ならって話だけどさ。ブラックトレモちゃん、人の形はしてるけど人間ってわけじゃないからな。そこら辺はちょっと、賭けにはなるけども……。


 ともあれ、これで感づかれ難さはアップしたと見ていいだろう。そうしたら後は、徹底的にトレモちゃんから距離を置きつつ身を潜めるのみ。

 ネックとなるのはやはり足音だけど、大丈夫。吾に秘策あり、だ。前世の知識に、一つ使えそうなものがある。

 ニンジャの歩法の一つに、床に手をついて、その上に足を乗せて歩くっていう、足音を立てない歩き方があった……はず。確か名前は、草……兎……えーと……ああ、そうそう、深草兎歩!

 これを使えば靴音も誤魔化せるだろう。……その代わり、手のひらを怪我しないように気をつけなくちゃいけないわけだけど。その点は、グローブをしているから問題はあるまい。


 ブラックトレモちゃんに気取られぬよう、ひたひたと体を丸めたまま歩む私。物陰から物陰を、ひっそり渡り歩く。傍から見たら、さぞ間抜けな姿に見えるのだろう。猫耳トレモちゃんを笑えないね。

 されど、見た目はちょっとアレだとしても、効果の程は確かなもので。トレモちゃんは依然として見当違いな場所を延々と歩き回っている。

 しめしめとほくそ笑みながら、出店の裏に身を隠す私。ここは、射的屋さんかな? 案外出来が良い。見事な再現である。っていうか、何を見本にしてこんなものを拵えたのやら。

 迷宮の謎は深まるばかり。が、今はそんなことを気にしている場合でもない。なにせこの歩法、一歩進む度に、脇に挟んだ槍がふらふらと揺れるのだ。ぶつけないようにメチャクチャ気を使う。


 そうこうしていると、一〇分ほどが経過。今のところはとても順調。されど、時間経過でブラックトレモちゃんが動きを変える可能性もあり。

 そんな懸念は残念ながら、見事に当たってしまうのだった。

 ふとブラックトレモちゃんが、目の前に向けて軽く手のひらを突き出す。

 かと思えば、そこに生じたるは光の球。何かしらのスキルが発動したことは、疑う余地もない。

 問題なのはその内容だ。なんと、バカみたいな数のスキルを習得した私の知見をもってしても、それは未知なるものであり。


 驚きに目を見張る私に気づくでもなく、ブラックトレモちゃんは紫色に輝くその怪しげな光球を、自らの正面めがけて撃ち出したのだった。

大晦日だ。あああ大晦日だ!

今年も大変お世話になりました。今年読み始めたというご新規さんにおかれましては、見つけてくれてありがとう!

古くから読み続けて下さっている方におかれましても、楽しんで頂けていましたら、この上ない喜びにございます。うれしっうれしっ!

来年もよろしければ、変わらぬご愛顧を賜りたく! そのためにも精進を続けますぞ! 誤字報告は愛のムチ。ヘイカモン!


ということで、それでは皆様、良いお年をお迎え下さいまし。

……っていうのは、本来12月30日までに言う言葉らしいですよ!

年内にやるべきことをきれいに片付けて、良いお年をお迎えしてくださいね、みたいな意味らしいです。

大晦日は既に、大体の人がお正月の準備に取り掛かっているから、あまり相応しい言葉ではないのだとか。

まぁ絶対間違い、なんてことはないので、ちょっとした雑学ですね。

為になったかなー? なってたら良いなー。

ってことで、ではまた来年! さらば2022! 2の多いやつだったぜ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 ブラックトレモちゃん、体力低下したら突然土遁の術(?)を使って回復する位にはミコトをコピーしてるのかな?と思ってましたが···最後の「何の光ィ!?」を見る感じそうじゃ…
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