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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第九五七話 見知った彼女?

 筋肉痛である。限界まで筋トレしたから、筋肉痛。至極当たり前の話。

 それをどうやら、私は失念していたらしい。目が覚めたら体のあっちこっちが痛くて、ひぃひぃ言っちゃったんですけど。

 しかしまぁ、異変と言えばそのくらいのもの。大扉も、背を預けていた戸も開いた形跡はなく、私の身体に何かしら傷がついていた、なんてこともなかった。勿論生きてます。

 ボス部屋前のこの場所は、やはり安全であると見て問題はないみたいだ。まぁ、タイムリミットが設けられている、とかそういう可能性も無いわけじゃないけどさ。


 とりあえず筋肉痛がある程度治まるまでは、ボスへの挑戦は見送ったほうが良いだろう。

 万全を期すために肉体の限界を探ったっていうのに、筋肉痛で発揮できるパフォーマンスが制限されるっていうんじゃ、本末転倒もいいところ。もしそれでボスに負けでもしようものなら、きっと死んでも死にきれない。亡霊化して、ワンチャンこのダンジョンのキャストに組み込まれ……ああいや、骸になるのだからダンジョンに取り込まれたりはしないか。

 ともかく。そういうわけなので、それっぽいマッサージを自らに施しながら、休息を延長。じっくりとコンディションを整えることにした。




 ……そして、現在。

 やっとこさ筋肉痛も鳴りを潜めて、体調もバッチリ。お風呂に入りたい欲求の過剰な蓄積で、ちょっとメンタルは歪みがちだけど、戦闘になればまぁ気にならないでしょう。

 ということで、いよいよボス戦である。こんな鍛錬もろくに出来ないような場所とは、この一戦を最後におさらばである。

 そして私は、お風呂に入るのだ。入浴に行きたいかー! おー!! というかそれ以前に先ず、清浄化魔法を取り返す!!

 おのれ迷宮め……奪ってはならないものまで奪いよって! 絶対に返してもらう! 女児っていうか、乙女の沽券に懸けて!!


 しばらくぶりに、土臭い衣類を身に纏う。このニオイにもすっかり慣れた、という思いもあれば、辟易としている自分も居り。

 なんだろう……もしかしてここって心の試練だったりします? って疑ってしまうくらいには、ちょっと精神的に極まってる感じ。今なら石鹸を丸齧りできる自信がある。

 ゆらりと、意識したわけでもないのに、身体から仄かに赤いオーラが漏れちゃってる。やばいやばい、こぼれちゃう。まだ早い。


 闘気を意識的に引っ込め、いよいよボス部屋へ通じる大扉へと対峙する私。

 もはや医療品しか入っていないリュックは降ろし、携えしは得物の槍とナイフ、グローブ……それと、今回お世話になりっぱなしの小石も三つほど。

 入念に準備運動も済ませた。気力体力ともに万全。モチベーションもめちゃくちゃ高い。やる気満々だ。

 よもや、土にまみれたことがこんな形で、メンタルブーストを掛けてくるとはね。スキルの【狂化】を使ったときに似た感覚である。オフロハイリタイ。


 備えは万全。出来ることは思いつく限りやった。後はボス戦を突破するのみ。

 いざいざと勇んで、ガッとメッセージウィンドウへ手を突き出す。すると、私の手のひらはウィンドウをすり抜け、その奥に聳える大扉へぶつかったのだ。

 途端、ぱっと消え去るメッセージウィンドウ。まるでホログラムだ。この場を訪れてから、ずっと見続けたそれが失せる様というのは、どこか……そう。モニターの保護フィルムを剥がすような、後戻りの出来ない感覚が仄かにあり。

 そんな感傷を奥歯で噛み潰したなら、ぐっと腕に力を込める。途端、大扉は動き。

 僅かに出来た隙間は、あれよあれよと私が容易く通り抜けられるだけの入口と成ったのである。


 ふぅ、と。最後に一つ息をついたなら、顔を上げていよいよボス部屋の中へと踏み込んでいく。

 すると、そこで私は目にしたのだ。その、思いがけない光景を。ボス部屋らしからぬ雑多な様を。

 喩えるならば、そう。さながら鬼ごっこ系のゲームに用いられるステージのようで。障害物となり得るオブジェクトが、あれやこれやとたらふく配置されているのだ。

 コンセプトはブレること無く、依然として和風を貫いており。板張りの床に、和を想起させるような品々が節操なく配置されている。

 提灯やぼんぼり、灯籠などが飾られ、お祭りの出店が軒を連ね。風もないのに風鈴がりんりんと、涼やかな音色を奏でたかと思えば、巨大なねぶたがこちらを見下ろしている。

 他方では瓦屋根の一部が壁から生えていたり、七夕飾りが揺らめいていたり、そのとなりでは柳と桜が佇んでおり。

 他にも、まぁ……数えだしたらキリがないくらい、賑やかで混沌としたオブジェクトの数々。一体誰のセンスなんだか……。

 和風ステージを作ろうとして、造詣が浅いために素材をメチャクチャに配置しちゃったような、そんな印象を強く受ける。

 或いは単に、ランダム生成的に配置された結果なんだろうか。そこら辺は、パッと見ただけじゃなんとも判断のつけ難いところだけれど。


 そんな、ある意味圧巻な光景を前に、思わず言葉を失い圧倒されていた私。

 しかしそれを現実へと引き戻したのは、他でもない。広々と設けられたボス部屋にて、不意に始まったポップ現象である。

 条件反射的に飛びかからんとする身体。それを理性で抑えて、思考を回す。

 そうさ、今回のボス戦は特殊なんだ。どんな手段を使ってでも、倒しさえすれば良いというものではない。

 制限時間である三〇分を生き抜くこと。それこそが、そしてそれだけがこのボス戦をクリアする条件だ。

 なればこそ、ここでポップ狩りムーブを噛ますことに、然程大きな効果は期待できないものと見るべきだろう。

 であるならば、それよりも優先するべきなのは、物陰に身を潜ませてからの様子見である。


 まぁ、考えようによっては、リポップまでのクールタイムに期待して、正面からの戦闘を仕掛けるというのも手ではあるのかも知れないが。

 私の選択はここまでそうしてきたように、なるべく気づかれないようやり過ごす立ち回りを優先するつもりだ。

 果たしてボス相手に、その戦法がどこまで通じるものかは疑問だし、戦闘することだって勿論想定には入れてあるけれど。

 正直、これだけ身を隠せるオブジェクトが用意されていたというのは、嬉しい誤算だった。

 だってそれは、隠れてやり過ごすという選択肢の有用性を、ダンジョン側が保証してくれたようなものじゃないか。

 逆に言えば、隠れることを推奨しちゃうくらい、ボスの強さを高く設定してある、って可能性の示唆にも繋がるのだけど。


 何にしたって、やることは変わらない。

 先ずはポップ現象が終わる前に、私はそそくさと物陰へと身を潜ませた。無論、逃げ道も加味して選んだ隠れ場所だ。

 隠れんぼよろしく、一つ所に留まらなくちゃならない、なんてルールは無いのだからね。寧ろ動き回ってなんぼとすら言える。

 注意するべきは槍の扱いだ。何所かにぶつけて音を鳴らしてしまわぬよう、細心の注意を払わなければなるまい。


 そうして、開いた和傘の陰に身を隠し、息を殺してボスがポップする様子を盗み見ていると。

 渦を巻いた黒い粒子が、ゆっくりと一つ、黒い人影を作り出していったのだ。

 無機質な、人形。されどその姿に、私は強烈な既視感を覚える。だってそうだ。毎日のように見続けた、彼女の姿にそっくりだったのだから。


 一言で言ってしまうのならば、それは『黒いトレモちゃん』。

 顔らしい顔はなく。強いて言えばデッサン人形、或いはデッサン用のポージングフィギュアに近い見た目。

 その容貌は正に、トレーニングモードでいつも私たちの相手をしてくれる、トレモちゃんにそっくりで。

 背丈から何から、彼女そのものであると言っても過言ではなかった。

 ただし、二点。トレモちゃんとは異なる点も存在していたけれど。


 一つは色。我らがトレモちゃんは、シミ一つ無い美白で知られており、白粉でも塗りたくったかの如き驚きの白さを地で行く存在。

 対しボスはどうかと言ったなら、対極を行くような黒さを誇り。あたかもつや消し処理でも施されたかの如き、しっとりとした反射光を纏う上品ボディは、高級感を演出して見せているかのよう。

 うん。トレモちゃんの横に並べたなら、さぞ見栄えがするだろうに。連れて帰りたい欲求がむくむくと湧いてくる。


 して、トレモちゃんと異なるもう一つのポイント。それは、『装備の違い』にあった。

 トレモちゃんは設定を施さない限り、基本的に装備品の類を身につけたりはしないのだけれど。

 対するあの……ブラックトレモちゃんとでも呼ぼうか。彼女は、槍を身につけているのである。

 いや、よく見るとそれだけではない。手には私の着けているそれとよく似たグローブを装備しているし、腰にはベルト。ここからでは角度的に見えないけれど、もしやナイフまで身につけているのかも。

 つまるところ、ブラックトレモちゃんは私と同じ装備をして現れたというわけだ。


 その事実を前に、段々と察しが追いついてくる。

 この体の試練はここまで、ステータスやスキルが存在しない“素の状態”を対象にして、難題を課してきた。

 ダンジョン攻略、モンスターとの戦闘、限られた物資、貧弱な装備。

 正直、何度「こんな時◯◯があれば!」と嘆いたかも分からない。

 なればこそ、この試練に於いては“体”……即ち、『体=裸・素の状態』を試してきたのだと察することが出来る。

 であるならば、そんな試練のボスであるブラックトレモちゃんとは如何な存在なのか。考えれば分かることだ。


 ブラックトレモちゃんとはつまり、ステータスやスキルの象徴。

 それらを持たない今の私と、それらを有するブラックトレモちゃん。直接対決の構図を演出することで、挑戦者の『素の能力』を突きつけようっていうんだろう。

 謂わばこれは、ステータスやスキルそのものとの対決だ。とんでもない難題である。


 だとしたら、恐らくブラックトレモちゃんの身体能力は、今の私をトレースしたようなもの。そこに幾らかのステータスを乗っけたのだろう。

 そして彼女は、スキルも使いこなすはずだ。予想できるその内容は、そうだね……。

 先ず、槍・拳・ナイフのマスタリースキル。それに、各種武器のアーツスキルも一つ、ないしは複数持っているだろう。

 その他にも何か有している可能性はあるけれど、現時点じゃちょっと予測が難しいかな。


 ここに来て、武器を複数持ってきたことへのデメリットが浮き彫りとなった形である。

 よもやはじめに選択した武器によって、ボスの性能が変化するギミックが施されていただなんて、流石に予想しきれなかった。不覚!

 例えばもし、楽器一本握ってここまで辿り着くことが出来たら、ボス戦はメチャクチャ楽にクリア出来たのかも知れない。

 某スイレンさんの顔が脳裏を過るけども……いやいや、まさかね。それじゃ道中どうするのさって話だし。後衛専用のダンジョンが用意されていた可能性を考えると、頭から否定は出来ないけどさ。


 と、そんな事は今はどうでも良くて。

 私と同じ装備を有するブラックトレモちゃん。それでいてステータスを有する分、身体能力は私を大きく上回っているはず。

 武器を扱う技量に関しては、マスタリースキルのレベルにもよるため、正面からの戦闘が必ずしも無謀とは言い切れないけれど。

 さて、そんなブラックトレモちゃんを相手にこれから三〇分間、なんとかして生き延びなくちゃならないわけだ。


 不安はある。緊張もしている。

 けど、それ以上に……お風呂に入りたい!! そんで、思い切り、心置きなく鍛錬がしたい!!

 そのためにも、絶対負けられなっ……おっと、また闘気が。


 うん……必ずクリアしてみせる!

誤字報告助かってます。適用させていただきました!

今年もあと僅か!!

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